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犬と猫の可愛い戦争~なお、人間は気づいていない。~  作者: 白川 透


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第9話 今日は遊ばないの?

 朝ごはんを食べ終えると、すみのまぶたは急に重くなる。窓から入る光が本棚のいちばん上の板をちょうどよく温めているせいだ。


 すみがその板の上で丸くなったとき、下からむぎの声がした。


「すみ、ボールやろうぜ」


 見下ろすとむぎが布ボールをくわえて、尻尾を振りながらこちらを見上げていた。


「いまは、眠い」

「ちょっとだけ」

「あとで」


 すみは前足に顎を乗せて目を閉じた。むぎはしばらく下で待っていたが、やがて寝床のほうへ歩いていく足音がした。


*


 目が覚めると、光は板の上から床へ移っていた。すみは大きく伸びをして、本棚から下りた。体じゅうが軽くて、いまならどこまででも走れそうだった。


 むぎは寝床で丸くなっていた。


「むぎ。ボール、やろう」


 返事はなかった。むぎの脇腹がゆっくりふくらんでは、しぼんでいる。


 すみはむぎの鼻先にボールを転がした。ボールは鼻に当たって止まった。むぎの耳が一度だけぴくりと動いたが、それだけだった。


「むぎってば」


 すみは寝床の縁に前足をかけて、むぎの顔をのぞきこんだ。むぎは口を半分開けたまま、「ふすー」と長い息を吐いた。


 すみは寝床から前足を下ろした。


 朝はあんなに誘ってきたのに。いまなら、いくらでも遊べるのに。


 すみは寝床に背中を向けて座り、尻尾で床をぱしんと叩いた。


 本棚の上で「あとで」と言ったとき、むぎもしばらくこうして下で待っていた。


 すみは尻尾を体に巻きつけて、むぎの寝床の横で丸くなった。


 夕方になって、むぎがようやく起きてきた。


「よく寝た。すみ、ボールやるか?」

「やる」


 すみが答えるより先に、むぎはもうボールをくわえていた。すみが押し、むぎが追いかけて戻し、すみがまた押す。ボールが戻ってきたところで廊下の奥から「じゃらり」と金具の鳴る音がした。


 むぎの耳がぴんと立った。


 あおいが散歩のひもを手にして廊下から顔を出した。


「むぎー、お散歩行くよー」


 むぎはボールを見て、あおいを見て、もう一度ボールを見た。尻尾はあおいのほうへ振れていた。


「……すみ、あのな」

「いいよ。行ってきなよ」


 すみはボールを前足で引き寄せた。


「帰ったらね」


 むぎは一度だけすみの鼻先を嗅ぐと、玄関のほうへ駆けていった。


*


 外が暗くなりはじめたころ、玄関の扉が開く音がした。


 すみは室内扉の内側から廊下の先をのぞいた。玄関の段差のところでむぎがあおいに足を拭かれていた。前足、もう片方の前足、後ろ足。あおいがタオルを動かすたびに、むぎは素直に足を持ち上げる。


 けれど、むぎの顔はずっとこちらを向いていた。すみの前足のあいだにある布ボールのほうを。

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