「召喚術師は高めあう」
今回は全編戦闘シーンです。お楽しみください。
先手を取ったのはユーリ。槍を構え足を強化し飛び込んでいく。その後ろをロアンが併走したかと思うとその姿が消える。アルがそのことに驚くも、ユーリからくり出される槍の鋭さがそちらに意識を向けることを許してくれない。
「せぃっ!」
「っと!」
飛び込んだ勢いをこめた槍は、まともには受け止めずに盾でそらしつつ受け流す。槍の引きに合わせて飛び込もうとするが、その時には完全に勢いを殺して静止していたユーリの手元に槍が引き戻されている。
(は、速すぎない?)
「せぁっ!」
一突き目は顔、十字棍棒を右からぶつける事で軌道をそらす。二突き目はのど、切り替えした十字棍棒で打ち払う。三突き目は鳩尾、体勢が崩れかけていたアルは左半身になりながら盾をぶつける事でぎりぎりそらす。
(正中線三連を掠らせもしないとはっ!さすがだが…狙いはそこではない!)
左手で打ち払ったアルは若干体勢を崩しており、一瞬地面が盾で隠れる。その瞬間、アルの背筋を強烈な悪寒が襲う。
(やばい!何かわかんないけどやばい!)
自分の直感に従ったアルは、体勢など気にせずに背中側に倒れるように飛び退る。その行動と同時にアルの足元の影が膨らみ喉元に飛び掛ってくる。倒れ込みがぎりぎり間に合い、顎先を鋭い何かが切り裂いていく。飛び出していったのは漆黒の狼、ユーリの召喚獣ロアンである。
(あぶなっ!…影に潜って飛び出すことが出来るのか…距離を無視されるとまずいな。ってかこの体勢やばい!)
恥も外聞も無く倒れこんだアルは、尻餅をついてしまっている。そのため機敏な動きは全くとれない、当然ユーリがそこを狙ってくる。回転をさせながら斜め上方からアルの腹部を狙う。体の中心を狙われているため、アルは必死に動こうとしているが間に合わない。
(ロアンの影喰まで避けるとは!だがこれで!)
『ユーリ!』
槍が突き込まれそうになった瞬間、水の大鷲をユーリが襲う。クロの魔法流鷲である。槍が突きこまれる前に大鷲が直撃するタイミングであり、槍に体重をかけているユーリでは避けることが出来ない。
「くっ!?」
シーガで堅力を高めようとするが、それも間に合わないユーリは、一発食らうことを覚悟する。しかし、水の大鷲が当たる直前に影の大盾が産み出され、両者の衝突が大きな音を響かせる。
『すまない、ロアン。』
『かまわん。しかし、影の残量は今ので大分減らされたぞ。』
「ご主人様、今のは中々良い囮役でしたよ。」
「いや!狙って無いけどね!勝手に囮にしただけでしょ!」
アルも今のやり取りの隙に体勢を立て直し、心構えを新たにする。
『ロアンの能力は影だね。距離を無視されるのは厄介かも。気をつけてね、クロ。』
『姿を消した場合は思念にて警告を発します。ご主人様はユーリッシュ様にご注意を。』
軽口を実際の音に乗せつつも、思念で作戦を立てる。中々に難易度の高いことをしているが、最初から思念でやれば良いだけなので意味は無い。
『次はこっちから行ってみようか。旋風雷を3連、ロアンにけん制でよろしく。』
『ユーリ様の槍の間合いにはご注意を。』
「了解っ!!」
シーガを体の周りで練り上げつつアルが突っ込む。3歩目までは普通に、4歩目からは徐々にシーガで瞬力を強化する。速度の変化でフェイントをかけるためだ。ロアンが前に出ようとしたところに、クロの尾から旋風雷が撃ち出される、雷は水よりも早いが衝撃力は下がる、雷による麻痺での時間稼ぎが狙いだ。
「ユーリ アルがシーガを練っている 気をつけろっ」
速い足運びで飛び退り、一発目を避けるが、二発目が変化をつけながらロアンに襲い掛かる。ユーリから離れていく方向へと誘導されていくロアンだが、焦りは無い。
『我が主は 生半可なことでは倒れん その隙に クロ 貴様を狙う! ユーリ 引き付けろ!』
『承知した!頼んだぞ、ロアン。』
アルの速い足運びを読んで槍を突き出すユーリだが、それを更に読んでいたアルは瞬力の強化をやめており、結果的に槍はアルの手前で止まる。引き戻す動きに合わせて飛び込む一歩には最大限の強化を施し最速で飛び込むが、ユーリの引き戻しは更に速い。
(その程度では!私の槍に貫かれるのみだ!)
「甘いよ、ユーリ!」
「はぁ!…くっ!?」
突き込もうとした槍が、何か硬いものにせき止められたために前に進まない。アルの産み出したシーガの盾が突きこまれる前の槍先に固定されており、速度に乗る前の槍では貫けなかったのだ。この隙にアルは槍の間合いに踏み込むことに成功する。
「っりゃぁああっ!」
狙いはユーリの左手のプロテクター。アルはアイクウとの約束から、ユーリを怪我をさせるわけにはいかなかったからだ。
(あ、アザぐらいは許してくださいお母様!)
しかし、この行為はユーリの逆鱗に触れることとなる。
「舐めるなぁああああ!!!!」
ユーリの体が一瞬にして燃え上がり、さらに次の瞬間には身を包んだ炎が弾け飛ぶ。ユーリの操る火の魔法炎舞である。自らの体を炎で包んだあとに、短距離ではあるが周囲全体に爆風を散らす攻防一体の魔法である。
「えぇ!?まにあえっ!」
棍棒がプロテクターに当たる直前であったため、避けることは不可能。棍棒が炎に包まれ弾け飛ぶが、アルは瞬間的にその身をシーガの膜で包む。結果、爆風で吹き飛ばされはしたが保護は間に合い、バク転の要領で足から着地を決め追撃に備えることができた。ただし、炎に包まれた十字棍棒は半分ほど燃え尽きて炭化している。
「アル、なぜ今の一撃で篭手を狙った。……どこでも狙えたはずだ。私を見下しているのか?」
追撃を選ばなかったユーリではあるが、平静な彼女には珍しく怒り狂っている。手加減されるということが酷く彼女の心を傷つけたのだ。
(私は、同格ではないと言いたいのか…。)
「違うよ。確かに僕には縛りがある。それは僕にとってとてつもなく重たいものなんだ。その縛りを守りつつ、この模擬戦にも勝利する。二つの厳しい条件を超えることで、きっと僕は今以上に成長できる。君を見下してはいないけど、今日の僕の全力はこの縛りを守りつつ勝利することに注がれるよ。」
アルにとっては不利にしかならないアイクウとの約束だ。だが、彼にはそれを破るつもりは無い。それはどれほどの怪我を負おうとも覆ることはないだろう。アルにとって、アイクウとケンソーは人として異端である自分を受け入れてくれた恩人であり、無二の愛情を注いでくれる大切な両親である。その両親との約束は、彼にとっては守るべき絶対の掟なのだ。そのことをどれだけ愚かに思われようと、彼は意志を貫くだろう。
「そうか…ならばその縛り…守っていられるほどの余裕など無くしてくれる!炎槍・重炎牙!!」
ユーリの構えた槍が燃え上がると同時に、叫んだ彼女が猛烈な勢いで直進してくる。ユーリの手が直接握る木の槍は伸び上がるように腹部を狙い、炎の槍は木槍から離れて上から喉元を狙う。木と火の槍が牙のようにアルに襲い掛かってくるのだ。人間は上と下を同時に狙われると非常に回避がしにくい。空手の山突きがスポーツ武術で禁止されている理由でもある。
「くぅううぅっ!」
左手の盾で腹部をかばい、右手を前に突き出してシーガの盾を三層構築する。炎の一撃を重視して防ぎ、槍は盾に託す形になる。しかし、ユーリの鍛え上げられた槍は、ただ防ぐために置かれた盾で勢いを殺せるわけもなく、左手ごと腹部に押し付けられ、衝撃が背後へと突き抜けていく。今度こそ、自分の意志とは無関係に後ろに吹き飛ばされるアルは、強烈な衝撃を歯を食いしばって耐える。何とか両足で着地するものの、そのまま2m程度後ろ滑りする。そこまでは立てていたものの、滑りきった後でアルは片膝をついてしまう。腹部を貫いた衝撃の強さに立っていることができなかったのだ。
「ご主人様!」
旋風雷をロアンに放ち牽制を重ねていたクロだが、炎槍によって吹き飛ばされた主の危機に一瞬気をそらす。その瞬間、ロアンが暗闇色の瞳を輝かせ攻勢に打って出る。
「余所見など 余裕だな!」
クロの旋風雷を闇の盾を屹立させて防ぐと、クロの目からはロアンの姿が消える。
(また、影からの攻撃ですか!甘いですよ!)
膨れ上がる自身の影に反応してクロが攻性的防御を行うために、自身は空中に高く飛びつつ尾を下に振って魔法を発動させる。発動させた魔法は尖岩、影が伸び上がる場所を狙って、地面から三つの岩の槍が飛び出していく。結果、影はクロに届かずに岩の槍に貫かれることとなった。が、貫かれた影はどろどろと溶けていくだけだ。
(影だけで攻撃を仕掛けてきたのですね。なら、本体はまだ元の位置でしょうかね。)
空中にいるクロが目を向けると、影の盾があった位置に黒い4本足の塊が見える。
(ならば、ご主人様の手助けをする機会が作れますね。)
「油断 だな」
「なっ!?」
空中にいるクロが作る地面の影、そこからロアンが飛び出してくる。不意をつかれたクロは、対策をまともに取れず必死に体をねじることしか出来なかった。爪の一撃を腹部に喰らい、三本線の裂傷が生まれてしまう。勢いに弾き飛ばされたクロは、猫のバランス感覚を生かして4つの足で着地を決めるが、傷は浅くなく血がぽたりぽたりと滴る。
(なるほど、目くらましですか…。)
クロが目撃した影の盾の場所にいた4本足の黒い塊がドロドロと溶けて行く。ロアンの産み出した影の擬態だったようだ。当然、ドーギヌ一族の主従とも目標がダメージによって弱っている所を見逃すほど甘くない。すぐさま追撃をするために行動を開始している。すべるように駆け出したロアンの足を止めたのは、シーガの弾丸。計10個のシーガ弾がロアンが駆け出そうとした地面へと突き刺さっていくため、彼はクロから距離を離さなければならなくなる。槍を突き込もうとしたユーリの足を止めたのは昇る雷。地面から3本の雷が昇るため、彼女もまた急激に足を止めざるをえない。シーガの弾を放ったのはアル、昇蛇を放ったのはクロ、それぞれがそれぞれを守った形になる。二組の主従はそれぞれ距離をとり一度仕切りなおす。
「クロ、大丈夫?」
「長期戦は厳しいです。ご主人様の左手はどうですか?」
「あんまり動かせないかな。…はあ、強いね、ユーリたち。」
「互いを信じきった阿吽の呼吸、特殊能力を上手く活用する力、共に素晴らしいですね。」
「…けどさ、負けたくないね。」
「当然です。」
相手の分析を済ませ、決意を新たにするコネカット一族。一方ドーギヌ一族はというと、互いに思念で現状を確認している。
『ロアン、影はあと何回だ?』
『2回だな。 ユーリはどうだ?かなり派手に魔法を使っていたが。』
『正直疲れてきたが、まだまだいける。』
『ならば 勝つぞ』
『もちろんだ。』
『私はアルを!』
『我は クロを!』
再度ユーリが突っ込んでくる。この主従の得意の形だ。
「せいっ!」
「今度はこっちの番だよ!」
ユーリの槍が届くよりも遠い間合いで、アルが焦げて半分になった十字棍棒を突きこんでくる。
(その間合いで、こちらに届くわけが無い。焦りで悪手を選んだ…か………違うっ!まずい!)
ユーリは槍を止め、当たらないであろう場所で突いてくる十字棍棒の延長線上から必死で顔を背ける。遅れて美しい銀髪が揺れるが、何も無いはずの棍棒の延長線で銀髪が散らばる。
(なんだ!アルの棍棒は届いて無いぞ?……もしや!)
からくりは単純である。ガゴウが用いた炎剣、ユーリの用いた炎槍と同じことだ。彼自身が操作したシーガを隠蔽の回路をこみで棍棒に纏わせているのである。先ほどの一撃は、纏わせたシーガを細くながい槍のように変形させた攻撃である。
「僕が使えば、何も特徴の無い棍棒も棍棒ではなくなる…いくよ!」
アルが右手を振るうと、纏ったシーガが伸びていきしなる。鞭のように狙いをつけた相手へと襲い掛かる。ユーリは槍で打ち払うが、アルマーオはその隙に間合いをつめ、右手の棍棒を更に振るう。槍でガードした時、ユーリは違和感を覚えた。
(違う、この受け方では駄目だ!)
自分の直感を信じて瞬時にしゃがみこむユーリ。受け止めたはずの棍棒の延長線上から風を切る音が聞こえる。ユーリには見えなかったが、曲がった刺叉のようなものが形成されており、そのまま棒立ちで棍棒のみを受け止めていると、首を押さえつけられていたのだ。
(ちっ!厄介な。操作というのはここまで厄介なのか…。)
もちろん、ユーリも召喚術師である以上、操作の適性はあるが変質への適正の方が高く、魔法陣をゆっくりと作ることは出来ても、戦闘に用いるほどの速度で運用することはまだ出来ない。
戦闘はまだ止まらない。アルはここぞとばかりにシーガを変形させて、焦げた棍棒の先に丸めて錘と成すと同時に叩きつける。錘がプロテクターを狙ってくるのを槍を横に掲げて棍棒の部分に当てて防ぐ。
(ん?軽い。軽すぎる…これではわざと防がせたよう…まずい!)
「遅いよ。捕縛完了!」
アルマーオが振った棍棒に纏わせていたシーガが槍に移っていき、アルの意思によって固められる。シーガはどんどんと槍に送られ、槍を持つユーリの手も固められてしまった。
「このまま僕がユーリの体をシーガで覆えれば、勝利条件を満たせるね。」
「ちっ……………簡単に……………諦めたりなど…せぬ!」
この時クロの戦闘もまた最終局面に入っていた。
「ふん その傷ではもう戦えまい。潔く負けを認めるんだな」
「この程度、強化を用いれば何と言うこともありません。しかし、良い攻撃をいただいたお返しに、とっておきの切り札を見せてあげましょう!湧蛇!!」
クロの尾から産み出されたのは、水で出来た三つ首の大蛇である。打ち出された蛇は三つに分かれ二つは、それぞれ左と右から円を描くように動き、背後を狙う。正面から進む蛇はゆったりと向かい、残り2匹の蛇と連携を取る。3匹の水の大蛇が同時に襲い掛かるが、それぞれ微妙に襲い掛かる高さが違うため、真上に飛んだだけでは避けることはできない。大口を開けて面積を広げた水の大蛇が疾駆し、ロアンへを飲み込む。
「その程度では 切り札とは言えんな 切り札とは こういう物だ!ゥゥウルルウウァアアアアア!!!」
ロアンが遠吠えのように吠声を放つと、彼の足元の影が一瞬にして広がりそこから影の大槍が無数に飛び出し、狼の様に当辺り全体へ襲い掛かる。
(『影狼爪』まで使わされるとはな これで影はほぼ使えないが)
飛び出していった影の槍が水の大蛇を貫き、三匹とも破裂させる。その勢いはすさまじく雨のようにロアンの周囲を濡らす。
(奴もまた限界だろう このまま決着をつける!)
水の大蛇を破裂させても消滅しなかった影の槍のいくつかが狼の様に跳ねてクロへと向かう。影の槍を見据えたクロは落ち着き払っている。
「当然ですが今のは切り札ではございません。ただの下ごしらえです。美味しい料理には入念な準備が欠かせません。」
静かに佇むクロだが、彼の尾には膨大な量のシーガが集中していた。
「ではいきましょう。わたくしの切り札、とくとご覧ください。華雷護!!」
クロが尾を振りぬくと雷の龍が産み出される。龍は蛇行しながら影の槍を蹴散らしてロアンを目指す。
(ちっ 受ける力は残っていない 避けて近接戦を挑む!)
避けるための力を蓄えて身構えるロアンの何mも手前で、突然雷の龍が四散する。当然ロアンが何かをしたわけではない。この龍は四散するための龍なのだ。
(なんだ 魔法の制御失敗か?)
四散した雷はロアンの周囲へと飛び散っていく。ロアンの周囲は水の大蛇が砕けた影響で雨が降ったかのようにいくつも水溜りができ湿っている。そう、濡れているのだ。
(む 雷が円を描いて そうか そういう魔法か!)
「雷の籠の中でこんがりと焼けるといいでしょう。」
散ったはずの雷がロアンを中心に円を描き始め、そこから何本もの柵が立ち上ると、曲線を描いてある一点で交わる。結果、半球状の雷のドームが作り上げられる。空気中や地面の水分を伝って内部でいくつもの稲妻が閃き始める。そして、雷のドームが一層眩しく輝いた直後、全ての柵から中心に向かって稲妻が走る。中心にいるロアンに避ける場所は無い。
「これを 凌げば 我の勝ちだ!! ルォォォォオオァアアアア!!!」
避けることを諦めたロアンは、残された影で自らを覆い耐えることを選択する。絶え間なく閃く稲妻の鳥篭の中で漆黒の狼は自らの全てを賭して耐え忍ぶ。
(わたくしも全てを出し切ってしまいました。これを凌がれれば確かに負けですね。ですが、凌がせなどしません!)
目を輝かせながら雷へと追加のシーガを送るクロ、彼もまた限界を超えかけている。雷と影が互いを喰おうと相克している。攻めと守りのどちらかを食い破ったほうが勝者となる削り合いに、両者ともに自身の全てを賭ける。その時、彼らの主人達もまた、せめぎ合いの中にいた。
(このまま、固定するシーガを増やして降参させる!)
「ユーリ!いくよ!!」
「させるつもりは……無い!!」
(思い通りになどさせるものか!私はまだ出し切っていない!)
固められかけていたユーリの体が爆発的に燃える。攻防一体の魔法、炎舞を発動させたのだ。しかし―
「くっ! 砕けないかっ!」
「その魔法はさっきも見たからね。」
爆発の勢いで剥がれかけるシーガを意志の力で押さえ込む。もちろん爆発の全てを押さえこめるわけではないのでアルのローブのあちこちが焦げている。彼自身も衝撃を受けているので、ダメージが入っている。
「まだだ! 私はまだやれる!! 炎槍・火甲纏!!」
シーガが爆発的に集中した後、槍から炎が噴出しただけには留まらず体全体からも炎が立ち上る。ドーギヌ一族に伝わる秘伝の1つである火甲纏は、炎舞の上位に位置する魔法である。炎舞が一瞬の爆発だとすれば、火甲纏は常時燃え上がる炎である。炎の勢いによって、相手の攻撃の衝撃を防ぎ、纏った炎を動かすことで攻撃の威力を高めることもできる。
「うそっ!? くぅうぅうう!!」
一気にユーリからの圧力が増し、シーガの固定が吹き飛ばされそうになる。しかし、ユーリもまた、まだまだ完璧には習得できていない魔法のため、制御にしくじれば一気に炎が消えてしまう危険と戦っていた。
「ぐっ……はぁぁぁあ!!」
燃え盛る炎は弱まることなくより一層、勢いを増していく。その炎の圧力に徐々に固定されたシーガが剥がれ落ちていく。
(このままいけば勝つことが出来る!)
過信ではなく確かな自信を持って判断を下すユーリ。しかし、極限状況の中で集中していた彼女はアルの変化に気付く。
(なんだ…目が…輝いて…いる?)
緑色の瞳だったはずのアルの目から光を感じる。そして、それと共にアルのシーガが勢いを増していく。
(くそぉぉお! まっだまだあああ!!)
「おぉぉおお!!」
アルの瞳が完璧な金色へと変化し、虹彩も細くなると同時に集められるシーガの量が増加していく。集められたシーガは収束し固定されユーリへと放たれる。普段は意図しなければ見えないはずの純粋なシーガも、大量に収束し固められていくことで徐々に金の輝きを持った粒が混ざり始める。その輝きは観客席の人々にも見ることが出来るようになってくる。煌くような光を持って放たれたシーガは、勢いを減じることの無い炎によって絶え間なく焼き尽くされる。金と赤の奔流が互いにぶつかり合い打ち消しあう。
「くぅうぅう!」
「はぁあぁあ!」
二人の召喚術師は互いに全く引かず、自らの力を振り絞る。互いの性別も生まれも育ちも何もかも違う二人だが、この瞬間の思いは共通している。
(ユーリに)
(アルに)
「「勝ちたいっ!!」」
二つの場所で人と獣とが、それぞれの誇りを賭けて互いの全てをぶつけ合う。
「ルゥゥウオオオアアアア!!」
「くっ!まだです!!」
「せぇぇえええええい!!!」
「りゃあぁあああああ!!!」
二つの相克の終わりは唐突に訪れる。
互いに高めあった金と紅の輝きが一気に膨張する、互いを削りあった闇と光の喰いあいは瞬間的に消える。
残されたのは力を一滴残らず出し切った人と獣の姿であった。
「はぁ…はぁ…アル…これで終わりか?」
「…そっちだって…もう火消えてるよ?」
「どうした 雷は終いか?」
「えぇこれ以上は何も出ません。ところで近接戦を挑むのではなかったんですか?」
両主従とも1歩も動き出せないほどに疲弊している。立って言葉を発するだけでも、時々意識が飛びそうになっているにもかかわらず、相手より先に倒れることをよしとできずに、意地のみで立っているのだ。
「……アル、言っておきたいことがある。」
「ん?何?」
「私の……わがままに付き合ってくれて……その…ありがとう。」
「はは。どういたしまして。」
心の淀みが全て取り払われていることに気付いたユーリは、素直な心でアルに感謝を伝えることが出来た。それを受けたアルもまた、自分の心が爽快感に満ちていることに気付いていた。言葉を交わした両者は自然に微笑むと同時にその場に崩れ落ちた。
「ユーリ!」
「ご主人様!」
召喚獣が駆け寄る。両方の主人がそれぞれとても満足げに微笑みながら気絶しているだけなのを確認すると、お互いの顔を確認し頷きあう。
「ワーオン様、裁定をお願いします。」
声をかけられたワーオンは呆気に取られた表情をしていたが、問いかけにハッと意識を戻すと慌てて近寄り両者の状態を確認する。そしておもむろに手を挙げ宣言する。
「両者同時に意識を失ったと判断する。よってこの模擬戦、引き分けとする!」
こうして召喚術師は共に高めあう。身を削り全てを出し切ることでしか得られない経験を重ねることで、より高みに昇るために――
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
というわけで決闘話でした。
全編戦闘シーンということで、今の自分に出来る精一杯の文章でかいたつもりですがいかがだったでしょうか?感想やブックマーク、評価やレビューなどいただけると嬉しいです。




