「召喚術師は武器を学ぶ」
「アルマーオ、学院はどうだい?」
「はい、お父様。正直、シーガの扱い以外を学んでこなかったことを後悔していますが、概ね楽しいです。」
「教えようとしたら、アルマーオがとーっても嫌な顔したからじゃないっ。ケンのせいにしたら、怒るわよっ!」
「お、お母様っ。も、もちろん僕のせいですよっ!」
『アルマオ 勉強頑張らないとねー がんばれー』
「カジャ、全然応援してるように聞こえないよ。 さて、私はそろそろ行くよ。今日も一生懸命学んで来るんだよ?」
「ケン、もう行っちゃうの? 怪我には気をつけてね。 んー、寂しいわっ。」
「僕もだよ、アイ。離れるのが辛いよ。 君も今日で五日連続勤務だよね?無理は駄目だよ。」
「カジャちゃんがいない時は大変だけど、今日はいてくれるから大丈夫よっ。ね?カジャちゃん。」
『 うん 今日もどんどん肉焼くよー めざせ100食!!』
「……お父様も、お母様も、最近お仕事忙しすぎませんか? やっぱり僕の学院進学が家計に負担を…あいたぁっ!」
「無駄な心配を無駄にした罰だよアルマーオ。君は気にせず学びなさい。クロといつまでもパートナーでいたいんだろ?」
「そうよ、アルマーオ。お母様は料理大好きですもの、ちっとも辛く無いわ。それより、クロちゃんがいなくなっちゃう方が大問題よ。私は家族を手放す気なんか無いわよ。」
「ケンソー様、アイクウ様。わたくしなどのために…。このクロ、コネカット一族に改めて全てを捧げます!」
「お父様もお母様も…分かりました。全身全霊で学んできます!! こうしちゃいられない、クロ、早く学校に行って図書館で勉強しよう!」
「それは良き考えにございます。制服はあちらに用意してありますので、早く着替えてきてください。」
「あらら、みんな一緒に出発ね。お皿洗ってこなくちゃ!」
「先ほど、わたくしめが済ませておきました。アイクウ様も、支度なさってください。」
「よし、歯磨き完了!行くよ、クロ。」
「かしこまりました。」
賑やかな朝の一幕である。家族全員にやるべきことがあり、前向きに取り組んでいる熱気が伝わってくる、気持ちのいい朝だ。だが、ケンソーとアイクウは、学院の授業料と貴人税の徴収への備えをするために、かなり無理をして働いている。特にケンソーは、かなり危険な仕事に従事しており、怪我が増えてきているのだが、家族の誰にもそんな弱みは見せていない。アイクウも、下町の料亭で、給仕に調理にと1日中忙しく働いている。夜中には、刺繍と裁縫の仕事もしており、睡眠時間を削っている。だが、もちろんアルマーオには言っていない。二人とも、アルマーオが知れば、遠慮してしまうだろうことを知っていたからだ。そして、そんな遠慮を息子にさせたいとは、この似たもの夫婦は全く思っていなかったのである。後に、この時のことをアルマーオは苦々しい後悔と共に思い出す。だが、当然ではあるが、今は全く二人の隠し事に気づかず、全力で学んでいるのだった。
「では、今日の1限目は 『武術修練』とする。 各々、それぞれの得意な武器はあるな。それの模擬武器を、壁からとって持ってきたまえ。」
ここは、石造りの壁で囲まれ土の地面をした部屋である。広さは、地球の小学校の体育館ほどで、壁にはありとあらゆる形をした木製武器がかけられている。ここは「武術修練室」、武器の扱いや体術を学ぶための場所だ。
「…得意な……武器?」
周りの級友達が、続々と武器を取りに行く中、アルマーオは動けずにいた。得意な武器も何も、彼は武術の修練など一度もしたことが無かったからだ。だが、この学院に学ぶ生徒のほぼ全ては、なんらかの武術を修めている。貴族たちは当然のたしなみとして、挑戦者たちの子息も当たり前に、商人の子息は護身術として、武器の扱いを学んできている。武術を修めていない子供たちも多くいるが、この学院に進学しない、できない一般市民がほとんどである。
(…お父様……やっぱりここに飛び込むのは無理があったんじゃ…。)
「ご主人様、固まっていても仕方がありません。今ここで、考えて決断しましょう。大切なのは学ぶこと、行動することです。」
「…うん、そうだねクロ。色々と考えてみようか。」
(まず、僕は召喚術師だ。ということは、前提として、必ずクロと共に戦闘に臨むことになる。連携を考えずに、武器を選ぶという選択肢は無いな。)
「クロとの連携を考えた武器が大切だね。クロの戦闘方法は、やっぱり魔法中心だよね。」
「はい、わたくしは、尾の杖を用いてあらゆる魔法で状況に対応することを望まれて創られました。立ち位置が後衛になることは間違いないでしょう。」
「なら、前衛が注意をひきつけて、クロが致命的な一撃を与えていくというのが普通だよね。」
(前に立って攻撃をするなら、長い武器は駄目。注意をひけば良いから強い威力は必要ない。そして、ある程度相手の攻撃を受け止められるもの…うーん。)
「アルマーオ君、まだかね?他の皆は、もう用意が出来ているのだがね。」
クロと向かい合って話し合いを重ねているアルマーオに、教師ワーオンが語りかける。ある程度は待っていたのだが、流石に気になったようだ。他の生徒に体をほぐしておくように命じてから、近づいてきた。
「あっ、すいません先生!…そうか。こういうときこそ、先生を頼ればいいのか。あの、先生お聞きしたいのですが―」
「ふむ、取り回しやすく、相手の攻撃をひきつける武器か…。アルマーオ君は、武術の修練もしていないのだね……。」
明らかに「何を学んできたんだこいつは?」という目を向けられてしまうが、そう思われても仕方ないので、その視線をあっさり無視してアルマーオは答える。
「はい、僕はクロと共に戦闘をすることが前提になります。後衛をクロに任せて、前で敵をひきつけてクロに注意が行かないように立ち回れないといけません。ですが、僕はまだ技術が高くありません。何かありませんか?先生。」
「その答えは実にシンプルだよ、アルマーオ君。盾と鈍器を持てば良い。」
「盾と鈍器…ですか?」
「そうだ。小型の盾で致命的な攻撃は防ぎそらし、後は避ける。鈍器なのは、剣などでは刃を立てるという高い技術が必要になるからだ。重さで切る武器もあるが、君にはまだ持てまい。ならば、ただ振って当てるだけの鈍器が相応しい。もちろん、あまり重いものは論外だがね。」
「…なるほど。僕はいいと思うけど、クロはどう思う?」
「はい、流石、銀の一号担当教師のワーオン様です。結論までの道が論理的で明快です。ご助言に感謝し、すぐに取り入れるべきだと思います。」
「だよね。ありがとうございます先生! ちなみにどの位の大きさや形が良いのか、ご助言いただけませんか?」
「…本当に鈍器でいいのかね?」
「はい!先生のご助言に感謝します!」
ワーオンが、なぜ自分で言ったことを問い返したのかといえば、ケンカードの貴族内では、刃の無い武器を軽んじる傾向があるからだ。無知な(様に見える)アルマーオを馬鹿にするつもりでしたアドバイスだったため、素直に取り入れられ焦っていたのである。もちろん、アドバイスそのものは真っ当なものをしたつもりではあるのだが、普通の貴族に同じことを言えば、軽く憤慨されたであろうアドバイスなのだ。
「…ま…まあ、それで良いなら良いのだが…。ではまずは盾からだが、まずは君の豪力と堅力を確認せねばな。今はどれくらいだい?」
その言葉にクロをみやるアルマーオ、小さく頷きを返すクロ。志力の数値は異常だが、それ以外は普通であるため、隠す必要は無い。
「はい、豪力は3 堅力は8 です。」
「ほぅ…その年で8とは。体力はあるのだね。なら少し大きくてもいいか。では、あの小型のカイトシールドにしたまえ。取り回しやすく、守りやすい。武器はそうだな、先に錘のあるものはまだ扱えないね。素直に棍棒が良いか。あの十字棍棒を使うといい。」
勧められた盾は凧に似た形をしたカイトシールド。大きさは50cmとかなり小さいが、9歳のアルマーオにはまだ大きい。十字棍棒とは、ただの棒の刀では鍔にあたるところから4つの小さな棒が十字に飛び出ているものである。長さは、30cm程度と、かなり短いが、アルマーオに扱えるぎりぎりの長さではある。やはり、ワーオンは教師として、正しい助言を行える力を持っているといえる。
「なるほどなるほど、これが盾で、これが十字棍棒。うん、なんかわくわくしてきたぞ。」
大人びているとはいえ子供であることには変わらない。武器などにワクワクするお年頃である。
「盾は、前腕をその中央に付いているベルトに通し、先にある取っ手を握るんだ。そう、そうすれば腕の動きに盾が同調してくれる。上手く受け流すように使うのだよ。棍棒はシンプルだ。最短距離を最速で振りなさい。突きも十分に有効だ。」
「ありがとうございます!なるほど、こうですね。最短距離を最速、中々難しいですね。こう! うーん。 こうか!」
「なんだなんだ君は!三流も良いとこだとはいえ貴族だろう君は!なぜ刃のついている武器をつかわないんだ!嘆かわしい!誇りというものを持ち合わせていないのかい?」
今頃になってはじめて武器を持つ様子のアルマーオを、周りの級友たちは興味深そうに見つめていた。その中には当然、学年三位のウォーザ公爵家次男コウゴウもいた。初めは、ただ馬鹿にした様子で体をほぐしていたが、アルマーオが棍棒を降り始めた段階で我慢できなくなったらしい。
「やはり今確信したよっ!君のように誇りを失った貴族が、この誉れ高きオーヴァン学院で学ぶなど許されない!今すぐ退学したまえ!」
まるで背後で荘厳な音楽でも鳴っているかのように、派手で無意味な仕草でアルマーオを指差す。しかし、指を指された本人は、気にせずに棍棒の振り方を確かめていた。
「ねぇクロ、最短ってこうかな? それともこう?」
「もう少し、肘の使い方を意識すべきでしょう。大振りにならず、小さく早くを心がけてください。」
「………この、ウォーザ公爵家次男、コウゴウを無視するとは良い度胸だ!中央に出ろ!特別に模擬戦の相手をしてやるっ!」
気にしていない、というよりは棍棒に集中していたために、気づけていなかったようだ。胸倉を掴もうとしてきたコウゴウを無意識に避けはしたものの驚いた顔をしているアルマーオ。そして、言葉を叩きつけられた後は、その内容を吟味するかのように、表情を真面目なものへと変化させている。
「あー、コウゴウ君、流石に初心者のアルマーオ君と上級者の君が模擬戦をやるというのは―」
「ありがとうございます先輩!! 僕なんかのために模擬戦なんて!! なんて素敵な先輩なんだろう!!」
苦笑しつつ、止めに入ったワーオンを遮るかのように、良く通る声が響いた。どこか棒読みに聞こえてくるのは、もちろん本心ではないからだ。
(なんで怒ってるのかさっぱり分からないけど、実践的な練習の方が上達は早いよね。良い機会だし利用させてもらうかな。)
模擬戦という名前にかこつけて、アルマーオを徹底的に痛めつけてやろうというコウゴウの思惑を、さっぱり理解しないままに大きな声をあげた主人をやや呆れがちにクロが見つめている。それ以上に周りの級友達の方が呆れきった目線をむけてはいたが。
(このアホわ…。まあ治癒術を使える生徒もいる。一度痛い目を見ておくのも大切か…。)
アルマーオの暴走に、思わず素が出かけたワーオンは、やや過激な決断を下す。が、出来る教師らしく、配慮は忘れない。
「ふむ、アルマーオ君もそう言っていることだし、模擬戦を許可しよう。ただし、試合の停止は私が判断する。停止を聞かずに攻撃した場合には減点をするから、そのつもりでいなさい。」
許可の言葉に表情を輝かせたコウゴウだったが、続けられた言葉にやや笑顔を引きつらせた。減点とは成績点の減少であり、3回たまると留年となってしまう、さらにはそのような不名誉なものを与えられる時点で、名門貴族であるウォーザの家名に泥を塗ることになってしまうからだ。
「は、はい。先生。 ちっ、行くぞアルマーオ。」
「はい先輩、よろしくお願いします。」
共に修練室の中央へと歩みだす二人。その二人を心配げに見つめる女生徒たちと好奇心を隠さずに眺める男子生徒たち。そして、体をほぐす動きをしつつも、目線だけは中央に向けている二人の美少女。
「では、これより模擬戦を始める。両者、構え。」
「君に貴族の誇りとは何たるか、教えてあげるよ。」
「あ、クロ。僕の後ろ、そうだな4m位のところにいてくれる?連携の練習しなくちゃね。」
「はいご主人様。旋風雷の想定で動かせていただきます。」
「くっ…貴様…一度とならず二度も、私の高貴な言葉を無視するとは…後悔させてやるぞ!!」
声と同時に、刃渡り1m程度の直剣(の形をした模擬剣)を大上段に構えるコウゴウ。
「たくさん学ばせていただきます!よろしくお願いしますね。」
笑顔で返事をしつつ、盾を前面に構え右足を後ろに引いて左半身となるアルマーオ。十字棍棒は、だらんと下げ体に隠れている。
「はぁ……両者とも、停止の合図は決して聞き逃さないように。では…始めっ!」
ワーオンの言葉と共に、勢い良く地面をけりつけ突っ込んでくるコウゴウ、振り下ろされる剣の勢いは鋭く速い。その様子を、アルマーオとクロは、驚くことも無く、冷静に見つめている。
こうして召喚術師は武器を学ぶ。実践練習に飛び込み、自らの体を危険に晒しながら――
明日は予約投稿しようと思いますが、1日2日は投稿できないと思います。
申し訳ありません。
ちなみに十字棍棒というは、オリジナルなのでそういうものがあったかは分かりません。




