↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬と猫の可愛い戦争~なお、人間は気づいていない。~  作者: 白川 透


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/22

第5話 もう持ってきません

 あおいが朝から出かけない日はいい日だ。むぎはそう決めていた。出かけない日のあおいはどこかで一回は遊んでくれる。ただし机に向かっているあいだは別だった。


 その日もあおいは机の前に座り、指で板をかたかた鳴らしていた。ときどき画面に向かって「はい、大丈夫です」と話しかけている。誰と話しているのか、むぎにはよく分からなかった。


 むぎはロープのおもちゃをくわえて机の横へ行き、あおいの膝に端をそっと乗せた。


「あ、むぎ。ごめんね、いまはだめ。あとでね」


 あおいの手がむぎの頭をひと撫でして、すぐに板の上へ戻っていった。


 むぎは少し待ってからもう一度ロープを膝に乗せた。今度は尻尾も振ってみせた。


「あとでね。ほんとに、あとで」


 かたかた、という音は止まらなかった。


 むぎはロープをくわえ直して、机から離れた。敷物のまんなかで一周して、机に背中が半分だけ向く角度で伏せる。ロープは前足のあいだに置いた。


 もう持っていかない。あおいが遊ぼうと言っても、すぐには行かない。でも、言われたら聞こえる向きにはしておく。


 ころころ、と小さな音がした。


 布ボールがむぎの目の前を横切っていった。転がってきたほうを見ると、ソファの陰からすみがこちらを見ていた。


 むぎは顔を動かさずに、目だけでボールを追った。ボールは敷物の端で止まった。


「むぎ、それ取って」

「いまは遊ばない」

「遊んでって言ってない。取ってって言ったの」


 むぎは返事をしなかった。すみはソファの陰から出てきて、自分でボールを取りに行き、前足でちょいちょいと転がしてから、むぎのほうへ押した。


 ボールがむぎの鼻先まで転がってきた。むぎの前足が勝手にそれを止めていた。


「あ」

「返して」


 むぎはボールを見て、すみを見た。机のほうからはまだかたかたと音がしている。


 むぎは鼻先でボールを押し返した。すみがそれを前足で受けて、また押してくる。むぎがまた押し返す。三回目にすみが少し強く叩いたので、ボールはむぎの横をすり抜けていき、むぎは気づいたときには立ち上がって追いかけていた。


*


 敷物からはみ出して横になると床の冷たさが腹に気持ちよかった。すみもボールのそばで手足を投げ出して伸びている。


 かたかた、という音が止まった。椅子の動く音がして、あおいが机から立ち上がった。


「お待たせ、むぎ。遊ぼっか」


 あおいの手には、ロープのおもちゃがあった。むぎが敷物に置きっぱなしにしていたものだ。


 むぎは寝転んだまま尻尾だけを一回振った。すみは目を開けもしなかった。


 あおいはロープを持ったまま、敷物の端に座った。


「……あれ? もう遊んだの?」


 むぎは目を閉じた。あとでな、と思った。

お読みいただきありがとうございます!

「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマーク・評価・リアクションをいただけると嬉しいです。

Xでも更新情報などを発信しています。

よろしければこちらもフォローいただけると嬉しいです!

https://x.com/st_shosetsu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。