「召喚術師は繋げる」
ほんっとうに遅くなりました!
残すところあと二話!お楽しみください!
隻腕の男が、小さな男の子を護るように立つ。傍らには、2本の角と2本の斧を持つ2足歩行の獣と、空に浮かぶ赤く長い体の翼持つ蛇がいる。男は、背中の棍を右腕で抜いて構える。相対するのは、漆黒の獣。捻じくれた2本の巨大な角が天を衝き、濡れたような黒い毛並みに包まれた肉体は、巨大で強靭で荒々しい筋肉を持ち、暴力衝動を解放する瞬間を待つかのように脈打っている。ヤギに似た顔には、鋭い牙が並ぶ口と、殺意を固めた真紅の瞳が輝いている。
「ふっ飛ばしてやったって言うのに、まったく応えて無いとはね。」
特大のシーガ柱を胴体に打ち込み、後方へと吹き飛ばしたが手ごたえが無い。恐らく、内部に衝撃を与える類の攻撃は、我獣悪魔の持つ特殊能力、持続回復の波によってすぐさま打ち消されてしまうのだろう。
「骨の一本でも折れるかと思ったけど…これは10階層程度じゃきかないな…」
目の前で家族を殺された思獣に、怯えた人間を餌として与え、狂気を抱えた男の負のシーガを蓄えた紅魔結晶を引き金として堕ちた我獣である。結果、本来の我獣悪魔異常の能力手に入れた特異個体とも言うべき存在になってしまっているようだ。
「持続回復の能力も、どうやら強いようだね」
我獣悪魔の体を、赤い波動が波打つように走る。本来であれば、ここまではっきりと強化のシーガがみえるほどに、我獣悪魔の能力は高くない。基本的な身体能力に加えて、特殊能力にも変化が生まれてしまったようだ。
「なんにせよ、滅するのみ。ツオーノ、カジャ、合わせろ」
普段の優しげな口調をかなぐり捨て、ケンソーが冷徹で端的な口調で命令する。これは、彼の本来の口調である。これまでは、妻のアイクウが好まないから、という理由で意図的に柔らかい口調で話していたのだ。そこに対する配慮が剥がれているということは、彼の身を焦がす怒りが、どこまでも深いということでもある。
「ぶうぅぅもああああああ!!!!」
「みぎから いくねー」
「土枷三重発動、斬羽」
まずは、ツオーノが走る。左側面から手に持った斧をがむしゃらに叩きつけようとする。自身よりも巨大な我獣へと、畏れることなく攻撃に移る、まさに勇士である。カジャは、やや右側に浮遊しつつ移動すると、自身の瞳を輝かせ、そこから熱線を放つ。ケンソーはといえば、片腕の負担を感じさせずに、土の枷を我獣の左足に3連続で発動させつつ、風の刃を首へ放ちつつ、棍の先に『固定』したシーガを張り付かせて槍の様に左足首を狙う。
「ッガァァアアアアアアアア!!!!!!」
我獣は、ツオーノの斧の一撃を右の裏拳1つで受けつつ弾き飛ばす。熱線は左の掌で遮る。風の刃は完全に無視して受けつつ、枷に邪魔されていない右足を振りぬいてケンソーを狙う。
「よっと」
ケンソーは織り込み済みであったため、踏み込みやめ、自身の前を通り過ぎる右足へと、槍を突き刺す。棍に固定されたシーガの穂先は、10cmほど突き刺さりはするが、それ以上は筋肉の鎧に阻まれる。ケンソーは、深追いせずにさっさとバックステップをし、距離を空ける。追いかけようとする我獣の動きは、顔を狙うカジャの熱線によって阻害される。追いかけることは出来なかったものの、左足を持ち上げるようにして土の枷を破壊する。
「…やっぱり回復が早いな。風の刃は威力不足。ツオーノの斧もいまいち傷は深くない。熱の攻撃には耐性がありそう。効果がやや見られたのは…刺突か」
距離をとりつつ分析を終えるケンソー。彼の頭にあるのは、我獣悪魔の基本的な討伐法である。
「仲間が動きを止めた隙に、最大火力で頭を吹き飛ばす…か。言うは易し行うは難し、だな」
ぼやきつつも、行動に遅滞は一切見せず攻勢にケンソーは移る。彼には短期決戦以外に道は無い。
(片腕を失った代償はでかい、出血による疲弊によって、せいぜい戦闘可能時間は5分かな。先手必勝以外ありえないな)
棍へ装着させたシーガの穂先をより大きくより硬化させつつ、左側へと回り込む動きをとる。
「ツオーノ、動けるか?正面を頼む。カジャは牽制をしつつ、大きいのを狙え」
動きつつ、弾き飛ばされたツオーノの状態を確認する。問われたツオーノは、軽く頷くとすぐさま突貫する。カジャは、空中位置を高く取り、上から撃ち下ろす射線を確保すると、熱線を放ちつつ余剰のシーガを練る。
「ガァルルゥグゥゥアアアアア!!!」
ケンソーを一番の脅威と認定したのか、正面に捉えようと体を回す我獣に向かって、ツオーノが突っ込む。今度は、両手の斧を同時に叩きつける。さすがに、それを片手で防ぐことは難しいと判断したのか、両手で受けようとする。瞬間、左目に向かって熱線が奔る。反射的に左腕を上げて防いでしまう我獣、右腕1本でツオーノの斬撃は弾けず、2本の斧を食い込ませつつ防ぐことになる。その瞬間、我獣の視界からケンソーの姿は消えている。
「ガァッ!?ッガアアアアアアアア!!!」
我獣が斧を食い込ませつつ防いでいた右腕が、肘から千切れ飛ぶ。ケンソーの一撃が産み出した成果である。
「まずは、1つ」
棍を突き通した姿勢をすぐさま立て直しつつ、冷静に戦果を確認する。刺突で右腕を千切るために何をしたか。答えは単純だ。刺突によって出来た穴を繋げたのだ。棍の先に産み出したシーガの穂先で中央に巨大な穴を造り、その左右に尖岩で産み出した石の槍を高速で突き刺したのだ。
「ッガアアアアアアア!!!!」
当然反撃がくる。口を開き炎を放射する我獣。ツオーノ君と、ケンソーの両方を巻き込むように放射状に広がる炎、全身を使った攻撃を行ったために回避に移ることが出来ないツオーノ。一瞬で炎に飲まれそうになるツオーノの目前に、炎の壁が生まれる。カジャのフォローによって産み出された炎の盾である。
「湧蛇、霧滴」
ケンソー側に吐き出された炎には、ケンソーが自身が水の大蛇を産み出して対処する。炎と水がぶつかることで、蒸気が生まれることを予測し、霧を生み出す魔法も同時に発動させる。白い蒸気で我獣を包み込み、視界を遮ることで次への動きの猶予を造るのが狙いだ。
「ガアアアアアアアルルゥゥアアアア!」
しかし、我獣はそれを阻む。我獣悪魔の特殊能力は通常1つだけだ。持続回復がそれである。上位層個体は、そこに火炎放射が追加される場合があるが、それまでである。しかし、この個体は更に1つ、厄介な特殊能力を持っていた。
「なっ!?」
我獣を中心に衝撃波が飛ぶ。中心ほどに威力の高い爆発風のような衝撃波は、距離を開けていたケンソーに直接の損傷は与えら無い。しかし、予想外の衝撃によってケンソーはバランスを崩している。両腕が残っていれば、立て直すことも出来たろうが、片腕のバランスは予想外に崩れやすい、無意識に失ったほうの腕を振ろうとしてしまうためだ。また、衝撃波は我獣悪魔を包む霧も一気に晴らす、その為に我獣からはバランスを崩したケンソーがはっきり見えている。
「ルァアアアガアアアアアア!!!!」
残された腕を使った3足の突撃、アルマーオを吹き飛ばした我獣悪魔の切り札ともいえる攻撃がケンソーを襲う。
「ぶもおああああああ!!!」
主人を救うために、ツオーノは斜めから我獣の頭部に向かって両手と頭の4本の斧を体重を乗せて振るう。体格差もあるために、一撃で吹き飛ばされるが、多少の時間を稼ぐことはできた。
「くっ、カジャ!」
「むー!」
ケンソーは回避を諦める。ツオーノの作り出した刹那の時間に、対応策を展開する。
「ッガアァアルァアアアアア!?」
交錯の後、我獣悪魔は地面に転がり、ケンソーは地面に伏していた。
「ふう、間に合った。しかし、三個目の魔法、特殊能力とはね…上位というより特異個体ともいうべきかな」
「ガアアァア……グルルルル」
すぐさま立ち上がった我獣だが、自身に起きたことを理解できず状況の分析でもしているのか、目線をあちこちに向けている。ツオーノがよろよろと立ち上がりつつ、斧を構える。カジャは、空中位置を確保しつつシーガを練る。
「今のは二度目は通用しないかな…」
一瞬の交錯で何が起きたのか、避けれないと判断したケンソーは衝撃を減らすことを重視し対応策をとったのだ。衝撃を減らすにはぶつかる面積を減らせば良い。そこでケンソーは地面に伏したのだ。しかし、ただそれだけでは我獣に踏み潰されて終わりだ。そこで、カジャに炎の壁を目隠し代わりに吹き上げさせる。自身は床に伏せつつ、岩の壁を斜めに生成し衝撃を減らす。結果、炎の壁を突破した我獣は、生成された斜めの岩壁を壊しつつも足を取られて転倒し、ケンソーは衝撃を最小限に減らして切り抜けたのだ。
「ガアァァァルルゥゥゥアアア」
「今ので大分消耗したな、攻撃する機会はあといくつ創れるか…」
ケンソーの体力は徐々に減らされていくが、我獣悪魔は徐々に回復している。千切れた右腕も、肘から徐々に再生が始まっている。しかし、その状況であってもケンソーの瞳には諦めの色は無い。コネカット一族特有とも言うべきか、強い志力に支えられた不屈の意志が彼を突き動かす。
「カジャ、奴の右腕を焼け!ツオーノ、合わせろ!」
ケンソーが次に狙うのは右足、機動力を奪うことで攻撃機会を増やし、被弾する危険性を減らすためだ。カジャは炎を操り、我獣の右腕を狙う。ツオーノはケンソーをかばうように動き、死角を産み出していく。
「ガアルルルウアアア!!」
我獣も対抗するように突進し、ケンソーの準備時間を削る。左腕を振りかぶり、突き刺すようにくり出す。ケンソーの前にツオーノが出て、斧を構えて手刀をそらす。火花を散らしつつツオーノが耐える隙間にケンソーが潜り込み、右腕を千切ったのと同じ手順で右脚を狙う。瞬間、黒い我獣の瞳が嗤いに歪む。罠にかかった獲物を嘲る嗤いだ。
「ガアアアアァルゥアア!!」
我獣を中心に爆風が生まれる。先の一撃よりも近い位置にいるケンソーを猛烈な圧力が襲う。
「っぐぅ、なめるなぁ!」
しかし、ケンソーもただではやられない。吹き飛ばされつつも、右腕一本で棍を投げつける。投げられた棍は我獣の右太ももを貫通し、しかし突き抜けずそのまま残る。
「ッガアアァァァア!!」
「っぐぅ…」
突き刺さった棍の痛みに絶叫する我獣と、吹き飛ばされたために受身を取れずに転がった痛みに苦悶するケンソー、両者共にダメージを負った形となる。ボロボロになりつつも立ち上がるケンソー、我獣のほうに目をやると、すぐさま魔法を放つ。我獣は、足に突き刺さった棍を引き抜こうとしていたのだ。
「尖岩 三連!」
「ガアアアァルアァァ!」
右太ももを狙って三本の岩の槍が伸びる。それを我獣は左腕一本で打ち砕く。カジャは右腕に熱線を当て、回復を防ぐ。ツオーノは衝撃波によって吹き飛ばされたダメージが抜け切らず、片膝立ちで回復を待つ。
「はあ、はあ、この調子では…ちょっと厳しいかな」
一瞬の膠着が生まれる。しかし、この膠着が意味する所は、ケンソーにとっての敗北である。持続回復を持つ我獣にとって、長期戦は得意とする状況だからだ。ただでさえ、左腕を失ったケンソーには、出血による疲弊がある。更に、度重なる衝突によって消耗を強いられている。我獣は、右腕を失い、右足には棍が突き刺さってはいるものの、出血などの疲弊は存在せず、体力の減少も無い。状況としては五分では全く無い。ケンソーは、ちらりと息子の安否を確認する。すると、アルマーオは何とか立ち上がろうとしている所だった。
「ん、アルマーオは大丈夫そうだ…ね」
ケンソーは、安堵に緩めた顔を引き締めて、自らの思考に沈む。その間にも、岩の槍を放ち、我獣の足を狙うことはやめない。ツオーノと、カジャも、主人がなにやら思考を重ねていることに気付き、時間稼ぎの攻撃を放ち始めた。
「よし、決めた。カジャ、ツオーノ、手伝ってもらうよ」
きっと敵を見定めたケンソーは、大胆に距離を詰める。カジャは熱線を眼を狙って放ち、ツオーノは相手の左半身から攻める。ケンソーは相手の動きが鈍くなるだろう右半身側へと回り込む。
「ガアアアアアルッルラアアアアアアア!!!」
我獣は大きく頭を振って熱線を回避しつつ、炎を辺りにばらまく。ツオーノは、斧をふるって炎を切り裂く。ケンソーは水の膜を自分に纏うことでやり過ごしつつ前進する。カジャは、炎を突き刺さった棍にぶつける事で熱し、内部から灼く嫌がらせへと変える。
「ッグアアアアア!?」
その嫌がらせが功を奏したのか、我獣悪魔が炎を吐くのをやめて吠える。左側から回り込んでいたケンソーが魔法を発動させる。
「尖岩!」
距離を詰めたことで、発動させる距離を我獣に近づけることが出来る。つまり、我獣の足元から瞬時に発動させることが出来るのだ。今回は両の足の裏から魔法を発動させる。蹄の真下に生じた岩の槍を我獣は察知し避けようとする。怪我の無い左足は避けることが出来たが、棍の突き刺さっていた右脚は一瞬動きが遅れたため、岩の槍に貫かれることとなる。
「ッガアアアアァァァ!」
その隙に、ツオーノが距離を詰めて跳躍し、その勢いと体重を乗せた4つの斧を同時に振り下ろす。
「ぶっもあああああああああ!!!!」
散々振り払われた攻撃ではあるが、跳躍の勢いまでを載せた一撃は、流石に振り払うことが出来なかった。4つの斧は、我獣が掲げた左腕を砕きつつ半ばまで斬り潰す。
「左足も、もらうよ」
先ほどよりも近づいたケンソーが魔法を発動し、左の足裏と膝裏にそれぞれ岩の槍を突き刺す。
「グウッァアアアアアアガッガアアアアア!!!」
「っくぅぅぅうう!!」
我獣は痛みに絶叫しつつ、特殊能力を発動させる。我獣を中心に荒れ狂う衝撃波に、ツオーノが吹き飛ばされ、カジャが強風に煽られ身動きが取れなくなる。ケンソーは障壁を産み出し、衝撃波を防ごうとした。しかし、衝撃波の勢いに障壁が砕かれてしまう。結果、爆風に近い衝撃波に身を晒すことになる。だが、ケンソーは衝撃を逃がすことを選択せずに、爆風を耐える。
「これならどうだっ!」
耐え切ったケンソーは、即座に魔法を発動し、今度は我獣の右脚に岩の槍を伸ばして縫いとめる。これによって、我獣は完全に身動きを封じられることとなる。しかし、我獣もそれをただ見ていることはせず、衝撃波を再度発生させる。
「グルルグギャァアアアアアアアア!!」
「ぐぁぁああっ」
今度は全く耐え切れず、ケンソーは大きく吹き飛ばされる。重なったダメージに受身も取れ無いままに吹き飛ばされたケンソーは、弾むように床を転がっていく。そんな彼を抱きとめるように受け止める存在があった。体格差があるため、止めることはできずそのまま飛ばされてしまう。彼を抱きとめたのは、愛息、アルマーオ=コネカットであった。
「お、お父様!!!」
息子の心配そうな顔を見たケンソーは、自身の計画が上手く繋がったことに安堵する。しかし、本番はこれからであり、それは息子に任せなければならない。そのことに若干の不安を持ちつつも、意識を失う前に彼は告げる。
「ん、くぅ。……ふぅ、狙い通りか。…はあ…アルマーオ、あとは君がやりなさい」
こうして、召喚術師は自らの命と息子の命を未来へと繋げる。それが最後まで繋がる可能性はどこまでも低い、しかしこれ以外に道は無い。自らの運命と息子の運命をチップに、彼は賭けに出る。託された息子は自身の命を未来へと繋げられるのか、禍々しい存在感を放つ傷ついた我獣を前に、最後の勝負が始まる――
更新遅くなり本当に申し訳ありませんでした…。
この2週間、体調不良でぶっ倒れておりまして…。忙しさにやられて体調もくずれるという黄金パターンでした…。
何とか戻ってこれたので投稿します!
ただ、まだ忙しさは継続中なので、投稿は一週間程度あとになりそうです…。
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