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金目の召喚術師 ~猫狂いは二塔に挑む~  作者: 鼻血魔人
召喚術師は挑戦者へと至る
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「召喚術師は備える」

 「思獣との契約が課題…ですか。」


 「これはまた何とも言いがたいね…。」


 「ケン、大丈夫なの?」


 コネカット一族の三人がじっと見つめる手紙、それは王城からの、いや聖鍵王からの招待状であった。書かれている内容は、予想通りクロの聖獣認定の案内だったが、そこに予想外が1つ付け足されていた。クロが聖獣認定された場合に行われる、アルマーオの貴族審問が行われるということだった。


 「まさか同じ日とは…思ってなかったなぁ…。」


 「お父様、貴族審問とは、要は試験ですか?」


 天を仰ぐケンソーにアルマーオが緊張気味に問いかける。聖獣認定と貴族審問の概要は書かれていたので、そこから審問の中身を想像したのだ。認識としてはそれほどずれてはいないが、厳しさは段違いである。


 「いや、それ以上のものだよ。この試験内容なら命の危険もある。」


 「そんなっ!」


 「……ですが、やらなければクロを奪われるのですよね。」


 「そうだね。」


 「なら、絶対に突破して見せます。」


 強い意志を目に込めて、アルマーオは返事する。ぶれない猫への愛は今もアルマーオを支えている。ある意味頼もしい息子の姿に微笑を浮かべた両親は、すぐに顔を引き締める。


 「クロの聖獣認定もかなり厳しいね、我獣討伐とは…想定の中でも一番厳しいものになってしまったね。」


 「ケン、クロちゃんとアルマーオは大丈夫なの?」


 「うーん、どれも不可能ではない、とは思うんだけどね。きっと、嫌らしい部分をついてくると思うんだよね。」


 顎に手を当てて、ケンソーが悩み出す。アイクウはそれを心配げに見つめる。クロとアルマーオは家長の言葉を待つ。彼の言葉がこれからのコネカット家の方針となるからだ。


 「…恐らく、クロの相手は後衛殺しになると思うんだよね。アルの相手の思獣も、恐らくは人を憎んだ状態になる…。よし、こうしよう。」


 家長が決断を下す。アルとクロは基本的には修練、ケンソーは情報収集、アイクウは後方支援(つまり食事など)を行うことになった。


 「アルとクロは三日前までは徹底的に追い込むよ。少しでも実力を高めないとね。ああ、アイは絶対に無理しちゃダメだよ?いいね。」


 「大丈夫!私に出来ることをするからっ!」


 「クロ、お互いに頑張ろう!」

 

 「ええ、ご主人様。自由を手に入れるためにも、まずは己が実力を高めましょう。」


 コネカット一族は、こうして動き出す。家族のために。普通の貴族が目指す、地位や名誉など、彼らにとっては何の価値も無い。クロという家族を守るため、アルマーオの思いを守るため、彼らはただただ家族のために動き出すのだ。



 

 ――審問の日まで、残り2週間


 午前中、学校に出向いたアルマーオとクロは、貴族審問と神獣認定のことをユーリとクレナに伝える。協力を請うためだ。内容を聞いた二人は一も二も無くうなずいてくれた。クレナはそこから独自に動き、どうやったのか学校の演習室を鍛錬に使って良いとの許可をもぎ取ってきた。早速彼らは演習室で鍛錬を始める。時間は無い、高められるだけで高めなければならないのだ。


 「では、クロ、私はひたすら突撃に近い形でつっこむぞ。恐らく、ウォーザが用意する我獣は後衛の苦手とする性質のもの、高い防御力に任せて突進してくる性質のものだろうからな。」


 猪突猛進型の単純な物理攻撃のみ、それは本来は後衛にとってはカモである。しかしそれは、間に立ってくれる前衛がいればの話なのだ。距離を開けていられるからこそ、強力な魔法を叩き込むことが出来る。ただ速いだけのものであれば、初手で圧倒すれば何とかなるかもしれない。しかし、圧倒的な堅力を背景に、延々と突進に近い攻撃をされつづけるとすれば、それは後衛にとって悪夢だ。避けなければ一撃で沈むであろう攻撃を全て避け、その上で堅力を貫く魔法を構築する。体力と精神力を削られる作業となる。ユーリは、それを擬似的に再現しようというのだ。


 「もちろん、私だけでは堅力は弱い。そこで、ロアンの力を借りる。ロアン、頼む。」


 「分かった。」


 ロアンがユーリを見つめると、彼女の影が膨れ上がり、鎧のように体を覆う。ロアンの能力、影牢(かげろう)である。本来は相手を拘束するように使うが、鎧の上に纏えば、防御の力を高めることが出来る。

 

 「ロアン、この前の件と良い、借りが増えるばかりですね。申し訳ありません。」


 「貸した覚えは無い。 これは我にも利点がある話しなだけだ。」


 「ほう、その利点とは?」


 「聖獣が一種類ではな 息が詰まる この苦労をお前にも味合わせられる」


 ロアンは良い終えるとにやりと悪い顔で微笑む。クロもそれに応じてシニカルな笑みを浮かべると、ユーリが楽しそうに声をかける。

 

 「では行くぞー。……本気でやらねば、怪我をするぞっ!」


 爆発的な勢いで地面を蹴りつけ、ユーリが突撃する。クロが即座に対応して、旋風雷を三本同時に放つが、全く意に介さずにユーリは槍を突き出す。クロは焦ったように飛び退ると、悔しげに毒づく。


 「旋風雷では、足止めにもならないとはっ。」


 「ふん 影牢は貴様の華雷護にも耐えた力だ 生半可なものでは威力を通せぬ」


 「その通りっ! せぇえぇぇいいあ!!」 


 「では、次は昇蛇です!」



 「クロたち、派手にやってるね。大丈夫かなっとわわわ!」


 「余所見してる場合じゃないだろう?そんなんじゃあ使役なんて出来やしないよ?」


 アルマーオめがけてクレナが木製の刺剣をくり出す。これもまた、鍛錬である。相手の攻撃を避けつつ、使役の魔法陣を作成するためだ。召喚魔法は精緻の極み、当然使役契約の陣も簡単なものではない。ケンソーであれば、ある程度すぐに作り出すだろうが、アルはまだそこまでの領域にはたどり着いていない。更には、相手の思獣は恐らく人を憎んだ状態にされているだろうため、攻撃を受ける可能性が高い。ケンソーは強い光によって隙を作って作成したが、今回の審問に道具の持込は認められていない。武器や防具は認められているのだが、回復や戦闘補助の道具の使用は禁止されている。よって、ケンソーの手段は使えない。つまり、アルマーオは敵の攻撃をかわしつつ、魔法陣を作り上げなければいけないのだ。召喚魔法の契約陣は回避と同時に出来るほど甘いものでは決して無い。しかし、やらねばいけない。やらなければクロを奪われてしまうのだ。


 「とりあえず、反撃はなしでどれだけ避けながら作れるかやってみよう。」


 そう言い出したアルマーオを遠慮なくクレナが突いていく。回避に気を取られれば陣が、陣の構築に気を向けると回避が甘くなる。


 「それは隙だねぇ。はっ!」


 「ぐえっ!…げほっげほっ…んー参ったなぁ。」


 アルマーオの隙を狙った突きが腹に命中する。流石に倒れこんだアルマーオは、そのまま仰向けに倒れこむ。それを上か覗き込むクレナ、若干心配そうな顔をしたが、すぐにいつもの調子を取り戻して話しかける。


 「あんたねぇ、あたいごときの突きが避けれないんじゃぁ、思獣の相手なんかできやしないよ?」


 「クレナの突きは十分に威力が合ったよ。けど、回避だけに集中すれば避けれなくは無い。やっぱり同時に二つのこと、もっというと使役の魔法陣作成はかなり難しいなぁ。」


 思考を深めるアルマーオに、


 「どうする?続けるのかい?」


 「続けるよ、まだちょっと打開策は見出せないけど、同時並列で思考する訓練にはなるからさ。ごめんねクレナ。」


 「何いってんだい、水臭いね。ほら、行くよ!」





 ――審問の日まで、残り1週間と半分



 この日もクロとアルは修練に明け暮れる。



 「遅いよアル!陣も崩れてる!」


 「わっと、よっと、くぅ、厳しいっ!」


 アルはひたすらにクレナの突きを避ける。クレナの突きもまた、人からの助言を聞くことで鋭さを増しており、修練の難易度は日々上がっている。


 「やはり、上半身への攻撃は初手では有効ではないな、クロ。」


 「大きな獣を狩るときには 足から狙う 喉を掻き切るのはその次だ」


 「下半身、少し試しても良いでしょうか、ユーリ様。」


 クロは、防御を強めたユーリの突撃をどう止めるか、その検証に入っている。短期決戦が、勝負の行方を左右すると考えたためだ。



 「よっと、うわ、これ…やばっ…ぐぁっ!…げほっげほっ…。」


 「んー、アル、あんたさ、そもそもの武器や体の使い方から磨いたほうが良く無いかい?」


 「そういえば、基本を習ったこと…無かったなぁ。」


 「やっぱりか…よし!あたいに任せな!」


 アルは、何度も回避を繰り返していくと、盾に振り回され始める。更には回避の仕方に無駄が大きいために、動作が大きく乱れるという弱点が判明した。この二つの弱点をどうするか、クレナには良い考えがあるようだ。


 「いくぞクロっ!…らぁあぁぁっ…っ!?」


 「ほう 面白い使い方だな クロ」


 「ユーリ様のご助言を参考にいたしました。出足を引っ掛けるように用いれば大きく体勢を崩せるのではないか、と思いまして。」


 クロがしたことは簡単だ。ユーリの足に、土の壁をぶつける。ただだそれだけだ。しかし、それでは普通は体勢は崩せない。しかし一歩を踏み出そうとする、まさにそのタイミングで足首を押さえられるとどうだろうか。上半身は前へと移動しようと重心を動かすが、足は後ろに残る。その時、二足歩行をするものであれば大きく体勢を崩すことが出来るだろう。完全に転ばせるためにはもう一工夫がいるだろうが、相手が二足歩行であれば有効な手であろう。


 「転ばせた後にどういう一撃を決めるか、それもまた問題だな。」


 「長引けば不利 それだけは肝に銘じろ」


 「誰に物を言ってるのですか、ロアン。わたくしがそんな基本を落としているとでも?」


 「御託は良い 実戦こそ全て」


 「そうだな、では行くぞクロ。」


 「よろしくお願いします、ユーリ様。」


 転がるアルマーオにクレナは告げる。人に教わるべきだ、と。


 「基本を習う…かぁ。」


 「そうさ、あんたは基本が出来てるよう出来てないのさ。今からでも避け方は習うべきじゃないかい?」


 「けど、今からじゃ時間がかかるんじゃ?」


 寝転びながら首を傾げるアルマーオに、クレナが指を突きつけて断言する。


 「逆だよ逆!基本が一番即効性があるんだ!」


 応用は全て基本を基にしたものだ。基本が出来てこそ、次の動きが出来る。その基本を1週間習えば、全ての動きが少しずつ変わる。つまり、全体的な能力の向上に繋がるのだ。だからこそ、基本は最も大切であり、何度も繰り返し鍛えるべきことなのだ。


 「今度、あたいが知り合いをつれてきてやるさ!今日のところは、この辺でやめとくかい?」


 「いや、やろう。攻撃を受けるだけでも意味はあるはずだしね。」


 クレナは、アルマーオのあくなき修練への意欲に呆れた気分になる。が、すぐに首を振ってそれを取り払うと、自分を戒める。彼がここまでの実力を得たのは、この努力を継続する意志の強さにあると思い直したのだ。そして、自分も負けずに努力することをひそかに誓った後、彼に向かって鋭い刺突を放つのだ。


 そんな、彼らの様子をじっと眺めるものがいた。彼の隣にはアイクウがおり、心配そうにわが子を見つめている。アイクウの傍らに立つ男、身長は驚くことにアイクウより小さいものの、横に大きく全体的な体の線が妙にごつごつしている、彼はアイクウに二言三言、何かを告げると立ち去っていった。その彼へと、アイクウは深く頭を下げるのだった。



 

 ――審問の日まで、残り一週間


 「じゃじゃーん、こいつがアル、あんたの先生達だ!」


 「や、アルマーオ少年、久しぶり。」


 「おぅ金目、今回もまた面白いことに巻き込まれたんだって?ついてねぇなお前。カハハ!」


 アルマーオの前に立っているのは、ゲガンの塔演習担当教師のハイサキと黄色い長髪と犬耳を持つジュジンのロジウであった。そんな二人に元気良く挨拶をしたアルマーオは、どこか申し訳なさそうな顔で続ける。


 「ハイサキ先生、ロジウさん、わざわざありがとうございます!…でも、良いんですか?」


 「気にすんな金目!俺は楽しんでっから良いのよ!」


 「そうだぞ、アルマーオ少年。お嬢に頼まれて断る組合員はいねぇし、俺も君の力になれるのは嬉しい。」 

 

 ロジウがアルマーオの頭を小突き、ハイサキが肩に手を載せる。双方から伝わるのは、親愛の情のみ。アルマーオは湧き上がる感謝をどう伝えれば良いのか、全く分からず、二人の顔を見つめることしか出来なかった。


 「あたいのおかげだかんな!あ・た・い・の!」


 「分かってるよっ、本当にありがとうね、クレナ!」


 「お、おう。分かってりゃ良いのさ、分かってればさ。」


 そんなアルマーオをからかおうと、クレナが声をかけると、思っても見なかった真面目な口調で返されてしまった。クレナは、上手く気持ちを処理できずにどぎまぎしてしまう。そんなクレナを見て、ハイサキとロジウの二人が笑う。そうやって、彼らとの修練は始まった。


 「よし、アルマーオ少年。まずは構えてごらん。」


 「え、えっと、こうでしょうか。」


 「うん、ぜんっぜん違うな。」


 「なんだそれ、だっせぇぞ金目。」


 「……うぅ。」


 両者から、辛らつな評価を受けてしまう。逆に言えば、それほどにアルマーオは体術の基本を知らなかったのだ。ケンソーの特訓で学べるのはシーガでの防御法であって、肉体を使った回避方法ではなかったからだ。そこから、二人からまず立ち方から教わっていく。いわく、軽く膝を曲げて重心は低く抑える。いわく、体の中心軸を意識して、左右どちらにでも対応できるように足は肩幅に開く。いわく、それでいながら全身の力は抜いて瞬力を発揮しやすい用意を整える。


 「じゃあ、一回やってみるか。ロジウ、やれ。」


 「おうともさ!避けろよ金目っ!」


 「えっ、ちょっ。うわ、ほっ。お?いける?いけ…ぎゃああ!」


 「今のは、最後の前に油断して軸が崩れただろう?避けた先でも軸を崩さずに、正中線を意識するんだ。よし、ロジウ、もう一回いこうか。」


 「っしゃー!」


 「ぎゃああああ!」


 こうして、アルマーオは回避のいろはを二人によって叩き込まれることになる。多少、厳しすぎるかもしれないが、功でもしなければ体には染み付かないのだ。一方、その頃クロはというと



 「五十二っ!」


 「くぅぅ…はぁはぁ…。」


 「どうした 動きが鈍ってきているぞ 次が来る」


 「五十三っ!」


 「はぁっ!…この堅力では…はあ…魔法で追撃も危ういかもしれませんね。」


 ひたすら、ユーリの突撃を避けて旋風雷を打ち込む訓練をしていた。影牢と鎧に身を包んだユーリの守備の堅さはすさまじく、そこから突撃する槍の迫力もまた精神を削るほどの恐怖を伴うものだった。結果、クロは、繰り返されるぎりぎりの回避によって削られる精神力とシーガの使用によって消耗し続ける体力との二重苦に身を晒すことになる。しかし、クロは、これでもまだ生ぬるいと感じていた。


 「五十四!」


 「くぅぅ!…ユーリ様、もっと威力を高めてください!」


 「クロ…しかし…。」


 「ユーリ 炎槍だ」


 「ロアン?」


 「我も賛成だ 命を晒してこそ 育つものも有る」


 「…了解だ。行くぞ、クロ、必ず避けろよっ!炎槍っ!!」


 「ありがとうございます…いつでも…よろしいですよっ。」


 炎を纏った槍による突撃、それだけで先ほどの数倍に近い威圧感を感じる。そのぎりぎりの緊張感の中で、クロは己を磨いていく。ユーリの突撃が百を超えた所で、クロは意識を失い倒れる。ついに、最後まで彼はその身に槍を受けることは無かった。




 ――審問の日まで、残り4日



 その日は、いつもと様子が違った。収斂を始めようとした二人の前に、来客があったのだ。訪れたのは、アルの母親と、見知らぬ男だった。その男の体は小さいのに横幅広く、体はごつごつとしていた。ごつごつとしている、は比喩ではなく、事実として彼の体は岩のように角ばっている場所があるのだ。角ばっている場所は黒く、金属光沢を持っている。これは、金属をその身に宿して生まれる種族、カジトの特徴だ。


 「アルマーオ、紹介するわね。この方、ジイガンさん。家のお店の常連さんなのよっ。」


 「は、はあ。どうも、母がいつもお世話になっております。」


 「…世話になってんのはこっちだ…坊主…母親は好きか…」


 「だいっすきです!」


 迷い無く即答するアルマーオ。その言葉を聞いて、伸び放題の白い眉毛に隠された細い目が愉快そうに歪む。


 「そうか…わしもじゃ…今日来たのはアイクウさんにたのまれたからじゃ」


 「頼まれた…ですか?」


 「…これをな…よいせ」


 そういうと、彼は背負っていた箱をおもむろに地面に置いた。ハイサキとロジウがにわかに騒ぎ出している。何やら酷く驚いているようだ。


 「…わしが頼まれたのは…坊主の武器と防具を作ってくれ…だ」


 「ぼ、僕のですか!?お、お母様?」


 「この前、ケンと話していたでしょ?武器と防具を買いに行こうって。そこで、お店に来ていたジイガンさんにきいてみたらね、作ってくれるって言ってくださったのよ!」


 その言葉を聞いて、ついにハイサキとロジウが我慢できなかったのか大きい声を出す。


 「まじかよ…ジイガンさんの作品っていったら…一流どころしかもってねぇもんだぞ?」


 「流石アイクウさんだな。気に入った人にしか創らないってのがジイガンさんの主義だってのに、ジイガンさん側から創るっていってるじゃねぇか…ありえん。」


 そんなこととは露知らず、アイクウは無邪気に喜ぶ。


 「お店の人に聞いたらね、ジイガンさんはケンカードでも有数の鍛冶屋さんらしいのよっ。流石に、商品をいただくわけにはいかないから、倉庫に眠っていたものを譲っていただくことになったのよ。感謝しなきゃダメよ?アルマーオ。」


 ニコニコと微笑むアイクウの横で、ジイガンも目を細める。ハイサキやロジウは、ジイガンの倉庫に余りなど存在しないことを知っているため、ジイガンがこのためだけに用意したのだと気付いている。


 「あ、ありがとうございます!いただいたものに恥じないように頑張ります!」


 「…見る前から何いっとる…坊主…まずは見ろ…」


 ジイガンが手にとって見せたのは、黒い棒だ。しかし、握りはわずかに湾曲しナックルガードが付いている。黒い棒の部分は60cm程度あり、今のアルマーオにはやや大きい。黒い棒は、ただの金属ではなく、光を透かすようにどこと無く透明さを感じさせる。光に当てれば深く濃い紫のようにも見える。棒の部分にはらせん状の溝がいくつも入れられている。ナックルガードは銅のような不思議な光沢をした金属のように見える。受け取って握ったアルマーオは驚く、想像以上に軽かったからだ。


 「うわ、すごい!軽い!手に吸い付くみたいだ!」


 驚きと喜びに目を輝かせるアルマーオに、ジイガンが告げる。


 「…振ってみろ…感想はそれから言え」


 「はい!…ふぅ…せぃぁ!!!」


 アルマーオは生真面目に頷くと、上段に棒を構えて一気に振り下ろす。そして、再度驚愕に目を見張る。振り下ろされる棒が途中で加速したかのように感じられたからだ。実際は速くなっていないのだが、彼の思い通りに完璧に振り下ろされるどころか、棒のほうでアルマーオの歪みを修正したことによってそう錯覚させたのだ。


 「…そいつの名は『穿角』…シーガを纏わせて振るとな…また違うぞ…でだ…こいつは『崖甲』…」


 次にジイガンが取り出したのは赤色の篭手だ。しかし、ただの篭手ではない、装甲部分が大きく膨らみ、前腕を大きく覆っている。厚みの有る装甲部分は湾曲しており、素材は頑健さを感じさせる。


 「…こいつは盾であり篭手だ…どっちにも使える…坊主は盾の使い方が下手だったんでな…これならそう難しくは無い…付けてみろ」


 「…はい!」


 そしてまたアルマーオは驚愕することになる。篭手はピッタリと左手に装着され、全くずれが無い。そして更に重さもあまり感じさせずに取り回しやすくなっていたのだ。手を何度か振るってみるものの、全く気になるところが無い。


 「…でだ…この胸当てはおまけ…その二つの余りから作ってある…名無しだが…気休めにはなるだろう」


 最後に取り出したのは、片方の肩に掛けて胸の下でバンドで止める形になっている胸当てだ。重くも無くかといってもろさも感じさせず、安心感を与えてくれる。


 「素敵ね。私、武器は嫌いだけど、ジイガンさんの武器は綺麗なのね。なぜかしら?」


 「…アイクウさんの心を載せてつくったからだ…優しい武器と盾になったわ…」


 「優しい武器…あ!ジイガンさん御代はいくらですか?しっかり払わないとっ。」


 「………いらんと言うとアイクウさんが困るだろう…カマど屋昼食の年間無料権で…頼む…」


 「え?そんなことで良いんですか?」


 驚くアイクウにおもむろに頷くジイガン。彼にしてみれば、既に金に対する興味など薄れているのだ。そんな錆びた鍛冶師の心に春風を送り込んでくれたアイクウに、彼はとてもとても感謝している。正直に言えば、金など要らないのだが、そういうとアイクウが気に病むと考えたのだ。


 「わあ!軽い!使いやすい!」


 そんな鍛冶師の気持ちなどさっぱり分からないアルマーオは、1人で武器と盾をふるっては驚きの声を上げている。ハイサキとロジウはかなりうらやましそうではあったが、懸命にも何も言わないことにしているようだ。


 「ジイガンさん、ありがとうございます!この武器と防具で、必ず審問を突破してみせます。」


 「…その意気だ…やってみせろ…そこの二人…こいつのことを良く鍛えろよ…あと…今度店に顔を出せ…」


 「「はい!!」」


 予想外の所からつながりができ、歓喜の声をあげる二人。これによって、アルマーオにはより一層厳しい訓練が行われることとなった。だが、それは本人にとっても待ち望んでいた状況だった。


 



 ――審問の日まで、残り3日


 この日もまた、いつもと違うメンバーが修練の場所にいた。ケンソーの召喚獣『灰色の角斧』ツオーノ君である。ツオーノ君は、攻撃方法などが後衛殺しに近く、対策をより完璧にするためには有効な助っ人だとケンソーが判断したため、貸し出されたのだ。


 「ツオーノ様、今日はよろしくお願いします。遠慮や手加減は無用で願います。その代わり、わたくしも全力でいかせていただきますので。」


 「ぶもぉ。ぶももぉ。」


 「ええ、大丈夫です。お気になさらず、遠慮なく斧を振るってください。」


 「ぶもおお。ぶもおおお!!」


 「分かりました。では、参りましょう。」


 「ツオーノに 影牢をするぞ これで恐らくかなりの堅力になるはずだ」


 そうロアンが告げると、ツオーノの足元の影が体を取り巻いて鎧のようになる。ツオーノ君は、片手を突いて膝を曲げ、走り出す寸前の姿勢をとる。クロも身構えてシーガの用意をし始める。


 「では 始めましょう!」


 ツオーノ君が走り始める。ぐんぐんとクロと距離をつめる。残り5mと近づいた時、踏み出そうとした足首に土壁が延びる。壁土(かど)を応用した罠である。土壁は狙い通り、ツオーノ君の足首を固定するが、ここで予想外のことが起きる。ツオーノ君は気にせずに全身に力を込めると、土壁のほうが耐えられなくなったのだ。結果、速度は落とせたものの、ツオーノ君の突進は止まらない。彼の足元では崩壊した壁土が踏み潰されている。


 「なんという豪力!くぅぅっ。」


 クロの体の1cm外側をツオーノ君の頭の角が通り過ぎる。当然、旋風雷を放つが、影牢に阻まれ効果を出せない。空振りしても体勢を崩さなかったツオーノ君は再度突撃の構えを見せている。即座に足に力をこめ。爆発的な勢いで突進してくる。体の大きさも相まって、ユーリの何倍もの威圧感を感じる突進となった。


 「これほどの緊張感を得られるとはっ。素晴らしい!、」


 クロが喜色満面で姿勢を低くする。その頭上を斧が通り過ぎる。風を切るというよりは砕くような音が聞こえる。クロはその音を聞きながらも喜びを隠せずにいた。より実践的な訓練を行えるということは、より生き残る確率が上がるということだからだ。


 「旋風雷!」


 3時間後、修練場には会議を開く、ユーリ、クロ、ロアン、ツオーノ君の姿があった。ちなみにクロはユーリに抱きかかえられている。ツオーノ君との修練によって疲れきったために、立ち上がることができないからだ。そこで、ユーリによって回復強化の術を受けながら話を聞くこととなったのだ。


 「回避は問題なくなってきたな。」


 「ぶもおお。ぶももおお。」


 「褒めていただきありがとうございます。ツオーノ様の斧もまた凄まじき豪力でしたよ。」


 「次に課題になるのは 転ばせた後の一撃だな」


 腹ばいになって風を悠然と浴びるロアンが次の段階を提示する。その言葉にユーリとクロが同時に頷く。どれだけ避けても、それだけでは勝つことは出来ないからだ。疲れきっているクロと、平然としているツオーノ君を見比べても分かるだろう。体の大きさと体力は基本的に正比例するのだ。体勢を崩した後に致命的な攻撃を与えるのが、クロの基本的な戦術となる。その核となる回避の精度は上がっている。もう1つの核となる強烈な一撃、これが次にクロの考えるべきことになるのは当然だろう。


 「使う属性は定まっているのか?」


 「ええ、わたくしの恩寵の関係から、雷が最適です。」


 実はクロも、神の恩寵を持っているのだ。彼の持つ恩寵は雷の神トーザイの恩寵『雷火の杖』である。シーガを雷に変質させる際の速度、効率、威力、全てが少しずつ高まるという恩寵だ。


 「華雷護はどうだ あれは致命的な一撃となりうる」


 「仕込みに時間がかかります。その前段階の湧蛇はツオーノ様並の突進であれば足を止めることができないでしょうしね。」


 冷静に自身の弱さを分析するクロ。彼はこういったとき、自分に幻想を抱くことは一切無い。


 「だが、水と雷の組み合わせは効果的なはずだ。雷が内部に浸透すれば、相手の意思とは無関係に体の動きを止められるしな。」


 平静な声でえぐいことを考えるのはユーリである。


 「水の魔法も効果的な場面で用いることが出来れば 仕込みの無駄も減るだろう」


 ロアンは、致命的な魔法を編み上げる時間をなるべく短縮したいと考えているようだ。


 「ぶももも。ぶもおおお。」


 「なるほど!」


 「その手があったか…」


 「ん?二人とも、ツオーノ君の言葉を訳してくれないと私は分からないぞ。」


 ツオーノ君の鳴き声に反応し、歓声を上げるクロとうなるロアン。そして首を傾げるユーリ。ツオーノ君の言葉は、二匹には分かっても、流石にユーリには分からないのだ。


 「ツオーノ様は、こういっているのです。壁土で体勢を崩した後に、水の魔法で追い討ちをして完全に転ばせるべきだ、と。」

 

 壁土の足かせは、何度かツオーノ君に破壊されたことで、強靭な壁土の作り方を有る程度は会得したクロだが、強靭な足腰を持つツオーノ君を完全に転ばせるまでには至らなかったのだ。そこで、ツオーノ君は提案したのである。転ばないまでも、壁土で泳いだ上半身に水の魔法をぶつければ良いのではないか、と。


 「なるほど、貴方は中々の切れ者のようだな、ツオーノ君。」


 「ぶもぶももぉ。」


 それほどではない、と目の前で手を振るツオーノ君。紳士である。


 「それではクロ、私からも助言できるぞ。狙うなら頭上だ。一瞬泳いだ頭の直上か下に向けた衝撃を与えれば、重心の崩れは著しく大きくなるはずだ。」


 「直上…ふむ、であれば、流鷲ですかね。あの魔法であれば、軌道を自由に変化させられます。」


 「あれ一羽では足りんな 三羽程度を同時に仕掛けるのが良い できるか」


 問われた厳しい課題に、余裕の笑みを浮かべるクロ。


 「滞空させることも難しくは無い魔法ですからね。」


 「ふん 当然だな」


 「後は、どの様な雷の魔法ならば、致命的一撃を与えられるか、だな。」


 その後も、三匹と1人は意見を交し合う。より確実な勝利のために。





 ――審問の日まで、残り2日



 「なるほど、その穿角の握り方や振り方を習ったんだね。」


 「はい、全てをきつく握ってはダメで、小指と親指のみで保持する感覚で持ちます。振った後に直撃する瞬間だけきつく握り締める。そうすれば振る速さを高めつつ、打撃を相手に浸透させることが出来るそうです。」


 「ほほぉ。流石に挑戦者たちは違うね。私も棍は使うけどね、我流も良いところだから勉強になるよ。」


 「はい!この崖甲の使い方も慣れてきました。盾よりも指先が自由になるので、シーガの操作もしやすいです。」


 「ジイガンさん、そしてアイクウには感謝しないとね。さて、ではそろそろ始めようか。」


 ケンソーとアルマーオがいるのは「出会いの小屋」である。午前中は学校で修練をし、夜は家でケンソーと共に研究を行うのが、アルマーオの最近のスタイルである。もちろん、研究も修練のための研究である。


 「簡単に速く作れる使役契約陣、中々難しい命題だよね。」


 「お父様は、そんなものを作らずともすぐに作れるじゃないですか。」


 「いやいや、10秒もかかってしまうからね。支援が無ければ現実的ではないよ。」


 戦闘中に速く正確に使役契約陣を作る。これもまた、今回の貴族審問には欠かせない技術なのだ。そのためにアルマーオは毎日ケンソーと研究を重ねている。


 「お父様、この『浮遊』の回路は必要ないのでは。」


 「いや、これが無いと陣を生成しても地面に落ちちゃうんだよ。」


 「ですが、この『収斂』の回路の一部に重ねられるのでは?」


 「なるほど、多重回路か。やってみようか。」


 しかし、先人の知恵の結晶が魔法陣である。一見すると無駄に見える部分にも意味が隠されており、中々研究は進展していないのが実情だ。


 「んー。アルマーオ、明日も研究はするけど、結果は期待しないほうが良いね。方法としては、君が思獣を散々に叩きのめして反撃を警戒しなくても良い状態を作るのが最善だね。」


 「僕もそう思っていました。ですが、やるだけやってみましょうお父様。」


 「もちろんさ。」


 笑いあう二人は、再び回路の検証に没頭していくのだった。




 ――審問の日まで、残り1日


 

 「よし、そこまで。今日はしっかりと体を休めることを優先させよう。休養もまた、大切なことだからな、アルマーオ少年。」


 「ちゃんと食って寝る。俺らも潜る前日はそうすっぜ。」


 「はあっ、はあっ、あ、ありがとうございまし…たぁ!」


 息も絶え絶えまアルマーオに、ハイサキとロジウが声をかける。いつもよりはかなり早いが、修練を終えて休養を取らせるためだ。肩で息をするアルマーオを、ハイサキとロジウは感嘆の目で見つめる。彼は結局、二人の厳しい修練に一度も根をあげることは無かった。それどころか、更に上を、と常に向上を求める位だ。その強い意志に、二人は尊敬にも似た気持ちを抱いていた。


 「少年、正直、貴族になんぞなるのは惜しいと思うが、明日はがんばれよ。」


 「ここまで教えたんだ、ジイガン爺の武器もある。やるだけやったれ!」

 

 「はい!今日まで本当にありがとうございました!!」


 そこにはクレナもおり、アルマーオに声をかけようか迷っていると、アルマーオの方から声をかけてきた。


 「クレナもありがとう!クレナのおかげでここまで修練に集中できたよ!本当にありがとう!」


 「ば、ばかやろう!当たり間じゃないかい、そんなことはっ!あ、あたいがここまでしてやったんだ。明日は絶対審問を突破しろよ。しくじったら、ただじゃすまさないよ!」


 その言葉に、アルが頷くと同時に凄まじい音があたりに響く。三人が一斉に音の発生源に目をやると、そこにはクロが、魔法を放った後の姿勢で立っていた。


 「良いじゃないかクロ!これならかなりの痛手を与えられるはずだ!」


 「速さも良い 良い手札を手に入れたな」


 「ぶももももも ぶもあああああ!!!」


 三者三様、思い思いの声をかける。それら全てにきっちりと優雅な礼を返してクロが口を開く。


 「この魔法が完成したのも、全て皆様のおかげです。お礼の代わりといっては何ですが、明日はこの魔法にて、確実に我獣を葬ってみせましょう。」


 その言葉を受けた1人と2匹は、力強く頷く。ここにクロの戦術は完成を見た。と、そこにアルマーオが駆け寄ってくる。


 「クロ!…わぁ、すごい跡だね。魔法、出来たんだ。」


 「はい、ご主人様。明日は必ず我獣を打ち倒し、ご主人様の審問へとつなげて見せます。」


 「なら、僕も言うよ。クロの後に、必ず審問を突破してみせる。そして、君と共にいることに文句なんかいわせやしない。」


 大一番を明日に控えた主従は互いに誓う。彼らの目からは強い意志が読み取れる。二人を協力者達が囲む。彼らもまた、その目に強い意志を宿していた。




 こうして召喚術師は審問に備える。1人では為しえぬ境地に、仲間の手助けを受けて達することができたのだ、その心に憂いは無い。しかし、彼らを待ち受ける闇は、どこまでも深い――


 今回、ものすごく長くなりました。ですが、まだまだ戦闘にはたどりつきません。

 次の次くらいで戦闘が始まる予定です。そこからは一気に章の終わりに向かっていきます。


 ここまで読んでくださりありがとうございます。

 感想や評価、ブックマークなどいただけると本当に嬉しいです。

 気が向いた時でかまいませんのでお願いします。


 誤字等も教えていただけると助かります。正直、見直ししてもしても出てくるので困っております(笑)人の目ってのは意外に穴だらけですね。

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