「そして召喚術師は挑戦を始める」
とんでもなく遅くなってすいません!!
物凄い難産だったのと仕事の関係で全然時間を取れませんでした。
これからも仕事は忙しいので、2週間に一度程度投稿できれば良いほうになりそうです。申し訳ありません!!
「ふぅ…クロ、準備は良い?」
「愚問ですよ、ご主人様」
1人と1匹は入り口に立つ。右手には十字棍棒、左手には小楯、簡素なローブに粗末な胸当てをつけた少年と杖のような尾を持つ四足の獣。彼らが立つのは入り口。どこまでも深く深く降りていく、堅固な石で創られた奈落へと昇る塔の入
り口。まるで入るものを喰らい尽くすかのような暗闇が広がり、中からは呼吸音のような甲高い音が微かに響く。どこまでも沈み込む道行を象徴するかのような入り口だ。安易な覚悟で中に入れば二度とは出られないであろうことを、誰もが確信するその闇を前にして、彼らの顔に浮かぶのは不敵な笑みであった。
当然だ。彼らにすれば、ここは絶望への入り口ではなく、希望を叶えるための出発点だ。少年が長年願っていた夢であり、冒険であり、挑戦なのだ。ここまで来た満足感はあれども怯む理由は無い。それ故に、彼らは笑みを浮かべる。たとえ、その身に纏うものが粗末なものであったとしても、中に潜む危険が致死のものであったとしても、歩みを止める理由にはならないのだから。
「行こうか。クロ」
「はい、ご主人様」
勇ましく最初の一歩を踏み出しつつ、召喚術師の少年、アルマーオ=コネカットは、ここに至るまでの急転直下の日々を思い出す。我獣の恐ろしさを、父と母の愛情を、貴族達の不条理を、王の傲慢を、人々との絆を、友の優しさを、相棒への信頼を、そして新たな命の希望を―
「アルマーオ=コネカット、そなたを一等貴族と認める。さらに、汝が召喚せし獣を聖獣コネカットであると認定する。この認定は我、16代聖鍵王 エイシン=コウハ=ケンカードの名の下に承認される。」
アルマーオが、審問室にて我獣デヴィルを撃破してから4ヶ月後のことである。この間、実に様々なことがおきていた。まず、アルマーオは1週間目を覚まさなかった。ケンソーは2週間目覚めなかった。彼の片腕は失われ、再生することは適わなかった。アイクウは、この極限の状況において、なんら怯むことなく、涙することなく、家を護り続けた。もちろん、ハフゥや街の人々の支援を受けてはいたが、自らは身重、息子と夫は意識不明、そんな普通であれば泣き喚きたくなる状況を気丈に乗り切ったのだ。更に言えば、ただ生活するだけでなく、訪れた王宮や貴族の使者を丁重にもてなし、認定に関わる諸準備を整え、関係者に感謝を伝え、息子と夫の介抱をし、新たな命の世話をしたのだ。その、気丈かつ凛とした振る舞いに、王宮や貴族達、関係者達は深く感銘を受け、最大限の助力を申し出ていた。しかし、アイクウは最低限の助力は受けたものの、過剰に頼ることなく、この苦難の日々を乗り切った。
目覚めたアルマーオは、だが完璧に回復したわけではなく、ぼうっとした様子で覚醒と睡眠を繰り返した。ケンソーは、目覚めた後に自身の状況を確認し、アイクウへと最大限の感謝と愛情を伝え、いまだダメージの残る長男の今後を憂い、行動を開始した。アイクウが過労により倒れてしまったため、自由にとはいかなかったが。彼が行ったのは根回しと調査だ。今回の悲劇が誰の主導により行われたのか、隠蔽される前に手を打たねばならなかったのだ。まずは、同じ召喚術師のドーギヌ一族を訪れ、王宮内の捜査を依頼する。続いて、世話になっていた役所へと退職を願い出る、隻腕では役に立てないと考えたからだ。同時に、多額の退職金とリフクの調査、ちゃっかりツオーノ君が空けた穴の修理費の立替を要求した。当然断る諜報課課長だったが、多数の借りと今回の紅悪結晶の不始末などを、ねちねち言われ続け陥落してしまう。その後に王宮へと赴き、未だに息子が回復していないことを伝え、うやむやになっていた審問の結果を告げることをまだ待って欲しいと伝える。隻腕の彼には、自身の損失を嘆く暇を与えられなかった。しかし、彼は辛さを感じさせず、堂々と様々な陣営と渡り合った。
これらの両親の努力によって、アルマーオは静かに回復に専念することが出来た。
目覚めて2週間ほどすると、流石にアルマーオの意識も鮮明なものとなった。しかし、体が動くことと意識がはっきりすることは別物である。彼の体は、我獣に負わされた怪我や、限界を超えた行使によって深く傷ついており、この時はまだ身を起こすので精一杯であったのだ。それを支えたのは、相棒であるクロ、そして友であるクレナとユーリである。クロは付きっ切りで、ユーリたちは学校が終わると必ず家により、色々と支援を行った。怪我や筋肉疲労など、強化を使えば良いと思うかもしれない。しかし、若いうちに回復力の強化を行いすぎると、自己回復力が育たないと言う弊害があるのだ。その為、アルマーオの体は、守護十星の1つ、ユリョウの一族によって細心の治療が行われていた。命に関わる部分のみ修復し残りの部分は自然治癒を待つと言う手法だ。そのため、彼が実際に寝床から出て行動し始めたのは、審問から一ヵ月後のことであった。
その間、王宮で何があったのか、といえば一言、政争である。今回の審問の不祥事、王の御前で思獣が堕ちるという前代未聞の一大事についての追求が行われていた。思獣を堕とした主犯はコウゴウ=ウォーザである。だが、たかだか謹慎中の次男坊に何が出来るのか、コウゴウはただ利用されただけだろうとのことで王宮の意見は一致している。では、誰がその責任を負うべきか、当然その父、リフクであろう。しかし、ここでリフクは徹底的に抗った。当然と言えば当然である。座して待てば、没落の二文字が待っているのだ。賄賂、流言、脅迫、果ては暗殺まで、ありとあらゆる手段を用い彼は息子のみに責任がある、という話に持っていこうとした。これに反発したのが従来の守護十星たちであった。
彼らはリフクの、ひいてはウォーザ家が財政を一手に担うことを危険視していたため、ここで一気に切り崩しにかかったのだ。ウォーザ家に思獣が運び込まれた流れを調べ、証人を保護し、賄賂を受け取った役人を処断し、その他ありとあらゆる不正に繋がる証拠を電光石火で収集していったのだ。普段であれば、その様な証拠をあっさりと晒すリフクではないが、思獣が堕ちた件をもみ消すことにかかりきりになっており、そこまで余裕が無かったのだ。最終的に、日和見の貴族達が、形勢が傾いたと判断し雪崩れ込むように守護十星へと肩入れをしていくことで方が付いた。ウォーザが思獣を仕入れたあとに行っていた外道の行いを証言するもの、数々の商取引で行われていた多数の不正の証拠が現れたのだ。その証拠を基に処断のために騎士団がウォーザ家へと向かったが、既に屋敷は多数の金品と共にもぬけの殻になっていた。
取り逃したことに歯噛みする騎士団員であったが、ウォーザ家の地下には密かに市街地の各商館に繋がる地下道が作られていたのだ。さらにその地下道自体は100年以上前から存在していたようであり、周囲を取り囲むことしかできなかった騎士が取り押さえられるわけが無かったのだ。画竜点睛を欠く始末では合ったが、逃亡したリフクのことは諜報課に任せ、財政の混乱を抑えなければならない。王は、財政官次席のクラーン=マックを暫定的に長官とし、安定を図らせた。マック家はウォーザ家の近くにはいたものの、全く不正には関わっておらず、つねに平凡な仕事を続けていた。ここで欲しいのは安定であり、改革ではなかったので、マック家が長官となるのは妥当な判断であった。クラーンは粛々とこれを受け、如才なく、ただし敏腕というわけでもない程度の速度で経済を安定させていった。
守護十星の逃亡という一大事が起きたせいで、アルマーオの貴族認定は一旦おいておかれた。かまってられない、というのが正直な所だったのだろう。このような様々な事情によって、アルマーオの貴族認定は遅れに遅れた。それはアルマーオにとって幸運と言うより他は無い。体を完全に回復させることが出来たのだし、認定への心構えへも出来たのだから。なぜ我獣の撃破に成功した彼に心構えが必要なのか。それは彼が認定に失敗しているからだ。
「アルマーオ=コネカット、そなたを一等貴族と認める。さらに、汝が召喚せし獣を聖獣コネカットであると認定する。この認定は我、16代聖鍵王 エイシン=コウハ=ケンカードの名の下に承認される。」
審問から4ヶ月後、玉座に座す若き覇王の瞳が、真っ直ぐにアルマーオを射抜く。その言葉に驚き顔を上げたアルマーオと視線がぶつかる。
「意外、と言う顔をしているな」
言葉に笑みを含ませたまま、王が尋ねる。それに、やや呆然としたまま、アルマーオが頷く。
「ええ、私はてっきり認定には失敗したと思っておりましたので…」
なぜ、失敗したと考えたのか、それは彼の命を救ったケンソーの援助のためである。貴族認定絶対の掟『認定者1人で臨むこと』に反したと考えていたのだ。もちろん、命を救われたアルマーオに不満は無く、父には感謝しか感じていない。
「まあな、確かに、認定者1人の力で妥当したわけではない。だが、あの状況でそれを言い出すのは無体にも程があろう。それにな助力はお主が求めたものではない、周りが勝手にしたものだ。違うか?」
「ま、まあ、そうではありますが、ですが」
「お前の意見は聞いていない。私がそう判断したのだ。」
一刀両断で斬り捨てられた。王の傲慢ともいえる態度にアルマーオが唖然としていると、にやりと悪戯っ子のように王が微笑みを浮かべる。
「だがまあ、そのことを理由に認定に反対してきたものもいる。そこで、だ――」
(悪戯っ子じゃないな、この微笑み。多分、悪魔だ。)
アルマーオの右腕の先で我獣が潰れる。潰したのは十字棍棒の先に固定したシーガのハンマーである。
「クロ、あと何匹!?」
「4、いえ3でございます。」
言葉と共に、昇る雷が更に1匹を灼く。彼らが相対しているのは、我獣甲虫ゲガンの塔に幅広く存在する我獣である。体長は40cm程度、硬い殻に覆われており頭部には二本の透明な牙のようなものがある。口の近くにあるので牙に見えるが、実際は小さな腕があり爪であるらしい。いくつもの小さな足を動かして移動する彼らは、クワガタの頭を持ち殻に覆われた芋虫のような姿と言うと分かりやすいかもしれない。彼ら1匹1匹はとても弱いが、彼らの武器は物量。二本の爪で相手を少しずつ削り、最終的に倒すのだ。数を上手く捌き倒すことが求められる我獣だ。
「セィアッ!」
十字棍棒の先のシーガををツルハシへと変化させて一匹を潰し、残る二匹をシーガ弾で打ち据えて牽制する。更にクロが旋風雷を放ち、2匹の動きを止める。その後、危なげなく一匹ずつ叩き潰す。
「どうかな?今のは大分無駄なく動けたんじゃない?」
「そうですね、旋風雷と昇蛇だけであれば、わたくしもほとんど消耗しませんね」
「長く塔に留まってないと稼げないしね。あ、ねえクロ、あれってもしかして!」
「おぉ、早速残るとは運が良いですね。これが爪光灯の材料となる躯結晶ですね」
「はあ、でもこれで大体銅貨70枚程度だっけ?先は長いね」
ため息と共に彼は思い出す。悪魔の笑みと共に告げられた王の条件を。
「一等貴人税、金貨100枚は己の力のみで納めよ。」
「…へ?」
「税を納めるために父母の力を借りてはならぬ、ということだ。」
謁見の間が騒然とする。金貨1枚で平民であれば1年は過ごせる。それを100枚個人の力で納めさせるのは余りにも法外である。守護十星であっても、その税は家にかかるものであるため、一族全てから集めて支払っているのだ。それを個人で、とは異論が出るであろう。事実、声を荒げて反論しようとする者たちが現れる、が、その機先を制して王が言葉を続ける。
「もちろん、今のそなたに、この額が納められるとは思っておらん。今より、3年の猶予を与える。」
その言葉に、玉座の横に控えていたキグン=ドーギヌが動く。
「恐れながら陛下、いかな麒麟児といえど、3年で100枚は不可能だと思われます。ご再考を。」
キグンからしてみれば、優秀な人材を失うことにはしたくないのだ。召喚術の再興もかかってくる。その言葉に軽く笑みを返して王が言葉を続ける。
「まあ、そう言うだろうとおもっていたよ。そこで、だ。3年以内に、天の塔5階層を踏破すれば、更に期限を3年延長してもかまわない。そこから更に3年以内に10階層を踏破できれば、更に3年延長しても良いが、どうする?アルマーオ=コネカット」
問いかけの形式ではあるが、アルマーオに肯定以外の言葉が許されているかと言えば、許されているわけが無い。王は曇りの無い笑顔でこちらを見ているが、その腹の中は真っ黒だ。猫と共に生きることを願うなら、この賭けから降りるわけには行かないのだ。
(上等だ、やってやる。たとえ可能性が低くても、その先に希望があるだけましだ。)
敢然と顔を挙げ、緑の瞳に金色を混ぜながらアルマーオ=コネカットは、はっきりと答える。
「陛下の多大なるご寛容に深く感謝いたします。このアルマーオ=コネカット、必ずや己の力のみで貴人税を納めて見せます。」
「その意気や良し。であれば、早速来週には家を出よ」
「………へ?」
謁見の間全体が疑問に包まれる。なぜ、家を出なければならぬのか。
「何を間抜け面を晒している。己の力のみで集めると言うたであろう。当然、食事や装備なども独力で用意してもらう。家の中にいれば父母の庇護の下で安穏とした挑戦となるであろう?全て己の力で用意するのだ。」
呆けたままのアルマーオの視界の外では、赤子を抱えたアイクウがいきり立って反論しようとしており、それをケンソーが必死で抑えている。他の者たちも王の傲慢な物言いに批難の表情を浮かべている。
「ちなみに、わたしは5年かかったな。まあ、年はもう少し上だったか」
「……………へ?」
周囲の間抜け面に、堪えきれぬと言った表情で王が答える。
「わたしも貴人税を独力で納めたのだよ。まあ、王子と言う立場で家を出るわけには行かなかったが、服やら何やらは自分で金を支払い、伝手を作り、料理は自分で作った。当然、食材は自分で集めた。」
絶句、周囲には何一つ音がしない。唯一キグンだけがため息をついた。それは陛下が自ら望んだことだったからだ。王が12歳の時に、前王に譲位を願ったのだ。その交換条件に出されたのが、独力による貴人税納入である。もっとも前王は納めるのに10年はかかるとみて、この条件を出したのだが。この王はそれを5年で成し遂げたのだ。
「さて、わたしは5年でできたがね。アルマーオ、お前は無理だと思うかね?親と共に住んでいたいと言うのなら、まあ、特別に許してやってもよい――」
「必要ありません。わたくしは先ほど、己の力のみで納めると申しました。その言葉、違えるつもりはありませぬ!」
今やアルマーオの瞳は完全に金色へと変化していた。王の言葉が安易な挑発であることは分かっていたし、のせられていることにも気付いていたが、この王に負けたくない、と言う思いがそれら理性を凌駕したのだ。
「――くくっ。その意気や良し。その意気や良し、だ。アルマーオ=コネカット、改めて命じる。己が力のみで貴人税を納めよ!しかと約定を果たした暁には、コネカット家の一等貴族への復帰を許し、空いた守護十星が1つを埋めることを許す!!」
(……この王様は、爆弾を落とさなきゃ気がすまないんだろうか…)
「はあ、つくづくあの王様は何なんだろうね。」
「愚王か、あるいは常識に囚われぬ稀代の名君でしょうか。まあ、こちらとしては、ただの迷惑な人ですがね」
「おかげで学校も辞めちゃったし…」
「その辺りは、あのお二方からノートなどお借りする約束ですから、それほど痛手でも無いとは思いますがね。」
「そうだね。二人とも元気かなぁ…。さて、初挑戦から4回目、ついに2階層への入り口へ来たわけだけど。クロ、どうする?」
「…はぁ。ご主人様、ご自分の顔を一度触ってからもう一度質問していただけますか?引くつもり、一切無いでしょうその笑顔。」
「あは、あははは。まあね。ここまで力を温存してこれてる。無理は禁物だけど、少しずつ進まなくちゃいけないのも事実。当面の目標は、このゲガンの塔5階層だからね」
「まずは装備を整えるための資金、ここからですね。はあ、穿角と崖甲があれば、まだ良かったのですが…」
「あれもまた、お母様のちからだもの。借りるわけにはいかないよ。いつかまた、僕達の力で買いに行こう。」
アルマーオが会心の笑みを浮かべ、クロへと向き直る。クロもまた不敵な笑みを浮かべ、それに答える。杖のよう尻尾と左手を互いに打ちつけて、笑みを深めると1人と1匹は、深遠の暗闇へと視線を向ける。二人の顔には既に緩んだ表情
は無く、どこまでも引き締まった緊張感を感じさせる表情へと改められていた。この先に待つのは未知、そして1つの油断が死へと直結する死地だ。だが、その危険の先にしか、彼らの希望は存在しない。
「よし、行こう!」
「どこまでもお供します」
こうして召喚術師は挑戦を始める。与えられた課題は重く、少年1人には無謀なものだ。だが、彼は1人ではない。傍らに猫がいる限り、強い意志を持ってこの難題を越えていくだろう。なぜなら彼は猫狂い。猫のために全てを投げ捨て一心不乱に愛し続けることを誓ったものだ。自らの夢を叶えるためならば、例え立ちはだかる壁がどれ程のものであろうと打ち砕く強さを持ち続けられる。
これは、後に『金目』と呼ばれることになる1人の召喚術師の物語。彼の塔への挑戦は、猫への想いと共に今ここに始まった。いや、この世界に生れ落ちた時から始まっていたのかもしれない――
というわけで、ようやくタイトル詐欺を回避できる所まで来ました。
このあと、彼と彼らは塔へと挑んでいきます。
章の終りと言うことで、一区切りです。
次の章は、気長にお待ちいただけると嬉しいです。やらせたいことは沢山あるんですが、文才がそれに追いつきません…。
ちょっと短編なんかも書いてみたいなーと思っております。
書き上げられたら、そちらのほうもよろしくお願いします。
今回、本当におまたせしてもうしわけありませんでした。重ね重ね申し訳ありません。もうちょっと失踪を疑われない程度で頑張っていこうと思います…多分。




