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犬と猫の可愛い戦争~なお、人間は気づいていない。~  作者: 白川 透


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第26話 今日はそっちが動いて

 すみは敷物のまんなかで、横向きに寝そべっていた。


 眠いわけではなかった。目はぱっちり開いているし、ひげもよく動く。ただ、起き上がるほどの気分ではない。寝そべったまま、何か楽しいことが向こうから来てくれればいい。


 楽しそうなことなら、すぐそこで起きていた。


 むぎが、布ボールを鼻先で転がしていた。転がしては追いかけ、追いついたら前足で押さえ、くわえて一度ぶるっと振る。それをぽとりと落として、また鼻で転がす。誰に見せるでもなく、むぎは一匹で敷物の上を行ったり来たりしていた。


 すみは寝そべったまま、目だけでボールを追った。右へ転がる。むぎが追う。左へ転がる。むぎが追う。


 今日は、そっちが動いて。すみはそう思いながら、尻尾の先を床の上で小さく揺らした。


 むぎの鼻に押されたボールが、少し勢いよく転がった。敷物の上をまっすぐ走ってきて、すみの前足の先で、こつんと当たって止まる。


 すみは前足を乗せた。寝そべったままでも、それくらいはできる。


「お」


 むぎが顔を上げた。小走りでやってきて、すみの前足の下のボールに鼻を寄せる。すみが前足をどけると、むぎはボールをくわえて、また敷物の向こうへ戻っていった。


 すみは寝そべったまま、次を待った。


 むぎがまた鼻で押したボールが、ころころと、すみのほうへ転がってきた。


 ボールは、すみの前足の少し先で止まった。


 すみは前足を伸ばした。届かない。肩まで伸ばしてみる。爪の先が、ボールの布をかすめた。引き寄せるには、もう少し足りない。


 むぎが、こちらへ歩いてきた。


 すみは、すっと起き上がった。むぎより先に二歩進んで、ボールを両前足で押さえこむ。


「取った」

「取ったな」


 むぎは立ち止まって、尻尾を一回振った。すみはボールを前足で軽く弾いた。ボールは敷物の上を転がり、むぎがそれを追った。むぎが鼻で押し返す。すみが受けて、今度は少し強く叩く。


 気がつくと、すみは敷物の端から端まで走っていた。


 ボールが跳ねる。むぎが追う。むぎより先に、すみが飛びつく。すみの前足から逃げたボールを、むぎがくわえる。くわえたまま振り向いたむぎに、すみは横から体ごとぶつかった。むぎがよろけて、ボールが口から落ちる。すみはそれを後ろ足で蹴り飛ばし、自分で追いかけた。


 敷物の向こう端で、すみはボールを抱えて転がった。抱えそこねたボールが前足から抜けて、ころころと敷物を戻っていく。耳の中で、自分の鼓動がとくとく鳴っていた。


 顔を上げると、むぎが敷物の上に伏せていた。舌を出して、はっ、はっ、と息をしている。


 ボールは、むぎの前足のあいだで止まっていた。


 すみは起き上がった。


「それ、置いて」

「ちょっと待て。休憩だ」

「置いてから休めばいい」


 むぎはすみの顔を見た。それから前足のあいだのボールを見た。舌をしまって、鼻から長く息を吐く。


 むぎは鼻先でボールを押し出した。ボールは、すみのほうへのろのろと転がってきた。


 すみはそれに飛びついた。前足で弾いて、追いかけて、また弾く。ボールが敷物を横切って、むぎの鼻先をかすめていった。


 むぎの耳が立った。


 次の瞬間には、むぎも立ち上がって、ボールを追いかけていた。

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