「召喚術師は相対する」
時間はしばし巻き戻る。セイクの塔演習においてガゴウとアルマーオが1対1になった時だ。
「さて、残るはオメェだけだぜ坊主。まだやるよな?」
「当然です。」
(こんなに刺激的な実戦練習は無い。チャンスは活かさないとね。)
「よぉし、その意気だ。じゃあ来いよ。」
「はい、先生! てりゃあああ!!」
飛び込むように振るわれた棍棒をあっさりと打ち返すガゴウは、退屈そうな顔を浮かべてアルマーオに告げる。
「おめぇ、手抜いてんだろぅ。」
「え……そ、そんなこと無いですよ?今の全力ですよ。」
(まぁ嘘じゃないよね。魔法は目立つから使えないし…。)
「今の…全力な。…さっきは強化を使ってたろぅが。何で今は使わねぇんだ?」
「え?だって模擬戦では使わないものだと、ワーオン先生に教わりましたし…。」
「くっだらねぇ。それは同じ程度の実力者への縛りだ。俺様とおめぇとじゃ、天と地ほどの差があんだろうが。くだらねぇ遠慮なんかすんな、魔法使って良いぞ。」
「…先生、それは強化以外も良いんですか?」
「当然だな。さぁ来いよ。ぶっ潰してやる。」
言い放ち、不敵に笑った後でガゴウは剣を正眼に構える。あたりに放射されていた威圧感が収束しアルマーオへと鋭く向けられていく。さすがのアルマーオでも、冷や汗が頬を伝うほどの研ぎ澄まされた威圧感である。アルマーオは、ふと顔を横に向けてクロを見る。
『良いかな? 良いよね、クロ』
『ご随意に。その代わり、隠すこと以上に得られるものの多い体験としてください。』
『わかった。がんばってみるよ。ありがとね、クロ。』
笑顔をクロへと向けたアルマーオは、視線を鋭いものへと変えてガゴウと向き合う。アルマーオの周囲にシーガが渦巻き始める。彼の全力を解放し始めたのだ。
(おぅおぅ。動かすシーガの量がガキの段階超えてんだろ。これで第一階位か?おもしれぇ)
ガゴウは待つ。本来の彼の戦闘姿勢は押して押し切る剛剣であるが、今回はあえて受けることとしたようだ。
(多分、長期戦にすればするほど僕は不利になる。ならやっぱり一発勝負だね。隠し玉を用意しないと…。)
アルマーオの周囲に渦巻くシーガが形を作る。縦に長い円錐、打ち貫くための形だ。それが全部で十個、いや十一個。最後の一個は隠蔽の回路を起動させながらアルマーオの背面で形成される。この一発が、彼の奥の手である。
「ふぅぅ……くっ……。」
(さすがに十一個のシーガ弾を同時起動させるのは辛いな。けどこれに、強化を重ねる!足の瞬力を強化…完了。)
(お?足元のシーガが吸い込まれたな。強化もあの精度で出来るたぁ、すげぇじゃねぇか。あのシーガの弾たち、どう使ってくんだ?くくっ楽しくってしょうがねぇな。)
互いに言葉を交わさずとも、弾の配置、足の置き方、目線などから意図を読み解くことはできる。もちろん、アルマーオはほとんど読み取れず、逆にガゴウには意図を読まれていく。だが、アルマーオの狙いは、こちらの意図を読みきったと思わせた後の油断である。読み取られることはデメリットだけではない。
(よし、仕掛ける!)
(来るな…最初の狙いは俺様の…左手か…)
「はぁっ!!」
「来いやおらぁ!!」
アルマーオは強化した左足の力を解放し、爆発的な加速と共に突っ込む。途中までは真正面に、剣の範囲の直前で左斜めに飛ぶ。狙いはガゴウの左半身。正眼から振られるであろう木剣と十字棍棒を打ち合わせ、同時に撃ち込むシーガ弾で半身の自由を奪うことが狙いだ。
「ぬるいんだよぉ!」
飛び込みながら振るわれるアルマーオの棍棒を、左手一本の木剣で打ち払う。強化した勢いを乗せたはずのアルマーオの棍棒は無強化のガゴウの木剣とぶつかるも、全く拮抗できずに吹き飛ばされる。右手が痺れて吹き飛ぶのと同時にシーガ弾を起動させ頭、胴、足を狙って放つ。しかし、片手一本で振り切ったはずのガゴウの木剣は、左手一本のまま既に下段に構えられており昇る稲妻のように振り上げられる。その過程で3つのシーガ弾は全て砕かれているが、振り上げられた木剣は止まらずに、今度はアルマーオの胴体を狙って振り下ろされそうになる。
「くぅぅう!らぁっ!」
アルマーオは自身の危険にシーガ弾を五つ行使する。吹き飛ばされたアルマーオを追って踏み込もうとしているガゴウの頭上から円錐を落とす。
「それもあめぇ!」
上から襲い掛かるシーガ弾にちらりと目をやったガゴウは、上段に構えた左手を瞬時に体をねじることで右肩の上に移動させる、そこから腰からの回転のエネルギーを用いて振り切られた木剣の速度は既に目では終えない。気付けば木剣は振り切られており、シーガ弾が五つ四散している。その間に左足で勢いにブレーキをかけたアルマーオは、右足の強化を解放し先ほどよりも速い速度でガゴウへと直進する。
「これでぇぇぇ!!」
「はん、それも見えてらぁ!」
左の肩口を狙って振り下ろす十字棍棒、下からホップするように左わき腹を狙う二つのシーガ弾、剣を振り下ろせば十字棍棒が、十字棍棒を払えばシーガ弾がそれぞれ直撃する形だ。その中でのガゴウの判断は瞬時だ。彼は、剣を手放した。
「んなっ!」
「狙いがあめぇよ坊主。」
剣を手放した左手で上がってくる二つのシーガ弾の先端を指で挟んで砕き、右手で十字棍棒を横から殴るように掴み取る。結果、アルマーオは直進した勢いをそらされ思い切り斜めに体勢を崩す。アルマーオの胴体を狙って左足が鞭のようにしなる。咄嗟にシーガの盾を二枚生成するが、ただの中段蹴りの勢いを全く殺せずに砕かれて蹴り足がアルマーオの胴に食い込む。
「ぐぇ!」
「はん、まだまだこんなものかよ、期待以下だな…」
後ろへと蹴り飛ばされるアルマーオ、だがその瞬間彼の顔が浮かべた表情には、間違い無く満足という感情が表れている。
(出来たぞ隙が!そこだ!)
蹴り足をゆっくりと戻そうとしているガゴウは違和感を感じて警戒を強める。いまだ宙を飛ぶアルマーオの表情と彼の近くから感じる謎の圧迫感が理由である。その時、アルマーオのローブの影から、隠蔽の回路の影響からひどく見えにくくなっているライフルの弾のようなシーガ弾が発射される。
(なんだぁありゃ!隙を作ってやったらとんでもねぇのが出てきたな!)
ガゴウは先ほど手放した剣が落ちきる前に左手で掴み直し、隠蔽で見難くなっているはずのシーガ弾へと正面から刺突を直撃させる。直撃されたシーガ弾は砕けずに木剣の切っ先と拮抗するかのように見えたが、シーガ弾が回転を始め、木剣を切っ先から貫通して破壊しようと推進力を上げる。このまま貫通しきることが出来ればシーガ弾はガゴウを直撃し、アルマーオの勝利となる。
「しゃらくせぇ!!」
ガゴウの叫びに呼応して彼のシーガが動き出す。半ばまで貫かれた木剣にシーガが集まったかと思えば、炎の剣へと『変質』し木剣の貫かれた部分から直線的に展開した。それによってアルのとっておきのシーガ弾は炎に飲み込まれ蒸発した。アルマーオ自身は蹴られた痛さと地面を転がった痛みから全く起き上がれず、用意した隠し玉も含めた全てのシーガ弾も砕かれてしまっていた。アルマーオの完敗である。ところが、勝ったはずのガゴウが苦虫を噛み潰したかのような顔をしている。
「ちっ…思わず魔法をつかっちまった…。」
どうやらアルマーオには魔法を許可しつつも、自身は制限を加えたまま模擬戦をするつもりだったようだ。
(あの一撃には肝が冷えた。この坊主、将来面白くなるかも知れねぇな。)
この時アルマーオは、痛みに悶えながらもある思いつきに心を震わせていた。
(ガゴウさんは炎の剣を武器に纏わせた…じゃあ僕がシーガを十字棍棒に纏わせたなら…これは試す価値があるぞ!)
勝ったのに嬉しくなさそうな大人と、負けたのにやや嬉しそうな子供。そんな正反対の二人を観察する目線が二つある。1つは、後に相克武闘を挑むことになるユーリ。そしても1つは演習室の窓の外からの目線である。そこには赤錆びたローブを着た1つの影が空中に浮かんでいた。
「まだまだ未熟だけど…保険は多いほうが良い。アルマーオ君、彼はつぶそう…」
そう呟くと影は、日の光に溶けていくかのように消え去っていた。
そして現在、舞踏演習にて決闘を約束した日の夜だ。アルマーオは食卓につき尋問を受けている。当然、問い詰めているのは母親のアイクウである。
「アルマーオ、何をどうして女の子と相克武闘をすることになったの?ちゃんと言いなさい!」
「え、えと。女の子の方から手袋を渡されて…」
「どうして受け取るの!お母様言ったよね、女の子には優しくしなさいって!どうして受け取るの!」
アイクウが両手で机を何度も叩く。その仕草もふわりと柔らかくどこと無く愛らしさを感じさせる。怒りで頬を膨らませる様子も可愛らしいという評価を万人が下すだろう。しかし、怒られているアルマーオからしてみると、初めて見るアイクウの怒りの様子に気圧されている。
「ご、ごめんなさい!」
アイクウの微笑ましさを見るために、自然に息子を見捨てていた父親のケンが、笑いながらフォローに入る。
「アイ、実際に受け取らなかったりすると、相手の女の子に恥をかかせるよ。アルマーオのとった行動は最善さ。」
「ケン!でも……女の子なのよ?」
「そうだね、普通は同性でやるものだね…けど、申し込んでくる相手によるんじゃないかな?アルマーオ、相手は誰だい?」
「えっと、ユーリです。」
「家名も含めて。」
「あ、はい。ユーリッシュ=ドーギヌさんです。」
「「………。」」
アルマーオが家名も含めてユーリを紹介した瞬間、一気に家の中の空気が凍りつく。
「あ、あの、どうしたんですか?」
「よりにもよってドーギヌ一族か……。アルマーオ、もちろん知ってるよね?彼らが召喚術師であると。」
「はい、もちろんです。」
「彼らは私たちと違い、始祖の代からずっと王家を支えており、一流貴族のままだ。それでいながら貴族よりも武人としての色合いが強い一族だ。都市の警備に関わる部署は、ほぼドーギヌ一族が占めているといって良い。さてそこで質問なんだけどねアルマーオ。そんな家の長女から喧嘩を売られるような目立つことをどうしてやったのかな?」
ドーギヌ一族は武人としての地位を確立している一族である。武の名門として家で道場も開いており、そこに通う貴族の面々とも強固なつながりを有している。この一族に目を付けられるということは、ケンカードの街中で気の休まる所はほぼ無くなるということと同義なのだ。
「えぇ!?ぼ、ぼぼぼくは何もしてませんよっ!?」
「普通ね、女性から男性に相克武闘を挑むのはよっぽどのことが無いとあり得ないんだ。それこそ、女性に恥をかかせるようなことをしたとかじゃないとね。」
「アルマーオ!何をしたの!!」
「えぇぇ!?な、なにもしてないですよぉおおぉ!」
無実の罪で問い詰められるアルマーオの顔は、もうほとんど泣く寸前である。目を潤ませて傍らに座るクロに助けを求める。
「はぁ。お二人とも、ご主人様は確かに何もしておりません。ただ、無実というわけでもないんですが…。」
「アルマーオ!」
「えぇ!?クロぉぉお!」
アルマーオがアイクウに襲われる。アルマーオは目を白黒させて助けを求めるが、クロはケンソーと話しておりさらっと無視をされる。
「どういうことだい?クロ。」
「まあ、端的に言えば、実力を見せすぎたのです。」
「なるほど……ん?どこでだい?」
「セイクの塔演習です。教師のガゴウ様が、ご主人様を煽りましてあれは仕方ないとは思うのですが、その後からユーリ様の見る目が変わっておりました。」
「炎剣のガゴウか…なるほど…彼が相手じゃ実力は隠せないね。おかしいな、セイクの塔演習の教師はガゴウじゃないはずなんだけど…。」
「貧乏くじと申しておりましたから、何か問題があって代わりにいらっしゃったのではないでしょうか。」
「とても勉強になる演習でしたよ!お父様。」
「ん…アルマーオにとって幸運だったのか不幸だったのか…悩ましいね。」
「ん~!アルマーオ、決闘はもう仕方ないわ。女の子に恥をかかせちゃいけないものね。けど、絶対に怪我はさせちゃだめだからねっ!」
「えぇ!?そ、それはかなり難しいのですが…ユーリはとても強いので…」
アイクウが方向を変えてアルマーオにハードルの高い要求を突きつける。当然、必死になってアルマーオは抗弁するが、アイクウは揺るがずきっぱりと言い切った。
「関係ありません。あなたがケンの息子なら、女の子はしっかりと守りなさい!」
「……お父様ぁ~。」
「そんなに情けない声を出しても駄目だよ。こうなったアイは無敵だからね。頑張らないとね、アルマーオ。」
「ご主人様、わたくしとしてもユーリ様が傷つく所は見たくありません。勝つときは無傷で勝って下さい。負ける時はまぁ派手に負けた方が良いでしょう。」
「クロ…容赦ないね……。」
「まあまあ、無傷で勝てるように修練を積めば良いんだよ。今日からは私も付き合うからさ。」
「本当ですか!あ、じゃあお父様、僕ちょっと試したいことがあるんです!」
こうしてコネカット一族の日々は過ぎていく。ある意味で身内に最も厳しい一族かもしれない。アルマーオは高い関門を突破するために、いつも以上に激しい修練に臨むことになる。
「ユーリッシュ……なぜこのような軽挙をしたのだ。」
広い食卓に硬質な言葉が響く。言葉を発したのはドーギヌ一族の長、キグン=ドーギヌである。ユーリと同じ銀髪であるものの、短く刈り込まれたそれは鈍い輝きであり、ともすれば灰色にも見える。細く絞り込まれた肉体も見事に鍛え上げられており、全身から発する闘気も相まって鋼を連想させる男だ。
「お言葉ですが、父上、私は軽挙だとは思っておりません。」
「何故だ。」
「我らドーギヌ一族の真髄は武です。同じ召喚術師の一族であるコネカット一族の実力は測る必要があります。」
「必要は無い。コネカット一族が没落から脱したのであれば、歓迎すべきことだ。それ以上でもそれ以下でも無い。」
「ですが、私たちドーギヌとコネカットの武の差を知らしめるのは無駄ではないはずです。」
「無駄だ。我らの強さは我らが知れば良い。そもそも強さとは他者に誇るものではない。」
「ですが!…ですが…私は知りたいのです…。」
始めは落ち着いて声を発していたユーリだが、鋼のようなキグンの声は小揺るぎもせずに放たれ、彼女の言葉を砕いていく。そもそも彼女にも分かってはいるのだ、自分の行いがただのわがままであると。しかし、どうしても知りたいと思う衝動を抑えることが出来なかったのだ。彼と自分のどちらが強いのか。武を奉じる自分の実力がどこまで通用するのか。ただただ知りたくなったのだ。
「あなた、その様に断じてはユーリも何もいえなくなってしまいますよ。」
助け舟出したのは、ユーリの母でありキグンの妻であるソーリン=ドーギヌである。深い青の長髪を後ろでシンプルに1つまとめ質素な服装をしてはいるものの女性らしさを強く感じさせる長身の女性である。慈愛を感じさせる顔つきを柔和に微笑ませているが、ケンカードを代表する槍の名手である。道場主でもあり、ユーリの槍術の師でもある。
「しかしな、ソーリン。相克武闘というのは、そう軽々に行うものではないぞ。しかも自分から男になど…信じられん。」
「あら?私も男性に相克武闘を挑んだことは何度かありますわよ。私のことも信じられませんか?」
「ソーリン…それは…。」
鈴の音のようにころころと響く笑い声をあげてソーリンが告げれば、キグンが珍しく表情を苦いものへと変える。彼女の言う相克武闘は、結婚を嫌がっていたソーリンが見合い相手に軒並み吹っかけていたものであり、その最後の相手がキグンだったのである。唯一ソーリンに勝利したキグンは、しかしすぐには結婚せず、手紙のやり取りや道場での修練などを通して徐々に思いを伝え、それにソーリンが応えた形で両者は結婚した。いうなれば、女性側からの相克武闘の挑戦は、二人の馴れ初めの最初になるものなのだ。
「ユーリ、こちらへいらっしゃい。お母様にあなたの気持ちを教えてちょうだい。」
ソーリンが手招きすると、ユーリは素直に母の元へと向かい隣の席に腰を下ろす。ソーリンは娘を温かく抱きしめ髪を撫でながら、ユーリの心のうちを解きほぐしていく。
「あなたがそのコネカット家の少年と戦いたいと思ったのはどうしてなの?」
「単純に知りたいと思ったからです。私と彼と、どちらが召喚術師として優れているのか。私のこれまでの修練の全てをぶつけてみたいと思いました。」
「それは、私の道場の兄弟子たちでは駄目なの?」
「兄様たちは年上ですし、召喚術師ではありません。我が一族とは違う召喚術と戦闘術、そういったものにドーギヌの技をぶつけてみたいと思いました。」
「そう、それではあなたの思いをかなえてくれるのは、その子しかいないわね。」
ソーリンの問いかけに、ユーリはこくりと静かに頷いた。母に良く似た蒼穹の色をした目が不安げにゆれる。彼女は両親を深く尊敬しており、本当なら迷惑をかけるようなことはしたくないのだ。だが、どうしても同じ召喚術師であるアルマーオに全てをぶつけてみたいと思った。その心を留めることは、いまだ幼いユーリにはひどく難しいことだったのである。
「そう。あなた、ユーリの初めてのわがままよ。許してあげても良いんじゃないかしら。」
しばし、妻と夫が無言で視線を交し合う。そこには言葉にならない思いのやり取りがあった。
「………はあ、分かった。相克武闘を認めよう。」
「お父様!ありがとうござ―」
「ただし!ただしだ…。」
喜びに表情を輝かせるユーリを、片手を出して制止するキグン。続く言葉は、父というよりは家長としての重みを持った言葉となった。
「同じ召喚術師に敗北することは許さん。決闘に望む以上、自分の全てを賭けて勝利を掴み取れ。いいな。」
その言葉を受けてユーリは立ち上がる。そして父の目を見据えて力強く断言した。
「私の全てを賭けて、勝利を掴みます。」
こうして両者は一週間の準備を重ねた。その間、通常の授業もあったが平素と変わらぬ態度で二人は学院生活を送っていた。間に挟まれたクレナのほうがよっぽど緊張感を漂わせており、二人からからかわれていたほどだ。その頃には二人の決闘話は大いに噂されており学院中を駆け巡るほどになっていた。観覧の申し込みが相次いだため、学院側も事情を考慮し比較的狭い武術演習室ではなく、試験などの際に用いられる観戦場の開放を決定することとなった。ユーリやアルは、見世物ではないとワーオンに撤回を求めたが「後輩や同輩たちへの刺激になる、教育的効果は大きい」といわれてしまうと、元の理由が私闘であり場所を貸してもらう身分では中々抗弁できなかった。
そして、ついに相克武闘当日を迎える。
「…おはようユーリ。良く眠れた?」
「おはよう、アル。当然体調は整えた。そちらも大丈夫だな?」
「もちろんさ。」
観戦場の中心に歩み寄り対峙する二人。それぞれ制服の運動着にプロテクターをつけ、アルは十字棍棒と小型カイトシールド、ユーリは長さ1m半程度の木槍を持っている。いつもと違う所といえば、アルの横にはクロが控えており、ユーリの横には黒い狼のような獣が控えていることだろう。
「君がロアンかい?はじめまして…じゃないけど…なんていえば良いのかな。」
「姿を見せるの初めてだからな。自己紹介をしよう、我は『深き森の黒き牙』ロアン。ユーリの召喚獣だ。」
そう自己紹介をしたロアンは黒一色の獣である。体毛から瞳そして牙に至るまで、全てが闇のように深い黒の色をしている。大きさは体胴長150cm、体高80cm程度の中型の狼といって良い姿をしている。俊敏さと周到さを感じさせる狩人である。自己紹介をしていると、二人の間にワーオン教師が近づいてくる。今回も彼が立会人をするようだ。
「では、二人とも、準備は良いかね。」
「はい。」
「大丈夫です。」
観覧席は半数以上が生徒で埋まり、大人の姿も見える。耳の早い貴族たちが噂を聞きつけ、ユーリの実力を確かめにきているのだ。中には暇つぶしに来たのだろう挑戦者たちの姿もある。ワーオンが離れ、両者が武器を構える。当事者の二人はもちろん観覧席の傍観者たちも緊張感を高める。ワーオンが手を挙げ勢い良く振り下ろしながら宣言する。
「始め!」
1人と1匹が勢い良く地面を蹴り、相克武闘が始まる。もう片方は待ち構え迎え撃つ構えだ。
こうして召喚術師は好敵手と相対する。自身の技量と修練の意味を確かめるために、胸を焦がす思いを晴らすために、その先に待つ自身の成長を信じて―
ここまで読んでくださりありがとうございます。
評価や感想、ブクマ、レビューなどいただけると作者は非常に喜びます。
気が向いたらでかまいませんのでよろしくお願いします。
戦闘にいくといっていけませんでした! 次こそは丸々戦闘に使います!




