「召喚術師は挨拶をする」
「それでケンソー様、本当のところを教えていただけますか。」
「本当のことは昼間に話したはずだけど?」
「流石に、あの時のケンソー様の姿には違和感がありすぎます。途中からは演技でしたでしょう。ご主人様はすっかり騙されていましたが。」
「…全く、クロには適わないな。…そうだね、クロには本当のところを教えておこうか。貴族意識に凝り固まった連中もいることはいるんだけどね、そいつらを上手く使って召喚術師の排斥を狙ってる連中がいるんだよ。」
「召喚術師の排斥…ですか。」
「そう。普通なら一等貴人税の適用には必ず猶予が入る。いくらなんでも9歳児に用意できるわけが無いからね。だが、払わせてはいけないという法律は、残念ながら無いんだ。聖獣を喚ぶことで、没落したはずの召喚術師が成り上がってくるのを阻止したい連中は必ずそこをついてくる。色々と難癖をつけて、貴人税の支払いを早めようとするはずだ。」
「なるほど、法の隙間を縫って貶めるということですか。して、その我らが敵となるであろう派閥はどこになるのですか?」
「派閥、ということまで読めるとはね。クロがいてくれて本当に良かった。―はっきりはしないけどね。我ら召喚術師の一族の力を殺ぎたいのは、『変質』を主とする、属性魔法の一族だよ。実は、我らコネカット一族が没落したのにも、この連中が関わっていたはずなんだ。」
『何?何? シンコクな話なの?』
「カジャ。後で説明しますよ。 属性魔法…『操作』の極地たる召喚魔法を忌み嫌うのは、分かるような気がしますね。」
「もっとも、私の祖先様たちは、特に地位にこだわりが無かったからね。大して没落を気にしていなかったらしい。――けど、アルマーオはそうもいかないからね。連中の手先は、必ず学院で接触してくるはずだ。貶めるための情報を仕入れようとね。クロ、私は貴人税支払いの資金を集めなければならない。学院の中での我が息子の安全に、気を配ってほしい。――この通りだ。」
「頭をお上げください。元よりわたくしの命はご主人様のためにあります。一族の敵はわたくしの敵。この身に変えても、ご主人様への悪意は防いでみせましょう。」
『ンー ケンソー ぼくも学院いくー?』
「ありがとうクロ。いや、カジャには私の仕事を手伝ってほしい。強くなった君の力が欠かせないんだ。」
『戦いは好きじゃないけど、ワカッター。がんばるよー。』
「ありがとう、カジャ。」
「僕は今日も猫が大好きだ!!! ふわぁぁあ。おはよう、クロ。」
カッと眼を見開いていつもの言葉を放ちながら目覚めるアルマーオ。その枕の横で丸くなっていたクロは、奇声に全く驚かず主人の頬を尻尾で叩く。
「煩いですよ、ご主人様。さあ、鍛錬を始めましょうか。」
「ぶほっ。…猫の尻尾の一撃ならば、罰もご褒美にしかならないっ。…あ、待ってよクロ~。」
早朝の訓練は、相手をクロに変えて、現在も続けられている。
「ではご主人様、旋風雷を20、適度なタイミングで放ちますので、避けるか防ぐかしてみましょう。 いきますよっ。」
「え?…昨日は5発だったよね、どうして4倍にいきなりなるのって あぶなっ!」
クロの尻尾から放たれる雷を、シーガの盾でかろうじて防いでいくアルマーオ。15、16、17、18、19、そして―
「20! いょし!全部成こ あびゃああ!!」
防げた喜びに浸ろうとした瞬間に、足元から雷が上に昇り、アルマーオは為す術も無くしびれてしまう。
「旋風雷は20といいましたが、昇蛇を使わないとは言っていませんよ。全てのことに共通しますが、終わったと思う時が最も危険です。決して心を残すことを忘れないでください、ご主人様。」
「…うぅ~。きつかったぁ。 うん、分かったよクロ。『全てを自分の下におけ』今のは、クロの様子から気をそらしたことが、原因だね。」
「ご理解いただけたこと、誠に嬉しく思います。」
クロを責めずに、己の不甲斐なさを戒めることが出来る主人に、忠実な召喚獣は静かに頭を下げた。練習の厳しさが、一段階あがっているのは、昨夜遅くにしたケンソーとの会話が理由である。
(ご主人様の実力も、適時伸ばしていかなければなりませんからね。この素直な心が続けば、必ずや一流の召喚術師になられるでしょう。)
「さて、ご主人様。自らの強さを知ることもまた、鍛錬の1つ。久しぶりに『自己開示』を行ってみましょうか?」
「そういえば、前に見たのは5歳の時だっけ。そうだね、久しぶりに見てみるか。ふぅ、『自己開示』!」
右手に意識を向けながら、彼は神の恩寵を発動させる。すると、右腕に半透明の窓が現れ、彼の能力を開示する。
氏名 アルマーオ=コネカット
職業 召喚術師(見習い)
性別 男
年齢 9
階位 1
恩寵 『自己開示』 『召喚術 創造(限定)』 『獣(限定)との絆』
豪力 3 堅力 8
瞬力 10 志力 30
理力 8 繊力 5
現れたのは、やはり同じ年の子供と比べれば、異常と呼べる数値である。それぞれの数値は、目安として20あれば、一般的な成人男性と同じ程度である。30という数字は、専門家レベルといえば、アルマーオの特異性が理解できるだろうか。豪力と繊力以外の数値も、9歳児と比べればある程度高い方になる。早朝訓練の成果が出ているのだ。
「あ~、やっぱり色々上がってるね。志力は30あるよ!これってすごくない?」
「……ふぅ。ご主人様、確か学院に入る際には、自己開示の数値を記す必要がございます。ですが、その時には、志力の数字はそこよりも15下げた形でお書きください。良いですね?」
「え? うん。分かったよ。きっと何か理由があるんでしょ?教えてもらえる?」
「ご主人様の入学に対する反発を、なるべく減らすためでございます。これもまた、貴族たちとの付き合い方の1つでございます。彼らは、自分より数値の高いものを嫌いますからね。」
「なるほど…。そうだね、目立たないようにしないとね…。」
(まあ、目立たないのは、入るクラスがあそこなので無理なのですけどね。更に言えば、15であっても、他の生徒の大多数より上の数字ですから嫉妬も避けられません。ですが、真に警戒したい相手からの油断は誘えるかもしれません。打てる手は一つでも打っておかねば。)
15という数字は、大体17歳程度でたどり着く数字である。地球で言えば、高校生程度といえるだろう。9歳児が高校生と同じというと、嫉妬は免れないだろうが、歴史上、その程度の天才ならば数多くいたのである。本当に警戒したい相手、「属性魔法の派閥」から危険人物と認定されるほどではない。クロの、細やかな気配りである。
「アルマーオ~!クロちゃ~ん! ご飯よ~早くおいで~!」
「おっと!お母様は待たせられないね。クロ、行くよっ!」
「はい、ご主人様。」
「ふぅ、大きな門だったね。クロ。」
「そうですね、いつかあの上に登って読書をしたいものです。」
クロを頭の上に乗せて、アルマーオは学院の入り口をくぐった。彼が着る服は青と緑を基調として、白いラインの入ったローブである。オーヴァン学院の男子用制服だ。当然、胸ポケットに猫の刺繍をいれ(ある程度の改造は規則違反とならない)、猫の刺繍入りのハンカチを持っている。現実に猫を触れるようになったからといって、猫グッズが必要なくなるわけでは無いらしい。
「受付は…あそこか。無駄に大きい意味があるといいんだけどね。」
「聞こえますよ、ご主人様。礼儀正しくいてください。」
こつこつと、音の響く石の廊下を歩き、彼らは受付にたどり着く。
「お早うございます。本日より転入予定の、ケンソー=コネカットが第一子、アルマーオ=コネカットと申します。よろしくお願いします!」
爽やかに響く声と、きびきびとした動作で挨拶をするアルマーオ。やれば出来る子なのである。もっとも下げた頭に、クロもつかまっているものだから、どこと無く間が抜けた様子ではあった。
「…はい。承っていますよ。アルマーオ君、ようこそオーヴァン学院へ。私は受付係のコクウ、コクウ=マックと言います。これからよろしくね。」
受付をしてくれたのは、銀色の髪の毛を長く伸ばした、怜悧でありながら暖かな印象を与える長身の男性であった。
「今から、君を教室まで案内するよ。君が所属するのは、えぇと、銀の1号だね。9歳でか、すごいね。」
「何がすごいのかはさっぱり分かりませんが、ありがとうございます!」
「ご主人様、行けば分かりますよ。コクウ様、わたくしはアルマーオ様の召喚獣「マギネコ」のクロと申します。どうぞよろしくお願いします。」
受付から出てきたコクウが、二人を促しながら先を歩く。どうやら教室まで案内をしてくれるらしい。手元の資料を眺めながら驚いた声を出す彼に、アルマーオは元気だけがこめられた返事をする。そして、クロの挨拶を受けたコクウは足を止めて、興味深げな表情でアルマーオに質問する。
「こちらこそ、よろしくね。ふむ、あまり見たことの無い召喚獣のようだけど、アルマーオ君、どこの世界から呼び出したんだい?」
「それがですね、父と色々と実験していて偶然呼び出すことができたもので、どこの世界かははっきりしないのです。それどころか、本当に僕が喚んだのかも怪しいぐらいでして、お恥ずかしいです。」
「君たちの一族が喚んだのだから、聖獣のコネカットなんじゃないのかい?」
「それも分かりません。私は似ていると思ったのですが、父に言ったところ『子供の実験などで呼び出せるような存在ではない!』と怒られてしまいました。―それにしても、コクウさん。とてもお詳しいですね、ビックリしました。」
「ふふっ、ここは知の殿堂だよ?その受付係を任せられたからには、生徒が入学しそうなケンカードの貴族の方々の名前くらい、把握して無いといけないのさ。」
「それはっ!すごいですね。そんなに沢山の人の名前、僕には覚えられませんよ。」
「簡単そうに言っては見たけど、必死なんだよ?おじさんになりかけの私では大変な作業さ。」
「お二方とも、話が弾むのは良いと思うのですが、時間はよろしいのですか?」
コクウの茶目っ気のある話ぶりに、心安く話しているアルマーオだが、内容は嘘だらけである。貴人税が課せられるまでの時間を稼ぐ必要があるため、何とか「クロがコネカットである」という認定を遅らせたい。そのための作り話である。正直に言えば、大々的に猫のよさを語りたいアルマーオとしては、大いに不満のあることではある。だが、ケンソーとクロの両者の説得により、ごまかすという方針を選んだのだ。ただし、その中で『クロはコネカットではない』と断定することだけは断固拒否した。ケンソーとクロ、果ては母親のアイクウまで説得したが、この部分で彼が頷くことはなかった。強い志力の無意味な発揮の仕方である。
「おっと!朝の挨拶に遅刻するところだった!ありがとうクロ君。さ、ちょっと早歩きでいくよ、アルマーオ君。」
「はい、コクウさん!」
促された二人は、小走りで教室へと向かっていく。
「さ、アルマーオ君。ここが君の教室だよ。道は覚えたかな?」
「大丈夫です。コクウさんありがとうございました。」
「私の仕事だからね、気にしないでくれよ。 ちょっと先生呼んでくるね。」
そういうと、コクウは教室の扉にノックし、中へと入っていく。
「ご主人様、緊張なさっていますか?」
「いや?全然だよ。 この程度なんてこと無いさ。 正直、家を出る時にお母様に泣かれそうになった時のほうが、よっぽど気持ちが憂鬱だったよ。」
「さすが、わたくしのご主人様です。では、参りましょうか。」
扉が開き、コクウがアルマーオを促す。目礼をした彼は、一歩を確実に踏み出していく。
「ようこそ、銀の一号へ。私が担当教師のワーオンだ。さて、同級生に挨拶をお願いするよ。」
入った教室では、黒板のところに、ややふくよかな40代程度の男性が立っていた。教室は広く、傾斜がついており、後ろの席が高くなっている。どこからでも黒板が良く見える様にだ。満席になれば60人程度が入れるだろう教室には、30人程度の生徒がいた。ただし、ほとんどの生徒が14~5歳程度の年齢に見える。そう、銀の一号は、13歳の後に選ばれたものだけが進める高等教育を行う教室だったのだ。アルマーオはかなりの飛び級をしたことになる。
(なんでクロは何も言ってくれなかったんだろう…。まあ、良いけどね。)
「皆さん、お早うございます! 本日よりこの教室にて共に学ぶこととなりました、アルマーオ=コネカットと申します。どうぞよろしくお願いします!!」
全く臆することなく、堂々とした挨拶を行うアルマーオに、担任は驚きの表情を作り、何人かの生徒は微笑ましさに目を細め、3名の生徒が生意気な子供が増えたと嫌悪感を露にするが、大半の生徒は好奇心を隠さずに見つめるだけだ。表情を変えなかったのはただ二人、アルマーオよりは年上だが、この教室内ではまだまだ幼い方に入るだろう、二人の美しい少女だけだった。
こうして召喚術師は挨拶をする。未来の友に、未来の敵に、分け隔ての無い元気な挨拶を―。
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何とか書き上げられたので投稿。ここから少しずつアルマーオの世界は広がっていく…予定です。戦闘シーンも、どこかで書いていこうと思います。




