幕間
【閑話 三】
「あ、そこ間違ってるよ」
「ぐぅ……国語と算数さえ出来れば現代では生きていけるのだ……私はこの国に骨を埋める覚悟。英語なぞ不要だ……」
「ぷくく……こんな簡単な問題で躓くなんておつむの方はダメダメね本条弓狩!」
「うるさいぞ。……というか何故お前がいるのだ?」
試験が近いので叶の家で勉強会を開くことにした弓狩と叶だったが、何故かリリカも来ている。
「えっと、リリカちゃんが自分も参加したいって」
「田端さん一人じゃあんたのおもりは大変そうだから私も来てあげたのよ! 感謝しなさい! この私の明晰な頭脳の冴えを見せてあげるわ!」
叶の言葉を途中で遮るようにリリカが大声で説明する。ちなみにリリカは口だけではなく学業の成績は優秀だ。
「一々大声を出さんと気が済まないのかお前は」
「あはは……ところでリリカちゃん、田端さんじゃなくて名前で呼んでいいよ?」
「そう? じゃあ、叶」
「うん!」
「そういえばお前、何故私の事は姓と名で呼ぶんだ。変だぞ。下の名前で呼べばいいだろう」
「えっ……そ、それじゃああんたもリリカって呼んでいいわよ。ゆ、弓狩……」
「ああ、リリカ」
「えへへ……これでみんな友達だね」
にこにことしながら叶が言う。犬猿の仲……というのとは少し違うが、相性の悪そうな二人が仲良くなったのが嬉しいらしい。
「友達……そ、そうね。まあ弓狩も一応友達ってことにしてあげてもいいわよ」
「何なのだその上からの物言いは」
「あんたに上からとか言われたくないわよ!」
「まあまあ……」
やはりすぐに仲良しこよしとは行かないようだ。
「このクッキーおいしいですミン」
「ユカリの家はおせんべいばっかりだからありがたいクー」
「……そして何故お前達もいるのだ?」
友好を深める三人の少女を余所に二人(?)の妖精達がお茶請けに出されたクッキーを味わっている。
「人前に出ない方がいいのではなかったのか?」
「カナエにはもう色々見られてるし今更クー」
「タミンとクーだけ仲間外れは嫌ですミンよ」
「えっと……大丈夫だよ? 私、口堅いし」
「……まあ、別にいいがな」
何ともゆるゆるであるが、あまり神経質になってもしょうがないだろう。
「事情はよく分からないけど、二人ともなんだか大変な事に巻き込まれてるんだよね?」
「そうよ! すっごく大変よ! それでも人知れず頑張ってるの!」
「そ、そうなんだ」
やたらと恩着せがましく苦労をアピールするリリカ。
「大変ではあるが、やりがいもあって楽しいくらいだぞ」
「こないだもボコボコにやられてたくせに何言ってんのこの馬鹿侍……」
それとは対照的に、弓狩は何度死線を潜ってもなお楽しんでいるらしい。
「でも二人が頑張ってるから最近変な事件が起きてないんだよね? ニュースでも見なくなったし」
「そうよ! すごいでしょ!」
「お前はまだ二回くらいしか戦っていないだろう」
「何よ! 頑張ってるのは事実でしょ!」
「まあまあ……」
叶が一々衝突する二人を宥める。
「でもその、魔物? って何が目的なのかな? 襲われた人達は意識不明になって目を覚まさないとか聞くけど……」
「それは無論……何だ? 久の字、お民」
「あんたも知らないんじゃないの。ていうか何それ、あだ名?」
「やつらが攻めて来て大変なことになるとは聞いたが具体的に何をしようというのだ?」
どうやらお民とはタミンのことらしい。
「もう訂正するのは諦めたクー……」
「可愛いあだ名ですミン。じゃあユカリちゃんのことはユカリンって呼ぶミン」
そして何故かタミンもあだ名をつけ返す。
「カナちゃんの疑問ですけどミン。魔物はこの世界の人を襲って魔力を奪っているのですミン」
「え? 魔力ってこっちの人も持ってるものなの? 魔法なんて使える人、見た事も聞いた事も無いわ」
「基本的に人間は誰でも持ってるクー。こっちの世界の人は使い方を知らないだけクー」
「そうですミン。魔法は本当はいっぱい練習とかして初めて使えるようになるものなのですミン。クリスタルはそういうのを全部すっ飛ばして使えるようにしちゃうんですミン」
「ふーん」
「よくわかってないみたいだけど、けっこうすごいことなんだクー」
「それでその、魔力っていうのを奪われると倒れちゃうの?」
「そうクー。魔力欠乏で魂が弱ってしまっている状態クー」
「時間が経てば回復の見込みはありますミン」
「魔物共は魔力を奪ってどうするのだ? 食うのか?」
「そうですミンね。人間の魔力は魔物にとって一番のご馳走なんですミン」
「魔法界の住民から魔力を奪って力をつけて、更にこっちの世界も同じようにするつもりクー」
「食べるんだ……。形も無い魔力を食べるってのもよく分かんないわね」
「魔物はその名の通り、普通の生き物とは違って『魔』的な存在ですからミン」
「魔的、って言われてもねえ……。結局よく分かんないんだけど」
「……まあ普通とは違う、不思議な生き物だと思えばいいですミン」
今更ではあるが弓狩もリリカも魔物や魔法の詳細な情報は知らないのだ。
「まあ細かい事は兎も角、全て切り伏せればよいのだろう」
「身も蓋も無いクー……まあ間違ってはいないけどクー」
リリカはまだ魔法少女になって日が浅いし、弓狩はこの調子であるから仕方がない。
「ていうか魔法界は大軍に襲われてやられちゃったんでしょ? なんでこっちにはパラパラとしか来ないのよ。相手がどれだけいるのか知らないけど、一度に沢山来られたら私と弓狩二人だけじゃどうにもならないと思うけど」
「それはゲートの問題クー。魔物は魔法ゲートを使ってこっちの世界に来るんだけど、一度に大量に送ることはできないクー」
「ゲートは一度使うと魔力の充填が必要になりますミン。だから自然と襲撃は少数で散発的になりますミン」
「ちょっと待って、それって帰りはどうするの? こっちにはそんな門だか穴だかは無いと思うけど」
「うーん、なんて説明すればいいか……クー」
「知ってるゲートならこっち側からでも開けますミン。呼び鈴を鳴らして開けてもらうみたいなものですミン」
「よくわかんないけど、まあ帰れるのね」
「それと多分あいつらはこんな風に抵抗されると思ってなかったクー。魔法を使える人間がいなければ魔物相手は難しいし、少数でも魔力を奪い放題という算段だったんじゃないかクー」
「そこで私やリリカが現れたせいで計算が狂ったという事か」
「責任重大なんだね、二人とも……」
「まさに希望の星ね! 大々的に活躍を見てもらえないのが不満だけど」
「でも今まで何度も撃退してるし、向こうももっと強い魔物を送り込んでくるかもしれないクー。くれぐれも気を引き締めて……」
「安心しろ。確かに以前の私には慢心があった。だがこの間の戦いでは少し逸り過ぎたと反省もしている。勝って兜の緒を締めよ、とはこのことだな」
「め、珍しくちゃんと聞いてくれたクー」
「あはは! 弓狩が大人しく反省とか似合わないわね!」
ギリギリの戦いを経て、へこたれはしていないが流石に弓狩も反省はしたらしい。
「何を言う。私は常に自らを省みているぞ。あの水饅頭相手に不覚を取ったのも私の剣がまだまだ未熟という証拠。もっともっと腕を磨かなければな」
「硬いというかずれてるというか……まあ反省してくれてるならいいクー」
「私には何も出来ないけど……怪我はしないようにね? 二人とも」
「何、民草を守るのも武士の務め。叶は気にせず安心して暮らしていればそれでよいのだ」
「た、民草?」
「あんたは道場の娘であって武士ではないでしょ」
「細かい事は気にするな」
「ところでユカリ、何だか話し込んじゃったけど勉強はしなくていいクー?」
「私が変なこと聞いたせいで随分脱線しちゃったね。勉強しなきゃ。弓狩ちゃん英語も数学もまだだし」
「うっ……そうだな。学生の本分は勉学だ」
「私は予習も復習もしっかりしてるからテストなんて余裕だけどね!」
「じゃあ何しに来たんだ……」
「さっきも言ったでしょ! あんたを笑いに……じゃなくてあんたのおもりに来たのよ!」
「……邪魔するなら帰れ」
「邪魔なんてしないし帰らないわよ!」
「まあまあ……」
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束の間の日常、休息の時。明日に待つは光か闇か。




