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金目の召喚術師 ~猫狂いは二塔に挑む~  作者: 鼻血魔人
召喚術師は挑戦者へと至る
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「召喚術師は登る」

 

 「お母様、サイシ夫人という方が、一度お母様にお会いしたいと言っていたのですが…。」


 「サイシ夫人?…どなたかしら?」


 「えーと、『愛裁』の愛好者だそうですよ。」


 「あ!?『愛裁』!…駄目!だめよアルマーオ!その名前で私を呼ばないで!」


 「え?お、お母様?」


 「アルマーオ、アイはね、その名前が恥ずかしいだけだよ。」


 「ケン!」


 「恥ずかしい…ですか?」


 「そう。仮名が必要だなんて知らなかったらしくてね。その場でぱっと思いついた名前にしたらしいんだ。良い名前だと思うけどね。」


 「ケン!やめてってば!あの時は、こうケンとのデートだったからはしゃいじゃってて!」


 「私の口を閉じさせたかったら、君の唇を重ねてくれれば良いんだよ?アイ。」


 「ケン…ん、大好きよ。」


 「私もだよ…愛してる。」


 「……ねぇ、クロ。この光景ってあまり当たり前じゃないのかな?」


 「当然です。ここまで仲睦まじいご夫婦は希少です。ですが、何恥じることも無いでしょう。互いを愛し合うことが出来るのは素晴らしきことです。」


 「だよね。ところでお母様、結局サイシ夫人はどうしましょう?」


 「ん…そうね、今度作品をアルマーオに渡すから、それで許してもらいましょっ。」


 「それがいいだろうね。ところでアルマーオ、今日は演習の日だったかい?」


 「はい、お父様。今日はセイクの塔演習です。」


 「教師は確か…あの人か……アイ、今日は湿布を用意したほうが良いと思うよ。」


 「湿布?…分かったわ。」


 「アルマーオ、今日もしっかりと頑張るんだよ。」


 「はい、お父様!」


 今日も今日とて仲良し夫婦の一幕を眺めながら、アルマーオは支度をする。父親の不吉な言葉に不安を持ちながら、最近は楽しみなことも増えてきている学院へと笑顔で出発していく。それを見送る両親もまた微笑んでいた。日々は確実に進み、アルマーオは着実に成長していた。






 「今日の天の塔演習では、私も色々と支援できると思う。遠慮なく頼ってくれ。」


 「ありがとう、ユーリ。けど、刺繍のことなら気にしないでよ。」


 「そうはいかない。私はあれでとても助けられたんだ。わがドーギヌ一族の家訓にはこうある。『恩には礼を、仇には牙を』アルマーオには礼を返させてほしい。」


 「うーん、分かったよ。困った時はよろしくね。」


 「ああ、任せておけ。」


 教室でアルマーオに話しかけてきたのは、銀髪の天使とも呼べそうなほどに整った顔立ちの少女、ユーリッシュ=ドーギヌである。今日も髪をシンプルに後ろで1つにまとめ、隙の無い着こなしでローブを着用している。彼女もまた召喚術師である。彼女の影の中には、いまだ姿を見たことは誰も無いが『ロアン』と呼ばれる召喚獣が潜んでいる。そうこうしている内に会話をしている二人の後ろからこっそりと近づいてくる影がある。赤髪の美少女、クレナバーラ=ドリューだ。


 「おっはよぅ!っておぃ、よけんなよユーリ!」


 「おはようクレナ。後ろから人に飛び掛ると危ないぞ。父上であれば斬られているところだ。」


 「はっはは!朝から冗談たぁ、ユーリも面白いやつだねぇ…って、え?」


 「ん?なぜ私が冗談を言わねばならんのだ?」


 「へぇ。ユーリの父さんって厳しいんだね。僕の父さんだったら、そうだなぁ飛び掛る直前にシーガ球で撃ち落されるかな。」


 「おぃおぃ。アルのところも変わってんだろ、それ。あたぃの親父なら、そうだねぇ。そのまま背負って遊んでくれっかな。へへ。」


 「「うらやましい。」」


 「さあ、皆様。わたくしたちが最後ですよ。演習室へと向かいましょう。」


 『ユーリ 遅れるのは良くない。』


 同年代の友というものにこれまで触れてこられなかった3人は、こういう会話が楽しくて仕方ないらしい。ついつい長話をしてしまうのを二匹の召喚獣がたしなめる。共に苦労するタイプのようだ。巨大な学院の廊下を三人がそろって歩くとあちこちから視線を向けられる。飛び級をするほど優秀な3人であり、そのうち二人が美少女であるから自然と視線を集めてしまうのだ。もっとも3人とも、自分たちへの目線などは気にしない性格であるため、そのことには気づいていなかったりする。


 「ここが『天の塔実習室』か。広い!天井高い!って、え?階段?」


 その実習室は異様な部屋といって良い場所だった。そもそも部屋と呼ぶべきなのか。入り口を開けて広がるのは圧倒的な広さの空間である。天井はどこまでも高く、50m以上はあるだろう。横幅も広い。部屋の横の長さは100mを超えている。しかしそれ以上に目に付くのが階段なのだ、室内なのにも関わらずである。


 「ふぅん、部屋の半分より先が全部階段たぁ、不思議な部屋だねぇ。」


 階段が目に付くのも当然である。クレナが言ったように室内の半分以上が階段なのだ。入り口から階段までのスペースはゲガンの塔とは違い、大理石のタイルをはめ込んだように非常に平坦な床である。それは端から端まで全て同じだ。ところが、その先がおかしい。入り口から10m程度いった所からは全て階段なのだ、フロアの端から端まで全てである。その階段は大体7mくらいの高さまで昇るようだ。登った先にはまた下と同じように10m程度の平らな空間があり、またそこから登る。全部で4つの大階段がそびえる巨大なフロアなのだ。


 「はぁ…広いねぇ…お金かかりそう…。」


 「セイクの塔の挑戦者は貴族だ、そしてこの学院の生徒はほぼ貴族。子供の出世のためにお金を惜しまない貴族が多かったということだな。」


 「うへぇ、貴族の奴らは金だせばいいとおもってんのかねぇ。」


 「そういう批判があるのは当然だがな。そのおかげでこの部屋が演習として有効な部屋になった事実は変えられん。」


 「だ、だれだ、あんた!?」


 3人、正確に言えばそのうちの2人が部屋の広さに圧倒されていると後ろから太く強い声がかかった。クレナとアルマーオが咄嗟に振り返ると、そこには軍服を軽い感じで着こなした浅黒い肌の大柄な男が立っていた。30代前後くらいであろうが、抜き身の刃のような危険性を感じさせる笑みを浮かべている。


 「状況判断が甘いな。可能性は1つしかないだろうに。」


 のどの奥で響かせるように笑い声を響かせる男。しかし、その身からでる威圧感は、全く減じていない。むしろ、増している。


 「…くっ…1つってぇのかい。…だれだってんだよ……。」


 「クレナ、そんなの1つしかないじゃない。僕らが知らない大人の人、今日は初めてのセイクの塔演習、ワーオン先生がいない、そこから考えて答えは2つ。可能性が高いのは、演習担当の先生だよ。」


 「お、坊主は察しが良いな。しかし、2つって言ったな。もう1つはなんだってんだ?」


 「それはですね、先生たちを倒す実力をもった不審者、ですよ。」


 「ふ…不審者……くく…ははは………はぁっはっははは!! 良いな、面白いぞ坊主。じゃあよ、俺様が本当に不審者だったら……どうするんだ?」


 問いかけと同時に男の体から発せられていた威圧感が殺気のレベルまで高まった。遠巻きに見ていた生徒たちからは悲鳴がこぼれる。腰砕けになって座り込む生徒すらもいるほどの殺気だ。それを正面から受けているアルマーオはどうしていたか。


 「クロ、逃げ道を確保するよ。クレナ、走れる?合図を出したら横からすり抜けてね。僕が少しだけ気を引くから。」


 「ご主人様、短慮は控えた方が良いと思いますが。」


 「まぁね。けどまぁ、一応準備したほうが良いじゃない?」


 「あ…アル…おめぇなんでそんなに…平然と……」


 (おぉ、こいつはすげぇ。このレベルの殺気に動じねぇたぁ。志力はどのくらいだ?この坊主。)


 「はぁ……ガゴウおじ様。お戯れはそこまでにしてください。」


 「ん?おぉ!ユーリ!お前もこのクラスにいたのか。こりゃ貧乏くじじゃなくて役得だったな!」


 「お、おじ様!もう、私は小さい子ではないので、抱き上げないでくださいっ。むぅぅ。」


 ガゴウと呼ばれた男がユーリに気づいた途端、殺気が嘘のように消え去ってしまっている。男は勢いよくユーリを抱き上げるとデレデレした顔で頬ずりをしようとしている。ユーリは全力で手を突っぱねてガードしているが、本心から嫌がっているのではない暖かな空気がある。


 「ね。言ったでしょ?大丈夫?クレナ。」


 「落差激しすぎんだろ、立ってらんなかったぞっつぅんだ。…はぁ。」


 「おじ様、そろそろ下ろしてください! もうっ、後でお母様に言いますよ? んんっ。こちらは第二聖鍵騎士団副団長のガゴウ=ソウト様です。」


 「だ、第二騎士団副団長って……え、「炎鬼」のガゴウか?」


 「なんだ、俺様はガキんちょにも知られてんのか、まあ嬉しくは無いけどな。改めていうのも面倒だな、俺様が今日はお前らの教師役だ。」


 第二聖鍵騎士団副団長「炎鬼」のガゴウ。炎の魔法と剣術を組み合わせ、引くことを知らずに責め続ける剛剣の使い手である。荒い気性ではあるが、部下の面倒見はよく、慕われている。ユーリッシュの母、ソーリンの弟である。姪っ子のユーリッシュにはべた甘のおじさんであるようだ。気を取り直した生徒たちに整列の指示を出し、階段の前で横一列に並ばせるガゴウ。木剣を肩に担ぎつつ辺りを見る彼からは威圧感が出続けている。これは、どうも無意識であるらしい。


 「よぉし、がきんちょども。この中でセイクの塔を実際に登ったやつはいるか?あぁ、ユーリは除くぞ。」


 「「「………」」」


 「それじゃあ、この演習室が金の無駄遣いに見えるわな。けどまあ、俺様も最初はそう思ってたしな、仕方ねぇな。」


 「はい先生!この階段がセイクの塔にもあるってことですか?」


 「ん?さっきの坊主か。あぁ、そうだ。まぁこんなもんじゃねぇけどな。セイクの塔ってのは道行はものすごく単純なんだよ。ゲガンの塔と比べると圧倒的に簡単だ。時々ある罠に気をつけるだけで良い。我獣たちも襲ってくる場所が決まってる。まぁ、ものすげぇ簡単なんだよ。1つを除いてな。」


 「ユーリ、あんた登ったことあるんだろ?その1つってなんなんだぃ?」


 「……どこまでも続く登り階段だ。」


 「そう、今ユーリが言ったとおりだがよ、セイクの塔で平らなのは部屋だけなんだよ。それ以外はずっと階段だ。空間が歪んでんだがなんかわからねぇが、明らかに見た目以上に登らされんだ。だから、セイクの塔で重要になんのが堅力だ。」


 「堅力…敵を打ち倒す豪力ではないのですか!?」


 「あぁん? いるんだよなぁオメェみたいな勘違いした馬鹿が。豪力だけ高めてりゃなんとか思ってんじゃねぇの?馬鹿かっつうんだ。無限に続くように思われる階段を登った後に、我獣と戦わなきゃならねぇ。豪力だけ高めてたらな1階層だって突破できねぇんだよ。」


 「ですが、敵を倒せねば突破は出来ません!」


 「当たりめぇだろうが馬鹿かおめぇ?俺が言ってんのは鍛える力の優先順位だ。どれも鍛えなきゃ塔の突破なんざできねぇんだよ。」


 「ば、この私に向かって馬鹿とは!!」


 「うるせぇな。じゃあやってみっか?俺はこの最上層で待つ、そこまで走って来い。そこで模擬戦やってやる。」


 「良いでしょう!私の力をお見せします!!」


 「はいはい、あぁ、ついでだ。おめぇら全員で走って登って来い。じゃ、待ってるぞ。」


 そう告げるとガゴウは勢い良く地面を蹴りつける。一度の跳躍で階段の半分以上昇ってしまっている。あっという間に最上層に登り、生徒たちへと手を振る。

 

 「おーぃ。あがってこーい。」


 「副団長高なんだかしらんが、私を馬鹿にした報いを受けさせるぞ!!」


 コウゴウを先頭に生徒たちがどんどんと登っていく。アルマーオたち三人は、やや出遅れている。


 「…いかないのかい?」


 「んー、なんでみんなまともに走ってるのかなぁと思って。」


 「アルは気づいたみたいだな。先ほどおじ様がやっていたのだがな。誰も気づかぬとは…。」


 「ん?あれかい?足の強化かい?」


 「あ、クレナも気づいてたんだ。そう、ガゴウ先生は魔法使ってたのに、何でみんな使わないのかな?ってさ。」


 「気付いていなかったのだろう。端なら邪魔はされなさそうだな。クレナは足の強化はできるのか?」


 「あぁ、あたぃの戦闘スタイルだと速度が大事だからねぇ。」


 「よし!では行くぞ!」


 そう言うと、3人はシーガを足へと吸わせて瞬力を強化する。圧倒的なスピードで3人は階段を登り始め、三つ目の階段のところで先頭を走っていたコウゴウを抜き去る。一番はユーリ、次にアル、最後がクレナという順番だ。


 「ふぅ…アルもクレナも速いな。」


 「いやいやユーリ速すぎだよ。」


 「はぁはぁ…なんで……二人とも息切れしてねぇんだよ……はぁはぁ。」


 クレナは到着と同時に床に倒れこんだ。ユーリは多少荒い息と大粒の汗をかいている。アルマーオにいたっては汗がうっすらとにじんでいるだけだ。


 「私は訓練しているからな。」


 「僕も毎朝走ってるしね。堅力は低くないよ。」


 「はぁはぁ…あたぃも…走る…かなぁ…ふぅ。」


 そんな三人を満足げに眺めていたガゴウは、目つきを鋭く変えて下を見る。そこにはコウゴウが頂上まであと10段の所まできていた。ただし、かなり息切れをしており、戦えるような様子ではない。そんなコウゴウにため息をついてガゴウは声をかける。


 「そんなざまですぐに戦えんのかぁ?あぁん?」


 「はぁはぁ…く……はぁ…げほっげほっ…。」

 

 「答えることすらできねぇとはな。まあ良い。他のが着くまで待ってやるよ。」





 それから3分程度で、生徒全員が最上層に到着する。ガゴウは生徒全員に壁にかかっている(最上層に木剣などが設置されていた)模擬剣を取って濃いと指示を出す。それからコウゴウと向き合い、木剣を肩に構える。


 「いいぜ、来いよ。」


 「私を散々馬鹿にして…覚悟しろぉ!!!」


 「はいはい、疲れてっから大振りになるだろ?そうすると隙が大きくなる。で、こうやって攻められると。そこが空くからここを斬られるよなっと。」


 「くっ…ぬぁ…ぐぇ!」


 コウゴウの剣に対して、ガゴウは何も構えずに横に避け、顔を狙って剣をだし、よけてよろめいたわき腹を剣で薙ぐ。剣速自体は普段のコウゴウであれば避けられそうな速さであるのは、当然手加減しているからだ。


 「いつもなら避けられるのに避けられねぇのは、堅力が足りねぇからだ。全力疾走だったからとか良いそうだがよ、本物の塔はこの何倍も階段が続くんだ。分かったか?分かったらさっさと起き上がれ馬鹿が。」


 「う、うぅぅ、うぅぅぅ。」


 「ちっ、つまんねぇな。たった一回で折れるたぁ心が弱すぎんだろ。 んー、よし全員一斉に俺にかかって来い。」


 コウゴウはわき腹を押さえてもだえたまま涙を流して倒れ伏している。そんな惨状を見た後でかかって来いといわれても、動き出せるものは中々いないだろう。


 「しかたねぇな。俺の服に一回でもかすることができたら、そいつはこの後の演習チャラにしてやるってのはどうよ。」


 「この後の演習…ですか?」


 「おぅよ。全力階段登り30本だ。どうだ?嫌だよな?嫌ならどうする?俺様に一度でもかすらせりゃ無しにしてやるぞ?残り全員でかかってくりゃ当てられるかもよ?」


 凶暴な笑みを浮かべながら挑発するガゴウ。生徒たちは互いに顔を見合わせて決意を固めると、じりじりと輪を狭め始める。


 「おぃ。どうすんのさ?いくのかい?」


 「待てクレナ。あの人数では連携も何もあったもんじゃない。」


 「そうそう、ここはこの3人で挑んだほうが確率高そうだよ。」


 ユーリもアルも何気なく年上の同輩たちの実力を見切ってしまっている。と、言っている間に3人以外の生徒は同時に飛び掛っていく。ガゴウは笑いながらそれらの攻撃をよけ、男子生徒には容赦なくありとあらゆる場所を、女性とであればお尻を、木剣でひっぱたいていく。


 「……あいつ…あれって手加減のつもりなのかい?…」


 「おじ様の尻叩きはな、痛いぞ…。」


 「僕はどこやられるのかな…ははは。」


 クレナとユーリが無意識に自分のお尻を手で触ってしまうほどに、良い音を出して生徒たちは叩かれている。死屍累々、あっという間に生徒たちは全滅した。


 「さあ。残るはオメェらだ。当然、やるよな?」


 「無論だ。アル、クレナ、私の指揮に従ってくれるか。」


 「「了解。」」


 「ありがとう。では一番槍は私が行くっ!!」


 「ユーリ、おじさんが軽く指導してやるよ。」


 木剣を肩におき、気楽な様子で手招きをするガゴウへと向かって、木槍を構えたユーリが足を強化して走る。続いてアルが、最後にクレナが直線になって走る。


 (さてさて。この後ユーリはどんな指示をだすかな?楽しみだ。)


 「刺突三番の後に三角陣!」


 「「了解!」」


 まずはユーリの顔を狙った突きが鋭く奔る。右に避けたガゴウが回り込みながらユーリの尻を狙うが、そこにアルが割ってはいる。振り始めていたガゴウの手を狙って十字棍棒を振るう。ガゴウが軌道を強引に変え、そのままアルの棍棒を薙ぎ払うついでにわき腹にめり込ませる軌道をとる。アルは、棍棒を当てた勢いを下にずらし、自身は剣の上を飛び前宙で距離をとる。右手を振り切ったガゴウのわき腹を狙ってクレナが鋭く刺剣型の木剣を突く。バックステップで距離を離したガゴウはその先にユーリが待ち構えていることに気付き、立ち止まる。すると、三人を頂点とした三角形の中心にガゴウが止まることになる。


 「ほほぅ。強敵対策に三角陣は中々正しいな。さて、どこまで楽しませてくれるかな。」


 三角陣のどこか1点を攻められれば他の二点が相手の背後を討つ。多対1の基本陣形である。


 (槍のユーリと盾の坊主は時間がかかる、その間に攻められるのは面倒だ。なら狙うのは当然、刺剣の嬢ちゃんだ!)


 一瞬の停滞の後にすぐさまガゴウはクレナを狙うが、クレナはその時にはバックステップで既に距離を取っていた。


 (読んでたのか!中々やるな。)


 追うことをすぐに諦めて振り向きざまにユーリの突き込んで来た槍を打ち払うガゴウ。バランスを崩したユーリのフォローにアルマーオがすぐさま入る。低くしゃがんで脛をねらう。しゃらくさいとばかりに一切ひかずに棍棒を下から切り上げる軌道で木剣が奔る。あっさりと棍棒が勢いに負けるが、盾を構えると同時に後ろに思い切り飛ぶことで激突の勢いをほぼ殺しながら3m程度の距離を開ける。ガゴウが追撃しようと踏み込もうとした未来位置に木槍が突きこまれるため立ち止まった瞬間、背中に気配を感じて思い切り上に飛ぶ。そこに体ごと突っ込んできたクレナが驚きの表情を浮かべている。


 (危ねぇなこいつら!けどな、これで終わりだ。)


 上に跳んだ勢いを剣を振る勢いに変えて、クレナの背中側から尻を木剣で叩く。突っ込んでいたクレナは避けられずにまともに食らって甲高い悲鳴を上げる。空中にいるガゴウを狙って再度鋭い突きが放たれるが、剣を振った勢いのままに頭を地面に向けたガゴウは槍の側面を蹴り飛ばして避ける。片手一本を地面につき跳ね上げて体勢を整える。そこに蹴られた勢いを利用し体を回転させたユーリから、槍の石突が突きこまれる。顔を軽く傾ける刹那の見切りによって石突をやり過ごすと、槍を下から勢い良く切り上げる。逆らうことも出来ず槍に両手を持っていかれ万歳の姿勢になったユーリの背後に悠々と回りこむと、ユーリのフォローに突撃してきたアルを盾ごと蹴り飛ばしながら、良い音をさせて木剣でユーリの尻をひっぱたく。年相応の女の子らしい悲鳴を上げてユーリが倒れこむ。


 「さて、残るはオメェだけだぜ坊主。まだやるよな?」


 「当然です。」


 (こんなに刺激的な実戦練習は無い。チャンスは活かさないとね。)


 「よぉし、その意気だ。じゃあ来いよ。」


 「はい、先生! てりゃあああ!!」





 「よーし、じゃあ今から30本な!休むなよぉ。用意、走れ!!」


 その後、アルマーオはすぐに敗れ、全員走ることになってしまった。木剣で痛い目に合わされた挙句に昇り階段を何度も走らされる、これ以上無いほどに苦痛な演習となったが、ある意味で最も実戦的な演習だったかもしれない。


 「あちち。ちくしょう…もう少しだと思ったのに…。」


 「あれは誘いに乗ったご主人様が愚かなのです。猛省してください。」


 「尻がいてぇ…あのおっさん、遠慮なしに叩きやがって、こちとら乙女だぞ!なあユーリ?」


 「………。」


 「ユーリ?」


 「あ、ああ。あれはおじ様が編み出した女兵士教育法らしい。痛みを味あわせないと変わらないが、下手な所は叩けないということで、お尻に落ち着いたらしい。分かっていて防げないのが歯がゆいな…。」


 「あのおっさん、女兵士に訴えられないのかい、まったく。」


 「あと25回、がんばろうね、クロ!」


 「了解です、ご主人様。」


 こうして召喚術師は何度も階段を登る。敗北を糧として自らを高め、いつか真なる召喚術師の高みへと登り詰めるために―


 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。評価、感想、ブックマークも本当にありがとうございます。筆者のモチベーションとなっております。これからも、努力してまいりますので、どんどん感想や評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。



 風邪を引いてしまいました。ちょっと二日後に投稿できるか分かりません。空いた時間を見つけて頑張ろうと思います。皆さんも風邪にはお気をつけください。

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