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金目の召喚術師 ~猫狂いは二塔に挑む~  作者: 鼻血魔人
召喚術師は挑戦者へと至る
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「召喚獣は断罪する」

「先生!先生!助けてください!!私はあのアルマーオ君に試験中に襲われたのですっ!!」


 コウゴウの声がゲガンの塔演習室に響く。声の響きはどこまでも不愉快に歪んでおり、聞き流したいと誰もが思ったが、放たれた言葉の内容がそれを許さない。


 「あんた!アルがそんなことするわけないじゃないか!言いがかりも甚だしいんじゃないかい。」


 クレナが即座に反応して言い返す。二人は扉付近で倒れこんでいるアルに駆け寄り、ユーリがアルを抱き起こしている所であった。


 「ふん、貴様が何を言おうと、私はその三流貴族に襲われたのだ!見ろ、私の高貴な服と体がここまで汚されている、こいつの攻撃で運よく壁が崩れたから逃げ出せたが、もし崩れていなかったら私はこいつの毒牙に倒れていただろう。先生!こいつは危険な男です!衛兵を呼んでください!」


 コウゴウは部屋に到達してからずっと、アルの非道を訴えていた。いわく、突然背後から襲われた。いわく、そこまで何も活躍できなかったことで私に嫉妬したのだろう。いわく、壁が突然崩れたことで何とか逃げ出せたがそうでなければ命を奪われていた、と。滔々と雄弁に語るコウゴウの姿からは、襲われたような悲壮感は全く感じられなかった。その時点では、誰もコウゴウの言葉を信じてはいなかった。しかし、コウゴウが重ねた言葉で緊張感が高まることとなる。


 「あの三流貴族は私を殺そうとした、だから今も私を追っているはずだ。試練が阻んでくれているから諦めたかもしれないがな。あいつが私を本気で殺そうと思っているならば、あの扉を開けて現れるはずだ!」


 常識で考えれば、1人だけでこの試練を突破することは出来ない。2人であっても、今回は何人も不合格者が出ているのだ。特に、分かれ道で左のルートを選んだ組はユーリ達以外合格していない。コウゴウは右を進んだ、ということはアルマーオは1人で左の難関ルートを進むことになる。この時点で同級生の多くは、アルマーオは途中で降参しただろうと考えていた。それを超えて試練を突破してアルが現れるということは、あるいはコウゴウの言葉が本当なのかもしれない、と固唾を飲んで扉を注視していた。そのようなタイミングでアルマーオが崩れ落ちそうになりながら扉を開けて現れたために、同級生達は戸惑ってしまったのだ。アルマーオが必死で試練を突破することが、逆にコウゴウの言葉の信憑性を高めるという皮肉な結果をもたらしてしまう。先ほどまでは、誰にも信用されなかった男の言葉が、説得力を持ち始めながら同級生達の耳を汚していく。


 「見ろ!あいつは私を殺すためにここまで追ってきたのだ。なんという執念だ、恐ろしい。あぁ、先生、先生!助けてください!」


 冷静に考えれば、アルマーオが試練を突破しようが、コウゴウの死を狙ったということには繋がらないはずだ。だが、演習室の異様な雰囲気とアルマーオがコウゴウに向ける怒りの視線が、幻の情景を同級生達の心へと作り出す。アルマーオが怒りを感じているのは、彼を嵌めた上で更に卑劣なことを実行しているからだが、コウゴウはその視線さえ利用して同級生達をペテンにかける。


 「なんと恐ろしい殺意!あの目が金に妖しく輝いて私を狙ったのだ…恐ろしい、恐ろしく汚らわしい三流貴族め!」


 アルマーオの目が変化することは同級生全員が知っている。当然、そんな現象は普通起こりえない。9歳という年齢でありながら見事にシーガを使いこなし、金に光る目へと変わる少年。アルマーオのもつ異常性が、この瞬間には負の印象を持って強調されていく。ついには、コウゴウへと同調する呟きすら生まれ始める。


 「…た、確かに……あいつは普通じゃないよな…。」


 その言葉を聞いたコウゴウは、本当に嬉しそうに笑みを浮かべる。ただし、その笑みは腐りきった悪意の塊でしかなかったが。


 「………。」


 この状況に至ってもワーオンは難しい顔で沈黙を保っている。普段であれば止めに入るはずだが、彼を激しく苦悩させている何かがあるようだ。コウゴウが気を良くし、更に言葉を使って同級生を扇動しようとする。その瞬間、彼の言葉を遮って清冽な言葉が演習室を貫く。その言葉は、決して強くは無いが、人々の心を撃ち抜く輝きがあった。  


 「虚言はそこまでだ。」


 アルを抱きかかえたユーリの言葉であった。彼女はワーオンの言葉を待っていたのだが、彼がいつまでも何も言わないので痺れを切らして発言したのである。


 「虚言…ですか……どうしてそう思いなのですかねぇ。私の言葉通り彼は現れたでは有りませんかぁ。」


 何か黒い粘性のものが滴り落ちるかのように、悪意を広げながらコウゴウが笑う。アルマーオからしてみれば、試験を諦めても恐らくコウゴウの言い分を第三者が拡散させて不合格にされるであろうため、試験を突破すること以外に可能性が無かったのであるが、それすらも悪意で絡め取るこの策には底知れぬ負の意志が感じられる。しかし、ユーリはかすかに表情を険しくするだけで、平静を保ったまま発言する。この場での感情的な発言は、悪意に利用されるだけだと判断したからだ。恐怖に縛られつつある同級生の心を、ユーリの理性的な言葉が落ち着けていく。


 「アルが現れたことが証拠になるとは全く思えん。コウゴウ殿がいなくなった後で、必死に試験に取り組んでいただけだ、ともとれる。」


 「それこそ、あなたの思い込み、虚言では無いですかねぇ?くっふふ。」


 「そうだな、それはあなたの言葉も同じだ。共に証拠が無い。だがこの試験では証拠を手に入れることが出来る。この洞窟は先生方がシーガによる監視を行っていたはずだ。ということは途中経過の映像もあるはずだ。それを見せてもらえれば、あなたと私のどちらが正しいのかははっきりするだろう。」


 洞窟内部にはシーガの回路が無数に張り巡らされている。具体的に言えば、数m間隔で設置されていた爪光灯には映像を捉えるための回路が備わっているのだ。当然、その様な仕組みは莫大な資金が必要になるが、ここは世界一の都ケンカード随一の学び舎だ。その程度の資金力は、生徒の保護者達から回収している。


 「そうだ、試験の様子の映像には全てが残っているはずだ。」


 「証拠があればはっきりするわよね。」


 「……。」


 ユーリの言葉に、同級生の幾人かが賛同の声を上げる。ユーリの理性が狂乱を少しずつ治めていく。しかし、そのような不利な状況の中で、コウゴウの笑みは一層深く濁り、ワーオンの眉間のしわもより深く刻まれる。


 (なぜだ……コウゴウの余裕が崩れない……。)


 「くふ…くふふ……くはあ。そうです、そうですねユーリッシュ嬢。では、ワーオン先生にお願いして、監視網の映像を見せてもらいましょう!ワーオン先生!見せてくださいよぅ、監視網の映像をねぇ……くはあ。」


 「そ、そうだよ先生!映像をみせてくれりゃ、あんな嘘なんとでも―」


 「映像は無い。」


 「なるじゃない……かい。え?先生、どういうことだよ!」


 「さっきも言った。映像は無い。」


ワーオンはこれ以上無いほどに苦い顔をして断じる。その言葉に、多くの生徒が衝撃を受ける。驚いていないのは二人だけ、コウゴウとアルマーオだ。アルマーオが驚いていないのは、コウゴウに告げられていたから。コウゴウが驚いていないのもまた、そのことを事前に告げられていたからだ。


 「コウゴウ君とアルマーオ君が洞窟に入り、分かれ道に差し掛かる直前で映像が全て途切れた。そのため証拠となるであろう映像は存在しない。音声を拾う回路も原因不明の故障を起こしており、問題の時間帯に何があったのかは分からない。結論を言えば、試験中に何があったのかは分からない、ということになる。」


 「…くふ……くはは…………くはははははあぁ!それも全部アルマーオのやったことですよ、きっとね!くあはははは!」


 ここで笑い声をあげるコウゴウの不自然さは誰もが感じている。しかし、彼の不自然さを追及するための証拠が、無い。歪んだ笑いを収めたコウゴウが重ねて告げる。


 「では、洞窟内の探索はどうでした?私の言ったとおり右の洞窟が崩壊していたでしょう?先生。」


 「……あぁ、先ほど連絡があった。右側への通路は完全にふさがれている。壁面が爆発したようだな。」


 「そうでしょうとも、そうでしょうとも!先ほども言いましたが、私はアルマーオに、この三流貴族に襲われたのです!この言葉が真実だということは、その崩れた壁面が証明しています!」


 壁面が崩れていることとアルマーオが襲ったことは、決して一本では繋がらない話だ。しかし、コウゴウの言ったとおりに崩れている壁があったということが、彼の言葉の信憑性を高めてしまう。もちろん、ここでアルマーオが理路整然と語ることが出来れば、まだまだ空気は偏ったものにはならないであろう。しかし、彼は今、極限まで消耗しているのだ。不可能とも思える試練を意志の強さで突破はしたものの、それによって削られた体力と精神によって、彼の頭は霞がかかったかのようにはっきりとしない。それどころか、少し気を抜けばそのまま気絶してしまいそうな状態なのだ。このような状態では、有効な反論など決して出来ないだろう。


 (……くそ、頭が働かない。けど、ここで倒れたら……あいつらの思ったとおりの筋書きになる……それは、だめだ!……くそ、動け、動け僕の体!しゃっきりしろ、僕の頭!)


 策謀に負けることをよしとしない意地のみで彼は意識を保っている。しかし、それも限界に近い。周りの空気も、コウゴウの弁舌によって負の方向へと傾きかけている。このまま、全てがやみに沈むかのように思えたとき、アルマーオの目の前に歩いてくる四本足が見えた。チョコレート色に染まるその四肢の持ち主は


 「ご主人様、無事のお戻りおめでとうございます。」


 アルマーオの召喚獣のクロであった。眼鏡をかけたアイスブルーの瞳を爛々と輝かせ、杖のような尻尾を立たせている彼は、心中の怒りを静かに青く燃え上がらせながらも冷静に語りかける。


 「よくぞ、よくぞここまでお戻りくださいました。これで辛うじて糸が繋がります。」


 「……クロ……大丈夫?」


 息も絶え絶えといった様子でアルマーオが問いかける。その言葉に込められた思いは重く深い。応えるクロの声は濡れたように響く。主の窮地を悲しむ心と、それでも試練を突破する主を誇りに思う心を抑え切れなかったためだ。


 「万事、わたくしにお任せください。ごゆるりとお休みいただいても何も問題はございません。」


 「そっか……ごめんね、クロ。お願いするよ。……あいつは第三者から試練の内容と答えをもらってたみたい。……その紙は……恐らく……もう……処理されてると……思う……」


 「「アル!!!」」


 クロに情報を伝えきると同時に、アルの頭が落ちる。意識を失ったのだ。ユーリとクレナが慌てて支える。アルの言葉を受け取ったクロは、何かに納得したように頷き。少女二人へと目線を向ける。


 「ユーリッシュ様、クレナバーラ様、しばらくご主人様のことを頼みます。」


 「お、おう。それは良いけどよ。あんたはどうすんのさ?クロ。」


 「無論、我が主の敵を叩き伏せます。」


 きびすをかえしたクロは、ワーオンに訴え続けるコウゴウの下へと向かう。その瞳に浮かぶ光は、厳しく輝く絶対零度の氷のそれであった。 


 「ワーオン様、少しお願いしたいことがございます。宜しいでしょうか?」


 「む?クロ君…………いいとも、何かね?」


 「はい、今回の試験の概要を記したものなどございませんでしょうか?今からわたくしはご主人様に代わって、コウゴウ様と話さねばならないのですが…いかんせん情報が足りませんので。」 


 「はぁ?この高貴な私に召喚獣風情が生意気だな。なぜ、私がお前などと話さねばいけないんだ。」


 コウゴウは、汚らわしいといった感情を全く隠さないままにクロにはき捨てる。ワーオンは、クロの頼みを聞いて資料を取りに向かった。彼もまたコウゴウの怪しさを感じており、真実を知るためにもクロに協力すべきだと考えたからだ。クロは、コウゴウに向き合うと冷静に語る。


 「それはもちろん――あなた様の言葉をより完璧にするためです。」


 「……どういうことだ。」


 追従とも取れるクロの言葉に、同級生達やクレナ達は驚きを隠さない。それは、当事者のコウゴウも同じだったようで、怪訝な顔でクロに問いかける。


 「古来より、こういった場面で互いの言い分が真っ向からぶつかる時は、互いの主張をぶつけ論戦となすことで真偽を計るのがケンカードのやり方でございます。ところが、わたくしの情け無いご主人様は気絶してしまいました。そこで、とても面倒ではございますが、ご主人様の召喚獣であるわたくしが代理を務めます。お分かりいただけたでしょうか?わたくしの質問に答えていただくだけで、この場にいる誰もがコウゴウ様のお言葉を認めてくださるのです。」


 「……なるほど、なるほど。アルマーオもかわいそうにな、自分の召喚獣にここまで愚弄されるとは。いや、そんな召喚獣こそが、あの三流貴族には相応しいか……くははは。いいだろう、召喚獣よ、私に質問することを許す。お前の質問がお前の主人を地獄に落とすことになる。いいな、いい演出だ……くはははは!」


 「ありがとうございます。ですが、もう少々お待ちいただけますか、わたくしはこの試練の内部を見たわけではございませんので、このままでは良い質問が出来ません。ワーオン教師の持つ資料を読ませていただきたい。」


 「ちっ。そんなことを待てというのか。無礼な召喚獣が…。」


 ケンカードでは直接的な暴力や争いが少ない。それは、暴力的な争いが我獣を生み出すことを住民が良く知っているからだ。そのため、互いの主義や主張がぶつかる時は、論戦によって真偽を決めるという暗黙のルールが存在する。今回、クロはその風習を利用することとしたのだ。コウゴウが何かを言っている内にワーオンが戻ってきた。コウゴウも口を閉じざるを得ず、その短時間でクロは資料に目を通す。そして、何かを呟いた後でコウゴウへと問いかける。その目は強い意志で輝いていた。


 「まず、一つ目の質問でございます。コウゴウ様は、先ほどわたくしのご主人様の凶行から慌てて逃げた、と申しましたね。」


 「ああ。いったぞ?くふふ。」


 そうして、論戦は始まる。コウゴウは、どこまでも余裕ぶった様子を崩さない。対するクロもまた、眼鏡が時折輝くのみで、動きらしい動きは無い。


 「どの程度、慌ててらっしゃったのですか?」


 「命を狙われているのだ、当然わき目も振らずに走って逃げたさ。」


 「なるほど、わき目も振らずということは一度も迷わなかったということでございますか?流石は名門ウォーザ家のご次男様でいらっしゃる。素晴らしい運をお持ちのようですね。」


 「まぁ私にかかれば当然だな。道中に有った試練は当然行ったがな、分かれ道での失敗などなかったさ。くふふ。」


 クロの質問は、まるでコウゴウを賞賛するだけの言葉にしか聞こえない。クレナやユーリからはクロへの不審が見て取れる。その姿を見たコウゴウは、確信を深める。この召喚獣は愚か者に違いない、と。その油断を縫ってクロが言葉の剣を刺し込む。


 「そうでしょうとも、ところで、この資料によると右の道を真っ直ぐ進んだだけでは、試練が1つしかないようなのですが、数が合わないのではありませんか?」


 「な、何を言うか!私はしっかりと試練を突破している!でなければ扉を開けられないだろう!」


 「そうでございますよね。あぁ!きっと焦っておいでだったので、行き止まりの試練を1つ突破なさったのを、お忘れになったのでございましょう!」


 「そ、そうだ!何せ命を狙われていたからな!試練を突破し、しっかりと扉の紋章に手を当て『鍵』を唱えたからこそ、私はここにいるのだ。」


 一瞬の油断を縫った言葉によって、コウゴウは動揺するがクロがフォローの言葉を言うことによって落ち着きを取り戻す。ただし、問いかけの主導権を握られたことに、彼は気付いていない。


 「もちろんです!そのことを疑うものなどここにはいませんよ。ちなみに、この資料によると、コウゴウ様が手にお入れになった鍵は右の四つとのことでございますが、相違無いでしょうか?」


 「貴様!私の突破を疑う気か!?」


 「とんでもございません!コウゴウ様がお開けになった右の四つは、『巌の騎士』『華の杖』『守備の獣』『輝きの手』でございますよね。」


 「ふん、やはり貴様は愚かな召喚獣だな!右の三つ目は『守護の獣』だ。資料の字も読めぬとは、人の言葉は話せても読めぬということかな?くあははははは!」


 クロの誤りをしたり顔で指摘するコウゴウ。相手の失敗を指摘し見下すことに快感を見出す類の男であるため、気分を高潮させて笑みを浮かべる。その発言が、クロによって引き出されたのだ、ということには全く気付かぬままに。コウゴウがその言葉を発した途端、クロから相手へと媚びる気配が消える。目的となる言葉を引き出すことが出来たからだ。


 「そう、その通りでございます。右の三つ目は『守護の獣』です。ですが、コウゴウ様、どうしてご存知なのですか?」


 「何を当然のことを言っている、私がその試練を突破したからだ!」


 「ほう、その試練を突破した。中身はご存知で?」


 「どこまで愚弄するのだ!罠にわざとかかり、それを打ち破ることで鍵を手に入れる試練だ!」


 「おぉ!素晴らしい、完璧に試練の内容をご存知だ。しかし、どうしてこの試練の内容をご存知なのでしょうか。この試練は、左の分かれ道の最初の試練ですのに。」


 「な!?」


 「更に言えば、左の分かれ道を進んだ分岐を更に左に向かった先にある試練でございます。コウゴウ様が、この場所にたどり着くためには、出口の扉まで進んだ後で、左側の道へと逆走(・・)しなければなりません。我が主人が進んでくるであろう道を、です。コウゴウ様、あなたは先ほどこうおっしゃった。『脇目も振らずに逃げた』と、逃げているものが、追ってくるだろう相手と最も出会う可能性の高い場所へ向かうでしょうか?」 


 「な…な…でたらめを言うな!」


 「でたらめ。これは心外な、わたくしはワーオン様からいただいた資料を基に話しているだけございます。ワーオン様、どうでしょう、わたくしの言葉に誤りはありますか?」


 「いや、無い。『守護の獣』は左の道を進んだ時に出会う最初の試練だ。」


 クロは淡々と問い詰める。対するコウゴウは自分の失言にようやく気付き、焦りからか顔を赤くしている。その歪んだ口からこぼれた言葉は悪あがきでしかない。


 「いや、いや!間違えた!間違えたぞ!私の選んだ紋章は右の三つ目ではなかった!右の五つ目『紅の爪』だ!これは右の道の二つ目の試練だ!私が選んだのはそれだ!」


 たとえ、言い換えたとしても、何故言ったことの無い場所の鍵を知っていたのか?ということへの答えにはならない。そのことを追求しようとしたクレナを、クロが尻尾で止める。クロは、そのことを問い詰めることはせず、別の言葉を紡ぐ。


 「いえ、コウゴウ様。あなたは右の紋章を上から順に四つ選びました。」


 「な、何故言い切れるのだ!!証拠は…そうだ証拠はあるのか!!あるわけが無い!洞窟の回路は破壊されたのだからな!どうだ、この愚かなケダモノがぁ!!」


 唾を飛ばし、顔を赤く染めたコウゴウにはいまや一切の余裕が無い。しかし、この言葉を否定することは誰にも出来ない。確かに、洞窟内の回路が壊れていた以上、証拠となる映像は無いのだ。 しかし、クロは一切慌てることはなかった。それどころか、より一層アイスブルーの瞳を冷たく輝かせコウゴウを視線で射抜くのだ。


 「証拠ですか、証拠ならございますよ。……ロアン、頃合です。」


 その言葉がかかった途端、コウゴウの足元に広がっていた影がするすると動き、ワーオンの側までたどり着く。その影からのっそりと現れたのは、ユーリの召喚獣『深き森の黒き牙』ロアンであった。彼は、口元に何やら薄紫色の六角形の結晶を咥えていた。それを見たワーオンは驚愕し、思わずといった様子で言葉を漏らす。


 「まさか……紫映結晶?…何故このような場所に…」


 「出所は今は良い 早くここに刻まれた映像を見ろ」


 紫映結晶とは、躯結晶の一種だが非常に貴重なものである。その特徴は、シーガを込めるとその結晶に映し出された映像を記録する、というものである。その際に刻まれた映像は、どのようなことをしても消すことはできず、改変することも出来ない。映像を記録した後の結晶は非常に頑強になるため、本体の破壊もほぼ不可能となる。そのため、各国の暗部を覗き込む諜報員や、犯罪組織への潜入捜査員などが用いることが多い。一般に出回ることはほとんど無く、国の暗部にしか出回らないといえるものなのだ。


 「あ、あぁ分かった。見させてもらう。」


 「何だ!何なのだそれは!やめろ!どけ!邪魔をするな!!!」


 映像を見ようとするワーオンに飛び掛るコウゴウ、しかしその行動は、クレナやロアン、さらには幾人かの同級生達によって阻止される。誰にも邪魔をされることなく、映像を見るワーオン。そこには、紋章の扉に手をかけ右上から順に(・・・・・・)4つの紋章に触れるコウゴウが映し出された。


 「…決定的な証拠だな。コウゴウ君、君は何故『守護の獣』を知っていたのかね?そしてその試練の内容もだ。」


 「それは!それは!……違う違う違う違う、私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない!!」


 糾弾者としての絶対的な勝利を疑わなかったコウゴウは、一転して被疑者となったことを受け止め切れなかった。彼の貧弱な心は元々ぼろぼろになってはいたが、このことで焼ききれてしまったようだ。自己を援護する言葉を繰り返し繰り返し呟くだけの存在となってしまった。


 「このように試練の突破に何者かの協力を得ていただろうコウゴウ君の主張は非常に疑わしい。彼が述べたアルマーオ君の行動も、全て虚偽だと考えたほうが良いだろうな。」


 ワーオンが、最終的な判断を下す。その時には周りの同級生達も、冷静な判断力を取り戻しており、その言葉を素直に首肯する。いや、一人だけ受け入れない男がいた。主犯の1人であるコウゴウだ。彼は、その言葉を聞くや否やすぐに顔を上げてアルマーオを睨みつける。目線で人を殺せるとすれば、このような目なのだろう、邪悪に濁りながらも強い視線を送る。


 「お前がお前がお前が私の栄光を盗んだ盗んだ盗んだ盗んだ盗んだ…盗んだのだぁぁあ!!薄汚い三流貴族めぇぇぇ!!!!!!!くぇぁあぁあゃあぁあぁああ!!!」


 意味不明な叫び声を上げてコウゴウがアルマーオに飛びかかる。怪鳥のようなその行動に、咄嗟の反応が遅れる人々。しかし、飛び上がるコウゴウを、下から昇る稲妻が貫く。クロの放った昇蛇である。


 「貴様のような下賎な男に、我が主を侮辱などされたくない。薄汚い意志を纏った汚れた貴族よ、疾き雷に撃たれて果てるが良い!」


 アイスブルーの瞳に閃く光は、1つ1つが稲妻のようにコウゴウを焼きつくすかのように強く輝いていた。小さなその体から発せられる威圧感に、教師も生徒も誰も身動きすることが出来ない。コウゴウが殺されようかという極限状態にあっても、クロから発せられる気配に飲まれてしまっているのだ。クロの身に莫大な量のシーガが集まり、雷へと変質して撃ち出されようとした、まさにその瞬間、制止の思念が届く。


 『クロ…もういいよ…後は先生に任せよう。』


 「ご主人様!……まだ無理なさってはいけません。」


 ユーリに抱きかかえられたままのアルマーオが、弱々しいが思念を放ってクロを止めたのだ。意識を失った中でも、彼はクロのシーガを感じ取っており、その荒ぶりをに危機感を覚えて意識を覚醒させたのだ。しかし、やはり無理矢理だったのか、またすぐに意識を失ってしまう。それ見た教師と生徒は一斉にため息をつく。クロのプレッシャーから解放されたからだ。


 「なるほど……コネカット…『断罪の獣』か。」


 ワーオンは気絶しているコウゴウの両手を縛り上げつつ、召喚術師の主従を見やる。主人の側に座り心配そうに見やるクロ、微笑を浮かべて気絶しているアルマーオ。クレナとユーリ、そしてロアンがそれを囲む。そこには、全てが終わった安堵感が広がっていた。ワーオンもまた、笑みを浮かべて演習室を出ると。表情を厳しいものへと一変させる。このコウゴウに手を貸した輩は間違いなく学院の職員の中にいる。彼の断罪は、これから始まるのだ。




 こうして召喚獣は断罪する。託された思いを抱いて、主人の名誉と未来を守るために。その姿は往年の聖獣コネカットと同じように、人を裁く厳しさと人を守る優しさに満ちていた―― 


 今回はここまでです。

 ブックマーク百人突破!本当に嬉しいです。

 これからも読んで良かったと思っていただけるように頑張ります。


 感想、評価、ブックマーク等いただけると、非常に嬉しいです。

 よろしくお願いします。



 今回、投稿が遅くなってすいませんでした。

 またしてもストックの部分で筆が止まりまして…

 日常のほのぼの話の方が書きにくいのはなぜでしょうか…。

 今回、名探偵クロの活躍というかまあ、コウゴウ君の自滅ですね。

 いかがだったでしょうか?次はちょっとほのぼのです。

 


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