第36話 窓を拭く手が止まらない
雨の日の窓は、外側がにぎやかだ。
床まで届く大きな窓の前で、すみは座っていた。ガラスの向こうを、しずくが下りていく。途中で止まり、ほかのしずくとくっついて、急に速くなる。すみの目は、そのたびに一つを選んで追いかけた。
速くなったしずくが、すみの顔の前を横切った。すみは思わず鼻先を寄せた。ひやりとしたガラスに、鼻がつく。
しずくは、ガラスの向こう側を下りていった。
足音がして、むぎが隣に来た。
「何がいるんだ」
「上から来る」
むぎも、ガラスに鼻をつけた。すみの鼻より少し高いところで、むぎの鼻息がガラスを白くくもらせ、すぐに消えた。
二匹はしばらく、並んで雨を見ていた。
「あーあ、こんなにつけて」
あおいが、布を持ってやってきた。二匹のあいだにしゃがんで、すみの目の前のガラスを拭きはじめる。
すみの鼻の跡が、布の下で消えた。
布は、ガラスの上で丸く動いていた。右へ回って、下りて、左へ戻る。すみの目が、それを追った。前足が、勝手に浮いた。
ぱし、と布を押さえる。
「すみ、それは雨じゃないよ」
あおいの手が止まった。布も止まった。すみも止まった。
前足を下ろすと、布はまた動きだした。すみの前足も、また浮いた。
あおいは小さく笑って、布を持ち上げた。すみの前足の届かない高さを拭きながら、むぎのいるほうへ移っていく。すみは布を目で追って、そちらを向いた。
むぎが、布の動く先へ鼻を寄せていた。あおいが拭いたそばから、すぐ横のガラスにむぎの鼻がつく。
「むぎ、そこ、いま拭いたとこ」
あおいが別のところへ布を動かすと、むぎの鼻もそちらへついていった。
あおいは布を大きく動かして、最後の一往復でむぎの鼻の跡をまとめて拭き取った。拭いたところは、外の雨の筋だけを残して透きとおった。
「よし」
あおいは立ち上がって、満足そうに布をたたんだ。すみは、その顔を見上げた。
それから、窓へ目を戻した。
ガラスの向こうを、しずくがひとつ、すうっと下りていった。むぎの鼻が、それを追ってガラスにくっついていた。そのまわりが、小さく白くくもっていた。
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