「ケンソーの 一日」
「僕は、猫が大好きだああああ!!……」
ふむ、今日も我が愛息はやかましいね。毎朝欠かさずに鍛錬を続ける意志は、親ながら尊敬に値するけど。
「ん。んぅー。 あるまー…お?…」
愛妻の静かな眠りを妨げるのは万死に値する。今日も昨日の5倍の練習にしよう。あぁ、しかし寝起きのアイはやっぱり可愛いな。
「おはよう、アイ。今日も素敵だよ。…鍛錬に行ってくるから、もう少し寝てていいよ。」
アイのおでこにキスをする、正直未だにどきどきするくらい素敵な女性だ。柔らかな蜂蜜色の髪の毛と輝く緑の瞳、優しげな表情は、いつまでも飽きることなく見つめていられるね。彼女とアルマーオのためなら、自分はどんな事でもするだろう。これは確信だ。
「んー…おでこ?」
少し不満げに頬を膨らませて上目遣いなんて、そんな、アイクウ、私の理性を試しているのかい。正直、今でさえそのまま抱きしめてしまいそうになるところを必死にこらえているんだ。しかし、彼女の望みであれば仕方ない。緊張するが、唇にキスをしよう。
「ん。 おはようケン。今日も大好きよ。」
「おはようアイ。いつまでも愛しているよ。」
深いキスを交わし、満足げな笑みを浮かべるアイクウ。彼女を愛しく思う私の気持ちは、永遠に枯れることは無いだろう。さて、そろそろ愛息のところへと向かうか。今日は、機嫌がいい。3倍までにしておいてあげよう。
「お父様!さすがに30個は無理なので はぶらぁっ!」
「口を開く前に、シーガを操るんだよアルマーオ。さて、今のは25発目だから、次には達成できるさ。行くよ?」
「…は、はいぃ。」
んー、本当に我慢強い子だね。彼を支える強烈な意志を感じるよ。その分、容赦はしないけどね。早くシーガの扱いを学んでもらわなければ、愛息の命が危ない。最短の道を最速で行こう。では、シーガ球展開、と。
「さあ、いくよ。備えなさいアルマーオ。」
「ふぅ…はい、お父様!」
良い目だ。アイの緑の輝きを宿す意志の強い目だ。では、10発までは直線でいこう。右腕、右足、体に散らして5発、左足、左腕、頭。よし、全て防いだね。まだ、盾の大きさに無駄があるな。もうちょっと練りこみの練習をいれようか。さて、次は曲線を描こうか。上から足を狙って3発、左から頭、体、足。右から足、体、頭、下から突き上げるように顎。んー最後のは危ないなぁ。もう少し体術で避ける方法も教えないとね。さて、最後の10発は混ぜるとするか。右に2つ、ぎりぎり当たらないところに緩めに打って、左から3発曲線的に、さて避けると右のに当たるけどどうかな?ほう、左のを自分のシーガ球で迎撃か、上手くなったね。けど、その右の二つは直角に曲がるよ?…読んでたか、盾を長く置くとは頑張ったね。けど、それだと次の動きが難しいよ。背中から1つ正面から1つ、そして上から1つ。さて、避けられるかな?正面と上は自分で迎撃して後ろは盾か、中々だけど、それだとこの9発目、地面からの顎狙いが当たるんじゃないかな?おぉ。バク転で避けるとは、身軽になってきたね。けど笑顔は早いかな。30発目、ほら当たった。私が『隠蔽』の回路を作っていたことに気づいて無いからだよ。正面から直撃、あれは休憩が必要だね。
「5分後にもう一度行くよ。今の失敗の理由は分かるかな?」
「うぅ……お父様の隠蔽に気づかなかったからです。」
「その通り『全てを自分の下におけ』忘れちゃ駄目だよ。」
「はぁ…行きたくない。」
愛妻と愛息のいる家から出て働くなんて狂気の沙汰だ。けどそれをしなければ家族を養えないんだから仕方ないけどね。今日も、必ず定時にあがってみせる!
「ケンソーさん!良いところに! 実は犯罪者が逃亡したらしくて!」
「兵隊の仕事だよね? なんで役人の私たちがそんなことを―」
「それが、平民区の飲食店街に逃げたとの情報が!」
「すぐに行くよ。相手の特徴をまとめた紙をちょうだい。向かいながら読むから。あと、応援を飲食店街の入り口で張らせておいてね。」
「はい! おい、いくぞ!!」
犯罪者め、その薄汚い姿をアイの前にでも晒してみろ。生きていることを後悔させてやる。
「よし、ここまで逃げてくりゃ安心だ。後はその辺の店に押し入って金を奪って…」
「よし、見つけた。犯罪者番号 2の4のA キョウヤクだな。」
「な!? 追っ手か!! はん、なんだ、兵隊じゃねぇじゃねぇか。ぶっ殺してやるよ!!」
確か、ドーギヌの血が混じったジュジンだったか、やたら血の気が多い。他の血も混ざっているか。足と爪の『強化』を確認。速さは私より上か。まあ問題ないね。『操作』―状態変化 粘性増加。『隠蔽』回路、同時起動。
「うらあぁあぁ! ぬぁ。なんだっ!足がうごかねぇ!?ここは沼地なんかじゃねぇだろ!?」
「混乱の仕方に知性を感じないね。とりあえず眠ってくれるかな?『旋風雷』 『昇蛇』 『土枷』」
「ぬぁあぁああっぁぁ!!!!」
ふむ、さすがに雷を2発も浴びるとジュジンといえど気絶するか。まあしてなくても足と手の枷は壊せないだろうけどね。よし、任務完了。しかし、治安維持は兵士の仕事だろうに、何をしているんだ、全く。
「ケンソーさん、ケンソーさん。」
「なんだい? 私は住民台帳の整理で忙しいんだけど。」
「隣村の農業区近くの森で、思獣が暴れているそうです。」
「はあ?そんなもの挑戦者たちにお願いすれば良いじゃないか。組合の仕事だよね?」
「ですが、そこの畑で作られている野菜が料理店には欠かせないそうで、カマど屋のランチが出来ないそうなんです。」
「何をしている!早く装備を整えるんだ!! 思獣の種類なんかの情報はあるんだろうね?」
「はい、ここに!」
「向かいながら聞かせてくれれば良いよ。行くよ。」
「ブモオォォアオアオォアオォアォアォアオォアオオ!!!!」
「ひぃい!! い、いました。あれが今回の原因の思獣「灰色の角斧」です!」
「煩いよ、全く。」
「灰色の角斧」か、本当に2本の角が斧のようになっているね。とするなら接近戦を好むのかな。二足歩行で両手の攻撃も警戒が必要か。
「助手君、邪魔だから下がっていてくれるかい?で、合図したら、これをあいつに投げてくれる?」
「は、はい!」
「さて、やろうか。昼の食事に間に合わなくなる。」
まずは先制させてもらうよ。両肩にシーガの槍を放って、硬さを調べてみようか。
「ブモァァ!」
ほぅ。角斧で2本とも弾くか。じゃあ次は『変質』で弱い属性を確かめてみるか。旋風雷、錐水、炎月でどうかな。
「ブモアァァアァァ!! ブグウァァァ!」
ふむふむ、水が効くけど火と雷は全く効かないかんじだね。っと、突進時に角斧と足を『強化』か。壁土で防げるかな?おお、粉々に粉砕だね。とりあえず足の瞬力を強化してっと、引き付けて、よっと。
「ふむ、仕切りなおしだね。久しぶりにこれを使うか。」
大きく飛んだから、結構距離をとれたね。よし、背中の鋼棍を使うとしよう。殺すのは趣味じゃないし…よし、使役してみようか。使役にも興味あるし、実験だね。
「ブゥゥ ブモォォ ブモォオオアアアアアアアアアア!!」
いやはや煩い鳴き声だね、これは音での攻撃を兼ねているのかな。念のため、シーガ壁を状態変化で軟体にしておいてよかったよ。この音で竦んだ相手を角斧で叩き切るのかな。その通りか、直線的で読みやすい攻撃だなぁ。まずは錐水を同時に10個展開しておこうか。強化を腕の豪力に、だいたい3割増しかな。では、いこうか。
「ブモオオオオオ!!! ぶもっ!?」
「錐水。1,2,3,4,5っと。腕のガードを上げたね。でも、それでは視界が狭まるだろう?」
残りの錐水を4発地面を抉りながら、両足に放てば…よし。水で抉られてぬかるんだ上に、足に怪我をしたんじゃ踏ん張れないでしょ。
「最後の一発をよいしょっと。」
顎先に右から錐水を放って、同じ方向からすぐさま棍を振りぬいて、2連撃命中っと。あれほど強靭な首でも、タイミングを合わせた2連撃では脳震盪が起きるはず。よし、助手君へお願いしてっと。魔法陣展開開始!
「助手君!」
「は、はい!ケンソーさん。いきまーっす!」
「っ…。」
「ぶも?…ブモァァアアアァァァア!?!?」
「…ふぅ、やっぱり分かってても、閃光瓶は眩しいね。さて、『使役召喚陣』生成完了。」
召喚魔法陣の難易度とは、雲泥の差だな。この短時間で作れるなら、いくらでも使役の機会があるか…。
「我、術師ケンソーは、灰色の角斧との『契約』を望む!」
「ぶもぁ…ブモオ………ぶもぉおお!!!」
ははっ。まさか使役に成功するとは計算外だったな。何にせよ、役員仕事の手札が増えたことには感謝しようか。
「よし、『灰色の角斧』くん…そうだな、ツオーノ君と名づけようか。君はこれからはこの場所の畑を守ってほしい。報酬の食事は、村か出してもらうようにするから、誠心誠意守ってほしい。いいかな?」
「ブモ ブモモオモモ!!」
ん?角斧を差し出してきたな。これに触れってことかな?よしよし、これからはこの村の畑を守る守護神になってくれよ、ツオーノ君。
「終わりましたか?ケンソーさん。」
「これからはこのツオーノ君がこの畑を守ってくれるよ。ただし、報酬の食事は必ず守ってくれ、村がごねるようなら助成金を出すと伝えてね。」
さて、手に入れた野菜を持ってカマど屋に行こう。これでランチが食べられるはずだ。昼ごはんもアイクウ特性料理を食べられるなんて素晴らしいね。では急ごうか。
「第13世界も駄目と、14,15,16 うーん、これは駄目かもしれないね。」
呼び寄せの機能を使った、検索魔法陣の成果も0と。これは、他のデータの検証にもよるけど、コネカットはいなくなったと仮定するのが普通かな。『アルマーオ、コネカットはこの世界に存在していないんだ。』と、そうやって言うのは簡単だけど…難しいなぁ。
「しかし、わが子ながら一生懸命だなぁ。」
あの子は、今日も今日とて庭で走りこみと柔軟体操を行った後に、シーガ球の訓練を入れている。本当に、彼をあそこまで強烈に駆り立てているものは何だろうね?気になるなぁ。
「さてと、そろそろぶっ倒れる時間かな? お、倒れた。今日は昨日より2分長く持ったなぁ。」
よし、拾い上げてアイに渡してキスをして、風呂に突っ込んだ後は部屋に叩き込むとしよう。今日も一日色々合ったけれど、愛妻と愛息がいれば、毎日がとても充実するね。私の人生も捨てたものではないね。
「ケン? お風呂入れた後はすぐに寝かしましょうね。」
「もちろんだよアイ。今日も一日、君と過ごせて君を思えて、すごく幸せだよ。」
「ふふふっ。私のだんな様は、いつまで私を口説いてくれるのかしら?」
「もちろん、永久に。」
「愛しているわ、ケン。」
「心の底から好きだよ、アイ。」
きらきらとした緑の目を輝かせ、桜色の頬をより赤くして、照れたように口付けをせがむ彼女は本当に愛らしい。早くアルマーオを寝台に叩き込んで、アイとの時間をよりよいものにしないとね。ほら、アルマーオ、お風呂は30秒で済ませるよ。もちろん綺麗が一番だから、シーガを使って簡易洗濯機を作ってあげる。だから、おぼれる寸前まで入っていなさい。そしたら、熱風で全身乾かしてあげるからね。アイ、待っていてね。愛息を片付けたらすぐに君のところへ飛んでいくからね。
「僕は今日も猫が――」
ふぅ。愛息は今日も賑やかだね。そして、隣にいる愛しい人は、今日も輝いている。さあ、一日を始めようか。
息子は猫狂いですが、お父さんは妻大好きすぎ人間です。似たもの同士なんですね。
ちなみにケンソーは、役所に勤めてはいるものの、荒事をやることが多い部署です。さらに『千変』のケンソーという二つ名を持つほどの実力者です。なので、色々なところに呼ばれて仕事をしますが、本人はおとなしくシーガの研究させてくれるか、アイクウの店の手伝いをやれたらいいな、と思っています。
この年末年始は、投稿のタイミングが不安定になると思われます。申し訳ありません。




