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犬と猫の可愛い戦争~なお、人間は気づいていない。~  作者: 白川 透


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第31話 頼まれたら、断れない

「むぎ」


 呼ばれて、むぎは寝床から顔を上げた。


 すみは低い棚の前で、床に顎がつくほど体を伏せていた。棚の下には、むぎの前足がやっと入るくらいの隙間がある。すみはその奥を、じっと見ていた。


「ねずみが入った」


 すみの布のねずみだった。灰色で、尻尾に細いひもがついている。すみがいつも前足で弾いて遊んでいるものだ。


「取って」


 むぎは寝床から立ち上がった。すみに頼まれた。むぎに、だ。


「任せろ」


 むぎは棚の前に伏せて、隙間に鼻を突っこんだ。埃の匂いと、布の匂いがする。奥に、灰色のものが見えた。鼻の先から、まだずいぶん遠い。


 前足を入れてみた。肘のところで、棚の縁につかえた。


「もっと奥」

「分かってる」


 すみがむぎの横に並んで、自分も前足を差し入れた。すみの前足は細いぶん、むぎより奥まで入る。けれど、むぎの前足とすみの前足が隙間の中でぶつかって、ねずみに届く前に二本とも止まった。


「じゃま」

「お前がだ」


 むぎは前足を抜いて、隙間をにらんだ。鼻でも前足でも届かない。すみの前足でも届かない。


 あおいなら、取れる。


 むぎはこたつへ走った。あおいは脚を布団に入れて、本を開いていた。むぎはその横で、わん、と一声鳴いた。


「なに、むぎ。ごはんはまだだよ」


 むぎは棚のほうへ数歩走り、振り返って、もう一度鳴いた。それから棚の前へ戻って、隙間に鼻を押しつけた。すみは伏せたまま、まだ奥を見ている。


 あおいが首を伸ばして、棚の前の二匹を見た。


「あー。また入っちゃったの」


 あおいは本を伏せて、布団から名残惜しそうに脚を抜いた。


 しばらくして、あおいの持った長い棒の先から、灰色のねずみが転がり出てきた。埃がひとかたまり、一緒についてきた。


 むぎはすみより先に、ねずみをくわえた。すみがすぐ横で、むぎの口もとを見上げている。


「今日は、味方だね」


 すみの目が、きらきらしていた。尻尾がまっすぐ立って、先だけが小さく揺れている。


「味方になった覚えはない」


 むぎはそう言って、ねずみをすみの前足のあいだに置いた。


 すみはすぐに飛びついた。前足で押さえ、くわえて放り上げ、落ちてきたところをまた押さえる。むぎは座って、それを見ていた。悪くない。頼まれて、取ってきた。


 すみが、ねずみを横から思いきり叩いた。


 ねずみは床を滑っていき、棚の下の隙間へ、すうっと吸いこまれた。


 すみが、こちらを見た。


 むぎは、あおいを見た。


 あおいは長い棒を手に持ったまま、こたつへ戻るところだった。

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