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第16話 アーディ先生の思惑

 俺が放心状態で決闘場にいたら僅かにだがどこからか声がした。


「アレス君? ねぇ? 聞こえてるの? ねぇ?」


 駄目だ。今の俺は魔力を使いすぎたらしい。意識がボーとしている。


 だが心の奥底で確かにどこかで聞いたことのある声なのは確かだった。


 う。だれかは分からない。だが体を揺さぶってくる。一体。だれなんだ?


「ねぇ? 教えて頂戴。一体。なにがあったのかを」


 薄ら薄らと見えてきたのは大人の姿だった。うん? もしかしてこの感じはアーディ先生かな。


 薄らとしているが訊かれているのは分かった。この時の俺は既に正常な考えが出来ないでいた。


「魔族が」


 心ここにあらずで言ってしまった。一体。俺はどこまで喋るのだろうか。


「うん? 魔族の仕業なの? これ全て?」


 きっとアーディ先生はまだ意識があるであろう俺に目を付けたのだろう。


「そう……です。魔族が。ああ。魔族が」


 なんだか急に体が震え始めた。なんなんだ? この震えは? ああ。頭が痛い。


「アレス君。無理はしないで。にしてもどうして魔族がこの学校に?」


 もう俺に嘘を付く気力はなかった。だから意識を朦朧とさせながら俺はついつい口を動かし始めた。


「俺……実は」


 それによくよく考えたらもうこれ以上に仲間に危害が及ばないようにしたかった。俺は……なんてことを。


「うん?」


 アーディ先生に教えてもいいのかなんて今の俺には考えられなかった。だから俺はついつい言ってしまう。


「英雄の子孫なんです」


 信じて貰えるかは分からない。だが俺の証言を信じるには十分に現場が物語っている。俺はきっと退学だろうな。残念だが。


「え?」


 そうだよな。アーディ先生。ごめん。入学初日でこんなことを言ってしまって。これは全て俺の浅はかさが招いたことなんだ。


「本当なんです。俺。とんでもないことを」


 静かな涙だった。俺の人生は本当に最初から詰んでいたんだ。そんな危機感を持たなかった俺は罪人も一緒だろう。


 まるで顔に血でも付いているのかと言わんばかりに俺は顔を両手で覆い被せた。これは……俺と一緒だ。呪われているという点で。


「アレス君。君は悪くないわ。本当にごめんなさい。私達の方が間違っていたのよ。本当に……申し訳ないわ」


 先生? ああ。こんなにも優しくされたのは転生前でもなかったな。俺はただただ泣いていた。それはもう赤子のように。


「先生。俺」


 泣きじゃくりながら俺は言った。そんなことよりも仲間の容体が気になった。俺も大丈夫じゃないが仲間も大丈夫じゃない。


「もう心配しないで。すぐにパトロール隊がくるから」


 ということは当然だが俺の素性もばれるんだろうな。はは。俺はもう罪人なんだ。どんな処罰が下されるんだろうか。


 駄目だ。体の震えが止まらない。俺はこのままお父さんの仇を討てぬまま死んで行くのか。は。嫌だ。そんなのあんまりだ。


「大丈夫。ここは私に任せなさい。貴方は被害者なのよ。責任を負うべきなのは評議会の連中だわ」


 へ? ……もしかしてアーディ先生は俺の為に嘘を付こうとしてくれた? こんな……どこの馬の骨かも分からない俺の為に?


「でもね。アレス君。これだけは許して頂戴。貴方のこと……校長先生には言うわよ? いい?」


 俺は段々とだがアーディ先生の言っていることを理解し始めた。どうやら俺の為に動いてくれるのは仲間だけじゃないらしい。


「はい。助かります。その」


 最後にアーディ先生と言えないくらいに俺は呆然としていた。するとアーディ先生は優しく俺を抱いてくれた。


「いいのよ。だって辛いじゃない。こんな不幸があっていいのかしら。本当に」


 俺は放心ながら泣いていた。涙が止まらなかった。なんだろうか。転生前の俺も慰められているような感じだ。


「先生。俺。どうすれば」


 俺がアーディ先生に訊くとどこからか音が鳴り始めた。それもどんどん近付いてきている。なんなんだ。一体。


「アレス君。いい? 貴方は最初からここにはいなかったの」


 え? アーディ先生は一体なにを言っているんだ? そ、そんなこと……出来る訳がない。仲間をおいて一人だけなんて。


「貴方が生き残る術はもう一つしかないのよ! いい? 貴方はここにはいなかった。これが真実なのよ」


 そ、そんな。さらに嘘を付けばばれた時にどうなるのか。アーディ先生なら分かっている筈だ。出来ない。したくない。俺は……生きたい。


「さぁ。行きなさい。アレス君。……さぁ! 早く!」


 こうしている内にもどんどん音が大きくなっていく。もう……訳が分からなかった。だから俺は無我夢中に外を目指した。


「急ぎなさい! いい? 貴方は悪くない! 悪いのは! 私達なの! ねぇ? そうでしょう? お父様」


 俺は泣きながらも外を目指した。アーディ先生の言葉を最後まで聴けなかった。本当に今の俺は冷静な判断が出来ないでいた。こうして俺は決闘場から出て離れた。全ては生き延びる為に。

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