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金目の召喚術師 ~猫狂いは二塔に挑む~  作者: 鼻血魔人
召喚術師は挑戦者へと至る
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「召喚術師は進む」

 兵士の列は続く。たどり着いた先にあるのは、審問会場となる大きな建物、特級審問室である。入り口の前には文官が待っており、何やら書類を持っている。その書類は契約書類であり、そこに記名することで、正式に審問に挑戦することになるのだ。無言で差し出される書類に、同じく無言で記名するアルマーオ。書類は二枚、まずはクロの神獣認定、そしてアルマーオの貴族審問に関するものだ。文官は恭しく書類を受け取ると、扉の横へと控える。特級審問室はかなり大きな建物であり、王城に続いている。入り口の扉は大きな金属製の扉であり、かなり頑丈な造りになっている。審問室と名前はついているが、実際は1つの館といえるほどに大きな場所であり、室と名づけるのは不適切なほどである。クロとアルマーオは並んで入室する。すると、そこは待合室とでも言うのだろうか、こじんまりとした部屋がある。机と椅子のみが置かれ、入り口と反対の壁には更に大きな扉がある。扉には複雑な魔法陣が刻み込まれており、発動した際には防護の魔法がかかるようだ。


 「この部屋は、なにかな?クロ、どう思う?」


 「そうですね、恐らくは審問に挑む者の近親者が待つ場所ではないかと。」


 「え?玉座の間にいるもんじゃないの?」


 「平民から貴族になるのであれば、家族などは平民身分でしょう。であれば、玉座の間にて待つことは出来ない、そういった方々の観覧席であり、待機場所ではないかと。」


 「観覧?見れそうもない…あぁ、あの回路はそういうことか。」


 アルマーオが気付いたのは壁の回路である。その回路の効果は『透過』、様々な光を透過させる効果がる。つまり、壁全体がマジックミラーのようになると考えると良いだろう。部屋にいながらにして、内部の様子が分かる、観覧席としての効果は完璧だろう。1人と1匹であちこちの壁の回路を確かめていると、部屋の中にいた文官が話しかけてくる。


 「まずは、召喚獣の神獣認定から始める。その間、アルマーオ=コネカット氏はこの部屋にて待つように。認定がされた後は、自然にこの扉が開く。その場合は、そのまま進んで審問を受けよ。まあ、神獣認定が失敗した場合は、すぐに引き返すように。」


 最後の部分には嘲笑が込められていたが、コネカット家の1人と1匹は全く気にしていなかった。


 「じゃあ、クロ、先に待ってて。必ず行くから。」


 「はい、ご主人様。ゆるりと待たせていただきます。」


 どこまでも自然体、このような大きな舞台であっても焦りが見られない。実を言えば、クロは少し浮ついていたのだが、落ち着いた主人の姿を見て気持ちを落ち着かせていた。そんな主従の姿を、権威をないがしろにしとるとでも思ったのだろうか、文官が舌打ちして眺めている。


 「ちっ。では私は退室する。扉が開いたら、召喚獣のみで進むように。万が一、二人ではいったりなどした場合には、お家取り潰しもありえるからな。」


 主従の余裕を、卑怯な方法によって審問を突破しようとでも思ったのだろうか、あるいは怯えさせたかったのか、威圧的な口調で注意事項を言う。しかし、そんな悪意などアルマーオにとってはそよ風のようなものだ。


 「ありがとうございます。がんばります!」


 「…くっ。聖鍵王がいるのだ、せいぜい無様を晒さないようにな。」


 文官が立ち去り、主従のみとなった待合室。静かな空間で、互いに目線を交わし微笑む。アルマーオは両手でクロの前足の付け根を持ち上げて目線の高さをあわせる。


 「今日の朝、負けられない理由が増えたね。」


 「えぇ、新しくお生まれになるお子様の名前を、わたくしが決めさせていただくのです。ふむ、負けられませんね。」


 「むむ、いやいやいや!名前は僕が付けるよ!」


 「何をおっしゃる!ご主人様の貧困たる発想力と命名力で任せるわけが無いでしょう。」


 「ぼ、僕のどこが貧困な発想だと!」


 「わたくしの名前が良い実例では無いでしょうか。」


 「……僕、名付けは他の人に任せるよ。」


 どこまでも、緊張感の無いやり取りである。そうこうしている内に、入り口と反対側の大きな扉が自然に開く、その先には広大な空間がある。天井と地面を支える巨大な柱が通路脇に何本も設置されている。滑らかな石で作られた壁と床は、よっぽどのことが無い限りは壊れそうにも無い。アルマーオが、クロを地面に下ろすと、クロはすっとアルマーオを眺める。


 「では、行って参ります。」


 「いってらっしゃい。先に待っててね。」


 軽く頷いたクロは、さっと軽やかに地面を蹴ると審問室の中央へと向かう。赤絨毯を引いておいても何の遜色も無いだろう、大理石のような高級感のある石を敷き詰めた床は、鏡でもあるかのように磨かれている。クロが中央に向けて、肉球の感覚を楽しみながら歩いていくと、後ろ側で大きな音が響く。待合室への扉が閉まったのだ。すると、扉の回路にシーガが満ち始め、効果を発揮し始める。防護の効果は、特級審問室の壁全体へと広がり明るく周りを照らし始める。


 「さて、わたくしの相手の我獣はどこでしょうか…。」


 その声を聞いていたのか、上から騒々しい音を立てながら何かが一気に降りてくる。降りてきたのは檻、何本もの鉄格子が中の物を外に出さないように、あるいは外からの不用意な接触を防ぐために。瞬間、鉄格子が自然に崩壊する。元々、回路によって自壊が働くようになっていたようだ。中にいた影が動き出す。クロの目に映るその姿は、どこまでも殺意に満ちていた。


 「グゥゥゥッゥウ ウォォアアアアアア!!!」


 影が両手を広げ、力の限りに咆哮する。その咆哮は、審問室全体に響き渡り、クロの体を細かく震わせる。立ち上がる影の大きさは、優に2mを超え、3mに迫るほどだ。2足歩行をする影の形は、大きさを除けば人に似ている。体毛は無く、どこまでも灰色の質感の無い皮膚が全身を覆う。その肉体は筋肉の鎧をまとうかのように分厚く、重厚な印象を与える。当然何も服を身に付けていないため、全てが見えるが、人であれば性器があるであろう場所も、つるりとしている。これは、我獣が生命を持たないと主張するものたちの証拠ともなっている特徴だ。命あるものは全て、本能により繁栄を目指す。繁栄とは数だ。新たな生命を生み育てて時代へと種を繋げる。これこそが生命である。しかし、我獣にその様なものは存在しない。彼らの本能はただ1つ「命あるものの抹殺」ただそれだけだからだ。禿頭が硬いのも、打撃に備えまた反撃に用いるため。口が存在するのも食事を取るためではなく、相手を噛み殺すため。鼻が存在する理由も、匂いにて敵を感知するためだ。全ての器官の存在理由は、生命を奪うためか、その補助を行うためなのだ。ある意味最も純粋な種族とも言える。そして、彼らは1匹の例外も無く、戦う術に長けている。殺意に目を赤く輝かせ、我獣巨人(タイタン)が最も身近にいる生命、クロに狙いを定める。


 「これはこれは、想定通りとは、非常にありがたいですね。」


 狙われたクロに焦りは無い、むしろ、想定通りの後衛殺しであることに安堵と喜びを感じているほどだ。我獣に駆け引きは無い、定めれば即行動に移すだろう。クロも即座に臨戦態勢に移る。シーガを練り、初手に備える。この初手を外せば、戦況はかなり悪化することだろう。決して間違えることは許されない。その静かで圧倒的な緊張感の中にあって、クロは一分の隙も見せずに構える。我獣が、動く。


 「ウォォオオオオアアアアアアアア!!!!!」


 単純な突進、単純な殴打、単純な暴力。それ故に効果的であり恐ろしい。クロは滑らかに尾を翻す。まるで燕尾服の裾が踊るがごとく彼の尾は空中に柔らかな軌跡を描く。


 「壁土(かど)三連。」


 巨人が一歩を踏みしめる、床に大きくひびが入る、その反動で次の足を出す。加速する。また、反動で三歩目を、踏み出すことはできない。我獣の足首には、クロの足元から斜めに低く突き出た土の壁が、当てられていたからだ。本来であれば、地面に垂直に1mほどの壁を生成する魔法、それが壁土である。しかし、クロはそれを斜めに低く生成することで足を止めつつ体勢を崩すことを狙ったのだ。我獣にも、その土の壁の動きは見えていたが無視をした。ただの土の壁であれば打ち砕けるとの判断からだ。しかし――


 「ウォォオアアッッ!?」


 我獣の足を止めたのはただの土ではない、幅1mになるのが普通である壁土を30cmの幅に圧縮し、それを三本共に少しずつ角度を変えて生成しているのだ。仲間の中で、最も力の強いツオーノ君でさえ、この壁土にひびを入れることは出来なかった。打ち砕こうと進めた足が止められ、勢いを殺しきれない我獣は上半身が前につんのめる。しかし、これだけでは残る左足で踏ん張られてしまう。それを読んでいたクロは、我獣の動きを確認することなく既に次の魔法を発動させていた。


 「流鷲(ながし)


 上半身が泳ぎ、頭が前へとつんのめるその絶妙の瞬間に、水で出来た翼を広げた大鷲が後頭部に襲い掛かる。流鷲は、水の質量と速度、そして自在なコントロールで直撃させることで、強い衝撃を与えることを重視した魔法である。直撃した瞬間、鈍い大きな音が響き我獣の体が完全に前に転がる。


 「ゥオォォォアッ」


 弾けた水は、クロの足元まで滴るほどだ。しかし、この程度では我獣に負傷らしい負傷を負わせられるわけが無い。まして相手は堅力に優れた巨人種だ。元々、ここで大きな魔法を直撃させて強い打撃を与えることが目的である、それを最も意識しているクロはまたしても成果を確認する前からシーガを練りこんでいた。カッと目を見開き、後方宙返りを行うように飛ぶ。尾は、真下から真上へと弧を描くように勢い良く振り上げられる。


 「雷槍(かみやり)!!」


 振り上げられた尾から放たれたシーガは、まず散らばった水に作用する。クロの足元まではじけていた水が収束し槍のように伸びて、起き上がろうと我獣の上げた目へと到達する。瞬間、遅れて放たれた雷の槍が水を渡り我獣の顔を直撃する。ここまでは、刹那の出来事である、流石の我獣も避けるという素振りすら見せることが出来なかった。空気という絶縁体を介さずに相手へと届く雷は、威力の減衰も少なく強力に敵を灼く。


 「オアギャアァギャギャアアアアアア!」


 絶叫が響く、強力な電撃は我獣の頭部を強く焦がす。流れる電流が体の制御を奪う。しかし、クロは決して油断しない。相手の挙動を見る、シーガの流れを視る、冷静に自身の余力を診る。我獣は、この程度では滅しない。雷撃が止み、動きの制御を取り戻した瞬間、地面を蹴り走り出す。ここまでで、クロが魔法を重ねるタイミングはいくつも有ったが、彼はその選択肢を選ばなかった。彼の戦術は後の先、相手の動きを待って返す刀で命を奪う。そのために、小技で消耗することを避けたのだ。我獣の動きを冷徹に観察したクロが、次の魔法を選択する。直進のみを繰り返すタイタンだが、決しれ我獣は愚かではない。相手に合わせた対策を採ることも稀ではないのだ。


 (初手が決まるのは必定。勝負はここから、いかに相手の判断を掻い潜り打撃を与えるか。)


 ここからクロの本当の戦いが始まる。一度でも攻撃を受ければ、ほぼ即死であろう。身の軽さを生かすために、装備などは身に付けなかったからだ。我獣が、来る。



 「ウォオォアアアアア!!!」


 二度目の工作は穴、踏み出す足の真下に空間を造り、泳いだ上半身に流鷲を当てて転ばせる。雷槍を再度頭部に当てる。三度目は氷、こぼれていた水を凍結させて滑らせる、両足同時にだ。その後の手順は変えない。四度目はどうか、徐々に我獣にも与えた損傷の余波が現れ始めている。


 「ゥォオアァ…ウォオァアァァ!…オアアアアオアオアアオ!!!」


 (立ち上がった直後、よろめきましたね。頭部への損傷が蓄積したと見るべきでしょう。こちらの体力に余裕はまだ有りますが、小細工が後どの程度効くでしょうか…。)


 我獣は構えた次の瞬間には突撃してくる。考える余裕は少ない。直進の速度は、これまで変化は無い。常に最高速度だ。


 「ウオオオアアアアアア!!!!」


 (ちっ、足元を気にしてくれれば速度が落ちるのですがね。お構い無しですかっ。ここは、初手に戻す!)


 「壁土三連!」


 「ウオォォアォッッ」


 再度、我獣は土の壁に足を取られる。ここまで、全く対応は取れていない。


 (今です、流鷲!)

 

 事前に作っていた水の大鷲をシーガで操る。狙うは後頭部、最高のタイミングで直撃する、と思われた瞬間。


 「ウアアアアアアアオオオオ!!!」


 我獣は頭を下に向けたまま、上を見ないまま、右腕を頭上に振り上げたのだ。その右拳は流鷲を横から直撃し、砕く。そのまま、止められた足とは反対の足を前に滑らせることで、姿勢を制御する。これまでの三度の攻防で、我獣は足への仕掛けが全て違うことに気付いていた。この小さな命は、巧妙にこちらの思考の裏をかくだろう。だが、体勢が崩れた後にとる手段に違いは無い。三度とも同じだ。であれば、体勢の制御は無視する。後頭部への一撃が無ければ、何とかなるのだ。我獣は本能的にそう判断した。結果、体勢が戻るのは多少遅れるが、転ぶよりは圧倒的に少ない隙で次の行動へと移れる。目を小さな命のほうへと向ければ、小さな雷の弾丸が頭部を直撃する。だが、この程度であれば何十回直撃しようが、支障は無い。我獣の目が、輝く。


 (流鷲生成完了。ちっ、盲点でした。そしてやはり旋風雷では効果は薄い。ですが、流鷲で狙うのであれば、次は角度を変え…なっ!?)


 「跳んだっ!?」


 タイタンは、膝を大きく曲げるとクロへ向かって、跳ぶ。


 「ウウオォオオォアアアアアアア!!!」


 我獣は両手を合わせ、鈍器のように振り下ろすことで、全ての勢いを載せて叩き潰そうとする。巨大な体躯、圧倒的な豪力、跳躍の勢い、その全てを載せた一撃を食らえば、クロは原型を留めぬほどに潰れひしゃげて死ぬだろう。


 「甘いっ!!」


 しかし、敵は空中、回避など望めない。落下の勢いを利用すれば、相手へと深手を負わせることも可能となるだろう。


 「尖岩(とがり)!!」


 クロの足元の地面から、何本もの土の槍が伸びる。昇る勢いと落ちる勢いが合わされば、いかに頑丈な我獣の皮膚といえど、突き破ることが出来るだろう。クロが効果を確信した瞬間、いまだ空中にいるタイタンが両手を振り下ろす。シーガを操ることが出来るのは、人と思獣のみ、ではない。我獣もまたシーガを操ることが出来る。しかし、思考から本能まで全てが違う我獣が用いるシーガは、人や思獣が操る魔法とは大きく効果が異なる場合が多い。タイタンが用いたシーガの効果、それは、打撃力の均等化である。本来であれば、両の拳が当たった場所にしか衝撃はいかない、が、この効果を用いることで、タイタンは自身の体躯と同じ面積の範囲に打撃力を均等に振り分けることが出来る。平たく言えば、点ではなく、面で殴ることが出来るのだ。その結果がどうなるか。


 「なっ!?尖岩がっ!?」


 一斉に砕け散る土の槍が答えである。クロは驚きつつも、瞬時に跳び退る。踏みつけられるだけで終わるからだ。しかし、反撃を選択していたことで時間の余裕は奪われ、それほど大きく距離を開ける事はできなかった。着地した我獣によって、床は大きくひび割れる。が、我獣はかまわずに右腕を振るう。その先にあったのは我獣によって先を破壊された尖岩の残骸、我獣の腰ほどの高さに砕けたそれを更に破壊する。決して癇癪などではない、彼ら我獣は、命を奪う以外の無駄な行いはしない。砕いた石の欠片を散弾のようにクロに放つためだ。


 「くっ、流鷲!」


 跳び退りつつ、散弾に向かって生成しておいた流鷲を放つ。が、強大な豪力で打ち放たれた岩の礫は、水の鷲など突き破ってくる。多少は勢いを減じることが出来たが、直撃は免れない。やや大きめな塊がクロの脇腹に命中する。瞬間、クロの意識は飛びそうになる。後ろに跳び、なおかつ水で減速させたにも関わらず、岩のつぶてはクロへとめり込んだのだ。何かが折れるような音が響き、口からは血が吐き出される。だが、命は奪われていない。意識もまだ、消えてはいない。一度目は、床に身をはねさせたが、二度目からは四肢を地面につけ、自分の意志で跳び退る。なぜなら、我獣は即座に追撃に移っているからだ。


 「しゃらくさいですよっ。湧蛇(みずち)!!」


 水の大蛇が今度は産み出される。鷲よりも大きな蛇ではあるが、ロアンとの戦いほどシーガを練る時間が無かったため、一匹のみだ。行動に移ろうとした直前に、襲われたため、一瞬動きを止める我獣。上半身が水に飲み込まれる、しかし、すぐに足を踏み出し、距離をつめようとする。そこに追撃が届く。


 「砲尖瓦(ほうせんか)!」


 水の流れの中に、50cm程度のラグビーボールのような種のような形をした岩の砲弾を混ぜる。最初はまともにくらった我獣は、頭を大きくのけぞらすが、2発目3発目と、両手で打ち払う。しかし、そのために両足を止めたため、跳び退り続けたクロとは距離が開く。


 (骨が幾つか、そして内臓にも損傷がありますねこれは。次が最後の機会となりますか。)


 クロの口からは、血の雫が幾つか落ちてくる。岩の散弾は小さいものも含まれており、幾つかは体を傷つけたために裂傷も起きている。眼鏡にはひびが入り、毛並みは汚れている。しかし、瞳の輝きだけは失われていない。極限の状況下でクロはその身にシーガを吸収させ、自己治癒力の強化と理力の強化を行い、思考を加速させる。


 (最初であれば、砲尖瓦であそこまでのけぞらせることは出来なかったはず。我獣にも損傷の蓄積はありますね。頭部のみを狙った意味があったようです。であれば、次に全てを賭けるしかないでしょう。懐に潜り込み、最大威力の攻撃で仕留める。水は十分に撒かれていますが…そうですね、試してみましょうか)


 時間にすれば1秒程度の空白、すぐさま我獣は動き出す。選択されたのは突撃。真正面からねじ伏せることを狙った動きだ。


 「ゥゥゥウウオオオオオアアォオオオアアアアア!!!!!」

 

 対するクロの取った行動、前回と同じように流鷲を生成し、自ら間を詰める。これまでの行動とは違う動きに、タイタンは瞬時惑うが、動きに遅滞はなく、加速して踏み込んでいく。クロもまた、全身を使って跳ぶように地面を蹴り、タイタンへと向かう。しかし、限界まで加速しようと、その動きはタイタンにとって補足可能な速度だ。このまま行けば、その両手で握りつぶされるだろう。当然、クロにもそれは分かっている。


 「ウォオォォオアアア!!」


 「壁土!…今ですっ、流鷲!」


 タイタンまであと2m、壁土がタイタンの後ろで生成される。突撃に関係の無いことは端から無視をしているタイタンは当然止まらない。残り1m、クロが地面を滑るように蹴り跳ぶ、しかしそれも予測範囲内、タイタンの両手はクロを問題なく捕らえる、瞬間にクロの姿がタイタンの視界から消える。クロは、流鷲を自らに当てたのだ。跳躍の勢いを補助するように後ろからクロに激突する流鷲。結果、タイタンの予測を超えた速度で、その両足の隙間を跳び抜けるクロ。タイタンが、挙動に気付いて振り向いた瞬間、そこには既にクロがいた。タイタンの後ろに生成した壁土は、跳躍の勢いを殺し、跳び戻るための壁となった。三角跳びの様に、人間には不可能な速度で切り返すクロ、当然のことながら流鷲の衝撃、急速な方向転換による負担がその身を苛む、その全てを口を強く噛み締めることで堪える。全ては、最高の一撃を放つために。跳びかかるその身を濡らしていた水分が全て尾の先へと集まっている。地面を濡らす水分も尾の先へと向かい、そこで一抱えもある球体を作り上げる。


 「水啼月(みなづき)!」


 尾を回し、体を回してその球体をタイタンの頭部へとぶつける。すると、球体の水は壊れずに頭部へと張りつき、形を維持する。思獣や人であれば、このままで窒息させることが出来るだろう、しかし、我獣は呼吸をシーガの循環にしか用いない。空気を取り入れる必要はなく、この魔法の効果は無い。タイタンも、瞬時に無視することに決め、振り向きつつ体勢を整えることを優先する。結果として言えば、これが決め手となる。クロの体の回転は止まらない、その尾の先にはまたしても先ほどと同じ大きさの球体が生成されつつある。しかし今度は水ではない。その球体は輝きを放っている。クロが得手とする属性は雷、決め手は当然敵を灼く輝きだ。


 「神鳴月(かんなづき)!!」


 水の月と雷の月が重なる。瞬間、審問室全体を照らすように輝きが広がり、漏れでた余波が空気を焼いて音を鳴らす。


 「オアオアアァアアギャァアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 輝く月は、未だ消えずに殺意の獣を灼く。掴みかかろうとする両手は、雷撃のせいで制御を失い、ただ痙攣を繰り返すのみ。クロは微塵も油断せずに、審問室の床にある水分を集め、尾からは雷を放ち続ける。結果、月の輝きはますます大きくなり、命を奪う美しさを増していく。


 「わたくしは負けるわけにはいきません。速やかに朽ち果てていただきますっ!」


 いつしか、月の輝きと雷鳴は、我獣が上げる声すらも飲み込んでいく。クロの力が尽き、魔法の継続が不可能になるまでそれは続けられた。肩で大きく呼吸するクロの前に立つ、我獣タイタン。しかし、その頭部は黒く炭化し、動き出す気配は微塵も感じられない。次の瞬間、タイタンは後ろに倒れると同時に砕けた(・・・・)。我獣にも、幾つかの弱点が存在する。全ての我獣に共通するのは、中心となる核。そして、人型や獣型であれば思考を司る頭部がそれである。クロの二つの月は、その頭部を内部から完全に破壊し、タイタンを絶命させたのだ。


 「これが、シーガへの『回帰』ですか。なるほど。」


 砕けたタイタンの体は、少しずつ砂のようにほどけ、空気中へと戻っていく。これは、我獣に共通する現象であり、通称『回帰』と呼ばれるものだ。未だ研究は進まないが、殺意などに汚れたシーガが、我獣となり砕けることで浄化され、大きなシーガの流れに戻っていくのではないか、と言われている。クロはその現象にしばし見とれると、破片の中央に何かが落ちていることに気づく。歩み寄り見定めると、それはタイタンの核であるようだ。通常であれば、我獣は何も遺さないが、稀に躯結晶といわれるものを遺す。このタイタンの核は、おそらくそれであろう。しかし、それは塔でしか起きない現象だったはずだ。


 「ふむ、興味深いですが、研究は後回しですね。せっかくです、もらっていきましょう。」


 クロがタイタンの核を口でくわえると、玉座へと続く扉が輝き、ゆっくりと開く。認定はまだ終わっていない。その身で王の下へと歩きついてこそ、認定を受けることが出来るのだ。


 (正直、限界なんですが…ご主人様に迷惑は掛けられません。さっさと行きましょう。)


 核を咥えたまま、軽やかに小走りでクロは玉座へと向かう。扉の先に一歩踏み入れると、辺りは沈黙で満ちていた。多くの貴族がこの場にいるようだが、流石に限界の近いクロは、観察を諦め、王の下へと向かう。通路の先には階段があり、周りより何段も高くなった場所に豪奢な椅子が据えられている。そこに座すのが現聖鍵王のはずだ。そして、クロは目を見張る。そこに座す王の威容に触れたからだ。一目で只者ではないと感じさせるまだ若い青年が王冠を載せて不敵に笑みを浮かべている。


 「俺が、聖鍵王エイシン=コウハ=ケンカード。汝は聖獣コネカットの生まれ変わりか、否か。」


 「わたくし自身は、コネカット呼ばれた聖獣の眷属であると思っております、王よ。」


 「汝の実力は、ここにいる全てのものが見届けた。聖獣の再来と呼ばれるに相応しい力である。更に言えば、本来塔でのみ残るはずの躯結晶が遺された。これは奇跡、まさに神の思し召しであろう。今ここに、聖鍵王が認め定める。汝は聖獣コネカットの眷属である!古き鍵星が1つ、コネカット一族は、聖獣復活の偉業を成し遂げた!」


 「お認めくださり、ありがとうございます。今後も、コネカット一族の一員として、あなた様に誠心誠意お仕えいたしましょう。」

 

 「さて、それはこれからの君の主人次第だな。」


 聖鍵王エイシンは、にやりと不敵すぎる笑みを浮かべると、重ねて宣言する。


 「俺はコネカット一族、ひいては召喚に成功したアルマーオ=コネカットの偉業を認定する。しかし、その実力には未だ疑問の余地がある。よって、これより貴族審問を行う!扉を閉じ、そしてアルマーオの前の扉を開け、あやつが真の貴族であれば自らを鍵として、この扉を開くだろう。」


 王は一度そこで言葉を切り、辺りの貴族を窺う。全ての貴族に緊張が見られる。そして、全ての貴族が王の言葉を待っている。顔を上げた王は、どこまでも力強く宣言する。


 「審問を開始せよ!!」


 言葉に呼応して、待合室のアルマーオの前の扉が開く。その先の床は、回路の効果により先ほどの戦闘の跡が全て修復されている。そのことに驚くアルマーオ、逆を返せば素直な驚きを感じられるほどの余裕を持って彼は歩く。



 こうして召喚術師は進む。自らと相棒の未来を掴むために。暗き悪意の罠を抜け、目指す未来にたどり着くために。彼は進み始める――


 お待たせしました。ちょっとまだまだ仕事に追われておりまして、続きは多少時間がかかるかもしれません。なるべく早くお届けできるように頑張ります。


 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。戦闘シーンはいかがだったでしょう。よろしければ、感想や評価、ブックマークにレビューなどいただけるととても嬉しいです。よろしくお願いします。

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