「召喚術師は常識を知る」
ここからは何話か連続授業となります。その中で戦闘シーンも書いていこうと思います。
「さあ、早速授業を始めよう。アルマーオ君もいるので、基本的な部分から確認をしていこう。この世界の知恵を持つ生き物は三種に大別される。その全てがシーガを操ることができ、ヒラヒト様の恩寵である『自己開示』をすることが出来ると考えられている。さて、その三つとは何か、1つずつ答えてもらおう。では、誰にしようかな。」
「はい、先生。ここは、学年3位の秀才、このコウゴウにお任せください。この世界の知的生命種は大きく 人・思獣・我獣 に分けられます。人種の共通点は、二足歩行をし、高い知性を持ち、言語を駆使することが挙げられます。我々のような純粋な人種のことを 「フトウ」 獣の特徴を持つ「ジュジン」 森に住む植物の特徴を持つ「リンキ」 火山の近くに住み金属の特徴を持つ「カジト」などが代表的なヒトといえるでしょう。」
「さすがはウォーザ公爵家次男、学年3位は伊達ではないね。では、人種の特徴を述べてもらえたので、次は思獣のことを説明してもらおうか。では、クレナバーラさん。」
「えぇ?めんどくせぇなぁ。思獣ってのはよ、人種以外のありとあらゆる生き物のこった。例えば、あたぃらが食ってる肉になる、キギュウやタトンやウチョウなんかも思獣にはいるね。森や砂漠や海なんかのありとあらゆる場所にいて、意思疎通ができて共存できるやつもいればぁ、食欲のために人でも何でも襲うあぶねぇやつもいるけどな。召喚獣なんかも、思獣がだいたいじゃねぇか?」
「よろしい、説明は完璧だ。しかしクレナバーラさん、その口調は何とかならんのかね?では、残った我獣についての説明を、ユーリッシュさん。お願いするよ。」
「はい。我獣、奴らは生きとし生けるものの敵です。」
「………も、もう少し説明をお願いするよ。」
「はい。我獣は、獣や人などの色々な形を持ちますが、全ての我獣に共通することがいくつかあります。1つ、赤い眼を持つ。2つ、戦闘能力を持つ。3つ、命あるものを狙い続ける。4つ、死した後には躯を残さない。5つ、決して意思疎通を取ることは出来ない。以上です、先生。」
「大変に端的、かつ分かりやすい回答だ。さすが主席なだけはあるね。」
大きな教室に、教師の問いかけと生徒の答えが響く。ここは「オーヴァン学院 銀の一号」教室である。今は、転入挨拶の後の授業の時間である。授業の内容は「世界概要」、ムジアートという世界の法則や常識などを学ぶ時間である。立派に禿げ上がった頭を持ち、口調は厳しいながらも優しげな響きを持って問いかけていたのが、担当教師のワーオンである。その問いかけに初めに勝手に答えた男。豪奢な服装に華美な装飾を重ねくすんだ金の長髪と巻き髪をなびかせ、顔立ちは2流の中では上のほうにぎりぎり入るだろうか、という容姿であるその男の名はコウゴウ=ウォーザ。アルマーオの挨拶に嫌悪感を示した3人のうちの1人だ。年齢は、15歳。通常通りに進学した場合の年齢である。
次に指名されたのが学年次席の少女である。名は、クレナバーラ=ドリュー。挑戦者をまとめあげる組合長の娘である。赤いショートヘアーは、活発な印象を与えるが、顔つきはやや垂れ目の優しさを全面に感じさせるものだ。柔らかく優しげな美少女であるのだが、そこからあの荒い口調が飛び出してくるものだから、中々にひどいギャップを感じさせる。年齢は10歳。アルマーオと同じく、飛び級をして進学してきている生徒だ。アルマーオの転校の挨拶を、表情を変えずに観察していた2人のうちの1人だ。
最後に指名されたのは、一部の隙も無くビシッと制服のローブを着こなしている美少女だ。清楚さを感じさせる美しさではあるが、意志の強さを感じさせる戦乙女のような清楚さである。長い銀の髪は後ろで1つにまとめている。顔つきは女神を象ったと言っても過言では無いほどに美しく整っている、しかし一切表情は表さず常に平静である。彼女もまた、アルマーオの挨拶に表情を動かさなかった一人だ。名は、ユーリッシュ=ドーギヌ。第三聖鍵騎士団長、キグン=ドーギヌの娘である。年齢は11歳で、アルマーオの2つ年上となる。ドーギヌ一族は、召喚術師の一族、彼女もまた召喚術師を志す一人である。
「付け加えるならば、我獣は、基本的には躯を残さないが、体の一部分を残す場合がある。それが躯結晶だ。シーガが固形化したものと言われているが、詳しくはまだ判明していない。様々なものに利用されており、高い価値を持っている。これと同じようなものが、塔ではしばし発見されるのだが、アルマーオ君、分かるかね?」
「はい先生。さっぱり分かりません!」
「「「「…………」」」」」
「わたくしが代わりにお答えいたします。塔で見つかる、シーガの固形化、といえば該当するのはただ1つ、結晶武装だけですね。シーガは思いに呼応して様々な奇跡を起こします。塔内での人の意思や我獣の意志に反応しているのか、まれに武装の形で固形化することがございます。それが結晶武装です。多くは、有益な特殊能力を有しており、躯結晶以上の高値で取引される場合が多いです。ですが、躯結晶と比べると出現数は圧倒的に少なく、目にすることはかなり稀ですね。」
「おぉ!流石クロ!!人知を超えた賢さだよ!!」
「ご主人様、この知識はかなりの一般常識ですので、その様にはしゃがれますと恥の上塗りになりますので黙っていてください。」
「…ぁー、クロ君。君は中々優秀なようだね。それに引き換え、アルマーオ君。君は本当にこのクラスへの転入生なのかな?」
「えぇ、それは間違いありません。計算などの問題だけでしたので、試験はほぼ満点だったはずです。ただ、一般常識となると、これまで学んできていないので、かなり知識に穴があるようです。申し訳ありませんが、折に触れて教えていただけると助かります。」
彼の9年の人生は、ほぼ全て召喚魔法と猫グッズ作りに費やされてきた。学校に行くことができなかったのもあいまって、アルマーオはかなりの世間知らずに育ってしまっていた。ただし、前世の記憶と思考能力を有しているため、計算問題などは何の問題も無くできており、転入試験は、常識を問われるもの以外は全て正解していた。科学が発展していないため、計算問題などの難易度が低かったことも合格の理由である。
「ははっ!流石は落ちぶれた貴族の息子だね。常識を学べなかったとは、一体君みたいな劣等生がここで何を学ぼうというんだい?今すぐおうちに帰りたまえよ!はははっ!」
アルマーオの言葉尻をとらえて嘲笑を始めたのは、最初に教師の質問に答えていたコウゴウである。常識は学んでいないとの言葉の表面だけを捉えた発言は、取り巻き以外の全員の気持ちを萎えさせた。そして、質問に答えていた他の2名は、アルマーオの発言の裏に気づき、ひそかに驚いていた。
(銀の1号にこれる頭があるってぇのに、常識「は」学んで無い。じゃあ何を学んでたってんだ、あの野郎。まさか――魔法か?)
(奴の傍らにいる見慣れぬ獣、あれを奴自身が召喚したのだとしたら、なるほど、常識など学ぶ暇は無かっただろうな。コネカット一族、ふむ。我がドーギヌ一族と同じく召喚術師の血が、再び力を持ち始めたと見るべきか…。ロアン、どう思う?)
『 分からん。 だが 警戒は怠るんじゃない ユーリ。』
(当然だ。)
ユーリッシュがちらりと視線を下にやると、足元の影から思念が返ってくる。どうやら、彼女の召喚獣は影に潜んでいるようだ。
「確かに、僕なんかがこのクラスにいてはいけないのかもしれません。ですが、コウゴウ先輩のように立派な人に僕はなりたいんです!どうか学ぶことをお許しください!!」
アルマーオは、コウゴウのほうへと向き直ると、上目遣いのキラキラとした目線をおくりながら、必死な口調で語りかけた。無論、全て嘘である。
(貴族との付き合い方ってのは、お世辞やおべっかを上手く使えってことなのかな。まぁ練習だと思おうっと。)
コウゴウのことをただの練習台としか認識していないあたり、いい性格をしている。
(やりすぎると反感を買う手段ではありますが、今のご主人様は9歳の子供、普通のものはあの上目遣いには耐えられないでしょう。ふむ、中々にご主人様はやりますね。これは驚きです。)
いきなりゴマをすり始めた自分の主人を、冷徹に観察しているクロ。当然、主人ばかりではなく、その言葉を聴いている級友たちの様子も観察しており、人間関係の把握に努めている。働き者の召喚獣である。
「まあまあコウゴウさん。こうも言っていることだし、私たちで色々と支援をしてあげましょうよ。『人に者を教えることは、最も効果の高い学習である』そうやって昔の賢者様も言っていましたしね。」
アルマーオの予想外の反応に戸惑っているコウゴウに手助けをしたのが、クラスの代表という名の雑用係である。
「ふん。今日はリョージンの言うことを聞いてやるが、次は同じことが無いようにするんだ。いいな。」
「はい、コウゴウ先輩、ありがとうございます。」
(今の対応はまぁまぁだったってことだよね。しかし、あんな典型的な貴族ってのがいるものなのか、面白い世界だなぁ。)
「んんっ!ごほん!…さて、気を取り直していこう。塔の話が出たところだったね。では、なぜ塔はできたのか、成り立ちを確認していこう。リョージン君から、席順で答えていくように。」
「はい先生、二つの塔は千年前ムジアート全てを巻き込んだ我獣との戦『世界動乱』の際に誕生したと伝わっています。」
「その通り、世界動乱のきっかけとなった出来事を、では次。」
「はい。初めは、フトウ絶対主義国による、ジュジン族への襲撃がきっかけです。その戦争をきっかけに、各地で戦乱が起き、結果として我獣の大量発生を産みました。そして『世界動乱』が始まったといわれています。」
「非常によろしい。では次、我獣の大量発生とは何かね?」
「はい、我獣には不思議な特徴があります。それは、争いのあるところに集団で発生するというところです。小規模な争いだと100体程度、国同士の争いであれば1万体以上、『世界動乱』の際には1千万近く現れたといわれています。そのことから、我獣の発生には、人の負の意志が関わっているという説もあります。」
「その通りだ。では次の列の君。『世界動乱』のその後について説明してみなさい。」
「はい、ありとあらゆる国と人が我獣によって滅ぼされたため、人々は争いをやめ、生存のための団結を始めました。若き日の聖鍵王を中心に、人々は必死の抵抗を続けましたが、滅亡はすぐそこにまで迫っていました。その時現れたのが、至高の3柱神、セイク様とゲガン様、そしてヒラヒト様です。セイク様とゲガン様は、それぞれ我獣を吸い上げ、天と地に封印しました。その封印を塔の形にしたのがヒラヒト様です。セイク様とゲガン様は、自分ごとを我獣たちを封じ込めなさったので、セイクの塔最上階と、ゲガンの塔最下層から、それぞれ出ることが出来なくなりました。」
「素晴らしい説明だ。では次、クレナバーラさんだね、なぜ我らは塔に挑むんだい?」
「ああん?めんどくせぇなぁ。神さんを解放するためだよっ。解放できりゃ、セイク様かゲガン様の恩寵が、全ての生命に行き渡る。この二人の神様は人間好きだって話だからな。解放できた時に授けられる恩寵も、素晴らしいものになるはず。そのために人は塔に昇ったり、潜ったりしてんだ、ってのが建前だな。本音は、躯結晶やら結晶武装やら色々と金になるもんがあるんだ、そりゃ一獲千金を夢見てやってる奴らがほとんどだろうさ。ゲガンの塔じゃ、金属の鉱脈や宝石なんかも見つかるしな。」
「その理由は嘆かわしいものだがね。セイクの塔にはあまり素材などは現れないが、結晶武装が比較的出やすいといわれているな。さて、ユーリさん。金銭面以外で塔に挑む理由は無いのだろうかね。」
「いえ、あります。セイクの塔の到達階数は、貴族の格を示すものとなっています。発言権や地位を高めるために、塔へと挑戦する貴族は毎年かなりの数になっています。真実、神様を助けたいと行動している人間は、ほとんどいないのが現状です。」
「ユーリさん。われわれ貴族の行いを、下に潜るしか能の無い『モグラ』たちと一緒にしないでもらえるかな?」
「はん、一人で昇ることすらできない『カトンボ』は黙ってな。」
「どうやらクレナさんは痛い目にあいたいみたいだね。」
「自分1人じゃ、何も出来ないくせにうるせぇんだよ、おぼっちゃま。」
「モグラというのはゲガンの塔に挑む挑戦者への蔑称、カトンボはセイクの塔の挑戦者への蔑称。互いのいがみ合いはここ数百年ずっと続いています。」
「…ユーリさん、冷静な説明ありがとう…。だが、その二人を止めてもらえたほうが助かるんだがね。」
「? 何の問題もないでしょう。喧嘩するほど仲がいいのです。」
((((( 絶対 違う )))))
ワーオンが順に指名して答えさせていく。この世界になぜ塔が存在しており、神が封じられているのか、その理由が明らかになっていくことにアルマーオは興奮していた。自分の定めを果たすために必要な情報が集まっていくからだ。そして、今まであやふやだった、塔に我獣が存在する理由も理解できた。更に、偶然ではあるが、学級のトップ3の性格も掴むこともできてきた。
「二つの塔を両方少しずつやっていくのが1番効率よさそうなんだけど、あの二人の様子を見るに、両方の塔に挑戦している人はいないみたいだね。」
「その通りですご主人様。一般的には、どちらかの塔にしか挑戦しないのが普通です。」
「うーん、いまいち釈然としないね。」
塔に挑むもの『挑戦者』しかし、実際は挑む塔によって所属が分けられ対立しているのが現状だ。大きな争いにはなっていないが、両者の対立は年々深刻なものへとなってきている。互いを蔑称で呼び合うだけなら可愛いが、時に喧嘩になり逮捕者が出る事態に発展することもあるといえば、対立の深さを感じ取ることが出来るだろう。
「よし、では基本的な知識はここまでとし、ここからは応用的知識と行こう。塔内のシーガ密度が高い理由に神の存在が関係しているといわれているが、街中と比べるとどの程度――。」
こうして召喚術師は新しき世界の見知らぬ常識を学ぶ。『二塔の制覇』 自らの定めを果たすために――




