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金目の召喚術師 ~猫狂いは二塔に挑む~  作者: 鼻血魔人
召喚術師は挑戦者へと至る
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「召喚術師は認められる」

 「なんだか、前もこんな姿見たわね。もう!心配ばかりさせるんだからっ。」


 「こらこらアイ、前も言ったけど寝かせてあげたほうが良いよ。」


 進級試験が終わった日、アルマーオは以前と同じように色々と使い果たしてしまったために、気絶するように眠っていた。シーガを使いすぎたことにより、体力を根こそぎ奪われた上に、コウゴウとの対峙などで精神面も疲弊していたのだろう、以前のユーリとの模擬戦以上に深い眠りについているようだった。


 「それで、クロ。これはコウゴウの暴走で片付けられる事態ではないんだね。」


 「はい、ケンソー様。まず、洞窟内の壁面を爆発できる仕込み、監視回路の切断、コウゴウの手に入れていた試験の概要、これらのことはコウゴウ1人にできるはずがありません。更に言えば、罠の仕掛けやすさを考えて、進級試験をゲガンの塔演習にした、というこの事実だけでもコウゴウには不可能です。学院内で権力を握っている何者か、恐らくは属性魔法派閥でしょうが、との共通した企みで間違いありません。」


 「そうだね、私もそう思うよ。しかし、まさかこんなに早く仕掛けられるとは……この子が目立ちすぎるのが良くない。えい。」


 「ケン!アルは寝てるのよ!悪戯しないの!」


 アルの頬をつっついたケンソーは、アイクウから厳しく叱られてしまう。軽い謝罪をしながらも、妻の愛らしさに見とれていたケンソーだったが、気持ちを切り替えてクロとの相談に戻る。


 「だけどね、実際アルマーオは目立ちすぎだよ。おかげで私の目算よりも1年は動きが早くなってしまった。この前、貴族と王による会議があったらしい。更に、今日のこの事件についての会議も明日行われるようだ。情報源は役所の所長だから、まぁ間違いは無いだろうね。」


 「王と貴族の…ということは貴人税の決定でしょうか……。」


 クロが眼鏡を光らせながら思考する。ケンソーはアイの髪をいじりながら天井を見上げて考え、アイクウはアルマーオの様子を見つめて心配そうな表情を浮かべる。アルマーオはぐっすりと寝ている。


 「んー、多分違うね。」


 「では、何でしょうか…。」


 「君の聖獣認定が先だよ、クロ。」


 「……わたくしの……なるほど、確かにそうですね。」


 聖獣認定、ここまでクロはアルマーオが召喚に成功した謎の思獣、ということになっていた。アルマーオを引き立てるためには、彼が偉業を成し遂げたと示さねばならない。そこで、利用されるのがクロという存在である。都合の良いことに、クロは家紋であるコネカットと良く似ており、シーガを操る能力もある。神獣が復活した、としても誰からも文句は出ないであろう。更に言えば、クロは今回のことで、更に実績を重ねてしまった。


 「その上に君は今回、コウゴウの悪事を見事に裁いたよね。その時、ワーオン先生がこう呟いてしまった『断罪の獣』と。」


 「えぇ。確かにワーオン先生はそうおっしゃっていましたが、何なのですか?それは。」


 アイクウもそのことは知らなかったのか、ケンソーへと向き直り小首をかしげる。その頬に自然に口を寄せた後でケンソーはあっけらかんと語る。


 「『断罪の獣』とはコネカットのことだよ。」


 「…………は?」


 「最初から説明しようか。そもそも今回の試験には一貫した主題があったんだ。それが『守護十星』、聖鍵王の十の配下さ。」


 守護十星、それは初代聖鍵王の手となり足となって働いた、十人の家来達だ。それぞれに優れた武人であった10人は、我獣との戦いでも大いに活躍した。その活躍を見た人々がそれぞれに異名を送り、聖鍵王の持つ十の鍵だと称えたのである。試験中に出てきた『巌の騎士』『華の杖』『旋風の槍』『守護の獣』は、10人の家来に送られた異名である。ちなみに『守護の獣』はドーギヌ家を指す。残る異名の子孫達も同じく、大貴族として現在も聖鍵王を支えている。


 「…しかし、試験の内容の中に『断罪の獣』は無かったと思うのですが…。」


 「それは当然さ。あの試験の扉に刻まれたのは『新生守護十星』だからね。」


 「新生…ですか?」


 「そう、新生。まあ、それもこれも、我らがコネカット家の一族が権力に固執しなかったからなんだよね。」


 守護十星と呼ばれた家来たちは、1つを除いて今も大貴族である。落ちぶれてしまった星、それがコネカット家なのだ。コネカット家が没落して行く代わりに台頭してきたのがウォーザ家である。そして、初代から数えて三つ目の世代の時に、ウォーザ家が守護十星を現状に合わせて設定しなおすべきだといい始め、当のコネカット家自身がそれを了承し鍵星を譲ってしまったのである。そうして生まれた新たな鍵星が『新生守護十星』である。


 「では、元来の鍵星であるコネカット家に贈られていた異名とは何か。それこそが『断罪の獣』なんだ。これは、ドーギヌ家が人を守ることを主としていたのに対し、コネカット家は果敢に攻め入ることを主としていたのが理由のひとつ。もう1つはコネカットが街中での不祥事に目を光らせて、悪事を働くものを苛烈に処断していったからなんだよ。罪を許さず断じる苛烈な獣、だからこそ『断罪の獣』なんだね。そして、このことは当然、元来の十星を知っている貴族であれば知っていることだね。」


 「なるほど、それ故にわたくしのコウゴウへの糾弾は、断罪の獣であることの証拠として利用されるだろう、とおっしゃるのですね。」


 「その通り。クロもまた、模擬戦の時から目立ってしまっていたということだね。」


 それを告げられたクロは落ち込んでしまう。主人を守るのが自分の役目であるというのに、守れないばかりか、不利な立場へと追い込むための理由にされてしまうことに、忸怩たる思いを隠せなかったからだ。


 「落ち込むことはないよ、クロ。」


 「そうよ、クロちゃん。あなたは大きな勘違いをしているわ。」


 「勘違い、ですか?」


 ケンソーがクロの様子を見て即座に否定をし、アイクウがそれを重ねる。自身の勘違いが何かを分からず混乱するクロに、アイクウが強い思いを瞳に込めながら語る。


 「模擬戦も今回の試験も、あなたがいなければアルマーオはもっと酷い目にあっていたわ。」


 「……そう、でしょうか?」


 「そうよ!模擬戦は、あなたがいなければアルマーオは対等な試合が出来なかったわ。そうなったらきっとユーリちゃんもアルマーオも、全力を出し切るということは出来なかったはず。今回のことはもっと大切だわ。あなたのおかげで、息子は留年することが無くなったのよ。更に言えば、同級生を襲ったという不名誉な冤罪もまたあなたのおかげで晴れたわ。クロちゃん、あなたのおかげで私の可愛いアルマーオはずいぶんまともな人生を歩んでいるのよ?そこには絶対的な自信を持たなくてはダメ。」


 「アイクウ様…ありがとうございます。」


 「そうだね。クロがいなかったなら、アルマーオは宿願を果たすことが出来なくて、狂ったかもしれない。まぁ、これは極論だけどね。」


 「ケンソー様、さすがにそれは無いと…言い切れないのが怖いですね。」


 真顔で否定しようと思ったクロだが、考えれば考えるほど否定できない理由ばかりが現れ、愕然とした表情で応じる。そのすぐ後で自然と3人で笑い出す。アルマーオが寝ている周りで広がる暖かなつながり、改めてコネカット家の面々が絆を深めることができたようだ。


 次の日、アルマーオはスッキリと目覚めると、驚くほど大量の食事を摂取した。復活したのかと思えば、そのまま長椅子で横になり夕方まで目を覚まさないで休養を取っていた。今回の試験でどれほど心身を酷使したのか、想像できるだろう。





 アルマーオが居間の長椅子でゆっくりと体を休めている時、彼に関わる大きな話がある場所で始まろうとしていた。その場所とは王宮。ムジアート最大の国の首都ケンカード、その中央に存在する王宮はいわば世界の権力の中心である。その王宮内にある第1会議室に、ケンカード有数の大貴族達が集まっていた。欧に近い10席に座るのは守護十星の面々。その他に十の貴族の姿が見える。今日は、定例であり臨時の御前会議となる。


 「さて、本日最後の議題に移ろうか。…ほぅ、これは面白い。『コネカット家が召喚した獣を聖獣と認定すべきか否か』、俺は初耳だが、皆は知っていたかな?」


 発言したのは、豪奢な金髪を短く整え、透き通るような赤茶色の瞳をした青年だ。彼は会議場の一段高い場所に置かれた豪奢な椅子に座っている。そこに座る資格を持つものはただ1人、聖鍵を引き継ぐ王のみ。つまり、このまだ二十歳には届かないであろう若者が、現在ケンカードに即位している王なのだ。名を、エイシン=コウハ=ケンカード。整った顔と物腰柔らかな態度をしているが、その本質は苛烈。若くして地位を譲られたのも、前王がその才能を認めたためである。年齢は18歳であるが、治世の名君、乱世の覇王となるだけの才能を持つ。初耳といっているが、諜報組織からもたらされる情報にも精通しており、当然初めて聞く情報などではない。


 「提案者は、ほぅ、ラギンか。詳しく教えてくれるか。」


 「はい、陛下。では皆様、お配りした資料を見てください。」


 立ち上がって発言を始めたのは『華の杖』ラギン一族の長、キュウマ=ラギン。魔法研究所の所長であり、様々な魔法を研究し、生活に役立てるための部署である。ラギン一族の始祖は雷の属性魔法に長けた魔法使いであったといわれている。しかし、研究に没頭することが多かったらしく、その気質は子孫達にも脈々と受け継がれている。


 「召喚された獣は、どこの世界から招かれたのかも分からない『不明の地』出身であるといいます。高い理力と志力を持ち、先のドーギヌ一族の子女との模擬戦では、我が一族の魔法『華雷護』を用いたようであります。さらに、研究所出身の私の後輩でもあります学院教師ワーオンからの報告もございます。先の学院不正事件において、罪を暴き裁く様は、まさに『断罪の獣』と呼ぶに相応しい姿であった、と。その姿をこの目で確認もしましたが、コネカット家の紋に残された姿とも酷似しておりました。以上のことから、コネカット家の呼び出した獣を聖獣コネカットと認定すべきでは無いか、と思いここに具申した次第です。」


 「…なるほど。さて、諸君はどう思う?」


 「ふん、召喚獣のことなどワレには分かりませぬ。まずは、守護の獣たるドーギヌの意見を聞くべきでしょうな。」


 発言したのは、『紅の爪』カイユウ一族の長 ハクソウ=カイユウである。彼は熊の姿を持つジュジンであり、カイユウ一族は王都内にいるジュジンたちのとりまとめを行っている。意外なことに、ジュジンたちはその圧倒的な力を使った土木工事に長けており、長である彼もまた土木開発部の長を兼任している。白い熊の耳をピコピコと動かす下にある顔は野生的な顔立ちであり、荒々しさを隠そうともしない。口調も同じように荒いが、王に対して隔意もなにも持っておらず、ただただ口調が荒いだけである。


 「では陛下、発言をお許しください。」


 エイシンが鷹揚に頷く。しかし、その目にはどこか楽しむような光が宿っていた。守護の獣たるキグン=ドーギヌが立ち上がる。相変わらず隙の無い鋼のようなその姿は、見るものに一本の剣を想起させる。彼は、王に向かって顔を向けると恭しく語りかけた。


 「かの獣、名をクロと申します。私もこの目でその姿と力を確認しました。聖獣コネカットと良く似た姿を持ち、属性魔法も器用に扱います。聖獣の復活を宣言しようとも、何ら遜色の無い力を持っていると、私は判断いたします。」 


 「そうか、ドーギヌ家当主のお墨付きとなると、実力に疑いは無いな。後は、政治的な問題だな?何か、認定に異論のあるものはいるか?」


 キグンの意見を聞いたエイシンは神妙な顔で頷いた後、面白がるような口調と笑顔で配下に問いかけた。代わり映えの無かった会議の様子がここから荒れるような気配を感じ取ったからだ。


 「我らハソウの一族に否は無い。落ちぶれていたコネカットの復興は歓迎すべきことだからな。」


 「……右に同じ。」


 発言をしたのは、それぞれ聖鍵第二騎士団長を務める『旋風の槍』ハソウの長と聖鍵第一騎士団長を務める『巌の騎士』ケンゲンの長である。彼らはとドーギヌの一族をあわせて『王都三壁』と呼ぶように、それぞれ王都の守護と警備、そして治安を担当している。彼らはコネカットという古い貴族が戻ってくることには何の忌避感もないため、即座に賛成に回る。


 「…おれらはどうでも良い。聖獣が戻ろうが鍛冶の仕事は増えも減りもしねぇ。」


 「わたくしたちも同じですね。森の安寧が乱されることがないのであれば無関係です。もし、真にその獣がコネカットであれば、森の友の再来でもありますので、喜ばしいとは思いますが。」


 続けざまに棄権を宣言したのは、その身に金属を宿して生まれるカジトをまとめる一族『鋼の大槌』ゴゴウタンの長である。彼らは金属加工に精通しているため武装開発部を任されている。次に発言したのが、その身に植物を宿すリントをまとめる一族『森の築き手』シンキリンの長である。彼女たちは、森の維持を重視しつつも田畑に関する知識も豊富なため、農林水産部を任されている。


 「安易な者達だな。聖獣だぞ?もし万が一その真偽が疑われれば聖鍵王の名誉まで傷つくことになる。そう易々と認めるべきではない。」


 発言者は属性魔法の使い手を集めた魔法師団をまとめる一族『雹炎の雨』トショウの長である。彼の言葉は理性的に発せられており、軽々しい決定に対して制止をかける。聖獣は聖鍵王に繋がる事案である、ほかの召喚獣と同じような軽さで認めることは、確かに危険なのだ。


 「たしかにそうですね。拙速はまずいと私も思います。」


 柔らかな言葉を紡いだ女性は、治療に関わる様々なものを取り仕切る医療師団をまとめる一族『輝きの手』ユリョウの長だ。彼女たちは、軽挙による怪我などを防ぐためにも活動しているため、基本的に意見は慎重になることが多い。


 「なるほどね。ラジンは提案者ゆえに意見は言えぬ。皆の意見も最もだ。認めたところで害は無いが、もし万が一偽者だとなった場合は欧の名誉に傷が付くことは避けられないな。さて、どうすべきか。ところで、ウォーザ、今日はやけに静かじゃないか。いつもなら真っ先に意見を言うだろうに、珍しいな。」


 話に参加したがらない理由を良く知っているにもかかわらず、心底不思議そうな顔をして問いかけるエイシン王。その問いかけに一瞬忌々しげに顔をゆがめるが、すぐに微笑みを浮かべて立ち上がったのが『財貨の袋』商業を取り仕切るウォーザ家の長、リフク=ウォーザである。緩んだ腹を揺らしながら彼は発言する。


 「いやいや、聖獣認定となりますと、一体どれほどの資金が必要なのか、と試算しておりましてな。」


 「そういえば、学院不正事件の首謀者の1人は、君の所の次男だったね。彼はどうしたんだい?」


 即座に彼に言葉の針を刺したのはトショウの長である。ある種の醜聞であるため、ここでウォーザの名誉へと多少の傷を負わせようという腹積もりだ。


 「首謀者とは!いやいや、あの愚か者はですな、学院の教師どもに唆されたようでしてなぁ。むしろ、こちらが被害者というべきでしょう。」


 「唆したのはそちらだろう。おかげで優秀な教師を二人首にすることになった。」

 

 二人の目線の間に火花が散る。捕まった教師たちは属性魔法の派閥に属する魔法使い達であったからだ。共に互いを悪とすることで傷をつけようと隙を窺っている。教師たちはコウゴウからの金によって動いたと証言しており、コウゴウは教師達から協力の申し出があったと証言しているために、主張も対立している。そのため、どちらに状況が転んでもおかしくは無い。


 「だが、息子の監督責任は否めないな。随分とまあ、派手なことをしたもんだ。せこいウォーザの一族の中では傑物かもしれん。」


 ハクソウ=カイユウが面白そうな顔を隠さないままに追求する。ウォーザからは、土木建築に関わるものへの金銭面での嫌がらせを良くされていたからだ。経済を取り仕切るウォーザの力は強いため、ここで削れるのであれば削っておきたいのが他の者達の本音だ。更に言えば、フトウ種以外の種族に対する差別的な感情も見え隠れするとなれば、ジュジン、リント、カジトの長達からは潜在的な敵だと認識されるのも止むを得ないだろう。


 「えぇ、えぇ、確かにその通りです。そのため、今は学院を退学させて我が家にて謹慎させております。その内、国外へでも留学させて性根を叩きなおそうと思っておりますよ。」


 その追求を余裕の笑みを持って迎え撃つリフク=ウォーザ。一見厳しい処置のように思うがそうではない。学院を退学させることで、教師からの追求を避け、家に謹慎させることで犯罪捜査の目から守っているのだ。このケンカードでは、第二騎士団が警察の代わりを行っており、ハソウの長は苦々しい顔をしてリフクの言葉を聴いていた。


 「ふん、そう思うなら被害にあった生徒に支援をすべきだろうさ。そういえば、その生徒がコネカット一族の子供だったな。どうだ、この聖獣認定で便宜を図ってやれば良いじゃないか。幾らかかっても払ってやるのが誠意というものだろう。税金を使わないのであれば、私としても反対する理由が1つ減るしな。」


 トショウの長が続けざまに重ねる。召喚魔法の台頭は脅威かもしれないが、たかが一匹神獣が生まれた程度で状況は大きく変わるものではないとの予測からである。彼としては、反対はしたもののその逼迫の度合いは少なく、代わりにウォーザの資金を削れるのであれば、差し引きは黒字となると判断したのだ。当然、リフクにもトショウの長の思惑は読み取れた。そして、その言葉に他の貴族も同意するであろう気配を敏感に察した。彼としては、息子の情け無い行動に怒りがわくが、その現況のように思えるコネカット家の小倅にタダで支援するのも業腹である。一瞬で頭の中を高速で回転させた彼はある提案を口にする。


 「私が資金を持つのは当然でしょう。ただし、安易な認定が危険であることもまた間違いはありません。どうでしょう、貴族審問を同時に行うのは?」


 「…貴族審問だと?今の話は神獣認定だろうが、何を言ってやがる。」


 牙を剥きながら威嚇するように声を荒げたのはハクソウ=カイユウである。貴族審問とは、功のあった者を貴族として認定するかどうかを判断する際に行われることがあるものだ。全てで行われないのは、疑いようも無い認定の場合はする必要が無いからだ。そのやり方は様々で、芸術で認定を受けるものは出された題に相応しき作品を作る、知識で認定を受けるものは試験によって、武勇によって認定を受ける場合は戦闘によって判断される。


 「いやいや、神獣認定がされた場合ですがね、必ずコネカット家に対する家格認定が行われることになるでしょう?神獣を呼び出せたということは、その偉業は1等貴人税を課すほどのものとなるでしょうが、それに対してまた会議を行うとなると二度手間になりますな。さらに、コネカットが偽者ということになれば、家格認定もまた過った判断を下したことになってしまいます。そうなれば二重の失態と成りましょう?そこで、真偽の判定と認定を同時に行えば良いのです。手間と金の節約になるでしょう。」


 その言葉を聞いた貴族たちは考え込む。ウォーザの言葉には一理あるのだ。認定を下した後に撤回するとなった場合の傷は大きい。これが二等貴人税を既に課されている貴族であれば何も問題は無い、実力が有ることは分かっているのだから。しかし、コネカット家は一度没落した家、その家の子供が神獣の召喚に成功した、と言われて不信感を持つのは当然のことだろう。キグンやキュウマの推薦があろうとも、それだけでは信じるに足るだけの証拠とはならないのだ。分の悪い賭けを行わないのが大貴族達の基本方針だ。リフクの提案は、貴族達の心に違和感無く吸い込まれたのだ。しかし、何も無くリフクの言葉を首肯するのも業腹であるため、沈黙が続いているのだ。その会議場に、まだまだ若いが覇気を感じさせる笑い声が響く。貴族達が一斉に上座を見る、笑っていたのは現聖鍵王エイシン=コウハ=ケンカードであった。


 「すまんな、諸君が貝のように黙り込んでしまっているのが可笑しくてな。何を黙する事があるのだ。ウォーザの言にはこちらの不利益が全く無い。その審問を突破して認定すれば、民衆の理解も得られるし、話題を提供することも出来よう。一回で何度も利益を得られるではないか。聖鍵王として命じる。これより二月後の私の即位2周年を祝う祝典に合わせて、アルマーオ=コネカットの貴族認定、ならびにその召喚獣クロの召喚獣認定を行う。しかし、両者には資質に不明瞭な部分が大きいため、審問の後の認定とする。ウォーザよ、全てを貴様の財貨によって準備せよ、それを持って息子の監督責任を果たしたこととする。以上だ、何か異論はあるか、諸君。」


 会議の停滞を単純明快に処理して見せたエイシンの言葉に異論を唱えるものなどいなかった。全員が立ち上がり礼をする。


 「ところでな、ウォーザ。審問の内容は考えたのか?」


 「は?…はい、それはまだ考えておりませんでしたが…。」


 「であれば、召喚獣には我獣の撃破を、召喚術師には思獣との契約を命じろ。共に、それで大義名分が立つだろう。我獣はラジンのところに研究用のがいただろう?あれを使え。」


 「恐れながら陛下、幾つか候補がございますが、どのような強さの我獣を貸し出せば良いでしょうか。」


 「…そうだな。セイクの塔2階層程度が順当だろう。召喚獣が一匹で倒すことができれば、十分といえるだろう?」


 エイシンが微笑む。しかし、その笑みには刃のような厳しさが隠れている。セイクの塔二階層程度の我獣とは、あのロアンであっても単身で挑むのは難しい難易度である。神獣認定がお茶を濁すような甘いものではない、と貴族達に示すには十分な敵といえよう。


 「ほ…ほっほっほ。そ、それは厳しゅうございますな。では、思獣のほうも、選りすぐりのものを選ぶできでしょうな。」


 「もちろんだ。その辺りはウォーザに任せる。誰からも文句の出ないものを頼む。」


 「御意。」


 「では、会議はここまでだ。また審問の場で会おう。」


 エイシンが紅のマントを翻して立ち上がり会議室を出る。貴族達が礼をしたままそれを見送る。王の下した決断の明快さに、行く認可の貴族の中で王の評価が高まる。こうして地道に貴族達の支持を高めてきている青年王に、守護十星の面々も畏敬の念を持ち始めている。当の本人はといえば、廊下を侍従を引き連れて歩きながら、皮肉げに笑みを浮かべて心の中で思考を重ねていた。


 (さてさて、コネカット家の少年はこの試練を超えられるかね。超えられない程度なら臣下にする意味は無いし、新たな火種を抱え込む必要も無いからね。しかし、俺を含めて若い世代が育ってきている…これは何かの符丁か…まあ良い。俺を楽しませてくれよ、アルマーオ=コネカット。)




 こうして召喚術師は審問を受けることを認められた。そこに本人の意思など全く介在してはいないが、時代の流れが彼を飲み込むかのように、様々なことが進行していく。まるで、何かにせきたてられるかのように――


 というわけで、日常でした。この話は結構苦労しました。守護十星の設定を考えるのが結構大変だったのです。これまで読んできた小説の設定というのは、かなりの苦労を基に産み出されたのだな、と。その半分にも満たないであろう苦労をしつつ、改めて小説家の方々への尊敬の念を深くしていました。


 次はもう少しお口直しのほのぼの話の予定です。

 そこから一気に陰謀へと傾いて、三章のクライマックスに向かっていこうと思います。ダンジョンアタックまでもう少し。がんばります。



 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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 気が向いたらで良いので、よろしくお願いします。

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