↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金目の召喚術師 ~猫狂いは二塔に挑む~  作者: 鼻血魔人
召喚術師は挑戦者へと至る
PR
30/50

「召喚術師は出かける」

 模擬戦の翌日、一瞬だけ目を覚ますも食事の後はまたすぐ眠りについたアルは、その次の日の朝、すがすがしい気分の中で目を覚ました。最も、側にいたアイクウに、心配させて!とお説教をもらうことになってしまったのだが。この日は学院での授業がある日ではあったが、学院側から三日間は休むようにとのお達しがあったため、学院に行く必要はない。しかし、アル自身は大量の睡眠と栄養たっぷりの食事によって元気一杯である。つまり、どういうことになるかといえば


 「ひ……ひまだぁああ……。」


 「無為な時間を有為に感じつつ眠る、これこそ猫の生き方ですな。ご主人様、修行が足りませんよ。」


 暇になるのだ。


 「修行も刺繍も駄目だなんて…酷すぎるよお母様…。」


 元来、アルマーオは努力の人である。彼の高いシーガ操作技術が、3歳の頃から一途に磨き上げられた努力の賜物であることからも、それは分かるだろう。空いた時間のほぼ全てを、これまでは修練にあててきた。今日もまた、空いた時間を先の模擬戦で掴んだシーガの訓練にあてようとしたところ、アイクウから禁止令がでたのだ。


 「お母様にあの目をされると…駄目なんだよな…逆らえない…。」


 「ご主人様のことを完璧に心配しているからこそ、ですしね。今日は言いつけを守りましょう。」


 シーガを使いすぎて倒れた時は、普通であれば頭痛などの後遺症が少し残るのである。これは、自らの器を超えた量のシーガ扱うことによって、器である肉体にヒビが入るからだ、と言われている。その後は、少しだけシーガを扱える量が増えるという報告もあるが、これはまだまだ未確認の仮説だ。何にせよ、その様な兆候は全く見られないが、念のためシーガの操作をすることを禁じられたのだ。では、シーガを全く使わないはずの刺繍まで禁止されたのは何故なのか、といえば、アルマーオ自身も知らなかった意外な事実が関係していた。


 「まさか…縫い物の時にシーガを無意識に操ってたなんて…」


 「わたくしは、わざとなさっているのだとばかり思っておりましたよ。指に吸い込まれていきますので、恐らく多少ではありますが繊力を強化なさっているのでしょう。」


 「それ…完全に無意識なんだよね…はぁ…おかげで刺繍も駄目とか…はぁ…ひまだぁ…。」


 というわけで、大絶賛暇をもてあまし中なのである。といいつつ、両親が仕事に出る午前中は、まだまだ疲れも見えたのか、今まで長椅子で昼寝などをしていたのだ。その姿を見て、クロもまた今日一日の修練休暇を是としたのだ。


 「ねぇ、クロ。そういえばお母様がさ、何かが足りないって言ってなかったっけ?」


 「あぁ、それでしたら確か、我獣の躯結晶ですよ。」


 「あれ?そうだっけ?」


 クロの言葉に小首をかしげるアルマーオ、いまいちピンとこなかったのである。その感覚は正解であり、クロはアイクウが言った言葉を正確に伝えたわけではない。


 「正確には、アイクウ様はこうおっしゃいました。『爪光灯が切れかけているわ』と。」


 「そうそう!そうこうとう?だっけ。それだよそれ!」


 「ですから私はこういいました。我獣の躯結晶です、と。爪光灯の中心となる発光物体は、躯結晶ですので。」


 「えぇ!?そ、そうなの?」


 爪光灯、それは地球においての電灯を想像してもらえると良い。少し黒いが透明な爪のようなものをガラスで覆ってある灯火のことである。爪のようなもの、ではなくまさしく我獣の遺す爪の躯結晶を用いた日用品だ。その爪に向けてシーガをこめると、明るく輝き始める。爪にこめたシーガを消費しきるまで明るく光を発するため、夜の照明器具に広く利用されている。消す時は、爪にこめられたシーガを吸い出すだけで良い。どちらも微弱な量で反応するので、一般人であっても使用できるのだ。炎を使った照明器具による火事が起きない、という一点でも優れているだけでなく、燃料であるシーガは誰でも使えるものでありお金も必要としない、となれば爪光灯が普及するのも当然であろう。爪光灯の躯結晶は大体一年程度は同じ明るさを発するので、切れてくれば新しいものを買えば良い。その躯結晶を落とす我獣は、ゲガンの塔一階層に多数発生するため、供給も安定している。そのため、値段も高くはならない。需要が安定しており供給も安定している。組合でも常時買い取りがあるため、季節や依頼によらずに安定した収入となるため、挑戦者にとっても大切な小遣い稼ぎの品物なのだ。


 「ふぅん…それさ、買いに行かない?」


 「そう焦るものでも無いようですが…そうですね、今日のような暇な日には相応しい買い物かもしれません。」


 「あ、僕のお小遣いで買えるかなぁ?」


 「大丈夫だと思いますよ。ちなみに、いくらお持ちですか?」


 「えぇとね…銀貨2枚と銅貨40枚。」


 「十分です。無駄遣いしてこなかった意味がございましたね。」


 この世界では、経済発展がまだまだ遅れているため、紙幣というものは登場していない。最も安価なものが銅貨、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚といった形で貨幣が運用されている。当然、含まれている金属の含有量により、貨幣の価値は変わってくる。ケンカードでは、ゲガンの塔から金属が採掘されるため、他国と比べても貨幣への信頼度が最も高く、安定しているといえる。こういった形でも塔はケンカードの民の暮らしと関わっている。金貨1枚で、一般的な家庭が1年間はつつましく暮らすことが出来る。銀貨1枚は多少の変動はあるが、少し高価なものが買える程度である。銅貨1枚ならば駄菓子が1つ買える程度の価値がある。


 「まあ、お小遣いはもらっていたけど、使う暇が無かったからね。」


 「では、参りましょうか。恐らく組合広場に売っているでしょう。そこに無ければ、直接組合で買い付ければ良いだけですしね。」


 「あ、じゃあローブ着てくるね。」


 「学院の制服は目立ちますので、別のローブにしてくださいね。」


 「はーい。」


 アルマーオは声を弾ませて自室へと向かう。両親のいない買い物は、ほぼ初めてなのでかなりはしゃいでいるようだ。9歳にもなって一人で出かけたことも無いのはこのケンカードでは異常なことである。文明と経済が安定して発展しているケンカードでは公教育も重要視されており、平民であっても学校に通って学ぶことが出来る。その基礎課程を卒業するのが12歳であり、9歳ともなれば親の仕事などを手伝って数年は経つはずの年齢だ。もちろん学校は義務ではないが、計算や読み書きなど損になることなど何一つ無いため、通わせることがほとんどだ。その中で、同い年の子供たちと友人関係などを育むことで、社会性を育てることも出来る。が、アルマーオはそのほとんどを全く経験していない。そういった当たり前の子供らしい生活を全て捨てて、シーガの修練をしたからだ。普通であれば、多少はゆがんで育つはずだが、あやふやでも前世での経験があるために、社交性などは育っている。ある意味で、猫狂いという大きな大きな歪みはもっているのだが。


 「じゃあクロ、出かけよう!」


 「まずは西を目指しましょう。」


 「お母様の店は南東の大通りだから、あまり通ったことの無い道だね。」


 ケンカードという国はケンカードという街を中心にした都市集合国家である。首都であるケンカードは巨大な円状の防壁に囲われており、その内部に塔を囲む小さな円がある巨大な都市である。円の中心には、挑戦者たちの組合事務所兼大酒場である「ヤクシュ」があり、その真東側にセイクの塔、真西側にゲガンの塔がある。二つの塔をぐるりと囲む防壁の東西を結ぶ中心線にも壁が作られており、北側からしかセイクの塔には入れず、逆に南側からしかゲガンの塔には入れない。塔を囲む防壁の北側には巨大な王宮があり、その東側が貴族街となっている。王宮にどれだけ近いかで貴族の格が決まるという暗黙の了解もあり、三流貴族のアルマーオたちの家は、ほぼ真東の平民街と面した場所にある。都市の南半分は全て平民街であり、南東側は職人や商人の住む商店街、南西側は一般市民の住む住宅街となっている。都市を大まかに四つに分けて、北東が貴族街、南東が商店街、南西が平民街と思えば間違いは無い。北西側は、騎士団や役所などの公的な機関が集中する場所となっている。アルマーオの普段の買い物は南東側の商店街で済ますのだが、今回買うものは塔由来のもののため、塔の近くにある組合広場を目指すのだ。ちなみに、アイクウの勤める「カマど屋」は南東の職人街と商店街の中心にあり、最高の立地条件を備えている。


 

 「ふんふふーん。良く晴れた昼下がりに猫と散歩、これはもう一種の宗教的行事といっても差し支えの無いほどに心の洗われる行いだね。」


 「ご主人様、公の場での奇矯な振る舞いは即処断いたしますからね。他の方に迷惑を掛けてはいけません。」  


 1人と1匹は石畳の道を歩く。ケンカードの街中は全て整備されており、移動がとてもしやすい。大きな通りでは中央の道は馬に良く似た思獣マバウを使ったマバウ車の通り道であり、その傍の道を歩行者が歩くようになっている。かなり計画的に発展したケンカードの街は南北と東西を貫く聖鍵通と、外側と内側の円状防壁のちょうど間を通るようにできている環状の大通りが物流の中心となり、小道も全て円になるように設計されている。上空から見ればかなり整然とした美しい街並みであろう。アルマーオたちが現在歩いているのは、東西を貫く聖鍵通であるため、道幅はかなり広く、マバウ車が行き違うことすら出来るほどである。


 「このケンカードって街は、かなり発展した文明だよね。上下水道も完備されているし、科学は全然発展していないのにね。なんでだろ?」


 「そうでございますね。ご主人様からいただいた『地球』の知識と照らし合わせても、かなり発達した文明といえるでしょう。それを支えるのが躯結晶や塔由来の鉱物でございます。この街は、この世界ムジアートにおいて、最も栄えている街と言っても良いでしょう。そして、この街がここまで洗練されている理由は、700年前の賢人タクミのおかげです。彼は、当時の人々では思いよらなかった土木建築の知識を持っていたようで、外円防壁、内円防壁も彼の知識によるものです。」


 「…タクミ…ねぇ、その人の姓はなんだったの?」


 「良くお気づきになられました。彼の正式名称はタクミ=ヤマダ。恐らく転生者か、迷い込んだ地球の日本人でしょう。」


 クロは、アルマーオの想像から創造されている。その際、アルマーオの頭の中にある『地球』の知識も取り込んでいる。そのため、アルマーオとクロは他のものには通じない英語や外国語由来のいわゆる横文字でも意思の疎通が出来る。


 「へぇ、僕より前にもいたんだね、そんな人。他にはいなかったの?」


 「この国の教育制度などを作り上げた方が恐らくいますね。名前はキャシー=エイベル。恐らく英語圏の方だったのではないでしょうか。」


 一人と一匹がのんびりと歩きながら会話を重ねる。共にとても楽しそうに微笑みながら。思い返せば、クロが産み出されてからこの日まで、このようにゆっくりした時間を過ごす事はほとんど無かった。主従共に、研鑽に明け暮れており、学院においても気を張っていることが多い。全てが解き放たれて日々をただ楽しむというのはほとんど初と言って良い。逆に言えば、そこまでの努力を重ねなければ、この年齢であそこまでの実力を獲得することは出来なかっただろう。


 「ねぇ、クロ、気のせいかな?時々見られて無い?」


 「気のせいではありませんよ、ご主人様。注目を向けてくる方が時々いらっしゃいます。」


 そんなアルマーオとクロは、街を行く人々から時々驚いたような視線を向けられている。それどころか、ひそひそと指差しながら話をする人までいる始末だ。


 「んー、でも、悪意は無い感じだよね。」


 「わたくしもそれが気になっておりまして…敵意であれば遠慮なく叩くのですが…。」


 物腰は柔らかだが、クロは基本的には好戦的な猫なのだ。それはともかく、視線を向ける人々の多くが、驚いた顔をした後に微笑ましいものを眺めるような笑顔をするのである。そこに悪意は感じ取れない。有名人と会えて幸運だ、というような反応が一番近い。


 「ぼ、僕たちただの一般人だよね?」


 「まあ、貴族といえば貴族ですが…ご両親は有名な方ですけどね…しかし我々はまだ評価されていないと思うのですが…。」


 その疑問に答えをくれたのが、偶然出会った挑戦者たちだった。


 「お、アルマーオ少年、先日はお疲れ様だったな。良い試合だったぜ。」


 「あ、ハイサキ先生!こんにちは!先生もご覧になっていたのですね…はずかしい…。」


 組合が近づいてきた道の途中で出会ったのは、ゲガンの塔実習担当教師であるハイサキである。彼は教師だけで飯を食べているわけではなく、普段は部隊を組んで塔に潜る熟練の挑戦者である。組合に出かける用事もよくあり、今はちょうどその帰りだったようだ。すると、そのハイサキと並んでいた黄色の長髪の男が話しかけてきた。彼の耳は犬のような形をしている。ドーギヌの特徴を持つジュジンである証拠だ。


 「お?こいつは『金目』の坊主じゃねぇか!一昨日の試合すごかったな!」


 「は、はじめまし…金目?なんですかそれ?」


 「こら、ロジウ。いきなりそんなこと言って混乱させんじゃねぇよ。」


 そこで語られた内容は、アルとクロを共に大きく驚かせた。一昨日の模擬戦には瓦版の記者も観戦しており、新世代の貴族の活躍を大げさに書いたものを配布したらしい。それが人気を博したらしく、増刷がどんどんされており、今ではケンカード中に広まっているらしいのだ。その中ではアルマーオが試合の最後に目の色を文字通り変えたことも掲載されており、『金目』の二つ名で表現されていたのだそうだ。


 「金目って…え?…僕って目の色変わるの?本当、クロ?」


 「わたくしもロアンと戦っておりましたから、確認することは出来ませんでしたよ。」


 「俺が確認したから間違いねぇってば。おめぇの目の色は確かに変わってた、もっというと黒目もなんか細くなってたぞ。」


 ロジウが断言する。ジュジンである彼は、シーガの扱いは強化以外にほとんど出来ないが基本的な身体能力が全て高いのだ。その彼に断言されたアルマーオは、自分の顔をペタペタと触り自分の体を不審がっている。


 「ま、てなわけでアルマーオ少年は色々と注目されてるってわけだ。ま、悪いことはねぇだろうから大丈夫さ。」

 「そそ、こそ泥連中なんかもな、書いてあることにびびって手出ししてこねぇだろうし、悪いことはねぇよ。」 

 「は、はぁ。だと良いんですけど。」


 「まだ話したいことはあっけどよ、俺らもちょっと急いでんだ。アルマーオ少年、また学院で会おうな。」

 

 「じゃあな!」


 「あ、はい。ハイサキ先生、ロジウさん、色々とありがとうございました。さようなら!」


 お互いに手を振りながら分かれた後は、アルもクロも歩きはしているものの、少し放心状態であった。自分たちが有名人になっていることが信じられなかったのだ。しかし、その状況から立ち直ったのは、意外にもアルのほうが早かった。


 「まあ、ハイサキ先生も言ってたけどさ、悪いことはなさそうだし、気にしないでおこうよ。」


 「…そう…ですね。買い物を済ませましょうか。」


 気を取り直した1人と1匹は、他愛の無い会話をしながら組合広場へと向かう。4、5分程度歩いた所で彼らはとても活気のある賑やかな場所に出た。


 「うわぁ。なんかすごい賑やかな所だね!クロ、ここ?」


 「そうでございます。ここが組合広場、向こうに見えるのが組合事務所兼大酒場『ヤクシュ』でございます。付け加えますと、その更に奥に見える大きな建物が王宮でございます。」


 組合と塔を囲む防壁があることは先にも述べたとおりであるが、内円防壁の様子は、北と南で大きく違う。北側は貴族たちの出入り口のためマバウ車を置けるような巨大駐車場になっており整然としている。南側はといえば挑戦者たち相手の商人が露天を大量に出しており、自然発生的に市場を形成しているのである。もちろん、許可など得ていないのだが、有益な部分が多いため王宮も黙認しており、多種多様な店が露店を出している。武器屋や防具屋、洗い屋に飯屋や酒屋などもある。その中には当然、道具屋も含まれている。そこでは体力回復を促す滋養強壮作用のある薬草や、罠の解体に必要な道具、携帯食料や着火剤などが売られている。そして当然のことながら、道行が暗闇であることが多いゲガンの塔を進むための爪光灯も売られているのだ。


 「おぉい!そこのあんちゃん!そんな防具じゃ死んじまうよ!うちの防具はカジトの連中が作った一級品だよ。見てきなよ!」


 「これぞ聖鍵王の直臣キヨ=ギニセが使っていたという由緒正しき宝剣ガンザバンザだ!今を逃したら絶対に買えないよ!?」


 「この薬草を飲めば、たちどころに傷が治るよ!強化魔法が使えない奴らの必需品さ!は?買わないのかい!?あんた死んだね!!」


 そこかしこから店員達の威勢の良い声が聞こえる。かなり真偽の怪しいものもあるが、ここでは、見抜けない奴が間抜けだ、という不文律がある。騙される方が悪いのだ。もちろん、あまりにあこぎな商売には役所の担当官が現れ徹底的に取り締まるのでそこまで悪化はしないが、薬の水増しや効能の詐称程度は日常茶飯事である。


 「しっかし、ここは本当に賑やかだね!でも、ちょっとうそ臭い店多くない?」


 「ここでは『間抜けは銅貨の目をしている』と、言われております。見抜けない奴はお金を落としていく、ということなのでしょうね。ですが、シーガをこめた目で『視れ』ばある程度は見抜けますよ。」


 「え?そうなの?…んー?言われてみればあの薬草、ちょっとシーガの流れが鈍っている感じするね。逆にあの槍は安いのにすごくシーガの流れが安定している…なるほど、こうすればある程度だけど、売っているものの質を見抜けるんだね。」


 主人の質問に恭しく頭を下げること正解の旨を伝えるクロ。そんなこんなで1人と1匹は賑やかな組合広場へと歩を進める。実の所、爪光灯を買うだけならここに来なくても途中の商店で買えたのである。しかし、クロはここまで歩いて気分転換を図ることと、組合広場での売買の経験がアルマーオのために成ると考えたために、ここまで共にやってきたのだ。事実、世間知らずなアルマーオはこの場所でのいろいろなものに騙されそうになるが、その度にクロに戒められ知識を得ていくことが出来た。ただの買い物以上に有意義な時間となったことは間違いない。


 「ん~、この躯結晶、本物じゃないですよねお兄さん。」


 「塔に潜りもしないのに、防具を買う意味など無いですよご主人様。」


 「いや、でもさ、クロこの薬草すごくない!?」


 「ご主人様それは先ほど別の店で、その値段の2割引きで売っておりましたよ。」

 

 このような調子で、召喚術師の主従は全力で買い物を楽しんでいた。その中には、アルマーオが瓦版に載っていた金目であることに気付いて話しかけてくる目端の利く商人もいた。そして、ついにお目当ての爪光灯が売っている道具屋を見つけることが出来た。普通に購入しても良かったのだが、やや高揚した精神で考えたからかもしれないが値引き交渉をしてみようと思い立ったのだ。


 「いくらなんでも銅貨80枚は高すぎだよ、せいぜい15枚じゃない?」


 「何だ坊主!こりゃ最高級だぜ?一回使えば1年は持つ代物よ。まけたとして75枚だな。」


 「またまた、このシーガの流れから言って3ヶ月持てば良いほうでしょ、20枚。」


 「坊主…シーガ見えんのかよ…けどな物は良いんだぜ65!これ以上は無理だな!」


 などというやり取りを楽しくしているアルマーオの背後に忍び寄る影がある。影はそろそろ近づいて、値切り交渉に熱中しているアルマーオのすぐ後ろまでたどり着く。丁々発止のやり取りを繰り広げていた店員も気付き、ぎょっとした目を影に向ける。そして影はついにアルマーオの肩をたたき―



 「ふぇ!?だ、だれでふぼわ…」


 振り向いたアルの頬に突き立てられた物があった。それは…人差し指。肩を叩いて振り向いた頬に指を刺す。子供達が良くやる遊びの1つである。アルマーオにそんな悪戯を仕掛けたのは、赤髪の美少女クレナであった。クロは当然気付いていたが、見事に主人には何も言わず悪戯成功の様子を眺めていた。



 「お、お嬢!?な、なんか用ですかい?」


 「あんたには用はないよ。けどね、その右から四番目の爪光灯は絶対売るんじゃないよ?流石にそいつは詐欺といわれても仕方ないからねぇ…どうする?」


 「あ、あははは!どうしてですかね、不良品が混ざっちまってたみたいでさ…ご、ご勘弁を…」


 「あ、クレナ、こんにちは。もう学院は終わったの?」


 「こらてめぇ!こちらは組合長ザンゴーフさんの娘さんだぞ!そんな軽い言葉遣いをするんじゃねぇよ!」


 「あぁ、いいんだいいんだ。こっちだって今をときめく『金目』さんに敬語使われたらねぇ、根が小心者だからね、申し訳なくてしょうがなくなるじゃないか。」 


 「えぇ!?こいつがあの金目!?」


 結局、商人を落ち着かせ言い値の五分の一まで値切れたアルマーオは、満足げに鼻息を噴出しながら爪光灯を買う。しかし、商人の様子をみるにどうやらそのあたりが元々適正価格だったようだ。が、主人の良い気持ちに水を差すようなことをは好まないということでクロは黙っていることにしたようだ。アルはクレナと一緒に売店の肉串を購入して、広場の中央にある噴水の所へ腰掛けた。


 「あむ…あちち…それにしてもクレナ、学院終わるの早くない?サボったの?」


 「あんたとユーリがいなくて暇だけどねぇ、それは流石にやらないよ。今日からは学徒シン=メンボク週間だからね。午前中で授業は終わりなのさ。」


 「シン=メンボク週間?…はふ…あちっ。」


 「あんた本当に世間知らずだねぇ。ケンカードでは大事な試験の1週間前から生徒達が勉強に集中できるようにと早目に授業を終えたりすんのさ。」


 「へぇ。じゃあ今回の試験ってなに?」


 その質問を受けて、思いっきり呆れましたという表情でアルマーオを視るクレナ。彼女は覚悟を決めて口を開く。


 「進級試験だよ。これを落とすと進級できないってぇ、1年で1番難しい試験だよ、年に二回あるってんだから、やっかいなんだよねぇ。」


 「え?……それっていつのことなのクレナ!?」


 「お、おお。来週の水の日だねぇ。もう6日間しかないよ。」


 進級認定試験、学院の生徒が進級するに足る実力を持っているのか、年に何回か確認する試験のことである。筆記と実技に分かれており、共に合格点を取らなければ、問答無用で留年となる。こういった試験などの厳しさによって学院のレベルは保たれているといってよい。実技の内容は毎年変わるので、今年が何になるかは関係者以外分からない。


 「えぇ!? こうしちゃいられないや。クロ、かえって勉強だね!クレナ、ありがとう!明日は学校行くからね。」


 「お、おお。待ってるよ。」


 クレナの挨拶を聞いたか聞いてないかのタイミングで1人と1匹は走り出す。家に帰って、復習を念入りに行うためだ。その表情は、鬱屈としておらず新しいことへの挑戦に輝いていた。



 こうして召喚術師は出かけた。出かけた先で手に入れた知識は彼を助けもするが、危険へと誘いもするのだ―

 

 ここまで読んでくださりありがとうございます。

 評価や感想、ブックマークなどしていただけると、とても嬉しいです。

 よろしくお願いします。



 さて、今回の話ですが、ケンカードの街並みを表現してみたくて書いた話です。どうでしょう、イメージできたでしょうか?自分の頭の中の映像を言葉にするのは、とても難しくてとても楽しい作業ですね。分かりにくい所など有ったら感想で伝えていただけると助かります。色々と考えて訂正していこうと思いますので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。