第17話 校長先生の呼び出し
あれから数日が経った。音沙汰はない。きっとアーディ先生が巧くやったんだと思う。
だが……冷静に戻った俺は一体仲間にどんな顔をすればいいのだろうか。自分だけ抜け出したんだ。責められても不思議じゃない。
そんな俺は今日の朝に校長室に呼ばれた。はは。まさか。数日目でこうなるとはだれも予想はしなかっただろう。
「ふぅ」
俺は溜め息を付いた。だってこれから校長先生と会うのだから。緊張もする。一体。どんなことを言われるのだろうか。
不安に思いながら重厚な両扉に拳を振り下ろした。とはいえノックをしたつもりなので後悔はない。あるとすれば不安だけだ。
「うむ。入り給え」
返事を待ってから言うことにした。つまり今返事がきたので俺が言う場面だ。だから俺は普段どおりを装い意を改め入る決断をした。
「失礼します」
そう言うとドアノブに手をやり回した。重厚な両扉が半分だけだが開いた。中からは煙草の臭いはせずにどこか親父臭い感じがした。
「うむ。そう畏まるな。さぁ。遠慮せずにきなさい。アレス君」
中に入るやいきなり畏まってしまった。だがそんな俺に校長先生は優しくしてくれた。なんだろうな。この感じは仲間と似ている。
「はい! では」
勇気を振り絞り返事をした。その後は恐る恐る校長先生の使用している机の前まで移動した。今の校長先生は椅子に座っていた。
「うむ。よくきたな。アレス君」
緊張が一気に襲い掛かってきた。アーディ先生によれば校長先生にだけ本当のことを伝えた筈だからだ。俺はどうなるんだろ。
「はい。校長先生」
だがここで錯乱してもしょうがない。だから俺は冷静を装い返事をした。俺からすれば大人の決断は凄く重たいものだろう。
「うむ。ところで……どうして呼ばれたのか。分かっているね? 話は全てアーディ先生から聴いた」
ぐ。呼ばれた理由は知っている。多分だが俺が英雄の子供だからだろ。……アーディ先生は伝えたんだな。本当のことを。
「はい。分かっています。俺。実は。英雄の息子なんです」
今更嘘を付いてもしょうがない。だから俺は潔く自分の口から言うようにした。一体。どんな処罰が下されるのだろうか。
「うむ。やはりそうか。なにやら新入生の中に異様な子がいるとは聴いていたが。まさかな」
校長先生が驚くのも無理はない。だって本物なのだから。だからといってこっちは調子に乗る訳じゃない。俺は平凡な生活がほしいだけだ。
「おほん。……アレス君や。本当のことを言えばワシは嘘が大嫌いだ」
うん? 校長先生は一体なんの話をしているんだ? 仕方がない。ここは最後まで聴いて真相を確かめる以外に方法はない。
「だがな。それ以上にワシが大嫌いなのは正義を覆してでも正義を手に入れようとする連中だ」
校長先生が言いたいことはつまり……正義を塗り潰す正義の勢力が大嫌いなのか。それって……もしかして。
「いいかね。アレス君。ワシは後悔しているのだよ。君のお父様を見殺しにしたことを」
やはりだ。校長先生はなんだかゼアス様と似ているぞ。もしかしたらこれは……魔法学校と魔法界の大戦争になるかも知れないな。
「おほん。当時の有名な評議会の長ですら後悔しこの世を去ったのだ。ワシは知っている。今や腐り果てているのは評議会の方だと」
正義に塗り潰された正義……か。しかも聴いた状況によると今の評議会は腐り果てているらしい。気になる話だ。だが訊けない。立場上。
「あ奴らは最早権力に縋りたいが余りに無法地帯と化しておる。今や救えるのはお主。そうだ。かつてこの世を魔王から救った英雄の子供。アレス君。お主しかおらん」
もし校長先生が本物ならばこれは本当に魔法学校と魔法界の戦争になるぞ。これは……仲間にとんでもない危害が及ぶかも知れない。只事では済まないぞ。
「そこでだ。アレス君や。お主には荷が重いかも知れんがどうか無事に魔法学校を卒業してほしい。これはワシが出来る唯一の恩返しだ。いや。おこがましいことはやめよう。とにかくお主はワシが責任を持って守る。守ってみせよう」
校長先生。
「さぁ。お主の仲間がきているぞ。……おほん。入るがいい。盗み聞きとは正義のやることではないぞ」
え? 校長先生はそう言うとなにやら指を振ってみせた。まるで魔法を掛けたようだ。するとすぐにあの重厚な両扉が全開になった。なによりも驚いたのは俺の仲間全員が雪崩れのように入ってきたことだ。
「すみません。校長先生。私が独断で集めました」
この声は! アーディ先生だ! アーディ先生は全開になったところから入ってくるとすぐに立ち止まった。きっと雪崩れを起こした仲間が邪魔になったのだろう。
「この子達は勇敢な子達です。誰一人。断りませんでした」
アーディ先生はそう言い切った。こいつら。俺の為に。
「ふむ。よいことだ。これからワシらがすることは下手をすれば愚策にもなる。今の内に全生徒に通告しなければな。戦う者は戦えと」
間違いなく。これから行われるのは魔法界への大反乱だ。それは即ち大革命といっても過言ではない筈だ。勝てるのか。俺達は。いや。勝たねばならない。そうだろう? お父さん。
「おほん! まずはご無礼をお許しください! 校長先生!」
急にマフティ様の声がした。気付いた時には仲間が立ち上がっていた。その中にはダーディの他にアリルやアビィの姿もあった。こいつら。捨てたもんじゃない。
「うむ。よい。それよりも……どうか力を貸してほしい。出来るか。お主達」
校長先生。
「僭越ながらそのつもりです。僕達はそのつもりできました」
マフティ様。
「そうです。校長先生。俺達はこの期を逃す程にやわではありません」
セルフィ。
「そうよね? 私だって手伝えることがある筈よ。ね? そうでしょ? 皆?」
アスティ。
「薄々は気付いてた。けどまさか。本物だなんてね。手伝うわ。私でよければ」
セシリー。
「ふん! 俺様は別に助けたいはないんだからな! ただ! 死なれては復讐が出来ないんでな! 仕方がなく! 手伝ってやる! 有り難く思えよ! 平民!」
ギード。
「俺は初めから間違っていた。だれが一番とかじゃない。俺は全てを知って改めた。なぁ! アレス様! こんな俺でも仲間になってもいいかな。いや。付いて行くよ。俺。いや。俺達は」
ダーディ。
「そのとおりよね。初めて聴いた時は驚いたけどもう私達は敵じゃない。おこがましいかも知れない。でも私達だってなにかを手伝う権利くらいはある筈よね。だから……私はここにきたの。悪い?」
アリル。
「はうぅ~。感動したよ~。最初はすっごく不安だったけどこうなってよかった~。ぼ、僕だって……手伝いたいよ。こんな……僕でよければ」
アビィ。
「アレス君。こんなにも貴方が愛おしく思えてくるのは私のお父様。つまり……ディウス元議長がいたからよ。私はね。後悔したお父様から懺悔を聴かされたの。そこからよ。貴方のことを知ったのは」
な、なんだって!? アーディ先生のお父様が元議長? は、初耳っていうか。こんなにも早くにばれるなんてな。思ってもいなかったな。で、でもそれが事実なら俺の仇は。アーディ先生?
「本当になにから言えばいいのかしらね。こういうとき」
衝撃だ。いやいや。謝れとかそんなレベルじゃない。だがまさかこんなにも身近に仇がいたなんて。とはいえ……確か校長先生がいうには元議長はもう既に亡くなっているとか。どうなるんだ。俺の仇は。
「アーディ先生。俺はそんなに気にしていません。ただ今になって必要なのは腐った評議会をどうにかすることです」
ごめん。俺。もう……いいよな。仇だなんて。だって……元議長は後悔して亡くなったみたいだし。問題は野放し状態の魔族達と腐敗した評議会の方だ。それどころか。この腐りようはもしかしたら世界をも呑み込もうとしているのではないだろうか。
「有難う。アレス君。私も出来ることがあったら手伝うわね? お父様の分まで」
アーディ先生。
「はい! それに皆! 俺の為に有難う! 俺! 絶対にこの世の中を変えてみせるから! そして……本当の仇である魔族を倒して! この世に平和を取り戻し! 腐り果てた評議会を立て直して! この世に真の正義をもたらすんだ! なぁ? 皆!」
どうやら目的がはっきりしたようだ。これから起きることは大変なことだけど皆との決意は一生に残るものだ。だから……俺は……皆を裏切れない。逆もまた然りだろう。こんなにも愛おしく思えたのは何年ぶりだろうか。
「ああ。その意気だ! んじゃ皆で掛け声を出し合おう! いいか! んじゃいっせーのーで!」
一国の兵士達の大歓声にも負けないような掛け声だった。本当にこれから起きることは魔法学校と魔法界の戦争だろう。本当なら平和なままで行きたいが俺の存在を知ってしまった魔族がいる以上はもう無理だ。果たして俺達は勝てるのだろうか。




