「召喚術師は連携を学ぶ」
「この一撃でっ!決着をつけてやるよ!!」
直線的に突っ込んできたコウゴウによって、大上段から勢い良く振り下ろされる木剣。その鋭さは、同世代の中でも優秀な部類に入るだろう一撃である。アルマーオが盾を持っているとはいえ、まともに受けていれば体勢を大きく崩され、次の一撃を食らって終わりだったろう。まともに受けていれば、だが。
(…なんでこの人、こんな分かりやすい攻撃するんだろう…意外と優しい先輩なのかな…。)
アルマーオは3歳のころから、父親とシーガの扱いを訓練していた。ケンソーの教えは痛みを伴ってでも重要性を理解させる方針であったため、基本的にはシーガによる鉄拳制裁が罰であった。つまり、3歳のころから6年間、幾度と無くシーガの球で打ち倒されてきたのだ。更に言えば、軌道の変化や形状の変化は基本として、同時に多数のシーガ球を打たれることもあれば、『隠蔽』の回路を刻み込まれ、認識することが非常に困難なものまであったのだ。そして、アルマーオはそれらを目で捉えて防いできたのである。何の変化も無く、ただただ鋭いだけの直線的な攻撃など、警戒に値しないのだ。
(ただ避けるんじゃ駄目だ。クロが攻撃できるように、大きな隙を作って、それでいて僕は射線から外れる…できるかな?)
アルマーオの左斜め上から、木剣が首もとめがけて振り切られる、アルマーオは受けずに回避を選択する。剣を引き付けてから、思い切りしゃがみこみ、頭上を通過させるその際、棍棒は肩のところで構えておく。相手の剣が切り返されるより速く、踏み込んできたすねを狙って、飛び込みながら棍棒を縦に振りぬく。
「くっ!? すねを狙うとはっ!なんと卑怯なやつだっ!!!」
自分の剣を切り返すことを諦め、大きく後ろに飛び退ることで回避をしたコウゴウ。その時、アルマーオは不思議な行動を見せる。相手が飛び退り、その足が着地すると思われた直前に、右に思い切り転がったのだ。バランスを崩したのではなく、意図的に横に転がり、すぐに立ち上がって盾を構える。横に転がった分、追撃の機会は失われ、また3m程度離れた状態で仕切りなおしとなってしまう。観戦した8割の生徒は「もったいない」と思い、次は攻めろと笑いながら励ましの声を送った。彼らは気づいていない、アルマーオは攻撃するために横に転がったのだ、と。
(なぜ奴は横に転がった!ちっ、視界に奴の召喚獣が写ってしまったではないかっ。不愉快極まりない!)
当然、対戦相手のコウゴウは相手の意図には気づいていない。今の一度のやり取りだけで気づいたのは、召喚術師としての実戦経験が豊富なユーリッシュだけである。笑みを浮かべてはいないものの、まだ意図を読めていないワーオンとクレナバーラの二人は、アルマーオの動きに笑えない違和感を感じているようだ。
「たまたま一度避けられたからといって、調子に乗るなよ!」
一撃で仕留められなかったことに誇りを傷つけられたのか、先ほどよりも鋭さを増した一撃を繰り出すコウゴウ、その攻撃もまた冷静に観察をし、対処を続けていく一人と一匹。
(ぎりぎりだけど、まだ対応は出来るかな…盾にも慣れてきたしね。しっかし、この人フェイントとか使わないのかな?やっぱり優しいのかなぁ。)
喉元を狙った刺突を、右に半歩軸をずらし左手の盾を剣に沿う様に前に突き出して、剣の軌道をずらして顔の横へと外させる。右足を踏み込みながら、前に出した盾の左手と棒の右手を入れ替えるように振り出し、相手の突き出した両手を狙う。慌てたように引かれた両手を無視して、振り切った右手の勢いを殺さずにしゃがみこみ、低い姿勢のまま地面を蹴り、剣の届かない範囲を測りながら、相手の右側面に跳んで転がる。両手を引いたコウゴウの目には、四肢を踏ん張りにらみつける姿勢をとったクロが映る。一瞬、召喚獣に気を取られたコウゴウの右側から、わき腹を狙った刺突をくり出すアルマーオ。とっさに右手一本で木剣を振るって棒を打ち払い、その勢いのままコウゴウがアルマーオに正対すると、初めから打ち払われることを前提としていたアルマーオは、勢いを左側に逃がすように右腕を巻きつけながら、後ろへ跳んで距離をとる。
似たような展開は、これで4度目である。このころになると、流石にワーオンとクレナバーラも気づいている。
(ほぅ…。なるほどなるほど、彼は召喚術師として、武器を扱うということか。)
(ちっ、あんのやろぅ。コウゴウを使って練習してやがる。なんにも知らねぇって顔しやがって、こっちのことからかって馬鹿にしてんのか?)
アルマーオの狙いに気づき、9歳の少年を見る目を改めるワーオンと、世間知らずの仮面をかぶって、生徒たちを馬鹿にしていたのではないかと邪推して、イラつき始めるクレナバーラ。両者に共通していることは、アルマーオを評価し始めた、ということだ。一方で、最初から意図に気づいて観察していたユーリッシュは、また別の視点で模擬戦を見つめている。
『ロアン、やはりあの召喚獣は遠距離戦を主体とするようだな。あの連携をどうみる?』
『ふん まだまだ拙いし荒い。狙いも分かりやすく変化に乏しい。実戦ではまだまだ使えないだろう…が、術師の様子から見るに、これが生まれて初めての模擬戦のはずだ。と、考えると可能性を感じるという評価になるか。』
『なるほど、私も同じ評価だ…が、ふふっ。』
『む? どうした?ユーリ?』
『いや、ロアンが珍しく饒舌だったからな。よほど気になっているのだろうな、と思っただけだ。』
『む……むぅ』
影の中の相棒と思念で会話をしつつ、冷静に評価をしていた。だが、気にしていないふりをしながら気にしてる様子を隠せていない相棒に、思わず笑みの思念をこぼすユーリッシュ。それに不満げにうなりながら黙るロアン。ほんわかした主従の様子ではあるが、思念上のやり取りなので一切表情にはでていないのが残念ではある。
「貴様!!さっきからちょろちょろとっ!! まともに打ち合おうという気概は無いのか!いや、3流貴族の貴様にはそんなものないのだろうなっ!」
アルマーオの意図を読めず、長引く模擬戦に怒りを募らせたコウゴウは、挑発、といえるのかは分からないものを大声で喚く。が、言われた内容は、アルマーオにとっては至極当然のことであったので、改めて言われる理由が分からず、本人は思わず首を傾げそうになっている。
(体の大きな人とまともに打ち合う意味って何かあるのかな?というか3流でも貴族って認めてくれる辺り優しいなぁ先輩。だけど、あんな大声出してて息切れちゃわないのかな?)
『ご主人様、配置に突きました。次は昇蛇を試したいのですが、視線を上に向けることは出来ますか?』
『うーん、僕は背が低いからなぁ。わかったよ、とりあえずやってみる。』
「…きさまぁあ!! 私の言葉を二度ならず三度も無視するとは!! 許さん…絶対に許さん…ぜったいにぃぃ!!ゆるさんぞおぉぉお!!!」
挑発、と思っているのは本人だけかもしれないが、を無視されて、尊大なだけで薄っぺらい自尊心が痛く傷ついたのか、絶叫し目を血走らせながら剣を上段に構え、ただただ突っ込んでくる。
(えぇ?あの人なんであんなに怒ってるんだろう。空振りさせて、肩口を狙って攻撃して防御させて、跳んで頭を狙ったのをまた防御させて目線を上に向かせたら良いかな、よしやってみよう。)
一瞬驚いた顔をしつつも再度冷静に構えるアルマーオを、突っ込みながら睨み付けていたコウゴウは、にやりと粘性の笑みを浮かべた。
(そろそろ同じ展開が続いてきたな、この一回の攻防で合図を出すとするか。……ん?シーガが…いかん!)
「コウゴウ!やめるんだっ!」
「しねぇええぇい!!」
アルマーオの手前で剣を振り下ろすコウゴウ、その時、彼の剣に集められていたシーガが風へと「変質」する。
「なっ!? あのやろぅっ!何を血迷ってやがるっ!」
クレナバーラが驚きの声を上げるが、それも無理はない。この時間は武器の修練が中心であり、魔法の同時使用は禁止されている。当然、模擬戦であろうとも、暗黙の了解ではあるが、魔法は使用されないのが普通なのだ。コウゴウの取った行動は、非難の対象となる卑劣な行為なのだ。だが、頭に血が上りきった彼には、正常な判断が出来なかったようだ。
「ロアン!」
『無理だ あれをやるには 距離がありすぎる。』
「ちっ 行くぞ。」
『それも無理だ 今からでは間に合わん それに…』
「何を悠長なっ! あの年齢では防御法など知らないだろうがっ!」
ユーリッシュが槍を手に飛び出すが、距離がありすぎる。ワーオンも動き出しているが、動きが鈍い。猛烈な突風に体勢を崩しているアルマーオに、さらにシーガを風に『変質』させて追い風を起こし加速したコウゴウの突きが迫る。まともに食らえば骨折だけではなく命すら危うい一撃だ。
「しねぇえぇぇぇぃ!!!」
喉元を狙った突きに左手の盾を合わせようとするが、崩れた体勢が災いし、どう考えても間に合わない。しかしアルマーオの表情に諦めは全くみられない。刺突を受ける直前、ほんの刹那ではあるが、アルマーオの目が金色に輝いた。
ごう!と暴れる風の音と、剣が何かに当たる重たい音が響き、修練所は風が舞い上げた砂で、一瞬辺りが見えなくなった。視界を悪くしたのはコウゴウである、良く見えなかったために寸止めが当たってしまったと言い訳するためだ。怪我は公爵家の力を使えばもみ消せると信じ込んでいるコウゴウは、生意気な年下の同輩を排除できたと、悦に入っている。彼の手には、確かに何かを貫いて硬いものに直撃させた感触が残っていたのだ。
「コウゴウ!!なぜ魔法を使った!! ユーリッシュ君、治療強化魔法を使えたね?こちらへ来てくれっ。」
「いやいや先生、こういう風に組み合わせてこそ実戦でしょう?砂煙のせいでよく見えなくて、うっかり当ててしまいましたが、彼は大丈夫ですかねぇ?何か硬いものを貫いた感覚が残っているのですがねぇ…くくくっ。」
全く心配するそぶりを見せず、低い忍び笑いを漏らすコウゴウを不気味そうに見つめる級友達、殺意すら持った嫌悪の目線を向けるクレナバーラ、平静ではありながら若干批難の目を向けてからアルマーオのいるだろう砂煙の場所へと向かうユーリッシュ。そして、感謝の思いをのせて見つめる緑の瞳。
「いやあ、そこは本当に驚きました。まさか『盾』を貫かれるとは。僕もまだまだですね。」
「そうだろう、私の剛剣に反応もできていないようだったからな。」
「魔法も、模擬戦に使っていいとは気づかず、良いアドバイスをもらえましたよ、ありがとうございます先輩。」
「ふん、『使ってはいけない』というルールなど無いからな。私がより実戦的にしてやっただけ…だ? ……お、おまえはっ何故だ!?」
アルマーオが飛ばされたであろう方向へとかけよるユーリッシュとワーオンを満足げに見つめていたコウゴウは、発言者が気になり横を見て表情を凍らせた。そこには、無傷のアルマーオが微笑みながら、一瞬前のコウゴウと同じく満足げな笑みを浮かべて立っていた。
「いやぁ。本当に実戦的で勉強になりましたよ。これまでの授業で一番役に立ちました!コウゴウ先輩ありがとうございますっ!」
嫌味ではなく本心から語っているため、コウゴウにはより不気味に見える。級友たちやクレナバーラ、ワーオンも驚きを隠せていない。
「私は確かに貴様の何かを貫いたはずだっ!何故無傷で立っている!」
「え? 確かに私の『盾』は貫かれましたが、体には当たっていませんからね。怪我するわけが無いですよ。」
だが、彼の左手の盾にあるのは、多少の凹みだけであり、大きな穴などは開いていない。ならば。何かを貫いたというコウゴウの言葉は嘘だったのか、いや、これもまた嘘ではない。あの一瞬、間に合わないと判断したアルマーオは、瞬時にシーガの盾を作り上げて防いだのだ。しかし、刹那の時に作り上げたシーガの盾は固定が弱く、剣に突き破られた。コウゴウの感じた手ごたえはこの時のものである。それから、大きく勢いを減じた剣を左手の盾で防ぎ、さらに後ろへと跳ぶことでダメージを限りなく減らしたのだ。その後は、普通に歩いてコウゴウの側まで行ったのだが、『隠蔽』の回路を起動させていたので、気づかれなかったのだ。ちなみに、なぜ隠蔽を使ったかといえば、クロに勧められたからである。クロが隠蔽を勧めた理由はいくつかあるが、大きな理由の1つはコウゴウへの嫌がらせである。
『なるほど。ロアン、お前が動かなかったのはあれが理由か。』
『ふん、あの程度の魔法でやられるようには見えなかっただけだ。』
「アルマーオ君!無事かねっ。 …見たところ無傷だが…ふむ。 ところでコウゴウ、魔法を使った理由は問わない。が、私の制止を無視したのを看過するつもりは無い。減点1だ。後ほど、正式な書類を家に送らせてもらう。」
「なっ!? ワーオン先生!?」
アルマーオの無事を確かめたワーオンは、コウゴウをただで済ますつもりは無かったようだ。青筋を立て厳然とした態度で罰を告げる。それに取り乱すコウゴウと、様々なことに驚いてざわつく生徒たち。そんな喧騒を全く気にせず、アルマーオはクロと反省会をしていた。
『やっぱり実戦的な練習は効果があるね。クロとの初連携だけど、どうだった?』
『そうですね、まだまだ甘い部分はありますが、及第点かと。やはり昇蛇を使う場合の修練がしたいですね―』
クロを抱き上げて、ニコニコと嬉しそうに思念での反省を重ねるアルマーオ。そこにだけ、まったりとした空気が流れていた。
しかし、その姿をクレナバーラが見つめている。優しげな表情を鋭く変えて、怒りの空気をまといながら。
こうして召喚術師は連携を学ぶ、様々な問題を振りまきながら――
予約投稿です。
1日と2日は投稿できないと思います。
初といっていい戦闘シーンなのですが、どうでしょうか?読みにくかったりは無いでしょうか?感想や評価をいただけると嬉しいです。




