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3章 意味は、ある

ようやく始まった夏休み。

暑さは段々と本格的になっていく。

受験生とはいえ、勉強だけではなく遊びも必要?





-1-


明日から夏休み。 ということで、今日は1学期の終業式。

いつもながらの、校長からの退屈な話を聞かされる。

よくもまあ、これほどつまらない話を20分も続けられるもんだ。

さらに、今日はこの夏一番の暑さ。

うだるような暑さの体育館で、脱水症状のようになりながら耐えた。


教室に戻ると、まずは窓が開け放たれた。

思っていたよりも、爽やかな空気が教室内を駆け巡る。



 「明日から夏休みだ。 だがな、お前らは受験生だ。」


当然のことを言う担任。


 「この夏が来年の春を左右すると言っていい。 俺は断言するぞ。」


どこぞの予備校チラシに刷り込んでありそうなことを言う。


 「勉強しろ。 でも遊びも忘れるな。 以上。」


なんだかんだいって、なかなかいい教師なんだよな、うちの担任。



ホームルームも終わり、いつもよりざわついている教室。

これから始まる長期休暇に希望一杯といった感じだ。


 「高校最後の夏、か。」


なんとなく独り言を言った。


 「かっこよくねーぞ。」


耳元でいきなり言われたのでびっくりした。


 「ユータ。 びっくりすんだろうが。」


 「悪い悪い。 まさか独り言でそんな臭いことを言ってるとは思わなくてよ。」


少し恥ずかしくなった。


 「それで、なんだよ? 今日はさすがに図書室には行かないだろ。」


 「ああ、それよりも。」


いつもより少し楽しげな様子のユータ。 こいつでも夏休みは嬉しいらしい。


 「ナツキ。 明後日は暇だろ?」


 「ああ、予定はないな。」


基本的に、夏休みの予定はNHKでの高校野球観戦くらいしかない。

勉強? 暇なときにでもやるつもりだ。


 「じゃあな、涼みに行くとかどうだ?」


 「涼みに?」


 「ああ。 ここからでも手軽に行けて、涼める場所。」


どこだよ、それ。


 「それで? どこに行くんだよ。」


 「まだ決めてない。」


見切り発車もいいところ、だった。


 「どこにするかってのは、これから話し合う。」


 「そうか、じゃあ話し合うか。 で、誰が行くんだ?」


当然の疑問を投げかけてみる。


 「ま、いつものメンバーでいいんじゃねーのか。」


てことは。


 「俺たち3人と…」


 「サキ、ナミ。」


 「だな。」


いつものメンバー。


 「田中とかも呼んでみるか?」


ユータは同じクラスの男子の名前を出した。


 「一応誘ってみるか。 あと。」


仲間の名前を忘れてた。


 「ハルナも、な。」



結局図書室に集まったのは5人。

俺、ユータ、ヨシツグ、サキ、ハルナ。

ナミはいない。

1学期の終わりということで、部室の画材を整理したいということだった。

どこに行くか、などの詳細はサキから聞くそうだ。


 「さてと、集まってもらったわけだ。」


ユータが珍しく仕切ろうとする。


 「あとはナツキに任せる。」


なんでだよ。

頬杖をついたまま黙ってしまうユータ。


 「はぁ。 いいや、それじゃどこに行くかだな。」


仕方ないので仕切り役を買って出た。


 「涼める場所だったよね。」とヨシツグ。


 「鳥沼公園なら涼めるんじゃない? お手ごろだし。」


サキの言う通り、あそこなら自転車で15分も走れば行き着く。


 「麓郷の森とかは? きっと涼めるよ。」とヨシツグが提案する。


森の中もマイナスイオンだっけ? 確かに涼しい。


 「そういうお手ごろでもいいんだけどな、もっと別の方向ってのは無いもんかね。」


頬杖をついたままのユータが言う。


 「本当は海にでも行きたいんだけどな。 さすがに無理だな。」と俺。


富良野は北海道のど真ん中。 どっち方向に行っても海は遠い。


 「海ね。 行きたいけど確かに遠いね。」


サキは残念そうに言う。


 「それなら、かなやま湖でキャンプなんてのは?」


お、ヨシツグ、グッドアイデア。


 「あそこならゆっくりでも自転車で3時間くらいかなぁ?」


少し不安そうにサキは言う。


 「大丈夫だろ。 飛ばせば2時間くらいだ。」


2時間は俺たちでもきついだろ、ユータ。


 「まあ小旅行気分にはなるな。 キャンプだから1泊だし。」


小旅行だな。 こういうのは、経験上かなり楽しい。


 「みんなは一泊でも大丈夫なのか?」


一応聞いておこう。


 「問題なし。」男2人は大丈夫。


 「ナミと一緒なら大丈夫だと思う。」とサキ。


 「聞いてみるけど、大丈夫だと思うな。」


ハルナも問題なさそうだ。


 「ところでハルナ。 いろいろ場所の名前が出てきたけどわかる?」


サキが少し気を使ってくれる。


 「うーん。 たぶん。 かなやま湖は行ったことないけど。」


ふむ。


 「それじゃ地図でも持ってくる。 ちょっと待ってろ。」


立ち上がって地図を取りに行った。



 「ここが学校。 こっちがサキの家か。 ハルナの家もこの辺だろ。」


 「あ。 え? うん。 そう。」


なぜか焦った様子のハルナ。


 「ん? ハルナの家はこっちじゃないのか?」


 「う、うん。 こっちだよ…」


なんか様子がおかしいな。


 「ハルナ、変なこと言った? 俺?」


一応聞いてみた方がいい。


 「え。 えーと、いいの。」


何がかさっぱりわからない。

しかも、なぜかユータはニヤニヤしている。


 「?」


 「あー わかった。」


サキが何かをわかったようだ。


 「あはは。 ハルナ、意識するほどのことでもないよ。」


だから、何がだよ。


 「ナツキ、耳貸しな。」


ユータが耳打ちしてくる。


 「たぶん呼び捨てで呼ばれたから恥ずかしくなったんだろ。」


深い意味で言ったわけではないけど、少し恥ずかしくなった。

まったく。

気を取り直して地図に向きなおった。


 「かなやま湖はここ。 距離的にはこんな感じ。 わかるか?」


 「ナツキ、顔赤い。」


 「うるせ。」


サキ、余計なことを言わなくていい。


 「照れ隠しー」


サキにおちょくられて、更に恥ずかしくなった。




 「とりあえずキャンプ用具は俺たちの自転車に積むとして。」


結局かなやま湖でキャンプというのがメインで、帰りに元気が残っていたら麓郷や鳥沼公園に寄って行こうという話になった。



 「とりあえずテントは2張りだろ。 俺んちのとユータの家にあるのを持っていけばいいと。」


 「じゃあバーベキューコンロは俺が持っていくよ。」


 「シュラフはいらないにしても、防寒用の服くらいは無いときついな。」


 「自転車に積むと結構な荷物になるんじゃないの?」


 「私たちも手伝いますよ?」



話はどんどん進む。


 「あとは食材と保存方法か。 これが一番大事だな。」


ユータの言う通りだ。


 「クーラーを持っていくにしても、さすがに荷物だもんなぁ。」


さすがに自転車に積むのはきつい。

うーん。 難問にぶち当たった。

みんなで困っていると、ヨシツグが言った。


 「それならバーベキューコンロごと父さんに持ってきてもらおうか?」


ちょうど親父さんが南富良野の現場で働いているということだった。

朝に食材ごとクーラーを持って行ってもらい、帰りにキャンプ場に寄ってクーラーを置いて行ってもらう。

次の日の朝にクーラーを空にして回収してもらうという方法だ。


 「それで大丈夫なのか? 親父さんに迷惑がかかるだろ。」


心配なので聞いてみる。


 「一応聞いてみる。 たぶん大丈夫だと思う。」


心強い返事。


 「それなら、そこについてはヨシツグにお願いするな。」


難問は解決した。


 「そうなると、食材は明日の夜までには買っておかないといけないですね。」


ハルナの言う通り。


 「じゃあ、明日の夜に一度集まって買い物かな?」


提案する。


 「オーケー。」


他の4人が答えてくれた。


 「なんか楽しくなってきたなー」


素直な気持ちだった。




次の日の夜。


 「あんたたちね、ただ買えばいいってもんじゃないでしょ!」


サキに怒られる。

確かにカゴ一杯の肉は、男子3人女子3人が一晩で食べる量には多いかもしれない。


 「肉ばっかり食べるのはイヤよ。 きちんといろいろなものを食べないと。 それにまだカゴに入れないの。」


ナミがそう言いながら棚に食材を返していく。



ヨシツグは父親が帰ってくるまで家にいるということで、ナミが入れ替えに入った5人で買い物に来ている。


 「完全に予算オーバーね… 甘かったわ。」


とサキが財布の中を眺めながら言った。



5分後、店員が食肉コーナーに来た。


 「さあ、今よ!」とナミ。


何がだ?


肉を勢いよく、ユータが持つカゴに入れるナミ。

さっき俺たちが入れたのと同じくらいの量でストップ。


 「いや、それって買いすぎじゃないのか?」


当然の疑問だ。


 「ん!」


カゴを指差すナミ。

見てみると、全てのパッケージに半額と書いたシールが貼ってある。


 「そっか、この時間だと安くなるよね。」


ハルナがうなずきながら言う。


少し誇らしげなナミ。 ふむ、なるほどね。



 「1人1000円くらいね。 思っていたよりは高かったわ。」


ナミが残念そうに言う。


 「いやいや、1000円で収まるなんて思ってないから。 それに食べ切れないくらいあるだろ。」


右手と左手がずっしりと重い。


 「ナミの買い物はケチケチだもんね。 任せてよかったー」


サキは右手に持った荷物を振りまわしながら言った。


 「ケチじゃないの。 賢い買い物だからね。」


少し憮然としたナミ。


 「でも、安く済んでよかったですね。」


結局肉だけで3500円ほど買っている。 ほとんどが半額だから本来ならトータル7000円。


 「食べ切れるようにしないとな。 お前ら3人もたくさん食えよ。」


それじゃないと無くならない。


 「だーいじょうぶ。 バーベキューはおいしいもんね。」


女子3人の中で一番食べそうなサキが言った。


そうこうしているうちにヨシツグの家に着いた。



ヨシツグの親父さんは快く了承してくれたようだ。

俺たちは何度もお礼を言って、ヨシツグに荷物を預けた。


 「それじゃ、明日は10時までに学校集合な。 昼飯は途中のコンビニで買おう。」



明日は楽しくなる、ような気がした。




-2-


思ってたより遠い。 1時間半自転車を走らせてから思った。

俺たち野球部男組はいいが、女子3人はきついだろう。


 「休憩しようか?」


提案してみる。


 「私は大丈夫。 サキとハルナさんは?」


ナミは少し疲れた声で答えつつ、サキとハルナにも話を振った。


 「大丈夫。 もう少し頑張れる。」とハルナ。


 「問題なし! いけるいける。」とサキ。


まあ大丈夫なんだろうか。 3人ともいつもと少し違う声なのが気になったが、こう言うなら大丈夫なのだろう。

なんて考えていると、先頭を走っていたユータが道路脇の車の駐車スペースへと曲がっていった。


 「休もう。 俺が疲れた。」


俺より体力があるこいつが参るわけない。

きっと女子3人のことを考えてあげたんだろう。



 「いやぁ、さすがに遠い。」


汗を拭きながらヨシツグが言う。


 「俺も少し舐めてた。 半分よりは来たと思うけど、暑いしやばいな。」


気温は今日もかなり上がるだろう。

半袖のTシャツから覗いている腕は、思いっきり焼けていた。


 「少し早いけど昼にしちゃおう。 ここより先に休めるところがあるかわからないし。」


全員の様子を見た後で、ユータが言う。

女子3人の表情が少し和らいだ。



「金山ダム」の看板を横目に見ながら、狭い路側帯を6台の自転車が並んで走る。

さすがにもうすぐ…ということもなく、実はここからがきつい。

峠というほどではないが、結構なアップダウンがある。


 「きついと思ったらすぐに言えよ。 無理するな。」


さすがに俺でも少しきつい。 後ろを走っているハルナに優しく声をかけてあげたかったが、ぶっきらぼうになってしまった。


 「うん。 頑張る。」


既に積めるだけの荷物は男3人の自転車に積み直した。

荷物が少し減っただろう女子3人は、それでも疲労にさいなまれているだろう。


 「さす、がに、きつかった、な!」


途切れ途切れに、でも楽しそうにヨシツグが言う。


 「ヨシツグ! ふらふら走らないでよ!」


サキもさすがに疲れているのだろう。

声にハリが無くなっている。


 「確かこの先にトンネルがあるから、手前のところで休憩しよう。」


先頭からしんがりになったユータが言った。


 「オーケー。 ヨシツグ! トンネルの手前な。」


 「はいよー」



さすがに登り詰めはきつい。 何より、横を猛スピードの車が走ってくるんだから、精神的にも疲労する。

ナミとサキは既に結構な疲労顔。 しかし、意外にもハルナはそれほどでもない。


 「ナミ、サキ、大丈夫か?」


疲れているだろう2人に声をかける。


 「さすがにきついね。 運動不足だわ。」


少し息を切らしながらナミ。


 「ハルナはすごいね。 あまり疲れてないの?」


とサキ。


 「ううん。 すごく疲れたよ。」


とはいえ、あまり表情には出さない。


 「ナツキ、先頭変わってくれないか?」


ヨシツグも疲れた表情だった。


 「ああ、いいよ。」


先頭ってのは結構大変だ。

同じ体力の人間同士で走るならいいが、体力に違いのある人間同士だとペース配分も考えなければいけない。

たぶんそれ以上にきついのは、しんがりだと思うけど。


 「ユータ、お前が先頭で、俺がしんがりでもいいぞ。」


 「サンキュー まあ大丈夫だ。」


強がりではなく、ユータにはまだ少し余裕がある感じだ。


 「よし! それじゃそろそろ行くか!」


今日の最後の一頑張りといこうか。




 「くはー 着いた。」


さすがに腿はパンパン。 自転車を降りて、目の前の芝生に寝転んだ。


 「はぁ… 着いたのね。」


サキもさすがに元気がない。


 「お疲れっと。」


そう言ってユータも芝生に寝転んだ。

結局、全員が芝生に並んで寝転んだ。


平日だったにも関わらず、キャンプ場にはこの時間で2〜3組のキャンパーがいた。

夕方までにはもう少し増えるだろうか。


 「さて、さっそくだけど、早いとこテントだけでも立てちまうか。」


いつまでも寝転んでいるわけにもいかない。

休める場所を作っておくべきだろう。


 「よーし。 立てちゃおう。」



テントを立て終えてしばらく経つと、さすがに疲れたのかサキとナミはテントの中で寝てしまったようだ。

ユータも疲れて、ということはないだろうが、いつも通り昼寝だ。

テントの外に出したレジャーシート(椅子は荷物になるので持ってこれなかった。)で俺とヨシツグ、そしてハルナがくつろいでいた。


 「天気いいね。 本当に気持ちいい。」


端っこに座っているハルナが言う。


 「そうだね。 気持ちいいや。」


真ん中に寝転んでいるヨシツグが同意した。


 「今日はもう何もしたくねーなぁ。」


雲を眺めながら答えた。

少し眠くなっていたのか、意識が飛んだ。




目を覚ますと、レジャーシートには俺だけ。

ヨシツグがいなくなっていて、ハルナが目の前の湖畔にいた。


 「んー」


大きく伸びをして時計を見た。 30分以上寝てしまっていたらしい。

レジャーシートが飛んでしまわないか確認して、立ち上がりついでにテントの中を覗いてみた。

寝ていたはずのユータはいない。 サキもナミもいない様子だった。


起きた俺に気づいたハルナが近づいてきた。


 「お目覚め? おはよう。」


いたずらっぽく笑っていた。


 「ああ、おはよう。」


 「他のみんなは散歩に行ったよ。 その辺を見て回ってくるって。」


寝た後に元気が戻ってきたのだろうか。 なんだかんだいってタフな奴らだ。


 「ハルナは行かなかったのか?」


 「うん。 ナツキ君が寝ていたし。」


放っておいてくれていいのに。 でもありがとう。


 「気を遣わせて悪かったな。」


 「いいよ、気にしないで。」


よっと声を出してハルナがレジャーシートに腰かけた。

とりあえず俺は立ったままで聞いてみた。


 「ハルナは寝てないのか?」


 「うん、なんとか。」


ハルナはかなり体力があるんじゃないかと思う。

男3人ほどではないが、明らかにナミ・サキ姉妹よりは余裕があった。


 「もしかして、あまり疲れてなかったりする?」


 「ううん。 自転車でこんなに走ったのは初めて。 疲れたよ。」


ハルナは、そう言ってレジャーシートに身を投げ出した。



ハルナのことについては、まだまだわからないことが多い。

サキはどうか知らないが、なぜこんな時期に転校してきたのかということについては未だに聞けていないだろう。

俺たちと一緒にいる時間が多くなってきているが、結局彼女のことについて男3人はあまりわかっていない、

あえて聞くものでもないし、藪から蛇を出す必要もないんだろう。

でもやっぱり、仲間なら少しくらいは聞いてもいいと思う。

その代わり、何か重い理由があったとしても。 相手を傷つけないよう、細心の注意を払いながら。


 「美術部であまり動いてないナミはわかるにしても、野球部のマネージャーで走り回ってたサキより体力があるのはすごいよ。」


 「そうかなぁ。 私もそんなに体力はないよ?」


体を起こしてハルナが言う。


 「いやさ、人って疲れると、どれだけ意識してても表情とか目に出るんだよ。」


確かに出る。

油断していたら表情に出てしまう。

ある程度気を張っていても、目には疲れが出てしまう。

意志の強さでねじ伏せることもできるだろうが、さすがに今回のシチュエーションで、そこまでして疲れを押さえ込んだということもないだろう。


 「うん? 私はあまり目に疲れが出ていなかったの?」


 「そうだな。 俺にはそう見えた。」


ハルナはうーんと唸りだす。


 「もしかすると、みんなで遊びに行くのが楽しみだったからとか… かなぁ。」


考え込んだ表情のまま、ハルナは言う。


 「あのさ、なんかスポーツやってた?」


自然な流れで聞いてみる。


 「高校2年の夏まではソフトボール部にいたよ。」


理由はそこか。


 「だから体力があるんだな。 ソフトってなんだかんだ言って結構ハードでしょ?」


 「うーん。 どうなんだろう。 あまり大した選手ではなかったし…」


ハルナの性格を考えると、たぶん謙遜だろう。


 「バリバリの運動部かぁ。 それならあいつら2人よりは体力もあるよな。」


 「そうなのかな。」


あまり女の子に体力体力と言うのも申し訳ない気がしたので、話を変えることにした。


 「それにしても、これで勉強もできるってんだから、ハルナはすごいよな。」


 「そんなことないよ。 この間の試験結果はたまたまなの。」


 「いや。 たまたまでも2位になるくらいだから元々できるんだよ。 俺には絶対に真似できない。」


どんなマグレが訪れようとも、俺には無理だ。


 「そうかなぁ。 やっぱりたまたまだと思うよ?」


 「謙遜しちゃって。」


 「うーん。 でも、ありがとう。」


ここでもう少し突っ込んでみよう。


 「進路はさ、どうするの? やっぱり北大とか狙ってるの?」


軽いノリで言ったつもりだったが、ハルナの表情は少しだけ曇ってしまった。


 「えーとね。 たぶん北大には行けないの。」


「行かない」じゃなくて「行けない」か。

行けないというのは、きっと学力じゃない。 何か理由があるんだろう。

さすがに理由を聞くのは憚られた。


 「そうなんだ。 まあ北大だけが進路じゃないけどな。」


 「うん、それでね…」


表情を戻したハルナが続ける。


 「たぶん、今の家から通える教育大学の旭川校に行くことになると思うの。」


旭川なら通学圏内だろう。 俺の知り合いでも富良野から毎日旭川の高校に通っている奴もいる。


 「そっか。 もしかして教師になりたいの?」


 「うーん… 向いてないと思うんだけど、憧れはある… かも。」


ハルナだったら、真面目で生徒に慕われるいい教師になりそうだと思った。


 「いいねぇ。 もうどんなことをしたいかで進路を決められて。」


 「え?」


純粋に羨ましいなと思った。


 「俺はさー 何をしたいかもわからないし、そのためにどうしたいかも当然わからないし。」


 「うん。」


 「てきとーに札幌の私大にでも行こうかなって。 それについても『まだ働きたくないから』って理由だし。」


 「うん。 そうなんだ。」


 「今の時点でやりたいことを決められるハルナが羨ましいよ。」


 「そうかな?」


 「絶対にいいよ。 羨ましい。」


どさっとレジャーシートに腰を下ろした。


 「やりたいことなんて、いつかは見つかるものじゃない?」


なんか、いつか聞いたことがあるような言葉をハルナが言った。


 「きっとね、ナツキ君にもやりたいことは見つかると思う。」


自信に満ちた表情のハルナ。


 「そうか。 いつか見つかるよな。」


 「うん。 だから大丈夫。」


 「ありがと。 少し気が楽になった。」


 「いいえ。 このくらいのことならいつでも。」


ニコっと笑ったハルナ。

緊張して固まった表情ではなく、こういう表情こそが本当のハルナなんだろうと思った。





-3-


 「それじゃあ明日の朝7時半までには来るからな。 それまでに空にしとけよ。」


6時になり、ヨシツグの親父さんがクーラーと一回分の木炭、ヨシツグ分のシュラフを持ってきてくれた。

みんなでお礼を言うと、親父さんは颯爽と帰っていった。


 「さて、さっそく料理を始めないと暗くなっちゃう。 サキ、ハルナさん、手伝ってくれる?」


どうやら調理はナミの主導らしい。 ハルナには失礼かもしれないが、それが一番安心できる。 サキはどうでもいい。



 「それでは、炭を熾さなければいけないわけだ。」


ユータがいつになくやる気満々の表情で言う。 こいつはこういうことをするのが大好きな性格だ。

まあこのくらいの作業なら簡単だろう。

野球部のときは、グラウンドを使ってジンギスカンなどをすることもあるし、まあ火熾しくらいならあっという間なはず。


 「たぶん調理はすぐだろうし、さっさと熾すか。」



10分後、火はまだ熾きていなかった。


 「炊きつけがないときつすぎる。」


ヨシツグが泣き言を言う。


 「確かにな。 全然木炭に火がつかない。」


文化炊きつけ自体は木炭の袋に入っていたが、たったの一本しか入っていないのは盲点だった。


 「ヨシツグよぉ、炊きつけは大丈夫って言ってたろうよぉ。」


ユータが団扇を振りながらヨシツグに言った。


 「一本じゃ無理。 これはどんなに扇いでたって無理。」


俺も途方に暮れてヨシツグに伝える。


 「それなら… 近くのテントでもらえるか頼んでくる。」


多少引っ込み思案なところがあるヨシツグにしては上出来の反応だ。

少しは責任を感じているのだろう。

さっさと隣のテントに向かっていった。


 「もらってこれりゃいいけどな、ダメだったらヤバイぞ、これ。」


 「いざとなったら誰かの服でも燃やせばいいよ。」


ユータが恐ろしいことを言う。


 「俺のはダメな。」


 「俺のもダメだ。」


それじゃあ、ヨシツグの服くらいしかないだろう。


 「もらってこれるといいな。 あいつのためにも。」


ユータはもう一度恐ろしいことを言った。



結局文化炊きつけは無事にもらうことができ、火もそこそこ熾きてきた。

水場に行っていた3人も戻ってくる。


 「ユータ、どう? もう火は大丈夫?」


どっさりと野菜を持ってきたサキが、団扇で火を煽っているユータに問いかけた。


 「オーケーだと思う。 そろそろいける。」


そのまま網をコンロに乗せるユータ。


 「よーし。 それじゃあ食材を投入しちゃおー!」


火を見てテンションが上がったのか、サキはとても楽しそうに野菜を網の上に乗せはじめた。


 「サキ。 焼けにくいとうきびから先に乗せるの。 はい。」


ナミが見かねてアルミホイルにくるまれたとうきびを差し出す。


 「はいはい。 乗せますよ。」


サキは網の真ん中にとうきびを乗せた。


 「じっくり焼くから端っこでいいの。 はいはい。」


ナミがアルミホイルを網の端っこに移動させた。


 「それにしても、こんだけ食材があって食べ切れるのか?」


改めて見てみると、これはすごい量だ。

もし食べ盛りの男6人だったとしても、食べきれる量かどうかは微妙なところだと思われる。


 「まあ食べるしかないでしょ。 さっさと焼く焼く!」


再びサキが仕切り始めた。

網の上に食材を乗せると、途端にいいにおいが充満してきた。

なんだかんだ言って、腹は相当減っている。

これなら食べ切れるかもしれないな。



 「満腹〜 食べた食べた〜」


サキがそのままレジャーシートに倒れこんだ。


 「サキ。 だらしないよ。」


姉のツッコミが入る。


 「いいのいいの。 もう満腹で動けないから。」


 「もう。 後片付けは全員でするんだからね。」


呆れたようにナミは言ったが、きっと本当は呆れてなんていない。


 「つーかさ、意外に食えちゃうもんだ。」


ユータが言う通り、なんだかんだで食材の残りはわずかになっていた。

何より意外だったのは、ハルナが相当食べていることだった。

細い体の割には、胃袋は大きいのだろうか。

下手すると、ヨシツグよりも食べているかもしれない。

思わずハルナの方を見てしまった。


 「ん?」


視線に気づかれた。


 「あ、いや、なんでもない。」


さすがに「その体でよく食べるね」なんてことを女の子には言えなかった。

人は見かけによらないもんだ。

ハルナの新しい側面を見た感じがして、少し楽しい気持ちになった。



 「おおー 食った食った。 完食しちまったよ。」


ユータが先ほどのサキのように、レジャーシートに倒れこみながら言った。


 「もう満腹で動けない。」


ヨシツグがサキのようなことを言っている。


辺りは既に暗くなっていた。 たぶん時間は7時半を過ぎているだろう。

満月に近い月が出ていたので、思ったよりも明るくはある。

それにきちんとしたキャンプ場なので明かりはあることにはあるが、さすがにライトやランタンがないと手元が見えづらくなってきた。


 「片付けもしないとなぁ。」


あまりやりたくはないが、一応言っておいた。


 「うん。 ちゃんと手伝ってね。」とナミ。


とはいえ、食材は既に片付いてしまっているし、アルミホイルの銀皿や調味料の類はナミが片付けてしまった。

片付けるものは、もうほとんど残っていない。


 「火は… まだもう少し置いておかないといけないな。」


まだ少し燻っている感じだ。


 「とりあえず手を洗ってくるね。」


 「あ、あたしも行く。」


 「うん。」


女子3人が連れ立って水場に向かっていった。

手を拭くくらいウエットティッシュでいいのに、と思ったが、詮索することもないだろう。


 「ナツキ、ヨシツグ、片付け頼んでいいか?」


寝そべりながらユータが言う。


 「ああ。 あとは灰を捨てに行くだけだからいいけど。」


 「悪い。 超眠い。 ちょっと寝かせてくれ。」


たぶん、今日一番色々と気を使ってくれたのはユータだろう。


 「仕方ないな。 いいよ、俺たち2人でやっとく。」


 「悪いな。 それじゃおやすみ。」


ユータはあっという間に眠ってしまった。




 「ナツキぃ。 ちょっとちょっと。」


灰を捨てに行ってテントに戻る途中、サキが走り寄ってきた。


 「あのさ、温泉に行くんだったよね?」


そんなことを言っていた記憶はないが、さすがに汗もかいたし、風呂に入りたいとは思っていた。


 「そこの保養センターか? 何時までやってるんだろうな。」


 「8時半まで受付をしてて、9時まで入っていられるって。 早く行った方がいいよね。」


時計を見ると既に8時10分を回っている。 時間的には結構ギリギリかもしれない。


 「それなら急いで片付けないと。 それと準備。」


コンロのもう片側を持ったヨシツグがそう言いながら歩調を速める。

俺はその歩調に合わせながら言った。


 「あと、サキ。 ユータを起こしておいてくれ。」


 「りょーかい。 任せといて!」


サキが小走りに戻っていった。




 「疲れが取れる。」


ヨシツグが湯船で足を伸ばしながら言った。


 「さすがに俺たちでも疲れたもんな。 女3人は相当疲れてると思う。」


俺も同じような体勢で言う。


 「まあナミとサキは普段から運動不足なんだろうし、これで少しは解消されるだろ。」


 「ナツキー うるさーい。」


そんなに大きな声で言ったつもりはなかったが、どうやら筒抜けだったようだ。


 「サキ、うるさいから叫ぶなよ。 他のお客さんの邪魔だろ。」


 「残念ね、こっちにはあたしたち3人しかいないよ。」


男風呂も俺たち3人しかいない。


 「お前らしかいないのか。 それは残念残念。」


残念そうな調子で言ってみる。


 「ナツキ君。 ひどいね。」


聞こえるか聞こえないかギリギリくらいの声で、ナミが言う。


 「まあおばさんがわんさか入ってるよりも、まだお前らの方がマシかもなー」


更に攻撃を加えてやる。


 「あんたねー 壁一枚向こうに女子高生3人が入ってると考えてみなさいよ。」


サキがそういうので考えてみる。


 「残念だな。 あまり気にもならなかった。」


 「ナツキ、結構ひどいな。」


ヨシツグが笑いながら言う。


 「…」


さすがにダメージが大きかったか、少しの間沈黙。


 「ハルナぁ。 細いと思ってたけど、実はナイスバディなんだねー」


 「え。 ええっ?」


サキに煽られて困った感じのハルナ。


 「ナミとあたしもナイスバディなんだけどー ハルナはそれよりもすごいのよー」


何を言ってんだか。


 「確かに。 ハルナさんは想像以上ね。」


ナミも乗っかる。 少し気になったが、当然そんなことは言えない。


 「どうよー ユータぁ。 黙ってないで何か言いなさいよねー」


サキに煽られたユータを見てみる。


やはりこいつは大物だ。


 「サキ、ユータは湯に浸かりながら寝てる。」


 「はぁ?」


 「そういうことだ。 残念だったな、サキ。」


溺れるなよ、ユータ。




 「サッパリしたー 気分いいね。」


髪を拭きながら、サキが言う。


 「たくさん汗をかいたもんね。 本当にサッパリ。」


ナイスバディだと噂のハルナも言う。


 「疲れも少しは取れたね。」


ヨシツグも笑顔。


 「…」


ユータは… 少しの時間があれば、どこでもぼーっとしているか寝ているかだな。


 「さってと、ハルナ、ヨシツグ、ユータ、戻ったらお楽しみが待ってるよ!」


サキが髪を拭き終えてニヤニヤしながら言う。


 「ちょっと待て、俺にはお楽しみは待ってないのか?」


 「うーん。 たぶんナツキの分はないね。 ナミ?」


 「うん。 無いね。」


それはつれないな…


 「そんなにお楽しみが気になるかぁ? 二宮夏樹君。」


椅子にふんぞり返ってナミが言う。


 「はい。 気になります。」


本当に気になっていたので、乗ってやることにした。


 「よろしい。 先ほどの失礼は忘れてやろう。」


 「ありがとうございます。」


下らないことだったら、また攻撃してやればいい。


 「そろそろ戻ろうか。」


ナミの一声で、みんなが立ち上がった。




-4-


サキがテントの中でごそごそと何かを探している。


 「じゃーん。 お父さんからの差し入れー」


持っているのは大量の花火だった。


 「ナツキぃ、特別にあんたも招待してあげるよ。」


サキがそう言うと、ナミもうなずく。


 「ここのキャンプ場は花火をしてもいいのかな?」


気にした様子でヨシツグが言う。


 「確かダメだろう。 一応確認してくる。」


ユータが立ち上がって看板に向かっていった。



 「残念だけど花火は禁止になってる。」


 「なーんだ。 花火できないんだ。」


しゅんとした様子のサキ。


 「そっか。 事前に調べてくればよかったね。」とナミ。


 「残念だけど仕方がないさ。 ルールは守らないと。」


そう、ルールは守らなければいけない。


 「花火、どうしようか?」


ハルナも残念だったようで、少ししゅんとした様子で言う。


 「それならね、明日の夜、帰った後にうちの前で花火をやらない?」


サキが言う。


 「あ、ごめん。 明日の夜は用事があるの。 私は気にしないで。」


ハルナが残念そうに言う。


 「いや、どうせなら全員でやろう。 別の日にしないか?」


ユータがそう提案した。


 「それならいつがいいかな? 明後日の夜?」


 「みんな、大丈夫?」


俺は、いつでも大丈夫。


 「うん。 私も明後日なら大丈夫。」


少し表情を明るくしたハルナが言う。


 「じゃあ決まり。 明後日の夜にあたしたちの家に集合ね。」


笑顔に戻ったサキが言った。


 「さてと、暇になっちまったな。」


何をするでもなく、暇な時間になってしまった。

時間は9時半を少し回ったところ。


 「明日は何時頃に起きるの?」とナミ。


 「そうだな。 ヨシツグの親父さんが7時半までに来ると言ってたからそれまでには起きていよう。」


ユータはそう言うが、こんな時間に寝たら6時には目が覚めてしまうだろう。

とはいえ、やることもない。


 「それじゃあ寝ようか。 みんな、おやすみ。」


ヨシツグがそう言ったのをきっかけに、それぞれのテントに潜り込んだ。


 「いびきかくなよ、ユータ。」


一応言っておく。


 「知らん。 俺のせいじゃない。 我慢してくれ。」


いびきをかくこと前提のユータ。



眠気はあっという間に訪れた。

どうやら、ユータのいびきは聞かなくても済みそうだ。





-5-


遠くで小鳥が鳴いている。

目の前が少しずつ眩しくなっている。

どうやら朝のようだ。


隣を見ると、ユータがいびきもかかずおとなしく寝ていた。

逆隣を見ると、一人シュラフを持ってきていたヨシツグが、そのシュラフを足元に蹴飛ばして豪快に寝ていた。

普段の性格と違う2人の一面を見て、少し微笑ましい気分になった。


時計を見た。 まだ5時10分前。 さすがに早く起き過ぎたようだ。

もう一寝入りしようと横になってみるが、既に目が冴えてしまった。

することもないし、とりあえず横になっていようか、それとも外に出てしまおうか。

考えていると、隣のテントでガサゴソという音。

そののち、じーっとジッパーを開ける音がして誰かが外に出た気配を感じた。

このまま横になっていても仕方が無いので、俺も外に出ることにした。



 「おはよう。 今日もいい天気だね。」


ハルナだった。


 「ああ、おはよう。 こんな時間でも、もう明るくなっちまうんだな。」


 「そうだね。 普段はめったにこんな時間に起きないもんね。」


朝練がある日でも、起きるのはせいぜい6時半といったところだ。

5時に起きていた記憶なんて、ほとんどない。


 「それにしても気持ちいいね。 朝って感じ。」


 「まあ、当然朝だから朝って感じはするだろうけど。」


そういうことじゃないのはわかってるけど。


 「そういうことじゃないんだけどなぁ。」


 「わかってる。」


 「もう!」


おちょくられたとわかり、ハルナがふくれた表情をする。



 「あ。 ここで話していたらみんなが起きちゃうかな。


ハルナが少し小さめのトーンで言う。


 「心配しなくても、いずれ起き出してくるとは思うけど。」


 「でも、自然に目覚めるのが一番だよね。 静かにしてあげないと。」


こういう気の使い方をサキが覚えてくれれば… いや、無駄な話か。


 「ここで静かにしてるか。 とりあえず自販機で缶コーヒーでも買ってくる?」


目覚めにはコーヒー。 俺の習慣。


 「うーん…」


何かを考え込んでいるハルナ。

何を飲みたいかを考えているのだろうか。


 「えっとね、それなら散歩にでも。 どう?」


 「え?」


意外な提案だった。


 「昨日、私たちだけ散歩できなかったよね。 それなら今行ってくればいいと思うの。」


 「まあいいけど。 こいつらには伝えておいたほうがいいのかね。」


どこに行ったんだ、なんて探されることもないと思うけど。


 「それじゃあ2人に言ってから行こう。 ちょっと待ってて。」


パタパタとテントの方に駆けていき、ジッパーを開けた。


 「ナツキ君と散歩に行ってくるね。」


 「ううーん。 あーい。 あーい。」


寝ぼけた声が隙間から聞こえてくる。

こいつは絶対に理解してないな。


 「どうぞぉ。 私はもう少し寝るー」


ナミが答えた。


 「うん。」


ジッパーを閉めて、またこちらに駆けてくる。


 「行こっ。」




 「朝の散歩って気持ちいいね。 きっと夕方の散歩より気持ちいいんだよ。」


 「そうだなぁ。 まあ夕方の散歩もいいけど、朝の散歩も爽やかでいいもんだよな。」


それとなく喋りながら湖畔に沿って歩く。

太陽を背にしながらなので、おそらく西に向かっているんだろう。


10分ほど湖畔を歩いただろうか。 道が原生林のようなところで打ち止めになっている。

正確にいうとけもの道のようなものはあるが、さすがにここに分け入ると散歩ではなくなってしまうだろう。


 「さすがにこの先は行かないよな?」


 「うん。 朝露で靴が濡れちゃうし。」


これで往復20分くらい。 ちょうどいい運動だろう。


 「戻ろうか。 ついでに保養センターのところの自販機に寄って行こう。」


 「うん。 そうしよう。」


鬱蒼とした原生林を背に、今度は道路側を戻ることにした。



周囲至るところから鳥の鳴き声が聞こえてくる。

富良野の町もそれなりに自然はあると思うが、やはりここは大自然の中なのだと改めて認識した。


 「ほんの少し、オオルリも鳴いているのが聞こえるね。」


 「オオルリ?」


鳥の名前を言われてもわかるわけがない。


 「そう。 ウグイスと同じくらい鳴き声がキレイな鳥なんだって。」


 「へぇー どんな鳴き声?」


 「ピリリーって感じなの。 少し高い音。 ほらっ!」


立ち止まって耳をすましてみる。

確かにかなり遠くからそんな感じの音が聞こえてくるような気がする。


 「青くて、とてもキレイな鳥なんだって。」


少し遠い目、寂しげな表情でハルナが言う。


 「青い鳥、か。」


 「そう。 幸せの青い鳥。」


ハルナの表情が和らいだ。


 「鳥、好きなの?」


 「うん。 小さい頃は鳥の図鑑をたくさん読んでいたよ。」


少しハルナらしいなと思った。

再び歩き出した。


しばらくの沈黙ののち。


 「お父さんが鳥の好きな人で、富良野に来ては森の中でバードウォッチングをしていたの。」


自分の話をしはじめているハルナ。 これなら少しだけ、彼女のことを聞いても大丈夫だろう。


 「元々富良野に住んでいたわけじゃないんだよね? どこに住んでいたの。」


 「うーん。 いろいろ。 お父さんの都合で全道を回っていたから。」


お父さんは転勤族なのか。


 「俺は富良野から出たことがないからなぁ。」


 「一番長くいるのは札幌だけど、富良野によく来ていたのは旭川に住んでいたときね。」


 「サキが言ってた小学生の頃って話?」


 「うん。 小学校の時は最初の4年間が旭川で、その後は岩見沢だったよ。」


スムーズに自分のことを話してくれるハルナ。


 「でも、なんで富良野に来てたの? 家もあるってことは、お父さんかお母さんの実家なの?」


 「うん。 富良野はお母さんの実家。 今住んでいるのもそうなの。」


 「そうか。 小さい頃にあの2人と遊んでいたってのは、お母さんの実家に遊びに来ていたときの話なんだな。」


 「ほとんど夏休み中いたよ。 ナミちゃんやサキちゃんとはほぼ毎日遊んでいたわ。」


それなら仲良くなるのも当然の流れかもしれない。


 「実はね、ナツキ君とも遊んだ覚えがあるのよ。」


 「え?」


そういやハルナが転校した来た日に、サキがそんなことを言ってたっけ。


 「覚えてないよね。 たぶん3〜4回だから。」


 「悪い。 全く覚えがない。」


 「謝らなくてもいいよ。 私もサキちゃんに言われるまでは覚えていなかったから。」


ハルナはニコっと笑う。


 「でもなぁ。 あの時期ってあんまりあいつらと遊んだ記憶はないんだよな。」


確かに、あまり遊んだ記憶はない。


 「えーと。 一回はお祭りに行ったのかな。 確か。」


 「お祭りって、へそ祭り?」


富良野にはそういう名前の有名な祭りがある。


 「へそ祭りは行ったけど、あれは両親とかなぁ… もっと、神社でこじんまりとした出店が出ているような…」


 「大きい祭りなら富良野神社で神社祭をやっているけど、8月の終わりだからもう学校が始まってるんじゃないか?」


たぶん、小学生の頃も8月の20日過ぎには学校が始まっていたと思う。


 「私も記憶があいまいなの。 でも、会場で大騒ぎしていて怒られたときに、ナツキ君がゲンコツされている覚えがあるの。」


 「あ! 思い出した! ゲンコツされたといえば!」


祭りでゲンコツされた、ということで思い出した。


 「あの時は俺の親父があの2人と何人かを連れて祭りに行ったんだ。」


 「うん。 誰かのお父さんに連れていってもらったと思う。」


 「あの時って学校の同級生ばかりだと思ってたけど、そこにハルナがいたのか。」


そういえば、見覚えのない女の子もいたような気がする。

どこの子かなとは思ったが、お祭りにはしゃいでたので特に気にしなかったんだろう。


 「やっぱり、あのときの少年はナツキ君だったのね。 少しすっきり。」


満面の笑顔でハルナは言う。

話は聞きたい方向に行かなかったが、まあそれも仕方ない。


目の前に保養所が見えた。



ハルナは律儀なやつだった。

自分の分だけでいいのに、起きたらきっと飲みたくなるからとナミ・サキの分まで買ってあげている。

当然俺は自分の分だけでいいだろう。 あいつらなんざ飲みたければ自分で買いに行けばいい。


 「…それなら私が2人の分を買おうか?」


 「いいや、甘やかさないでくれ。」


教育は大事だ。 とはいえ。



テントのある場所へ戻ると、既にナミとヨシツグが起きていた。


 「おかえりー」


 「散歩?」


2人が同時に話しかけてきた。


 「うん。 昨日は散歩できなかった早起き2人で散歩してきたの。 はい、これ。」


ハルナがナミに缶ジュースを手渡す。


 「あ、ありがとう。 ちょうど喉が渇いてたんだ。」


さっそく封を開けてジュースを体の中に押し込んでいる。


 「ナツキ?」


物ほしそうなヨシツグがこっちを見ている。


 「甘い。 自分で買ってくればいい。」


ビシッと伝えてやる。


 「…」


今度はハルナの方を物ほしそうに見るヨシツグ。


 「ごめん。」


 「…」


やや思考停止しているようなヨシツグ。


 「嘘だよ。 ほら。」


そのまま缶コーヒーを投げてやる。」


 「うわ。 ブラックの缶コーヒー。」


 「それで目を覚ませ。 おごってやるから。」


ありがたく思えよ。


 「うーん。 ありがとう。」


そういえばこいつはコーヒーがダメだったかもしれない。 まあいいや。


そうこうしていると、女子テントの中から眠そうな顔をしたサキが起き出してきた。


 「おあよー なんじー?」


サキらしい、いい寝起きだ。


 「もう8時過ぎだ。 寝坊だぞ。」


 「ええええー ごめんねー」


そんなわけはない。 まだ6時過ぎだ。


 「すぐに出発するぞ。 さっさと用意しろ。」


冗談を繋げてみる。


 「いやだー まだテントの中が散らかってるのー」


テントの中で何をしてたんだよ。


 「ナミちゃん、思ったより寝起きが悪いんだね。」とハルナ。


いやいや、これはサキだろ、ハルナ。


 「うんー 疲れてるみたいー」


仕草といい、寝ぼけ具合といい、明らかにサキだろ。


 「ナミ、ハルナがジュース買ってきてくれたよ。 飲んで目を覚ましなさいよ?」


同じ顔のしっかりしている方が言う。


え?


 「うん。 ありがとー」


今ジュースを受け取って、リングプルも開けられない寝ぼけ具合の方がナミ?


 「顔を洗ってくるね。 ナミがジュースで溺れないよう見てて。」


こっちのしっかりした方がサキだって?


 「溺れるわけないでしょー」


なんとなく、騙されているんじゃないかとも思った。

これは意外すぎる。


普段はしっかりした姉、少し抜けている妹。

寝起きではそれが逆転するのか。


 「それよりも、ユータを起こして来たら? テントなんてすぐに片付けた方がいいでしょ?」


水場に向かいながら、しっかりとしたサキが言った。


意外だとは思ったが、やっぱりこの2人は姉妹なんだなと、なぜか少し安心した。




-6-


ヨシツグの親父さんは、ほぼ時間通りに来てくれた。

朝飯も買ってきてくれるんだから、本当にありがたい。

さらに、他に荷物になりそうなものは限界まで乗せてくれるという。

とりあえず必要がなくなったテントやら何やらを乗せ、それぞれ自分の荷物分のみを自転車に乗せる。


 「ありがとうございます。 テントはあとで取りに行きます。」


何とか時間までに目覚めたユータが、まだ少し眠そうな表情で言う。


 「あんた、倉島さんとこの勇太君だろ。 いいよ、帰り道だし荷物は置いていってやるよ。」


なんて優しいんだ。 ヨシツグの親父さんは。


 「そんで、こっちのテントは誰のだ?」


 「あ、俺のです。」


 「二宮君だったな。 君の家も通り道だったよな?」


 「そうだと思いますけど、自分で取りに行きます。 僕のまで運んでもらうのは申し訳ないので。」


場所も詳しくはわからないだろうし、さすがに申し訳ない。


 「でもよ、明日はテントを日干しするんだろ?」


日干ししなかったら父に怒られるのは間違いない。


 「あ、それなら。 ユータの家にそのまま置いてもらっていいですか? 家近いので。」


 「それでいいのかい?」


 「十分です。 本当にありがとうございます。」


とても助かった。


 「そしたらな。 自転車なんだから気をつけて帰れよ。」


ヨシツグの親父さんは颯爽と去っていった。


 「さてと、とりあえずご飯を食べたら出発しよう。」


息子は少し誇らしげだった。




帰りは結構楽だった。

多少筋肉痛にはなっていたが、体は昨日よりも動く。

しんがりから女子3人の様子を見てみたが、まだ昨日よりは楽そうに走っている気がする。


 「金山ダムの展望台に行くって。」


前を走っていたナミがそう告げてきた。


 「オーケー。 そのまま付いていくよ。」


ナミもすっかり目が覚めた様子だ。



 「すごいねー」


 「眺めがいいよね。」


サキとハルナが楽しそうに言う。


実は、金山ダムの展望台に来るのははじめてだ。

確かに、壮大なダムの規模が一望できるだけあって、なかなかの景色だと思う。


 「写真でも撮ろうよ。」


ヨシツグが首から提げているカメラを構える。

さっきの荷物預けのときに、親父さんから貸してもらったようだ。


 「3脚がないからとりあえず俺が撮るよ。 次は誰か変わって。」


1枚目は真面目に撮った。 2枚目はポーズをつけて。

撮影者を変わろうとヨシツグに近づいていくと、展望台に3人の観光客が来た。


 「どうせなら全員で写りたいよな。 頼んでみる?」とヨシツグ。


 「そうだな。 じゃあ俺が頼んでくる。」


とりあえず3人に近づいていった。


 「すみません。 写真を撮ってもらっていいですか?」


 「いいよ。 カメラは?」


人の良さそうなおじさんが快諾してくれた。


 「あ、あっちにあります。 みんなを呼びますね。」


とりあえず5人を呼んだ。


 「すみません。 じゃあ何枚かお願いします。」


 「はい。 それじゃあみんな、真ん中に寄って。」


1枚目はやはり真面目に。


 「すみません、もう1枚お願いします。」


 「はいはい。 じゃあ写すよ。」


2枚目は後ろの男3人でポージング。


 「あははは。 面白い写真が撮れたと思うよ。」


おじさんは笑っている。


 「ありがとうございました。」


全員でお礼を言う。


 「それなら、こちらもカメラをお願いしていいかな?」


 「はい。 それじゃあ僕が撮ります。」


そう言っておじさんからカメラを受け取る。


 「撮りますよ。 はい、チーズ。」


少し子供が小さい気がしたが、3人はどうやら親子のようだ。

3人とも満面の笑顔。


 「もう1枚撮りますね。 はい、チーズ。」


もう一度、満面の笑顔。


 「ありがとうございました。」


 「こちらこそ、ありがとうございました。」


カメラを手渡す。


 「ところで、下に自転車が止まっていたが、君たちは地元の… 高校生かい?」


おじさんに尋ねられる。


 「はい。 南富良野ではなく富良野ですが。」


 「そうか。 少し聞きたいんだけど、このあたりで地元の人しか知らないような観光スポットはないかな?」


地元の人しか知らないような観光スポットか。

そういうのは、たぶんユータが詳しい。


 「ユータ。 この辺に知る人ぞ知るみたいな場所はないか?」


 「うーん。 幾寅の駅くらいしか無いんじゃないか。 それか狩勝峠の展望台。」


まあ幾寅駅なら俺でも知っている。(たぶんそれより有名な名前は「幌舞駅」なんだろうけど)

狩勝峠の展望台か。 あそこは結構眺めがいい。


 「ふむ。 幾寅駅はこれから行くところだけど、狩勝峠というのは帯広に向かう途中の峠かい?」


 「ええ。 幾寅まで行けば大きい道路の道なりですかね。」


 「わかった。 ぜひ寄ってみるよ。 ありがとう。」


おじさんは奥さんと子供を促して下に降りていった。




 「まだ元気はあるか?」


国道に出て、しばらく行ったところで小休止をしていた。


 「うん。 昨日より全然平気だよ。」


サキは昨日よりも元気そうだ。


 「私も大丈夫。 少し筋肉痛だったけど、走っているうちに治ったわ。」とナミ。


 「時間もまだ早いし、麓郷に寄っていこうか?」とヨシツグ。


 「うん。 久しぶりに見に行きたい。」


ナミがまだ楽そうな表情で言った。


 「そんなら、行っちまうか。 しんがり変わってやるよ。」


 「ああ、サンキュ。 じゃあ先頭は俺が行くか。」


 「いいよ。 俺が行くからナツキは真ん中で。」


出発することになった。


と、なぜかナミだけが動き出さない。


 「どうした?」


声をかけてみる。


 「チェーンが外れているみたい…」


ああ、やっちまったのね…


まあナミの自転車は普通の自転車だし、すぐに直せるだろう。


 「よし、直してやるから一旦降りろ。」


ナミが自転車から降りる。


 「これなら一瞬で直せるな。 ほれ。」


軽くチェーンを動かして、ペダルを手で回してチェーンを入れてやった。


 「もう直ったの?」


ナミは驚いている。


 「チェーンが外れやすくなってるんだろ。 でもこれはまた外れるなぁ。」


きちんと直さないと、力を入れたときにまた外れるかもしれない。

後ろから見ていたらわかるが、ナミの運転は少し危なっかしい。


 「ナミ、自転車交換するぞ。 お前は俺のに乗ればいいよ。」


 「でも、ナツキ君が危なくならない?」


心配そうなナミ。


 「大丈夫だ。 転んでもナミよりは怪我せずにすむから。」


 「うん… それならお願いね。 ありがとう。」


自転車を交換することになった。


 「よし、それならチェーンが外れないよう少しスピードを緩くして行こう。」


そう言ってヨシツグが出発した。

続いてサキ。 その後はナミ。 次が俺だ。


 「よし行くぞっと。」


いつもの調子で力を入れて踏み込んでしまった。

チェーンがまた外れた。


 「悪い。 やっちまった。」


これは情けない。

さすがにユータにも笑われてしまった。




-7-


 「着いたぁ。 ここが展望台〜」


サキが全身で喜びを表現する。


 「見晴らしいいね。 天気もいいし、最高のロケーション。」


風に髪をなびかせながらハルナが言う。

確かに、この展望台からの眺めは素晴らしい。


 「貸切なんて珍しいね。 風がいい気持ち。」


ナミも気持ち良さそうに風を浴びている。



 「ここでも写真を撮ろう。 とりあえず並んで。」


ヨシツグがカメラを構えた。

1枚目はやっぱり真面目に。


 「ヨシツグ。 次は俺とユータで飛ぶから上のほうも写してくれよ。」


2人で大きくジャンプ。


 「オーケー 多分写ってる。」


 「よし、それじゃ次は俺が撮る。 ヨシツグ、入れ。」


ユータが撮ってくれるようだ。


 「よーし、撮るぞ。」


合図も無しに撮ってしまうユータ。


 「次は全員で肩を組め。 楽しそうにだぞ。」


注文の多いカメラマンだな。

俺はナミとハルナの肩に手をかける。


 「いい写真が撮れたな。」


満足そうにカメラマンが言う。


流れる風が心地よかった。



 「お昼、どうしようか?」


 「そうだね。 どこで食べよう。」


ナミとサキが考え込んでいる。

そう言われればもうそんな時間だ。


 「麓郷の町まで戻れば、そば屋がなかったっけ?」とヨシツグ。


そう、なんとかって有名なそば屋があった。


 「そうだな。 そこに行こう。」


冷たいそばなら今日みたいに暑い日には最適だろう。


 「その後はどうするの?」とハルナ。


 「そうだな。 どうせだから遠回りでも八幡丘経由で帰るか?」


ユータがみんなを見回しながら同意を求める。


 「うん。 賛成!」


とりあえず反論はないようなので、そばを食べた後は八幡丘を回りつつ帰ることになった。




そばを食べた後、少し遠回りになるが八幡丘方面に向かった。

国道と違ってややアップダウンはあるが、交通量が少ないので精神的には楽だ。

女子3人も思ったより余裕そうで、前からはナミの鼻歌も聞こえてくる。


 「眺めがいいな。 ここで止まるようにヨシツグに伝えてくれ。」


後ろからユータの声。


 「ヨシツグー ストップー」


6台の自転車がやや行った後に止まった。


 「ここは『北の国から』のロケで使われていた牧場。」とユータ。


確かフェニックスファームだっけか。


 「こうやって見ると、普通の牧場だね。」


 「それはそうよ。 普通の牧場だもの。」


 「ドラマで使われていたって言われないとわからないくらいだね…」


女子3人は感動… していないようだ。


 「まあ、あのドラマがなければ、富良野なんてただの田舎だったのかもしれないし。」と俺。


 「ありがたく思わないとな。」とユータ。



ただの田舎か。 本当にそうだ。

でも、そのドラマのおかげで、富良野は全国的にも有名な観光地になった。

市の経済への貢献という意味では、とても大きな価値があるだろう。

それでも、観光客が落としていくのはお金だけじゃない。

観光客に飽きられないためには、『観光地』を作らなければいけない。

そうすると、自然は少しずつでも失われてしまう。

ということは、本当の意味での自然を維持するには、観光客は邪魔な存在になる。


経済のためには観光客が必要。

自然が無ければ観光客は来ない。

でも自然維持のためには観光客が邪魔。


カントが言う『アンチノミー』というのはこういうことを言うのだろう。


なぜかわからないが、哲学的な考えが頭に浮かんで消えていった。

そんな俺の意識を置き去りに、また自転車は動き出した。




 「眺めがいいね。 なんて名前の公園なの?」


ナミが全員に聞いてくる。


 「えーと、なんだっけ。 ハートヒルパークだかって名前じゃないか?」とユータ。


 「八幡丘展望公園?」とヨシツグ。


 「悪い。 知らないんだ。」と俺。


後から調べると、正式名はハートヒルパークだとわかった。

八幡丘展望公園でも間違いではないようだ。

富良野の市街が一望できる。 遠くには俺たちが通っている高校もかすかに見えている気がする。


 「家の方まで見渡せるね。 ナミ、ハルナ、あの辺じゃない?」


指差して同意を求めるサキ。


 「どうだろうね。」とナミ。


ゆっくりしていたかったが、さすがに疲れてきた。


景色を堪能した後はまた写真を撮影し、ハートヒルパークに別れを告げた。




展望台から自分たちの家を見て郷愁に誘われた。

というわけでもないが、鳥沼公園には寄らずに帰ることになった。


それぞれ帰ってもよかったのだが、一応学校の校門前で別れることになる。


 「お疲れー ホントに疲れたねー」


昨日のキャンプ場到着時よりは明るい表情のサキが言う。


 「明日は筋肉痛ね。 少し痛くなってきてるもの。」


ハルナは昨日より疲れているようにも見えるが、やはりまだ余裕がありそうな表情だ。


 「明日は夜の8時から私たちの家で花火、かな。」


一番疲れている様子のナミが言う。


 「明日の昼までゆっくり休もう。」


ユータも少し疲れた表情だ。


 「とりあえず同じ方面同士で帰るか。 ユータ、ナミ、サキ、行くぞ。」


俺も少し疲れている。 自転車で移動した時間は、短めに見積もっても5時間半は優に越えている。

途中休みつつとはいえ、さすがに精神的にも疲れている。


 「それじゃまた明日。」


ヨシツグとハルナは連れ立って帰っていった。


 「俺たちも帰ろう。」



やがて姉妹の家に到着した。


 「お疲れ様。 またね。」


 「おつかれ。 明日ね。」


姉妹とは家の前で別れた。



しばらく行くと、不思議そうな顔でユータがこちらを見た。


 「ナツキ、お前まだ気づいてないのか?」


 「は? 何がだよ。」


さっぱりわからないので聞いてみる。


 「まあいいさ、お前の家の前まで行ったら教えてやる。」


変な奴。



家に到着した。


 「で、なんなんだよ。」


 「お前さ、自転車を交換してたこと完全に忘れてんだろ。」


あ。


 「そういや… 交換しに行かなきゃいけないな…」


疲れからか、完全に忘れていた。

早く言ってくれればいいのに。


 「まあ、電話で連絡して明日にすればいいんじゃねーの?」


 「ああ、今日はもう取り返しに行く元気もないわ。」


なぜかユータは少し嬉しそうだ。


 「まったく、ついてないな。」


俺は天を仰いだ。


 「逆だろ。 ついてる奴だ。」


なんのことだか。


 「はぁ… それにお前の家までテントを取りに行かないといけないんだよな。」


 「わかった。 それは明日の朝にでもお前の家に届けてやるよ。」


ずいぶんとサービスのいいことだ。


 「というわけで、また明日な。」


 「ああ、明日はよろしく頼む。」



ユータを見送り、ナミの自転車を車庫に突っ込んだ。

玄関から家に入る直前、空を見てみた。



ほんの少し赤く染まった空。

本当にいい色だった。






-the another side-


Courage



転校が決まったとき、本当は不安だった。

理由が理由なんだし、断ることだってできるわけじゃない。

お母さんの気持ちは痛いほどわかる。

まだ本当に人のことを好きになったこともない、私にもわかる痛み。


全部お父さんが悪いわけじゃないのもわかっている。

お母さんにも責任があるし、きっと私にも。



数少ない友達にはきちんと別れを告げた。

中には簡単に理由を話すと泣いてくれた友達もいる。

でも、私は空虚。 涙すら出なかった。



転校初日も私は空虚なままだった。

2学期の終わり際に転校生なんて、きっととても珍しいもの。

私は決して明るい性格ではない。

そんなことは今まで生きてきて嫌というほどわかっている、

クラスに馴染めないかもしれない。

でも、それでも仕方がないと思った。


それでも『サキ』に出会えた。

最後に会った時はこんなに明るい子だったかな?

少し印象は変わっていたけど、それでも面影はあった。


ナミさんやナツキ君、ユータ君やヨシツグ君にも出会えた。

全ては『サキ』との繋がり。

最初は受け入れてもらえるか怖かった。

でも、少しずつ、受け入れてもらえることがわかった。

みんなは、本当に心強い存在になってくれる。

ナツキ君に呼び捨てにされたとき、なんだか受け入れてもらえた気になった。


キャンプに誘われた。

お母さんには反対されたけど、久しぶりにわがままを言った。

最後はおじいちゃんがお母さんを説得してくれて、行くことができた。

ありがとう、おじいちゃん。


キャンプは本当に楽しかった。

少し疲れたけど、ソフトボールで培った体力のおかげで、弱音を吐かなくても大丈夫だった。

「全てのことに意味はある」 お父さんの言葉を思い出した。


ナツキ君とたくさん話をした。

気を使いながらだけど、私のことを知ろうとしてくれている。

普段はぶっきらぼうだけど、きちんと気を使ってくれている。

とても優しい人。

サキやナミさんに接するのと同じように、同じ目線で、話をしてくれる。

こんな当たり前のことが、本当に嬉しい。

ユータ君も、ヨシツグ君も、みんな本当に優しい人ばかり。

みんなと一緒のときは、素直に笑える自分がいる。



きっと、私の境遇にも意味はある。

「全てのことに意味はある」から。

今回の章では、最後にハルナからの独白があります。

まだ明らかにしていませんが、ハルナにもまだまだ書いていない設定があります。

他の「5人」との心のつながりによって、彼女自身はどう変化していくのでしょうか。


読んでいただいてありがとうございます。

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