「召喚術師は託す」
遅くなりました!まだちょっと更新が不安定になりそうです。
もう少し速くお届けできるように頑張ります。
「ケン、王城へ行って」
ベッドに横たわり苦しそうにしながらも、アイは懇願する。自らの子を宿し苦しむ妻に両手を握られ懇願され、夫であるケンソー=コネカットは苦しんでいる。これが、このままここにいて欲しいということであれば、一瞬たりとも迷わずに承諾できるのだが、苦しむ妻を置いていくことを是とは出来ない。
「アイ、それは無理だよ。君の側を離れることはできないよ」
アイクウも、自身の言葉が夫を苦しめることは理解しているが、彼女も強い焦燥の中での言葉なのだ。
「分かってるわ、ケン。けど、何かおかしいの、王城に向かって黒いシーガが集まっていくの」
アイクウは寝たまま王城へと目を向ける、彼女の目にははっきりと映っているのだ、黒い帯のように王城へと吸い込まれていくシーガの流れが。
(アイがこういうことを言う時は、何か予言めいたものが絡んでくる……)
ケンソーは、ここまでの付き合いから経験的に知っていることがある。アイクウが何かを頑迷に言い募るときは、何らかの予感に突き動かされている時なのだ。その言動は、周りから見れば奇矯に映ることが多いタイミングであるため、理解を得られない時が多い。実際、二人の出会いの時もそうだ。このままでは危険なことが起きる、と役所に言いにきたアイクウの対応を押し付けられたのが出会いだったのだ。その時は半信半疑ながらアイクウの瞳に嘘が無いことに気付いたケンソーが、いわれた場所へと向かい、その言葉通りの危険に出会って対応することが出来た。そこから二人の交流が始まったのだ。
「アイ、それは、いつもの感覚なのかい?」
その言葉に、静かに頷くアイクウ。その額には珠のような汗が浮かんでいる。自身の体調の悪さと、押しつぶされそうな不安の両方から苦しんでいるのだ。産婆のメイジョさんは、心配そうに側に立つと、ケンソーへと声をかける。後押しをするためだ。
「行ってやんな。あんたがいたところでここで出来るこたぁないよ。ここはね、わたしに任せときな」
ケンソーは、考える。王城に行って欲しいとは、おそらくアルマーオに何かがあるということだ。このまま、心配でここにとどまった時に、アルマーオに何かあったときの後悔が残るだろう。それは恐らくアイクウを傷つける。ここには、専門家のメイジョ婆さんがいる、自分よりもよっぽど危機に対応できるだろう。だが、王城でおきる危険がシーガに関わるものであるなら、自分に出来ることがあるはずだ。ケンソーは俯けていた顔をキッと上げて、アイクウに告げる。
「分かった、私が王城へ行くよ。アイは、安心して寝ていてね」
「ケン。ごめんなさい。…カジャちゃんとツオーノ君も連れて行って。きっとケンの助けになるわ」
「分かったよ、アイ、君はゆっくり寝ているんだよ」
ケンソーは、アイクウのおでこに唇を落とすと、表情を厳しく切り替えると私室へ向かう。装備を取りに行くためだ。アイクウの言葉は、明らかに戦いの予感を感じさせるものだ。
(カジャはともかく、ツオーノ君は戦闘以外に役立たせることは難しい。アイクウが黒いシーガと言った時、これまで戦闘が絡まないことはほとんど無かった。これは、かなり激しい戦闘が起きるってことだろうね。)
戦闘用の衝撃吸収力の高いローブを纏い、手甲、胴鎧、足甲も装着していく。2m程度の金属製の棍を背負い、カジャを呼ぶ。戦闘嫌いの彼に、恐らくは戦いが起きることを告げるためだ。
「カジャ、申し訳ないんだけど、多分戦いを手伝ってもらうと思う。」
「んー アイクウが いったのー?」
「そうなんだ。アイがあの目をした時の悪い予感に外れたことは無いからね」
「アルマオ あぶない?」
「…多分そうなるね、カジャの力がいると思うんだ」
「わかったー ケンのいうこと きくよー」
「ごめんね」
私室を出て、玄関へと向かう。途中、ハフゥとメイジョにアイクウのことを託す。アイクウは、会話した後に気を失ってしまったようだ。後ろ髪を毛根ごと引かれはするが、気を失うということは託されたということだ。妻の信頼を裏切ることは彼にとって許されることではない。断腸の思いで玄関を出る。王城のほうへと視線を向け、すぐに出発しようとしたが、足を止めて一瞬考える。
(あのアイの様子を見るに、時間が無い。私が強化して走るのもありだけど…出来る限り消耗は抑えたい…よし)
「ツオーノ君、お願いがあるんだ」
「ケンソー これ いいの?」
「緊急避難だし、息子の危険だからね、大目に見てもらうよ。もしくは見させるよ」
「ぶもああああああああっ!」
彼らはのんきに会話をしている。ケンソーは腰掛けて、カジャはそのケンソーの首に巻きついている。上下に激しく揺れる座席に腰掛けつつも、ひたすらのんびりする1人と1匹。そして、なぜか足元から聞こえてくる悲鳴に近い声。
「穴 あいてるよー」
「良い換気口になるね」
「ぶもおあああああああ!」
彼らは、曲線の大通りにあわせて走ることを選択しなかった。最短距離、つまり直線的に進んだのだ。しかし、ケンカードの街並みは、基本的に円で作られている。つまり、直線的に走ることは不可能なのだ、地面の道は。ならばどうすれば良いのか。
「ぶもああああああっ!!」
「高いところー 風きもちー」
「30年ここに住んでいるけど、こんなに気持ち良いとはね」
上を行けば良いのだ。彼ら1人と2匹は空を駆けている。実際は空ではなく、家々の屋根をツオーノ君が跳びはねているのだ。貴族街の家々は、それぞれが離れてはいるが、ツオーノ君が最大限の強化をした足で跳び、ケンソーが気流を調整して飛距離を増すことで、空中散歩を可能としている。もちろん、屋根を蹴って跳ばれる貴族にしてみれば良い迷惑以外の何者でも無い。
「ああ、きっと物凄いお金を請求されるだろうね。まあ、いいか。ツオーノ君、加速だ!」
「ぶもああああああああ!!!!」
非常に落ち着いたようにふざけた会話を繰り広げているが、カジャは気付いていた。普段どおりに見えるケンソーが、激しい焦燥に身を焦がしていることを。そうこうしている間に城壁までたどり着く、ツオーノ君が視線だけでケンソーへと問いかける。ケンソーは視線に強い頷きで返す。更に声を重ねて意志を強める。
「ツオーノ君、突破しよう!」
「ぶもおおおああああ!!」
普通は、家の屋根からは城壁を越えることは出来ないが、ツオーノ君の最大強化脚力とケンソーの緻密な制御による気流操作がその不可能を可能にする。城壁を護る衛兵達が反応するはずだが、今はなぜか反応が無い。そのことに異変の発生を確信するケンソーは、審問室へと向かう。何人かの兵士に止められそうになるが、振り切って進む。しかし、ある場所まで進むと、足を止めざるを得なかった。何十人もの兵士達が陣形を組んでいたからだ、しかし、こちらを向いているわけではなく、背中を向けている。最後尾に立つ指揮官のような男が、ケンソーに気付いて振り返る。ケンソーもまた、その男に気付いて近づいていく。指揮官の男は、ユーリッシュ=ドーギヌの父であり、第三騎士団長でもあるキグン=ドーギヌだった。
「君か。そういえば王城内にいなかったな」
「どうも、なぜここに兵隊を配置しているのですか?」
その問いに、ケンソーを追いかけてきた兵士たちを目線のみで追い返しながら、キグンが答えた。
「思獣が堕ちた」
「通してもらって良いですかね?」
「私の仕事は、『中から外に出すな』だ。『外から中に入れるな』とは言われていないな。」
「ありがとうございます!」
召喚獣を従えて、ケンソーが走る。審問室の扉を開き、待合室へと入る。ツオーノ君は入れない大きさの入り口にいらだっていた。透過の魔法陣が発動しているため、待合室の壁は光を通し、向こう側の映像が映る。ケンソーの目に飛び込んできたのは、我獣悪魔の攻撃が直撃して吹き飛ばされるアルマーオの姿だった。
「っ!ツオーノ!斧を使え!カジャ!力を貸すんだ!」
ツオーノは、その言葉に反応して背中をそらす、頭頂部に生える日本の斧角を用いるのだ。全力で引き戻される頭に強化をこめて入り口の壁に叩きつけるツオーノ君。突き出したケンソーの左腕に巻きつき、シーガを供給する。壊される入り口の壁、溜め込まれ、変換され始めるシーガ。
「ツオーノ、『四斧』用意!」
「ぶもぁ!」
叫び声と共に、ツオーノ君は背中にかけていた二本の斧を抜く。ケンソーもまた背中の棍を抜いて左手にそえる。
「私の攻撃の後、最高威力で同じ場所を攻撃してくれ。」
練り上げたシーガをどんどんと炎へと変換していくケンソー。左手に添えていた棍棒が自然と浮かび上がり、掌に垂直に突き立てられたように固定される。カジャとケンソー、互いに変換した炎をどんどんと圧縮していく。
「いくよ、3、2、1、いま!!」
莫大な量のシーガを、大量の炎へと変換しつつも、大幅に圧縮して掌から放つ。結果、浮かび上がり固定されていた棍が、瞬間的にとんでもない加速で宙を走り、審問室への扉に突き刺さる。扉には、変換された魔法などを散らすための魔法陣が形成されていたが、まさか物理的な力で突破されるなどとは、過去の者たちは考えなかったらしい。ケンソーからしてみれば、魔法陣で防がれるに決まりきったものよりも、物理的な力のほうが扉を突破する可能性が高いと考えただけだ。
「ぶもああああああああああああああ!!!!」
突き刺さった棍によって、扉は全体的にひび割れている。魔法陣の効果によって互いが接着しているのでなければ、とっくに崩れていただろう。そしてそこに、ツオーノ君が襲い掛かる。頭頂部の斧角と両手に持った斧を、全身の反り返りをいかして最大限の強化をこめて、最大加速で叩きつける。扉の向こうでは、アルマーオの防御を我獣が突破している。ツオーノ君の斧が扉を破壊するかしないかのタイミングで、ケンソーは既に内部に飛び込んでいた。
(間に合えぇええええ!!!)
ケンソーは必死で右手を伸ばす。寝転がるアルマーオの肩口を掴もうとしているのだ。空気が沼にでもなったかのように粘り、一歩に途方も無い時間がかかったかのように感じる。しかし、それがただの勘違いであり、普段の何十倍もの意識で世界を感知してるだけに過ぎないと言うことも、ケンソーには分かっている。だが、もどかしさは変わらない。後3歩、我獣の角が、息子を捉えるまで猶予は無い。後2歩、自らの背中を風魔法への変化で押すことで加速させる、それでもまだ遅い。どこまでもどこまでも時間が遅く感じられる。
「アルマアアアオオオオオ!!!」
後一歩、無限にも感じられるだけの時間が過ぎていく、恐らくは脳内のみで。我獣の角が息子を捕らえそうになる瞬間もまた、ゆっくりと見せられるのだ。ケンソーの焦燥が最高潮に到達する。そして――
「父上!我獣はでてきましたか!?」
「いや、まだだ。恐らくアルマーオ君が努力しているのだろう。」
「よかったぁ…よし、クレナ!行くぞ!」
「あいよっ」
王城内で応援していたはずの二人の美少女が、最終防衛線に現れた。思獣の変化に驚愕し、何とかアルマーオの助けになろうと行動した結果のようだ。意気揚々と向かう、二人の首根っこをキグンが掴む。
「ぐっ…何をするのですか父上!」
「ぐぇっ…一体なんだってんだい!」
「武器も防具も、さらには衣服もままなら無い、そんなそなた達が向かって何の役にたてるのだ。」
「「………」」
こんな時でも正論を崩さないキグンの物言いに、痛いところ疲れた二人は黙ってしまう。そもそも、論理的な意味など無いのだ。アルマーオの窮地に手助けに向かいたい、とその一心で行動していただけだったのだ。正論という冷水を浴びせられて、ようやく理性が行動を開始したのだ。
「今の君達が向かった所で、盾にもなれずに死ぬだけだ。おとなしくここで、無事を祈っていなさい。今の君達にできるのはそれだけだ」
「「………」」
一言も言い返せずに二人がうつむいてしまう。彼らも優秀な生徒達だ。この装備では、アルマーオと我獣との戦い生き抜くことは不可能だと理解する。
「ですが、それはわたくしには無関係ですね?」
そんな重い空気を切り裂いた1つの声。その声の主は、アルマーオの召喚獣、クロであった。
「そうだな、問題ない。」
「では、私は行きます。ユーリ様、クレナ様。良い知らせをお待ちください。」
「クロ!アルを頼む!」
「あたいもだ、あのダメ男を連れ戻してきてくんな!」
瞳に決意を宿らせて、クロは頷きを返して走り出す。窮地の主人を救うためだ。それを見ていたキグンもまた、思いを載せて心の中で呟く。
(ケンソー、息子を救い、我獣を滅ぼせ。君なら出来るはずだ)
(ふう、何とか間に合ったね。)
ケンソーの右腕は間に合った。その勢いで息子を血からづくで引き寄せる。その反動で、自分が敵の攻撃に身を晒すことになる。左腕が根元から押しつぶされた感覚がある。一切気にせず、壁に頭をぶつけている我獣をシーガの鎖でつなぎとめる。
(なんとまあ。体中ぼろぼろじゃないか…あの我獣め、よくもやってくれたね。)
抱きしめた息子は傷だらけであり、ケンソーは、その怪我の直接の原因である我獣への怒りを深めることとなった。その後、息子が自分が生きていることに驚いたりと色々あったが、落ち着きを取り戻し始めた所で、改めて宣言する。
「さて、覚悟してもらおうか、我獣め。我が一族を敵に回したこと、後悔させてやろう。」
こうして、召喚術師は思いを託す。実力と命令に縛られて動けない自分達を歯がゆく思いながら。託された思いは届くのか、その答えを紡ぐことができるのは、今はただ1人。左手を失った召喚術師だけである――
いかがだったでしょうか…正直今回かなりの難産でした。時間が無いのもあったのですが、ストーリーの捻りというものもかなり悩みました。感想などでご意見いただけるととても助かります。
また、更新が遅くなって本当にすいません。ですが、まだちょっと更新不安定になりそうです…すいません!仕事が、ちょっと厳しいです…。
次はもう少し速くお届けできるように頑張ります!




