第16話 掃除中につき停戦
あおいが廊下の物入れを開けるとすみの耳は勝手に後ろへ倒れた。あの中には大きな音を出すものがしまってある。
「はーい、ふたりとも。ちょっとこっちの部屋にいてね」
あおいは奥の部屋の扉を開けて、手招きした。すみがこの家に来たとき、最初に過ごした部屋だ。棚の陰も柔らかい寝床もまだそのまま残っている。
すみが部屋に入ると、むぎはもう先に中にいた。
「早いね」
「確認だ。部屋に変なものがないか、先に見ておいた」
「ふうん」
「すみこそ、早かったな」
「ぼくは、自分で来ようと思ってたから」
あおいはおやつの粒を床にひとつずつ置いて、扉を閉めた。少しして扉の向こうで低いうなり声のような音が始まった。
「ごおお」という音は遠くのほうで鳴っていた。リビングの奥のほうらしい。
すみは棚の陰から顔を出した。むぎも寝床から立ち上がっていた。二匹は顔を見合わせてから、そろそろと扉のほうへ歩いた。
扉の下のすき間に鼻を近づけるとリビングの匂いとほこりっぽい匂いが流れこんでくる。音はまだ遠い。
「たいしたことないな」
「うん。遠いね」
むぎは扉の前にお座りをした。すみもその隣に座って、前足をそろえた。
ごおお、が少し大きくなった。
むぎの耳がぴくりと動いた。すみのひげも、後ろへ引いた。
「ごおお」が廊下に入ってきた。扉のすぐ向こうで床をこする音がする。
すみが気づいたときには、もう棚の陰の奥にいた。振り向くとむぎも寝床の上で体を丸めていた。
「……確認してる」
「なにを?」
「寝床の、具合を」
すみは何も言わなかった。すみも、棚の陰の具合を確かめていたところだった。
音はしばらく扉の前を行ったり来たりしてから遠ざかっていき、やがてぴたりと止んだ。
*
扉が開いた。
「お待たせ。終わったよー」
あおいの声と一緒に、リビングの明るさが部屋に流れこんできた。
すみは棚の陰から出た。むぎも寝床から下りた。二匹はほとんど同時に扉のほうへ一歩踏み出して、同時に止まった。
扉の向こうは静かだった。けれどあの大きな音を出すものが、まだどこかにいるかもしれない。
すみはむぎを見た。むぎもすみを見た。
「先にどうぞ」
「いや、先にどうぞ」
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