第21話 待ってたのは誰だ
あおいが室内扉を開けると、外の冷たい匂いがむぎの体と一緒に家の中へ入った。
「はい、到着。むぎ、お疲れさま」
あおいはむぎの横をすり抜けて、買い物の袋を抱えたまま台所のほうへ歩いていった。いつもなら、むぎもすぐにそのあとを追う。散歩のあとのあおいは、袋を置いたら必ずむぎの頭を撫でてくれるからだ。
けれど、扉を入ってすぐのところにすみが座っていた。
すみは台所へ向かうあおいを目で追わなかった。前足をそろえたまま、まっすぐむぎのほうへ顔を向けていた。
むぎは足を止めた。
「すみ」
「……おかえり」
「俺を、待ってたのか?」
すみの耳が少しだけ横へ動いた。
「遅かったから」
むぎの尻尾が勝手に大きく振れた。
「そうか! いや、今日はな、遠回りしたんだ。公園の向こうの道まで行ったんだぞ。そこにな、新しい匂いがあってな、たぶん、でかい犬の――」
すみが、ふいに後ろを振り返った。リビングの奥、低い窓のほうだ。それからまたむぎを見た。口を少しだけ開けて、閉じる。
むぎは話すのをやめて、耳をすみのほうへ向けた。
「……なんだ?」
「ぼくも、見たの。窓から」
台所のほうからあおいの声がした。
「むぎー、おいでー。いい子だったね」
むぎの耳が一瞬そちらへ動いた。
すみが立ち上がって、窓のほうへ歩きはじめた。いつものすみの歩き方だった。急がずに、ときどき立ち止まって床の匂いを確かめる。
むぎは台所のほうを一度だけ見た。それから、すみの後ろについて歩きだした。すみが立ち止まると、むぎも立ち止まった。
窓辺に着くと、すみはいつもの場所に座り、むぎはその隣に伏せた。
「それで、何を見たんだ」
「赤い帽子の人が犬と通った。犬はやっぱり電柱で止まってた」
「だろ?」
「それからね、灰色の鳥。今日は二羽いたの。並んで同じほうを向いてた」
「二羽?」
「うん。片方が飛んだら、もう片方もすぐ飛んだ」
むぎは塀の上を見た。もう何もいなかった。
「明日は見せてくれ」
「うん」
すみは前足をそろえ直した。話はそれでおしまいのようだった。
むぎは体を起こして、すみのほうへ向き直った。
「よし。今度は俺の番だ。公園の向こうの道にな――」
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