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金目の召喚術師 ~猫狂いは二塔に挑む~  作者: 鼻血魔人
召喚術師は挑戦者へと至る
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「召喚術師は受け取る」

 「しかしよ、クロはさ、何であんな貴重品もってたんだい?」


 「それは私も気になっていた。何故なんだ?」


 二人の絶世の美少女に迫られているのは、耳と顔と四肢をチョコレート色の良い毛並みで覆った一匹の猫である。杖のような尻尾と、アイスブルーの瞳にかけた眼鏡が普通の猫とは一線を画すところである。さらに、その口から発せられる低く渋い声で話されるのは、人の言葉であるのだから、普通の猫であるはずが無い。彼はアルマーオの召喚獣、マギネコのクロ。深い知性と優れた属性魔法で主人を支援する、アルマーオの無二の相棒である。


 「わたくしが、ロアンと共に外出したのは覚えておいでですか?」


 「あぁ、ロアンが動きたがったのでな、付いて行かせたんだが、迷惑ではなかったようだな。」


 「ロアンとユーリ様には、本当に感謝しております。実はですね、あの時わたくしが外にでたのは、ご主人様の指示だったのです。」


 クロの言葉を聞いた二人が驚き、バッと音を立てて振り返る。いきなり振り向かれた当の本人は眠気からあくびをしており、視線に驚いたがあくびは止められず、何だかあわあわとし始めたかと思えば、後ろにひっくり返りそうになっている。



 「……嘘だろ?アルがそんなに先を読んで行動してたってぇのかい?」


 「……んむ、あまり言いたくは無いが信じがたいぞ?」


 「……残念ですが、本当です。」


 大きくため息をついてクロが答える。今はそのような様子は全く見てとれないが、あの時のクロの別行動は、真実アルマーオからの指示であった。





 『ねぇクロ、反応せずに聞いて。何だか嫌な予感がするんだ。あの洞窟に何も無しに入るのは絶対にまずいって何かが訴えてくるんだよ。』


 『…わたくしも、どこか漠然とした不安を感じます。』


 『けど、僕にはどうすれば良いのかさっぱり見えてこないんだ。だからさ、クロ、君にお願いしたいんだ。』


 『何を、でしょうか。』


 『僕にはどうすれば良いか分からないけど、お父様なら何か対策を立てれるかもしれない。お父様の所へ行って、事情を説明してほしいんだ。』

  

 『ケンソー様に、そうですね。今はあの方の知恵に頼るべき時かもしれません。では、行って参ります。どう言い訳すれば良いでしょうか?』


 『そうだね、ここにいてもクロに出来ることは無いから、お母様の店を手伝いに行く、なら違和感ないんじゃないかな?』






 「――という次第でして。」


 「「信じられない。」」


 「ふ、二人とも酷いよ!」


 さすがにちょっと切なくなったアルマーオが文句を言う。しかし、これはどちらも悪いというべきだろう。アルマーオはこれまでに巧みな魔法技術は見せていたが、思考の鋭さを見せたことは無いからだ。どちらかといえば、のほほんとした天然のような所ばかりを級友たちにはみせていたのだから、仕方ないともいえる。最も、アルマーオは思考が鋭いのではなく、どちらかといえば前世の記憶をなんとなく持っているために、問題への対応策を考えること普通の9歳児と比べるとある程度出来るというのが正解だろう。 


 「まあ、それは良い。しかし、何故アルマーオのお父上は、あのような貴重品をもっていたのだ?」


 「あぁ、それはね。お父様は役所の中で犯罪捜査に関わる機会が多いらしくてね。役所の偉い人に言ってもらったらしいよ。」

 

 「いや、あれはそんなんでもらえるほど簡単なものじゃないはずなんだけどねぇ。」


 いまいち、紫映結晶の希少性を理解していないアルマーオは小首を傾げる。クロはなんとなく察してはいるが、秘密を守るために微笑みながら沈黙している。紫映結晶は、諜報機関のものが基本的に使う代物だ。ケンソーの所属する役所の部署とは、恐らく真っ当な事務作業を行うような部署ではないのだろう。だが、アルマーオは全くその事に気づいていない顔をしているし、クロは微笑んではいるものの、絶対に答えてくれないであろう気配を漂わせている。クレナは軽くため息をつくと、追求することを諦めた。


 「何にせよ、アルもクレナも私も試験を突破できた、進級できる、このことを喜べば良いのだ。」  


 ユーリがシンプルに状況の整理を行う。これから学院では進級試験のことが説明されることになっているが、三人ともが難易度の高い試験を突破しているのだ、進級は確定だろう。後味の悪い出来事ではあったものの、結果は最善のものだ。何もずっと落ち込んでいる必要は無い。ユーリと同じように、そう思うことが出来た二人は、改めて笑顔を交わす。


 「やったね!ユーリ、クレナ。」


 「おぅよ!あんたもなアル!」


 「うむ、二人ともおめでとう。」


 「「ユーリもおめでとう!」」


 「あ、ありがとぅ…。」


 照れて顔を真っ赤にしたユーリを二人でからかう。足取りも心も軽く、進級の喜びを三人で分かち合いながら、三人は学院へと向かう。その後を、クロが静かに微笑みながら続く。ケンカードの空はどこまでも青く、昇る太陽が3人を明るく照らしている。


 「今回の試験には、多くの問題があった。これは学院の大きな失態である。生徒の諸君には誠に申し訳ないことをした。改めて、謝罪をさせてもらう。本当にすまなかった。」


 学院の「銀の一号」教室での説明は、ワーオンの謝罪から始まった。今回の件は主犯がコウゴウであっても、公正であるはずの学院教師も関わっていた。当然学院側の責任は重い、生徒たちは徹頭徹尾、被害者だ。しかし、責める声はどこからも挙がらない。生徒たちは知っていた。今回の問題が起きたとき、ワーオンだけはすぐに行動を起こしアルマーオを助けようとしていたことを、更には学院に戻って責任を誤魔化そうとした副学院長を徹底して糾弾し、当事者の教師や協力者達を根こそぎ第二騎士団に引き渡す手伝いをしていたことを、そのせいで属性魔法の教師達から疎まれ敬遠されていることを。そんなワーオンが頭を下げること自体がおかしい、副学院長がここに来て謝罪すべきだと思う生徒の方が多いのだ。


 「先生、頭を上げてください。私たちはワーオン先生に頭を下げてほしくありません。あなたの生徒であることは、我々の誇りです。」


 「リョージン君…。」


 「そうですよ先生!そもそも、謝罪をするならワーオン先生じゃなくて捕まった奴らでしょ?」


 「そうだ!もしくは副学院長ですよ!捕まった教師は二人とも副学院長派閥だったんですよね!?」


 「属性魔法の先生方になんか、もう習いたくないですよっ!」


 「諸君、属性魔法の先生方全てが加担していた訳ではない。怒りは当然だが、思考は冷静に行うのだ。前に教えたね『情熱はシーガを燃やすが、怒りは瞳を曇らせる。』心を熱くするのは悪いことではないが、思考停止を癖にしてはいけないよ。」

 

 「「「「はい、先生!」」」」


 この学級の生徒達は、これからどんどん成長していくだろう。正しきことを指導する教師がいて、それを受け入れる素直な耳を持ち、行動を起こすための情熱があるからだ。今回の騒動は様々な方面に悪影響をもたらしたが、銀の一号の生徒達を成長させる大きな機会にはなったようだ。


 「一応、説明するが、今回の進級試験は無かったこととなる。理由は難易度が高すぎたからだ。しかし、その高い難易度を突破した生徒達もいる。その生徒達は文句なしに合格だ。今回の試験を突破できなかった生徒達には、来週の水の日に再試験を行う。そして、試験の内容は事前に告知しよう、今回の再試験は『舞踏』だ。」


 「「ぃよっしゃああああ!!」」


 それを聞いたクレナとアルが立ち上がって喜ぶ。心の底から事前に突破して置いてよかったと涙を流さんばかりだ。喜ぶ二人を制止するのはクロとユーリである。ユーリは顔を赤らめながらクレナの服を掴んで座らせ、クロは容赦なく旋風雷を撃ち込んで黙らせる。制止するという結果は同じであるのに、過程の厳しさが段違いであった。


「おや、二人がそんなに喜んでくれるとは…では、二人には模範演技をお願いしようか。」


 「「ええええええ!!!!」」


 ワーオンはにっこりと微笑んでいる。アルとクレナは顎が落ちそうなほどに大口を開けて方針をしている。ユーリはそんな二人を見て、こらえきれないといった具合にクスクスと笑い声をあげる。級友達は、ユーリの無邪気な笑顔に呆気に取られた後で、つられたように笑い始める。あっという間に学級中が笑いに包まれる。放心していた二人も、互いに顔を見合わせると笑い始める。教室全体が明るく笑う。このことを切っ掛けに生徒達は気持ちを切り替えて生活し始めるようになった。


 




 「うぅ…どうして…僕はまたこんな格好を…。」


 「それを言うなら…あたいもだよ……うぅ。」


 試験当日、アルとクレナの姿はいつも以上に華やいだものになっていた。アルは、前回の舞踏演習の際にも着ていた家紋入りの燕尾服。クレナは前回着ていたものとは違い、黒と紫のドレスを纏っていた。黒と紫の雰囲気のある装いはクレナの赤髪を見事に引き立て、いつも以上の色気と年齢には不釣合いな妖艶さを感じさせる。クレナのドレス姿を見たアルは、一瞬呆気に取られて見とれてしまう。クレナの美少女ぶりを間近で見ている彼であっても思わず見とれてしまうほどの艶やかさなのである。


 「…なんだい、アル。なんか文句でもあんのかい!」


 「いや、今日のクレナすっごく綺麗だなって思ってさ。前の時とドレス違うよね?」


 「き、き、綺麗って、何言ってんのさ!お、おだてたって何もでやしないよ!……親父が模擬演技やるって言ったら張り切っちまったんだよ…。」


 「そうなんだ!お父さんすごいね!クレナにばっちりに似合ってるよ!!」


 「…う……うるせぇぇ!!」


 クレナが髪の毛と同じくらい頬を赤くして怒鳴るが、表情のせいで全く怖くは無い。アルは、普段は見せないクレナの様子を可愛らしく思いながら、右手を差し出す。舞踏の誘いである。今回、他の生徒達が注目している前で二人は模範演技を披露しなければならないからだ。模範演技とは、本来最も舞踏の上手いものが任せられる名誉なことなのだが、今回はワーオンの思いつきにより二人がやる羽目になってしまった。大いに焦った二人は、この何日間かずっと舞踏の練習をしていた。ユーリの厳しい指導の甲斐があったのか、もしくは模範演技のプレッシャーが堰きたてたのか、二人はめきめきと上達していった。右手を差し出すアルマーオの姿勢はしっかりと背筋を伸ばした凛々しいものであり、その手を取るクレナバーラは顔が真っ赤になっていること以外は美しい姿で中央に歩み出る。


 「んむ、流石はアルマーオ君とクレナバーラさんだ。あの初心者の時から見違える成長だ。」


 「そうね、模範演技を任せて問題のない技量ねだったわね。」


 舞踏演習室の中央で黒い燕と薔薇が舞い踊る。まだまだ技術的には粗い部分も多いが、動きの身軽さや切れ味で人の目を惹きつける。そこには、かつて互いの足を踏みあっていた初心者の姿は無い。いつしか、踊る二人の顔には笑みが浮かんでいる。踊りが順調に進むにつれて、緊張がほぐれて状況を楽しむ余裕が出来てきたのだ。

 

 「アル、今日はずいぶん人の足を踏まないじゃないかぃ。」


 「クレナの足運びに迷いが無いからだよ。」


 そんな二人を見るユーリは、楽しみつつもどこか寂しげな表情をしていた。何故、寂しくなるのかは本人にも分かっていないようだ。分からないことは考えないことにして、後でアルと踊ろうと決意を固めるユーリをよそに、アルとクレナは踊りきる。二人が生徒達に向かって礼をすると、一瞬の静寂の後に割れんばかりの拍手が贈られる。踊った二人は、手を合わせながら照れくさそうに笑う。拍手が収まった所で、トーブ男爵とマヨイ夫人が前に進み出て、試験の開始を告げる。微笑んで小さな拍手を送ってくれるユーリの下に二人がやってくる。


 「二人ともお疲れさま。上手だったぞ。」


 「聞いてくれよ、ユーリ!こいつ二回も振りを間違えたんだよ、信じられるかい!」


 「いやいや、ユーリ、クレナこそ3回も人の足踏みそうになったんだよ、危ないよね!」


 「ん。二人とも、とても息が合っていたぞ。なにせまだ手をつないでいる。」


 「「え?」」


 二人は挨拶の時からつないでいた手を離さないままに言い合いをしていたのだ。指摘された直後に目を見合わせた二人は、同時に手をみやると、まるで熱いものを触ったかのように一瞬で手を離した。


 「な、な、アル!あんたなんで手を離さなかったんだぃ!この変態!」


 「へ!?ち、違うだろ!クレナが離してくれなかったんだろ!」


 今度はお互いに顔を真っ赤にしながら言い合う二人、それを笑顔で見つめるユーリ。そしてそのやり取りを生暖かい目で見つめる生徒達。彼ら三人は、今が進級試験中だということを忘れている可能性が高い。そんな中、ユーリがアルの服のすそを掴んで、自分のほうを向かせる。

 

 「アル、今度は私と踊ってくれるんだろ?」


 「え?…えぇ?も、もう流石にはずか…」


 「……。」


 断られそうになった瞬間、ユーリの顔が悲しげに歪む。


 「……み、みんなが終わったら踊ろうかっ!」


 「ん。」


 そういわれた瞬間、ユーリの顔が喜びに輝く。もちろん、悲しげな時も、喜んでいる時も、かすかにしか表情は変わっていないのだが、短くも深い付き合いをしてきたアルマーオには読み取れるのだ。その様子を見ていたクレナは、不思議そうな顔をして自分の気持ちを探っていたが、ユーリが嬉しそうなので良いか、と思いなおしていた。


 「ん?アルマーオ君、踊るのかね。ならば、音楽のある今のうちに踊ると良い。」


 「え?いや、僕たちは後でおど…」


 「ん!」


 「……踊ります。」


 結局、アルマーオは再び美少女の手を取り、演習室の中央に歩み出る。しかし、手を取った少女は先ほどとは違う少女である。白のドレスに身を包み、銀の長髪を鮮やかに輝かせて華やかに身を翻す清廉な美少女ユーリである。最初は疲れたような笑顔だったアルマーオも、踊るにつれてどんどんと心から微笑み始める。ユーリも、普段は無表情に近いが、踊るにつれて徐々に微笑が深くなっていく。アルマーオとユーリは、先ほどのクレナのときと同じように、周りの注目を集めながら華やかに踊る。丁度その時は、試験で審査されているペアもいたのだが、教官二人もチラチラとアルマーオたちを見てしまっていたため、甘い採点になってしまっていた。曲の終わりと共に、引き上げてくるアルマーオとユーリ。もちろん、手はすぐに離している。同じ失敗はしないアルマーオなのだ。


 「二人ともおかえり。ユーリ、たのしかったかい?」


 「ん。」


 「流石に二回は疲れるね…。舞踏は演習で十分だね。」


 「じゃあ、最後にあたいと踊るかい?」


 「む、ならば私ともだ。」


 「えぇ?二人とも聞いてた?…僕は今疲れたって…あの」


 何となく譲りがたいものを感じているのか、ユーリもクレナも引き下がらない。間に挟まれたアルマーオは、当然無力な存在である。何となく睨み合う二人に、オロオロするアルマーオ、そして3人に、特にアルマーオに嫉妬の目を向ける男子、少女二人の微笑ましい乙女心に笑みを隠せない女子、といった外野がいた。 そうこうしている間に試験は終了した。教官の賞賛や同級生の生暖かい視線を浴びつつ三人は帰路へ付く。


 「アル、やはり打ち上げはあるべきだと思うんだ。」


 「それ、お母様に会いたいだけでしょ。」


 「いいじゃねぇかアル!あたいも会いたい!」


 3人は、帰りに『カマど屋』に寄って打ち上げを行った。ところが、店主からアイクウは体調を崩しており早退したと告げられた。憧れの人に出会えなかった二人はがっかりしているが、アルはそれ所ではない。ここ最近アイクウは良く体調を崩すのだ。自分の貴人税のために無理を押して働いている両親が体調を崩したとなると、それは自分のせいである、とアルマーオはすぐに自罰的な思考をするからだ。


 「クロ!昨日のお母様はどうだったっけ?」


 「…確か、問題は無かったように見受けられましたが…。」


 「この体調不良…何だか続いているよね。お医者さんに相談したほうが良いかな?」


 「とりあえず、ケンソー様には進言してみましょう。」


 「そうだね、とりあえず帰ろうか!」


 アルマーオは、店主に丁寧に礼を言うと、落ち込んでる二人に声をかける。母が心配なので、申し訳ないが先に帰るということを伝えるためだ。


 「おぅ、あたいらは甘味を食べてくわ。アイクウさんによろしくな!」


 「ん。アイクウさんによろしくお伝えしてくれ。」


 「ごめんね二人とも!じゃあまた明日!」


 アイクウに早く出会うために、クロと共に全力疾走をするアルマーオ。足の瞬力に強化を加えており、かなり本気の速度を出している。道行く人々が驚いて振り向くが、顔を向けたときにはそこには既にいない。それほどの速度だ。


 『ご主人様!お待ちを。』


 『ん?どうしたの?クロ?』


 クロから入った制止の思念を受けて、アルマーオは急停止する。クロの思念にはかなり緊張した響きが込められていたからだ。アルマーオがクロを見ると、鼻を上にして何やらにおいを熱心にかいでいる。ここからだと家は風上になる。どうやら、家の匂いを嗅いで何かを確認しているようだ。アルマーオは、クロの集中を邪魔しないように気配を殺し、あたりをそれとなく窺う。


 『ご主人様、警戒を。嗅ぎなれぬマバウ車が、家の前に停止しております。』


 『…いや、急ごうクロ。今はお母様しか家にいないはずだよ。』


 『た、確かに!参りましょう!』


 『うん!』


 速度を先ほどの疾走の段階まで引き上げるついでに、自身の肉体へとシーガを纏わせる。警戒のレベルを何段階も上げた形になる。クロも尾の先にシーガを固めており、いつでも魔法を放てるように準備している。やがて、家が見えてくると、その前にはクロが感知したようにマバウ車が停まっている。しかし、停まっているマバウ車は普通のものでは無い。黒塗りの客室に銀色の塗装が施されている。明らかに貴族の乗るマバウ車だ。それも、かなり上流の貴族の乗る階級のものだ。


 『この辺りの三流貴族の家に停まる様なものじゃないね。クロ、死角で警戒をお願い。』


 『了解いたしました。』


 緊張しつつ、アルマーオは普通に帰宅した風を装う。家の扉を見つつも全神経は背後のマバウ車へと向ける。すると、客室の窓が開きアルマーオを呼び止める声がする。


 「待ちたまえ、少年。」


 「え?…ぼ、僕ですか?」


 上流貴族に呼び止められて驚いている風を装うアルマーオ。貴族学などを学んできたおかげで、コネカット家程度の三流貴族が取るべき態度も取れるようになってきている。しかし、この時はアルマーオの演技は見抜かれてしまう。


 「演技はまだ下手だな。普通、家の前にこのような車が停まっていればもっと目線を送る。君は意識しないようにしすぎた。この場合は逆に不自然だ。召喚獣は、このマバウ車の影の辺りに配置しているのかな?アルマーオ君。」


 初手で全てを論破してのける貴族。しかし、嘘を見抜いたことをわざわざまくし立てる必要は普通は無い。泳がせているほうがぼろが出るからだ。この相手は、泳がせるメリットよりも、会話の主導権を握ることを重視したようだ。演技を悟られたアルマーオは、怯えた様子の演技をすぐに脱ぎ捨て、平静な声で問いかける。


 「おみそれしました。で、あなたは家にどの様な御用時でお越しになったのでしょうか?父は、まだ仕事から戻っておりませんが?」


 「私は君に用があるんだ。といってもすぐに済む。これを受け取ってくれれば良い。」


 そう語る紳士は白い手袋の先に1つの白い封筒を挟んでいる。どうやら、なにかの招待状のようだ。受け取れば終わる、とのことだったので、早く母親の姿を見たかったアルマーオは警戒しつつもすぐに手を伸ばす。


 「ほぅ、思い切りは良いみたいだな。では、君の活躍を期待している。」


 「はあ、どうも…。」 


 マバウ車の窓が閉まり動き出す。アルマーオは、手元の招待状を何となく眺めつつマバウ車を見送る。マバウ車の姿が見えなくなったところで、クロが近づいてくる。クロはアルの手元の招待状に鼻を近づけると、強化した嗅覚でチェックする。


 「危険な薬品等のにおいはしませんね。」 


 「まあ、これは後でお父様と一緒に見よう。…そんなことよりお母様だよ!クロ、行くよ!」


 アルマーオは急いで家の中に入ると、招待状を食卓に放り投げて、母親の元へと向かう。彼にとって謎の紳士と母親のどちらが大事かといえば、圧倒的に母親の方が大事だからである。


 「…あのマバウ車……王宮のほうへと消えていきましたね…。」


 クロが思い出しつつ警戒を深める。招待状の中身は、恐らく自身と主人に関わる大きなものになるだろう、との予想を立てながらクロは寝室へと向かう。



 食卓に放置された白い招待状。その封印に使われている蝋の印は『聖鍵王』の紋章であった。



 こうして召喚術師は誘いを受け取る。その誘いの先に待つのは栄誉か、罠か。召喚術師が受け取るのはどちらになるのか、それを知る者は、まだ誰もいない――

 今回はここまでです。いかがだったでしょうか?


 ブックマークや評価、感想をいただけるととても嬉しいです。

 気が向いたときでかまいませんので、よろしくお願いします。


 

 今回は、ほのぼの話です。

 次から、3章のクライマックスに向けて一気に行きたいので

 少し書き溜めようと思います。

 二日後ではなく、更新が遅れるかもしれませんがご了承ください。

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