「召喚術師は失う」
今回もちょっとだけ残酷なシーンがあります。
お気をつけてお読みください。
「ガルルルルゥゥッゥアアアアアアアアアッッッ!!」
我獣悪魔セイクの塔10階層より現れる我獣である。強靭な肉体、俊敏な行動、隙の無い特殊能力によって、10階層踏破を阻む壁として君臨している。多くの挑戦者を屠ってきたその実力により、学院の教科書にも名がのり、対応策が教授されるほどである。ちなみに、我獣の名称が、地球の英語圏の名称を持っているのには理由がある。昔、教育制度の改革を行ったキャシー=エイベルの影響があるのだ。彼女が教育改革を行う中で、塔の情報をまとめるのは自然な成り行きである。その中で、様々な固体が特に系統立てもされずに適当な呼称で呼ばれていることに気がつく。教科書などで教えていく際には、知識に一貫性があるほうが良い。そこで彼女は、姿形を挑戦者達から聞き取り、それに近い伝説のモンスターなどを当てはめていったのだ。その名称を教科書等で指導していく中で、英語圏の名称が浸透し、今では当然のように使われるようになっていったのだ。この我獣の系統立てというものは、それまでは感覚的に行われてきており、キャシーの取り組みによって、様々なことが結びついていくこととなった。結果、貴族や挑戦者達の死亡者数が大きく減少することともなり、その功績をたたえられたキャシーは貴人税認定、つまり貴族となることができた。その後、教育制度の様々な改革を行っていったため、役人達からは「教育の母」と呼ばれることとなる。話を戻そう。そのキャシーが編纂した教科書の中で、このデヴィルに関する記述は多い。それほどまでに凶悪な我獣なのだ。そうやって知識を授けられてなお、死者が絶えないという一事でも、この我獣の危険が判るだろう。
(……なんてプレッシャーだ…しかも……さっきのクロの奴と違って飛び込んでこないっ。……こちらを値踏みしている?)
崖甲を構え、穿角を抜き、左半身となって敵を窺うアルマーオ。実力も分からずに飛び込むことの愚を理解しているため、彼は先制攻撃を捨てている。まずは情報収集を優先させる。
(大きい、けど重くはなさそう。元が4足の我獣だから脚力はある、つまり瞬力が高い。さっきのクロと戦った我獣は魔法を使った。この我獣も、恐らく魔法を使えると思っていたほうが良い。腕の太さは尋常じゃないな、豪力も多分高い。基本方針は回避、そして弱点を付く。候補はやっぱり顔、かな。あの角と牙も危険だなぁ、コウゴウさんが一瞬で食いちぎられていた、あれもまた1つの切り札だろうな。)
冷静に思考を重ねる。コウゴウが殺されたことへの動揺はあるが、それによって心を揺らす危険性を理解しており、思考をセパレートしている。そうすることができるだけの志力が、アルマーオにはある。その時、悪魔が動き出す。ゆっくりと、一歩ずつだ。突進されるのであればまだ対処も出来るが、歩いてくるだけでは隙が少ない。アルマーオは、我獣の理力の高さに思わず舌打ちをしたくなる。そして、悪魔は止まる。後一歩踏み込めば手が届く、という場所でだ。
「…………ガァルルル」
「…くっ」
やや前傾姿勢にはなっているものの、何も動かずにアルマーオを観察する悪魔。その瞳に乗るのは純粋な殺意。しかし冷徹な理性も読み取れる。この悪魔はおそらくどこまでも冷静に思考しているのだろう「どうすればこの命を奪えるのか」と。その迫力に対峙するアルマーオは、極限状態の緊張を強いられている。一歩でも動きが遅れれば、恐らく死ぬ。その動きの細部を観察しつつ対応策を練る、常人ならば既に恐慌状態に陥って突撃するだろう緊張感だ。汗が一滴、アルマーオの頬を伝って落ちる。瞬間、我獣悪魔が動き出す。半歩踏み出すと右から腕を振りぬく。体重を乗せずに腕の力だけで放たれるそれは、様子見の一手であろう。
(腕の堅力を調べるかな。)
瞬時に跳び退り、その腕に向かって右の穿角を振るう。穿角にはシーガが載せられている。そのシーガは、捻じれる様に回転している。これが、この武器を授けた鍛冶師の言っていた「おもしろいこと」である。穿角に使われている素材は、硬く軽く、それでいてシーガを良く滑らせる。まずこれだけでシーガの展開速度が速まる。それにプラスして、溝が捻じれる様に螺旋状に掘られている。そのため、シーガを普通に穿角に沿わせると自然に回転するのだ。それを中央にまとめるとドリルのように回転するという趣向だ。これを発見したアルマーオは驚きつつも、突きの有用性、ヒットアンドアウェイへの繋ぎやすさに思い至り、鍛冶師への感謝を深めた。右に溜めた穿角を体の回転に合わせて突き込む。
「ガルルァッ」
回転するシーガによって強化されて付きこまれた穿角は、悪魔の右腕に刺さる。深くは刺さらないが手傷は負わせることができる。そのことを確認しつつもすぐに跳び退る。左の拳が飛んできたからだ。また、さっきよりも少し遠い距離を開けつつ、互いを観察する。
(この調子で怪我をさせていけば、なんとか…って…なるほど。)
悪魔の右腕から煙が上がる。さきほど穿った右腕の傷からだ。傷口が徐々に治っているのだ。これが我獣悪魔の特殊能力、持続回復である。
(厄介だな。打ち倒すには、強力な攻撃を弱点に叩き込め、か。)
高い堅力を持っているにもかかわらず、微細な傷ならば短時間で完治してしまう。多少深い傷であっても、10分20分あれば治ってしまう。このことから、我獣悪魔の撃破方法はひとつ、短時間に致命傷を与える、である。上層へと突入している実力者達の中には、一撃で屠ることが出来るものもいるが、それも他のメンバーのフォローによって身動きを封じての一撃である。基本的にはパーティーで当たることが望ましい敵なのだ。もちろん、学院の教科書にそのことは掲載されているが、アルマーオはその部分の授業を受けていなかった。そのため、対応も探り探りとなる。彼にとって不利な条件のみが重なっている。
「ガァアアッルルルゥゥア!!」
アルマーオへの様子見をやめて、攻勢へとスイッチを切り替えたのか、先ほどより時間をかけずに行動を起こす悪魔。初手と同じく、右の拳を横から振りぬく。ただし、先ほどより開いている距離を埋めるために踏み込みを入れている。そのため、拳速が増している。
(さっきより、近い位置で攻撃を仕掛ける必要があるっ。崖甲を信じて、受け流す!)
跳び退るのではなく、1,2歩下がることでまずは自身を拳の範囲からずらす。その上でシーガの盾を展開しつつ拳の軌道上に配置し、拳の軌道そのものをずらす。更に左腕を掲げることで崖甲を配置して衝撃に備える。右腕の穿角ではすでにシーガが展開し、回転が始まっている。先ほどより回転速度は増しているためより深く刺すための準備を整えている。
「よし…ぐぅぅっ!?」
展開したシーガの盾に拳が当たった瞬間、威力をずらすために斜めに展開していたにもかかわらず、全て吹き飛ばされたのだ。崖甲に直撃する直前に左腕の堅力を強化したが、掠っただけで大きく体を動かされてしまう。吹き飛ばされはしなかったが、右に大きくよろめいてしまう。悪魔からみれば左側に動いたアルマーオを狙って、左腕がアッパー気味に放たれる。
(くっ…まずいっ!?)
右に倒れかけた姿勢を立て直す暇は無い、もし体を戻せば中央から拳に打ちぬかれる。アルマーオが選択したのは、逆に崩れたほうに大きく跳ぶという避け方だ。右腕一本で側転をするように、強化した足で地面を蹴る。空中で回転するアルマーオの逆さになった顔のすぐ横を、黒く巨大な死が掠っていく。着地すると同時に、アルマーオから反撃に出る。左腕を振り上げつつ、アルマーオを睨みつける真紅の瞳めがけて、穿角に溜めておいたシーガを円錐状にして解き放つ。穿角はシーガを良く滑らせる素材のため、スムーズに放たれるそのシーガ弾の速度は、今までのそれを凌駕している。
「ガァルゥゥア!」
追撃に放たれようとしていた右腕を留め、角を振り下ろすことでその攻撃を防ぐ悪魔。その動きの停滞を付いて、また距離をあけるアルマーオ。彼の脳内では今の攻防を基にした分析が行われている。
(回復があるなら、あの程度の攻撃は防がなくて良いはず。守ったということは重要だということ。つまり、視覚には結構頼っているということ。頭部は弱点になりうるね。)
我獣悪魔も、動きを止め、再度アルマーオを観察している。しかし、それほどは止まらずにまた攻撃に移る。アルマーオの攻撃力を脅威とは判断せず、連続で攻撃することで機会を作ることを選択したようだ。
「ガァルァ!ルゥゥウアアッ!グガアアアアッ!」
「くっ!はぁっ!…っぐぅぅ!」
今度は左腕を横から振り抜く、しかし軌道を大きく外側に取ったそれは、アルマーオを腕の内側に巻き込むように放たれている。拳の軌道を変えることで、逸らしにくくしているのだ。また、拳は握られておらず、鋭い爪を突き刺すように振るわれている所も違う点だ。仕方なく攻撃を諦め大きく跳び退るアルマーオ。しかしそれを予測していたのか、追いかけるように踏み込んでから右腕を振り上げて叩きつけてくる。地面が大きくひび割れるほどに叩きつけられたそれは、風圧すらも感じさせるほどだ。重ねて跳び退ることで避けるアルマーオだが、先ほどよりも余裕は無い。更には悪魔の右腕を叩きつける攻撃には、振動を大きくあたえることで、アルマーオの次の動きを阻害する狙いもあったようだ。事実、アルマーオの次の動きは振動によって多少制限されることとなる。我獣悪魔はそこを狙って叩きつけると同時に下げていた頭を、踏み込みながら振り上げることで、角での刺殺を狙う。これを回避するためにはまた後退するしかないが、振動によって地面を揺らされているため身動きがしにくいため、それは間に合わない。アルマーオが選択した動きは、右腕を地面に向けるであった。
「伸びろっ!!」
穿角の先からシーガの棒を伸ばし、地面に突き立てた反動で身を逃がそうとしたのだ。伸ばし続けてはいるものの、当然足で蹴るより速度は遅くなる。かなりぎりぎりで避け、必死で上半身をそらすが、胸当てに角が下から刺さる。下がる勢いに、角を当てられた速度が追加され、アルマーオは吹っ飛ぶ。しかし、角は胸当ての装甲を下から削り飛ばしたのみであり、アルマーオに怪我は無いようだ。事実、アルマーオは着地を両足でしっかりと行い、役に立たなくなった胸当てを左腕で取り払っている。そこに負傷による遅滞は感じられない。
「……グルルルゥゥァァゥ」
「はぁっ…はぁっ…くそっ、先手が取れない…。」
実力は圧倒的に我獣悪魔の方が上である。これは、アルマーオが最初から見抜いていたことだ。アルマーオが狙うべきは、一瞬の隙、それのみである。しかし、我獣という生命に油断という概念は存在しない。自身の実力を持って隙を産み出さなければならないのだ。自身の手順に持ち込めば、隙を作り出すことが出来るだろうが、先ほどから悪魔は安易な攻撃を行ってこない。単調な攻めであれば、対応策も練ることが出来るが、変化を付けられては、生き延びることが最優先となる。はっきり言えば、状況は絶望的だ。
「とりあえず、やってみようか!」
シーガ弾を連続で5個形成し、放つ。対応された瞬間に、本命の穿角のシーガ弾を頭部へと放つための布石となる予定の攻撃だ。しかし、結果はどこまでも残酷なものだった。我獣悪魔は、防御するそぶりすら見せなかった。刺さるに任せて、全てを受けたのだ。シーガ弾は、先端を刺すことは出来たが、そこで消滅してしまう。その傷は、即座に煙を上げて回復される。
「避けないなら、こっちにはありがたい!」
5発のシーガ弾を直線状に並べて放ち、遅れて穿角の回転弾を放つ。先ほどと同じように受ければ、やや深手を負うはずであり、その際の体勢の崩れを狙って回転弾でより大きな深手を与える、という狙いだ。しかし、悪魔はこれに対しても冷静な対処を見せる。直線状に並べたシーガ弾は右腕を側面からぶつける事で、全ては防げずとも、数を減らして傷を浅くすることで実質無効化する。回転弾には、先ほどと同じように角を振り下ろすことで撃墜する。硬質な音を立てて、自身の攻撃を弾かれたアルマーオは、冷静に分析を重ね、重ねるからこそ負の感情に負けそうになる。
(くそっ、危険への対処が的確すぎる。シーガの量から判断しているのか?回転弾は有効だから防いでるんだろうけど、当て
るだけの隙を作るのが…このままじゃ…いや!ダメだ。ここで諦めるわけには行かないっ!)
再度、穿角にシーガを纏わせて回転させていく。左半身の基本姿勢は変えない。我獣悪魔も、真紅の瞳を輝かせて行動を開始する。最初のようにゆっくりと歩き始め、徐々に加速し、前傾しつつ突進してくる。アルマーオは激突のタイミングを計る。次の一手で多少の手傷を負わせようと考えたために、思考を逃避より攻撃をへと変更したのだ。しかし、それは裏目に出る。
「ッルガアアアアアアアアァア!」
「んなっ!?」
極度に前傾した姿勢だった我獣が、最後のタイミングで両腕も加速へと用いたのだ。元は四足の思獣、腕を前足代わりに用いようと淀みなど無い。しかし、アルマーオの思考の中にその選択肢は無かった。あの思獣から我獣への変化が、強烈な印象を残していたためだ。彼の頭の中には、この我獣は二足歩行へと変化したのだと刷り込まれてしまったのだ。その急激な速度変化に付いていけなかったアルマーオへと、我獣悪魔の頭突きがまともにぶつかる。間に崖甲をはさみ、シーガの盾を咄嗟に五枚展開できただけでも、アルマーオの非凡さの証明となるだろう。当然、その様な証明は、目の前の圧倒的暴力の前には無力でしかないのだが。
「っぐぅぉあああああっ!」
冗談のようにかなりの距離を吹き飛ばされるアルマーオ、一度、二度、地面をバウンドし、最初に入ってきた入り口側の壁へと激突する。
「ぐほぁっ!」
衝撃から身を護るようにシーガを展開はさせたものの、全ては防げず脳震盪に近い状態へと陥る。朦朧とした頭で、自身の状態を確かめる。立ち上がろうにも、足に力が入らない。左腕は全く動かない。右腕は問題なく動く。思考は、少しもやがかかっていたが、分析を始めるうちに冴えてきている。視界もはっきりした。我獣悪魔が、少しずつこちらに近づいてきている。
(これは…好機かもしれない。この体勢の僕を狙うためには、突撃しかない。そこでこの穿角を打ち込めれば、勝機はある。)
すっと右腕の穿角を悪魔の視界から隠し、シーガを蓄えていく。動かない足も少しずつ動かせるように、シーガを通して強化をして回復させていく。能動的な攻撃は諦め、受動的な攻撃の機会に全てを賭ける用意を整えていく。しかし、順調に近づいてきていた我獣悪魔が突如その動きを止める。
(なんだ…シーガが我獣に集まって…。)
歩みを止めた我獣が大きく息を吸い込むような動作をする。その時、アルマーオの背中に悪寒が走る。何かは分からないままに、危機感に促されて自身の前面にシーガ壁を展開する。すると、息を吐き出す仕草をした我獣の口から、猛烈な勢いで炎が吐き出された。
「くっ!?」
咄嗟にシーガ壁を厚くするが、熱気が頬を焼く。アルマーオは、炎の奔流が過ぎ去るのをただじっと待つ。ようやく途切れた時には、軽く肩で息をするほどに消耗し始めている。しかし、我獣からは目を離さない。相手の挙動に備えるためだ。すると再度我獣は息を吸う動作をしている。
(連発が可能なのっ。くそ、来るなら来い!)
そして再び、炎の奔流がアルマーオを襲う。一度目よりも勢いを増している。シーガ壁に防がれる炎の大きさによってアルマーオの視界は全て遮られるほどだ。
(これを防ぎ続けていれば、チャンスは来る、はずだ!)
希望を保とうと言い聞かせるアルマーオの心をへし折るかのように、炎の中から黒い大きな巨体が現れる。
「なっ!?」
「ガアアゥグルルゥゥガアアアアアアア!!!!」
かなり離れていた距離を、またしても四足を用いた高速機動で一気に詰めてきたのだ。炎をものともせずに身に纏いながら勢いのままに角をシーガ壁へとぶつけていく。シーガ壁の防御はガラスのようにあっさりと崩れ去り、そのままの勢いで我獣が突っ込んでくる。身動きの取れない足を辛うじて動かしたものの、到底、我獣の攻撃の幅を超えることは出来ない。咄嗟に取れる対応策が全く無いことに気付いたアルマーオの心の中を諦めの気持ちが支配しようとも、誰も責めることは出来ないだろう。
(みんな、ごめん…。)
―ドン!
目を閉じたアルマーオの体を強烈なGが襲う。壁に大きなものがめり込むような大きな破砕音が響く。アルマーオは目閉じたまま自身の命が消えることを確信していたが、いつまでも痛みがやってこない。むしろ、何か大きなものに包み込まれているような感覚がある。
(おかしい。これじゃあまるで死んでないみた…え?)
ぱっと目を開いたアルマーオの目に飛び込んできた光景、それは理知的な印象を与える眼鏡をかけ、鋭い茶色の目を安堵に緩める、短めの黒髪をもった男性だった。
「何とか間に合ったね。アルマーオ、怪我は無いかい?」
「お、お父様!?どうやってここへ?」
アルマーオを抱きしめる細身で長身の男性、それはアルマーオの父、ケンソー=コネカットであった。その事に驚くアルマーオであったが、今はそんな時ではなかったことを思い出した。先ほど、突撃してきた我獣はどこにいるのか。顔を動かすと、自身のすぐ側に、黒い体を持つ我獣を発見した。しかし、近すぎる。ケンソーの背中越しのすぐそこにいるのだ。その時、初めてアルマーオは気付く、ケンソーの体から水音がすることに。右腕で彼を抱きしめるケンソー、その左肩の先が、見えない。むしろ、その左肩の先に我獣の姿があるのだ。
「お、お父様?ひ、左腕がっ!!」
「ん?ああ、つぶれているね。まあ、君を護れたなら安いものだよ。さて…我獣よ、随分調子に乗って息子をいたぶってくれたな。覚悟は決めているんだろうな。」
息子に安心するように笑いかけた後で、我獣のほうへと振り返る。我獣はこの間、全く身動きしていない。いや、できなかったのだ。我獣の全身を、シーガの鎖が縛っていたからだ。我獣の瞳を見つめるケンソーの瞳は絶対零度の冷たさを保持していた。ケンソーが言い終えた瞬間、我獣の体が後方へと吹き飛ばされる。ケンソーが特大のシーガ柱を打ち込んだからだ。
「我獣悪魔か…また随分厄介なものが…。」
右腕で息子を抱きしめつつ、振り返って立ち上がるケンソー。その左腕は完全に潰されており、今も血液が垂れ流されている
。
「煩わしいな。カジャ、切り落とすから焼いてくれ。ツオーノ君、近接戦闘用意。」
「えー やりたくない けど わかった。」
「ぶもおおおぉおぉぉ!!!!」
彼の使役する二匹の召喚獣もまた、審問室へと降り立っていた。風の刃で、左腕を肩から斬りおとすケンソー、すぐさま傷口を炎が覆い、止血を行う。多量の出血により青い顔をしているが、ケンソーは全く我獣への警戒を緩めていない。むしろ、こちらまで凍えそうなほどの冷たさを感じさせる。しかし、内心は怒りで満ち満ちている。愛すべきわが子へ傷を負わせたのだ、ただでは済まさないと、その目が言っている。
「さて、覚悟してもらおうか、我獣め。我が一族を敵に回したこと、後悔させてやろう。」
――こうして、召喚術師ケンソーは左腕を失った。しかし、彼には後悔など無かった。下手すれば自身の命よりも大切なものを護れたからだ。しかし、真の意味で護るならばこの敵を討ち滅ぼさなければならない。果たして、召喚術師が自分の道を紡げるのか。その結果を予想できるものは、まだ誰一人いない。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
これにて本当にストックが切れてしまったので、更新スピード遅くなります。
残り3話程度の予定ですが、次は水曜日辺りに投稿したいと思います。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
ブックマーク、感想、評価、レビュー等いただけるととても励みになります。
気が向いたときでかまいませんので、よろしくお願いします。




