第15話 その頭は見過ごせない
散歩から帰って、敷物の上でひと休みしていたときだった。
頭のてっぺんに、何かざらりとしたものが触れた。
むぎが目を開けるとすみの顔がすぐ上にあった。すみはむぎの頭に鼻を近づけてふんふんと匂いを嗅ぎ、それからもう一度短く舐めた。ざらり。
むぎは動かなかった。動いたら、終わってしまう気がした。
すみの舌はむぎの耳と耳のあいだを何度か往復した。ざらり、ざらり。くすぐったいのに、ちっとも嫌ではない。散歩でついた外の匂いが少しずつ薄くなっていく。
「……すみ」
「なに」
「そこ、もうちょっと右」
すみの舌が少し右へずれた。
「そう、そこ。それから、左の耳の付け根も」
すみの舌が左へ移った。むぎは目を閉じた。
「あと、首の後ろも頼む。あそこ、自分じゃ届かないんだ」
ざらり、が止まった。
薄目を開けるとすみは前足をそろえて座り直していた。そしてむぎの頭ではなく、自分の右の前足を舐めはじめた。指のあいだまでていねいに。
「すみ? 首の後ろは?」
すみは返事をしなかった。前足を舐め終わると、今度はその前足で顔を洗いはじめた。
むぎは顎を前足に乗せた。注文が多すぎたのかもしれない。いや、首の後ろは本当に届かないのだ。
ソファのほうから、あおいがやってきた。
「むぎ、どうしたの、その頭。毛がぴょんってなってる」
あおいは笑いながら、むぎの頭を手のひらで撫でつけた。すみが舐めて湿らせた毛があおいの手でぺたりと寝かされていく。何度か撫でてから、あおいは台所へ歩いていった。
むぎは頭をぶるっと振った。その拍子にてっぺんの毛がひと房だけ、ぴんと立ち上がる感じがした。
顔を洗い終えたすみが、むぎのほうを見た。
金色の目がむぎの頭のてっぺんで止まった。耳と耳のあいだ、さっき舐めていたあたりだ。すみのひげが前へ出た。
なんだか、気に入らないものを見つけたときの顔だった。
すみが立ち上がり、むぎのほうへ一歩近づいた。鼻先がむぎの頭のてっぺんへ寄ってくる。
むぎは頭をぐいと差し出した。
「首の後ろも、な」
お読みいただきありがとうございます!
「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマーク・評価・リアクションをいただけると嬉しいです。
Xでも更新情報などを発信しています。
よろしければこちらもフォローいただけると嬉しいです!
https://x.com/st_shosetsu




