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犬と猫の可愛い戦争~なお、人間は気づいていない。~  作者: 白川 透


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第28話 そっちで待ってて

 こたつの中は、赤くて暖かかった。


 すみは布団の内側で丸くなり、天板の裏の明かりをぼんやり見上げていた。外の音は、布団一枚ぶんだけ遠い。


 その布団の向こうで、鼻を鳴らす音がした。


「すみ。いるんだろ」


 むぎの声だった。すぐそばの布団の裾が、外からふくらんで、へこんだ。


「遊ぼう」


 すみは丸くなったまま、耳だけをそちらへ向けた。遊んでもいい。ただ、呼ばれてそのまま出ていくのは、なんだかつまらない。


「そっちで待ってて」

「おう」


 布団の向こうで、むぎが腰を下ろす気配がした。


 すみは音を立てずに起き上がり、こたつの脚のあいだを抜けて、反対側の裾へ向かった。後ろから行けば、むぎはきっと跳び上がる。布団を頭で押し上げると、外の空気がひやりと顔に当たった。


 こたつの向こう側に、むぎの背中が見えた。むぎは布団のほうを向いてきちんと座り、尻尾をゆっくり振っていた。


 すみは体を低くして、こたつの角を回った。あと三歩。あと二歩。


 むぎの耳が、くるりとこちらを向いた。


「お、そっちか」


 振り向いたむぎの顔は、少しも驚いていなかった。それどころか、尻尾の振れ方がさっきより大きい。


 むぎが一歩、こちらへ踏み出した。


 すみは身をひるがえして、いちばん近い布団の裾へ頭から飛びこんだ。


 赤い光の中に戻ると、自分の息が少し速くなっていた。


 外で、むぎの足音がした。爪が床をかすめる、かちゃかちゃという音。こたつの縁に沿って近づいてきて、止まる。また動きだして、今度は少し遠ざかる。


 それきり、音がしなくなった。


 すみはしばらく、じっとしていた。布団の外は静かだ。むぎは、どこかで待っているのかもしれない。


 すみは、足音が消えたのとは違う側へそっと進んだ。布団の裾に鼻先を当てて、ほんの少しだけ持ち上げる。


 隙間の向こうに、黒くて湿った鼻があった。その上に、むぎの目があった。


「そっちで待っててって言ったのに」

「待ったぞ」


 すみは鼻を引っこめた。布団の裾が、ぱさりと下りる。


 下りきらなかった。


 むぎの鼻が、外から裾を持ち上げていた。そこから、むぎの片目がこちらを見ていた。


 すみは奥へ下がって、背中を向けて丸くなった。尻尾の先だけが、隙間のほうで小さく揺れていた。


 むぎの鼻は、まだ布団を持ち上げていた。

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