第23話 並んだほうが可愛いらしい
「すみちゃん、こっち向いてー。こっち、こっち」
なつの声がして、すみはすぐにそちらへ歩いていった。なつはすみが近づくといつも喜ぶ。
ところが、なつは「あー」と声を下げて光る板を顔の前から下ろした。
「近い近い。すみちゃん、近すぎるって」
なつの指がすみの額をつんとつついた。撫でてはくれなかった。
あおいも敷物の反対側で光る板を構えていた。その前で、むぎがお座りをしている。背筋を伸ばし、前足をそろえてぴたりと動かない。
「むぎはさすがだねえ。待ってー、そのまま、そのまま」
あおいの声はむぎに向かってやわらかく続いていた。
すみはなつの前を離れて、あおいのほうへ行ってみた。膝に頬をこすりつける。
「すみ、ごめん、いまむぎを撮ってるから……」
あおいの手は板から離れなかった。すみは膝から離れ、むぎのいる敷物のまんなかまで歩いて、その隣に座った。
「待って待って! ふたり並んでる! お姉ちゃん、いまの見た?」
なつの声が急に高くなった。あおいも板を下ろして、膝で二匹のほうへ寄ってきた。
「かわいいねえ、ふたりで」
あおいの手がむぎの頭とすみの頭に、同時に乗った。
すみは目を細めた。それからふと気づいた。いまはむぎの隣に座っているだけなのに、撫でてもらえた。
あおいの手が離れて、二人がまた板を構えた。すみはむぎの隣からそっと腰を浮かせた。
「動くなよ」
むぎが前を向いたまま言った。
「ここにいれば、あおいが来る」
すみは、浮かせた腰を下ろした。むぎの隣、毛と毛が触れそうなところに。
待つのは、すみの得意なことだった。ただ、いつもは物陰で待つ。今日は、いちばん明るい敷物のまんなかで待っている。
ぱたん、と音がした。
すみの目が勝手にそちらへ動いた。むぎの尻尾がすみのすぐ横で床を打っていた。なつの「いいよー、そのまま」という声に合わせて、ぱたん、ぱたん。
すみの頭が尻尾のほうへ向いた。前足が少しだけ浮いた。
「あー、すみちゃん、横向いちゃった」
むぎが、ちらりとすみを見た。それからお座りのまま、体の向きをほんの少しだけ変えた。尻尾がむぎの体の向こう側へ回って、すみの目の端から消えた。
すみは前を向いた。前足を床に下ろし、むぎの隣で背筋を伸ばした。
「……いま!」
なつとあおいの声が重なった。
光る板が下ろされると、二人が一緒に近づいてきた。なつの手がすみの背中を、あおいの手がむぎの耳の後ろを撫でる。それから手が入れ替わった。
「ふたりとも、ほんとにえらかったねえ」
むぎが胸を張った。
「俺が待ってたからだ。俺が動かないで待ってたから、あおいたちが来たんだ」
すみは返事をしなかった。むぎの隣に座ったまま、背中を撫でているあおいの手に頬をぐいと寄せた。
むぎはまだ何か言っていたが、すみの耳には、自分の喉の鳴る音のほうが大きく聞こえていた。
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