「召喚術師は足掻く」
「参ったなぁ…どうしようか…。」
壁を背にして座り込みながらぼやく少年。猫狂いのアルマーオは途方にくれていた。コウゴウと何者かの策謀にはまり、片側の道を封鎖されてから約2分経過している。
「コウゴウさんには気をつけてたけど…まさか壁そのものが爆破されるなんて…。」
2人組で行動することを前提としたこの試験で、分断されて一人になるということは事実上合格不可能になることを意味している。壁に体重を預けたまま、アルマーオは思考を加速させる。
(壁が爆破される、ありえないことだ。事前に仕込が無ければ不可能。コウゴウさんからは火のシーガは感じ取れなかった。やはり第三者がいる。それも、この試験に介入できるだけの力を持った誰かだ。このままここにいて助けを待って事情を説明したとしても…恐らくは却下される。そうじゃなきゃ、コウゴウさんはここで仕掛けたりしないだろう。進級を諦めて来年にかける…それは駄目だ。クロの聖獣認定が行われる可能性は高まっている。時間の猶予は無い。なら結論は1つだ、1人で合格条件を満たす。それしかない。これまでの試練、やりようによっては何とか独力でも出来る…ここにいても負けは決まっている。なら、動いたほうが良い!)
「ぃよしっ!行くか!課題は五つ達成すれば良いってワーオン先生が言ってたからあと二つ!いける!」
この思い切りの良さと折れない心が、アルマーオの志力が高い数値で出てきている理由だろう。もちろん、その強い心を支えている思いもまた変わらない。
「僕から猫を取り上げさせたりなんかするもんかっ!!」
猫への愛、これぞアルマーオの不撓不屈を支える志である。
心の炎を熱く滾らせたアルマーオは、封鎖されていない道、二叉路の左へと歩を進める。一度決断した後は迷わず堂々とした姿で歩くアルマーオは、やはりただの9歳児とは比べ物にならないほどに芯が強いといえるだろう。
「……これか。」
不安定な石の床を歩き続けて100mほど進むと、また分かれ道がある。その分かれ道を左300mほど行った先は、残念ながら行き止まりではあったが石碑が立っている。当然のことながら文面は古語で書かれていた。アルマーオは石碑に近づき緊張の面持ちで文面を読む。1人でも実現可能かどうかで、この進級試験の合否が決まるのだ。アルマーオといえど多少の緊張は隠せない。
「なになに。『汝が囚われしは罠 汝が助けしは友 卑劣な罠を食い破る さすれば鍵は与えられん』…つまり、1人が罠にわざとはまって、それをもう1人助けられれば、鍵がもらえるってことかな。」
アルマーオが石碑の奥の壁に目をやると、そこには明らかに罠だと分かる、1つだけ目立つ赤色の石が埋め込まれている。普通に行動していれば、その様な罠には引っかからない。つまり、わざと引っかかる為の罠だということだ。
(僕の予想は当たってそうだね…さて、どうするか。この試練、受けるべきか否か…。)
アルマーオは額に手をやり考え込む。全ての試練を突破する必要は無い、この試練の先にも他の試練は用意されているだろう。アルマーオは深く深く自分の思考に没頭していく。
(『食い破る』ということは、一度つかまった後に解除することが出来る罠だ、ということになる。ということは毒ガスなんかの防ぎようの無い罠ではないということ。だけど、相方が友を助けるっていうことは、捕まった方は対処できないであろう罠なんだよね…。離れた場所に解除するための何かが出て相方を助けるっていうのが物語とかでは良くあるけど…。僕なら、離れた場所でもシーガの操作で解除は出来る。鏡があれば、離れた場所でも視界は確保できるし…よし!)
決断したアルマーオは腰に結わえてあった皮袋から鏡を取り出す。皮袋には他に罠解除に用いる道具や携行食などが入っている。これらは、ゲガンの塔演習担当教師ハイサキから教わった、塔潜行用の道具だ。事前にどの演習になるか分からない生徒達は、ある程度の試験の予想をして道具の用意をする。舞踏用の正装などもそうだ。アルたち3人組も、事前にセイクの塔演習用、ゲガンの塔演習用、舞踏用の道具を用意して学校に向かっていたのだ。こういった事前の準備も、試験において重視される要素のひとつである。鏡と道具を石碑から少し離れた場所に置き、アルマーオは違う色の石、罠の起動装置の前に立つ。
(危険は百も承知。挑戦しなくても不合格、挑戦しても不合格なら、少しでも可能性のある方を選ぶ。後悔は無い!)
意を決したアルマーオは石を押す。すると抵抗無く石が壁の中に沈む。沈んだ手が何か硬いものによって構想されたと感じた瞬間、大きな音を立てて壁が左右に分かれる。分かれた先には通路が広がっており、その天井と左右の壁に埋まった何かが回転しながら迫ってくる。
(回転ノコギリ!?殺す気か!?……いや、違うな。回転してるのは…………ハンマーだ。)
壁から飛び出しているのは円の半分、その先がギザギザであればノコギリといえるだろうが、回転しているのは先に丸い錘をつけた棒なのだ。あれが当たれば、骨折などはするであろうが、死ぬことは無いだろう。ただし、当然のことながら試験続行は不可能となる。
(あの速度で回転しているのが三つ同時に当たったら…………まずいな!)
身構えようとしたアルマーオの足を床から現れた鉄の枷が掴む。先ほど硬いものに拘束された感じがした右腕にも鉄の枷が付けられており、鎖が右の壁からつながっている。
(これで、避けられないし中途半端にしか防げないってことか。)
「よし、やるぞ!」
意を決したアルマーオは上半身をひねり背後を確認する。すると、先ほどは何も無かった左右の壁に、なにやら石版で出来た絵のような物が現れている。
(くそ、見えない。鏡をシーガで掴んでっと……あれは……。)
石版には外枠の中に縦5横5に分割された石の板がはめ込まれている。その板それぞれになにやら線が描かれている。左下の1つだけ石の板がはまっておらず、石の板は全部で24枚となっている。
(これ……見たことある……これは、ええと前世の記憶の中だな……んーと、そっか!パズルだ!)
石の板に描かれている線は繋がっていない。それを左下の空白を利用することでつなげていくパズルが、罠解除の手段なのだ。
「パズルってこっちにもあるんだ……て言ってる場合か!まずは絵柄を掴まないと、何だこれ何だこれ!」
アルマーオは鏡をシーガで固定し、とりあえずは線のつながりを探し始める。左右逆になる鏡の映像に四苦八苦しながら線を幾つか揃えると、アルマーオの頭の中に閃くものがあった。
(見たことある!これはこの世界での記憶だ……えぇと、どこで見たんだこの図形……裁縫室で見たよう……な)
「分かった!ドーギヌ家の家紋だ!!」
線をつなげて生まれる絵の正体は、ドーギヌ一族の家紋、つまり聖獣ドーギヌの横顔だったのだ。なぜ、アルマーオがユーリの家紋を知っているかといえば、裁縫の時間で教えたからだ。自分の家に誇りを持つユーリは、最初の刺繍を家紋にしたいとアルに頼んでいたのだ。そのためアルマーオは人の家の紋であっても詳しく知ることが出来たのである。絵柄を掴んだアルマーオのその後の行動は早かった。鏡の左右も何とか克服し、できる限りの速度で右の壁の絵柄を完成させると、アルマーオの正面から迫ってきていたハンマーが1つ停止した。
「よし!もう1つやれば止まるはずだ!」
続いて左の壁の絵柄もそろえる。焦りそうな場面ではあるが、高い志力に裏づけされた安定した精神で的確に作業をこなす。
「ぃよし!できた!これで全部とま………………らない!?」
停止したのは左右の壁から迫るハンマーのみであった。彼の正面、天井か迫るハンマーはそのまま動き続けている。
(なぜだ!見落としが有る?……いや、壁や床に変化は無い。ということは停止条件を読み間違えている?)
一瞬の混乱からすぐに立ち直ったアルマーオが考察をやり直す。古語は含みの有る表現が多いため、解釈する必要があるのだ。
(卑劣な罠を食い破る…まてよ、そもそも罠は卑劣なはずだ。何で強調して言ってるんだろ?これは今の状況とあわせて考えると、「ひっかけ」があるということかも。そうか、解除方法が存在しない罠ということか。それを『食い破る』なんで『解除』とかじゃないんだ?罠を壊せってこと?けど、あのハンマーとか回転部分は硬そうだし…食い破る、なんだか獣みたいだ…な…獣?さっきのパズルの絵柄は『ドーギヌ』そして『食い破る』…………ドーギヌが食い破るのはどこかな?ロアンはあの時どこを狙ってきたっけ……確か、あご?いや、違う。避けたから、あごになったんだ。あの時狙われたのは、確か……首だ!!)
考察を終了したアルマーオは、再び回転するハンマーに集中する。特に、錘と棒の接合部分を注意深く観察しているようだ。
「見つけた!」
(やっぱり錘の根元に色が違う部分が有る!あそこを狙えってことだな!)
その時にはハンマーはすでにアルマーオまであと1mと迫っていた。アルマーオが即座にシーガ弾を生成し放つ。が、回転する物体の1点を狙うのはやはり難しく何度か失敗する。
「あぁもう!まどろっこしい!!」
精密な狙いを放棄したアルマーオは、錘の根元に向かってシーガ弾を連発する。
(下手な鉄砲数撃ちゃ当たる!)
「らぁあああ!!!」
シーガ弾の連発が20を数えた所で、ようやく弱点に当たり錘が折れ飛ぶ。その時にはハンマーはアルマーオまであと30cmという所まで迫っていた。大きなため息をアルマーオがつくと、彼を拘束していた鉄の枷が全て外れる。どうやら試練を突破できたようだ。
「はあぁぁ。よし!何とかなるかも!」
成功に気を良くしたアルマーオでは有るが、緊張感とシーガ弾の連発により体力は大きく削られていた。壁の向こう側に続く通路があったので、アルマーオはそちらに向かって歩いていく。進んだ先は行き止まりであったが、そこには石碑が立っており古語で言葉が刻まれている。
「なになに…『守護の獣』か。なんだろうな、この言葉。」
言葉の意味は相変わらず分からなかったものの、鍵を手に入れることは出来た。アルマーオは来た道を引き返し試練の前の分かれ道まで戻ると、先ほどは左へと進んだ道を右へと進んでいく。途中幾つか分かれ道があり、試練があったが、古語の内容から1人では不可能だと判断して先へと進んだ。5分程度歩いていると、やや広い円形の小部屋に出た。壁も曲線を描いており、半球状のドームのような小部屋である。
「中央に石碑かぁ。これも試練なんだろうな。そろそろもう1つ達成しないと、出口に着いちゃうし、ここらで突破しておきたいな。」
そう呟きながらアルマーオは中央の石碑に歩を進める。終りが近いことを実感し始めているその表情は硬い。
「『片翼は防ぎ阻み 片翼は読み解く 両の翼が揃いし時 鍵は空より舞い落ちる』か……これは、1人が何かを防げばって…え!?」
石碑を読むこと、それが引き金だったらしい。部屋の入り口は閉じられ、円形の壁に均等の幅で十個の穴があく。そこから、何かがのっそりと歩き出してくる。一般男性よりも大きなその影はゆっくりと中央に向かってくる。
「……土の人形?そうか、これがギョウソーシか。」
ギョウソーシ、それは体内に脳に当たる躯結晶を埋め込み、操作によって刻まれた回路によって動く人形のことである。躯結晶へと術者が指令を封じ込めると、その指令に基づいて躯結晶が溜め込んでいたシーガを各部へと放つ。その道筋には回路が刻まれており、回路の効果によって人形の各部が稼動する仕組みとなっている。しかし、あまりに複雑すぎる機構のため、高度な命令を実行することは不可能だ。更に言えば1体にかかる費用も莫大なものとなる。結果としてこの技術はそれほど重要視されることは無い。土木作業などにおいて、利用されることがあるか無いか、というぐらいだろう。アルマーオが知っていたのは、ギョウソーシに使われている回路が召喚術にも関わっているため、ケンソーが余談として知識を授けたのだ。
「この場合のギョウソーシへの指令はきっと『中央にいる者を攻撃せよ』だろうなぁ。」
中央には壁に穴があくと同時にせり上がってきた石柱がある。そこには何やら操作するものがあるようで、1人がそれを読み解く間に、もう1人がギョウソーシを防ぐというのがこの試練の無いようだと予想が付く。
「起動した以上、やるしかない!」
中央の石版にアルマーオが飛びつく。ギョウソーシの動きは鈍い。まだ余裕が有る。鏡を取り出して背後のギョウソーシにも注意をしながら石版の『古語』を読む。
「えぇと『守護するは十の星 鍵をかけるは中天の星 結びて射抜け さすれば鍵は舞い降りる』またパズルか!」
アルマーオの手元の石版には9×9の石の板が有り、またしても左下の一枚だけが欠けている。絵柄は直線と曲線、そして星を表す丸である。まずは曲線をそろえるようにパズルを動かしていく。
(見えてきたぞ。曲線は円だ!その途中に星があって、直線はそれを結んでいる間の線ってことは、ここがこうなって……)
素早くアルマーオが石の板を動かしていく。正しい位置に置かれた石の板は薄青く光るようであり、それを手がかりに板を動かしていく。しかし、流石に80枚の石の板を動かしていくのには時間がかかる。ギョウソーシがアルマーオまでもう少しの所まで近づいてきてしまう。
「くそっ、まだまだ時間はかかるのに!」
アルマーオは一旦石版から顔をあげてギョウソーシへと対応することを決める。
(歩く速度は遅い……壁際まで吹き飛ばせれば時間が稼げる!)
アルマーオはシーガで創られた棒を10本固定して産み出す。そして、それをそれぞれのギョウソーシへと向けて放つ。
「どうだ!?…………ちくしょう、重い!」
できる限界の勢いで放ったが、壁際まで後退させることは出来なかった。どのギョウソーシも5mほど後退したのみ、稼げた時間は3分も無い。
「……これを、繰り返す!」
一瞬で決断するアルマーオ。それが悪手であろうとも、今は時間を失うことが最も恐ろしいと考えたのだ。石版のパズルを解き、シーガ槍を放つ。ギョウソーシは異様に頑丈に出来ており、ヒビ1つ入っていない。破壊は不可能なようだ。思考を限界まで加速させる、シーガを放つ、体力が削られる、削られた体力で思考が鈍る、時間が失われる、シーガを放つ機会が増える、体力が削られる、徐々に悪循環へと陥るアルマーオ。しかし、決して諦めようとはしない。いつしか、その目は徐々に輝きを放ち始めている。
(おかしい、普通パズルは角に空白が出来るはずだ…けど、角に空白を作ると円が崩れる……空白は角じゃない?どこに空白を作れば……いや発想を逆転させよう。空白を意識するんじゃなくて絵柄を優先させて最終的に出来た空白が正しい、としても問題は無いはずだっ。くそ、頭が上手く動かないっ。ギョウソーシが近づいてきてるっ!対応!)
「らあっ!…………くっ。」
放たれたシーガ槍の勢いはかなり減じてきている。ギョウソーシは3mも後退しなかった。アルマーオはギョウソーシへの対応を変更する。
「互いをつっかえ棒にしろ!」
均等に開けられた穴から出てきたギョウソーシの立ち位置は整っている。つまり、直線で結べる反対側にギョウソーシがいるのである。対応するギョウソーシたちの胸にシーガの棒を作り思い切り固定する。すると、アルマーオを中心に5本の直線が出来ることとなる。互いが互いを同じ力で押し合うので、ギョウソーシは前へと進むことが出来ない。その代わり、両側から圧迫されるシーガ棒への圧力はすさまじいものとなり、一瞬でも気を抜けば破砕する。アルマーオは全力で棒の固定を維持しながら、石版のパズルを解くことになるのだ。
(くぅぅぅ!辛い、辛いけど、やらなきゃクロを奪われるっ!)
「負けるかぁああああ!!」
アルマーオはほとんど直感的に石の板を動かす。どんどんと青い光が繋がり、ついに円が完成する。空白はなんと中央にできた。全ての直線の向かう先、十の星を結ぶ円の中心に空白が出来たのだ。
(出来たけど…変化が無い!まだ足りない!くそっ、何だ、何が足りないっ。)
アルマーオは焦った顔であたりを見回す。棒にせき止められ動けないギョウソーシ、円形の石の壁、見えるものに変化はない。
(鍵をかけるは『中天の星』で『結びて射抜け』だから、中天の星を撃つんだろうさ、けどパズルには中央が無い!どこにあるっていうんだ…くそ、もう駄目なのかな…。)
諦めに似た気持ちがアルマーオの心に忍び寄る。むしろ、ここまで良く耐えることが出来たと言って良いだろう。彼はまだたったの9歳なのだ。たった一人でこの難易度の試練を良く突破してきたと、誰もが褒めてくれるだろう。
(もう、いいかな。がんばったよ…ね。)
涙がこぼれないように天を仰ぐアルマーオ。彼の目には自身の作った5本のシーガで出来た棒が有った。彼の目が金色に光る時に創られたそれは、ほんのりと金色に発光している。
(ははっ。何だかこの5本、パズルの直線と似て…る…)
5本の直線の中心は、丁度石版の真上になっている。等間隔で配置された穴から、一直線に石柱を目指して歩いてきたのだから、当然ともいえる。
(待てよ…『中天の星』…『射抜け』…『舞い降りる』!…この部屋ってもしかして!)
部屋は円形、開いた穴は等間隔、シーガで出来た棒の直線、アルマーオの頭の中で全てが一致する。パズルはこの部屋の縮図、パズルの空白が中央に来るのは、そこに何かが有るからでは無いのか。
「中天の『星』! 天井かっ!」
勢い良くアルマーオが顔を上げると同時にシーガで出来た棒が砕け散る。棒の重なっていた中心、石版の真上、その天井の石の1つが青く輝いている。
「いっけぇぇぇぇ!!!!」
ギョウソーシが近づき、全機が一斉に右腕を振りかぶる。アルマーオは全てを無視し、右手を高く掲げ二本の指で天井の輝く石を指し示す。その指先にシーガ弾が形成され、超高速で撃ち放たれる。
「……はぁっ……はぁ。」
アルマーオの荒い息以外には何も聞こえない、無音が小部屋を支配する。放たれたシーガ弾は天井を撃ち抜いていた。ギョウソーシは、右手を振りかぶったまま停止している。シーガの供給が停止したようだ。
「………あ……あ……あぶなかったあぁぁ。」
アルマーオは尻餅をつくと、そのまま倒れこんだ。疲労の限界に来ていたのである。すると、天井から何やら金属製のメダルがゆっくりと降りてくる。それは石柱まで降りてくると、糸が切れたかのように重力に引かれて落ちた。小部屋に、石と金属がぶつかる涼やかな音が広がる。
「ふぅ、駄目だ起き上がれない…。」
思考と体力の両方を酷使したアルマーオは、ともすればそのまま眠り込んでしまいそうになる。しかし、そうする訳にはいかない。シーガによる監視網が破壊され、修理が不可能となれば、必ず誰かがやってくる。そして、アルマーオを見つけると救助をしてくれるだろう、だがそれでは駄目なのだ。それでは、学院に影響力を持つ第三者によって不合格にされるだろう。それこそが恐らく、今回コウゴウと第三者が描いたシナリオ。そんな悪意に呑まれる訳にはいかない。
「クロを…奪われて…たまるかっ!」
声と共に何とか立ち上がるアルマーオ。そして、石柱の上に落ちていたメダルを手にする。そこにも古語が刻まれて言る。
「えぇと…え?『聖鍵の王』…これって王様のことだよね。」
首を傾げつつ、メダルが落ちてくると同時に開いていた出口へと進むアルマーオ。石の道を歩いていくと、大きな扉にたどり着く。そこには右側から続く道があり、分かれ道はここで繋がっていたのだということが分かる。
「はぁ、はぁ、ようやくたどり着いたぞぉ。うわぁ、また古語が有る…。」
扉に刻まれた古語には、こう書かれている。『中央に聖鍵の王を据えろ 守護の星 正しき星に触れ 獲得せし名を告げよ さすれば終わりの道は開かれる』であった。扉の合わせ目の中央には円形の窪みがあり、メダルをはめることが出来るようになっている。その円を囲むように、十の星が描かれており、それぞれの星には何かを象徴する絵が刻まれている。
「メダルをここにはめて…正しき星…あ、これユーリの家紋だ…ということは!」
アルマーオは、右の五つの星の中央に先ほど見かけた紋を発見する。それはドーギヌ家の家紋であった。その紋を見て古語の意味を理解したアルマーオは、ドーギヌの家紋に触れ、そして言葉を発した。
「守護の獣」
すると、ドーギヌの家紋が描かれた星が光り始める。自分の考えが当たっていたアルマーオはにっこりと微笑むと、次の星を探し始める。『巌の騎士』は盾の模様、『華の杖』は薔薇の模様、『旋風の槍』は槍の模様の星が対応していた。最後にメダルに手を当てて唱える。
「聖鍵の王」
その瞬間、扉の模様が全て光り出し外側へとゆっくりと開き始める。溢れ出す光の中へと、アルマーオは倒れこむように飛び込んでいく。彼の視界に最初に移ったのは、クロ。主人の顔を見て安堵に綻んだ彼の顔は、だが一瞬にして険しく歪められる。次に移ったのはユーリとクレナ、彼女達も笑顔を浮かべるが、すぐに厳しい顔になってこちらに駆け寄ってくる。
(え?…みんなどうしたんだろう?)
出口にいる生徒全員がこちらへ注目している。当たり前といえば当たり前だが、その視線にはどこか暗いものが混じっている。その時、ようやくアルマーオは部屋の中央に目を向けた。そこにいたのは、眉をひそめて目を閉じるワーオン教師、そしてその膝元にすりより、ぼろぼろになったローブをまとったコウゴウだった。
コウゴウは、アルマーオを見ると、にたりと、どこまでも濁りきった笑みを浮かべた。
「先生!先生!助けてください!!私はあのアルマーオ君に試験中に襲われたのですっ!!」
こうして召喚術師は足掻く。しかし、彼を飲み込む悪意はまだまだ深い。どこまで足掻くことができるのか、それは彼の意思にかかっている――
今回もすっきりはしません。
次でスッキリする予定です。
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