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犬と猫の可愛い戦争~なお、人間は気づいていない。~  作者: 白川 透


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第14話 そこまで言ってない

 その日のすみは朝からずっと眠かった。窓辺の日だまりで丸くなってまぶたが下りてくるのを待っていた。


「すみ、ボール」


 目を開けると鼻先に布ボールが置いてあった。むぎが尻尾を振っている。


「いまは、いい」


 すみは目を閉じた。むぎの足音が遠ざかって、また近づいてきた。


「じゃあ、こっちは?」


 目を開けると今度はロープのおもちゃが置いてあった。


「いい」

「こっちのほうが楽しいぞ。引っぱるんだ」

「眠いの」


 足音がまた遠ざかり、また戻ってきた。薄目を開けるとすみのまわりには布ボールとロープと骨の形のおもちゃが並んでいた。むぎがまた何かをくわえて戻ってきたとき、すみは頭を上げた。


「もう、来ないで!」


 自分でも思っていたより、大きな声が出た。


 むぎの足が止まった。くわえていたおもちゃがぽとりと床に落ちた。むぎはしばらくすみの顔を見ていたが、やがて何も言わずに向きを変え、寝床へ歩いていった。寝床に着くとすみに背中を向けて伏せた。


 すみは目を閉じた。これで静かに眠れる。


 静かだった。むぎの爪の音も、尻尾が床を叩く音もしない。日だまりは温かく、まぶたは重い。それなのに、なかなか眠れなかった。


 すみは片目を開けて、寝床を見た。むぎの背中はさっきと同じ形のままだった。


 来ないで、と言った。やめてほしかったのは、おもちゃを次々に持ってくることだった。むぎがそこにいることではなかった。


 すみは「にゃ」と短く鳴いた。むぎの耳は動かなかった。前足で床をかりかり引っかいてみても、むぎの背中は動かなかった。


 すみは日だまりから出た。床に並んだおもちゃのあいだを抜けて寝床の前まで歩き、むぎの背中のすぐ後ろに座った。


「……むぎ」


 むぎの耳が少しだけこちらへ回った。


「さっきは、ごめん。来ないでって言って」


 むぎが首だけで振り返った。


「眠いのは、ほんと。でも、そばにいるのは、いい」


 むぎはしばらく黙っていた。それから体を起こして寝床を出ると、すみの横を通り過ぎて、日だまりのほうへ歩いていった。すみが寝ていたあたりで足を止め、床に落ちていた骨の形のおもちゃをくわえる。


 むぎは日だまりに伏せて、おもちゃを自分の前足のあいだに置いた。


「起きたら使う」


 すみは日だまりに戻ってむぎの隣で丸くなった。むぎの脇腹がすみの背中に少しだけ触れていた。

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