第17話 新入りは、ぬいぐるみ
あおいは帰ってくるなり、紙の袋から何かを取り出した。
「じゃーん。むぎ、見て。新しいの」
あおいの腕の中にいたのは、茶色くて丸い、耳の垂れたものだった。あおいはそれを両手で抱えて頬をくっつけるようにしてむぎに見せた。
「かわいいでしょ。ほら、ふわふわ」
すみは本棚の上から、それを見下ろした。
あおいが何かを大事そうに抱えて帰ってきた。前にもこういうことがあった。すみ自身がそうやってこの家に来たのだ。
すみは本棚から下りてあおいの足元まで行き、それを見上げた。目がふたつ、鼻がひとつ。けれど、袋の匂いとあおいの手の匂いしかしない。
「すみも見る? はい」
あおいがしゃがんで、それをすみの前に置いた。すみは前足をそっと伸ばして、鼻先をつついた。
それは、動かなかった。
もう一度少し強くつつくとそれはころんと横に倒れて、そのまま天井を見ていた。
「……これ、しゃべらないの?」
「しゃべるわけないだろ」
むぎがすみの横から首を伸ばした。むぎの尻尾はさっきからずっと振れていた。
「これはな、おもちゃだ。俺の」
むぎはそれの首のあたりをくわえて持ち上げ、寝床へ駆けていった。
すみは少しだけほっとした。
*
ところが、そのあとが長かった。
むぎは寝床で新しいおもちゃをくわえて振り回し、放り投げ、飛びついて、また振り回した。ときどきおもちゃから「きゅう」と音がした。音が鳴るたびに、むぎの尻尾はいっそう大きく振れた。
「むぎ」
返事はなかった。きゅう、と音がした。
「むぎってば」
「ん? なんだ」
むぎは顔を上げたが、口にはまだおもちゃをくわえていた。
「……なんでもない」
むぎはまた、おもちゃを振り回しはじめた。
すみは窓辺に座った。外にはいつもの鳥も赤い帽子の人もいなかった。振り向くとむぎはまだ寝床にいた。
すみは窓辺から下りて、ソファの下をのぞきこんだ。前足を伸ばして奥に転がっていた布ボールを引っぱり出す。それを寝床のほうへころころと転がした。
ボールは寝床の手前で止まった。
むぎの耳がぴんと立った。むぎは口にくわえたものとボールを見比べてから、すみを見た。
むぎが寝床から出てきた。寝床の手前でボールに鼻先を寄せると、くわえたおもちゃごと押すようにして、ボールを転がしながらすみの前まで歩いてきて、お座りをする。
口には、新しいおもちゃをくわえたままだった。
むぎはそれをすみの前にぽとりと置くと、足元の布ボールを鼻でつついて、すみのほうへ押した。
「両方でやろう」
お読みいただきありがとうございます!
「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマーク・評価・リアクションをいただけると嬉しいです。
Xでも更新情報などを発信しています。
よろしければこちらもフォローいただけると嬉しいです!
https://x.com/st_shosetsu




