第11話 この箱の使い方
玄関から運ばれてきた箱はあおいが中身を出したあと、敷物の上に置きっぱなしになった。
すみは箱の縁に前足をかけて、中をのぞいた。紙の匂いと外の匂いがする。底にはくしゃくしゃの紙が一枚残っていた。
すみは箱の中へ下りた。左右の壁がちょうど体に触れる。紙の上で一度向きを変えて、すっぽりと座った。
「あっ」
振り向くとあおいがしゃがんでこちらを見ていた。
「すみ、入ってる。かわいい……。ちょうどいい大きさだったんだ」
あおいの声はいつもより高くて、少し震えていた。すみは箱の中で前足をそろえた。よく分からないが、これはいいことらしい。
足音がして、むぎが来た。むぎは箱の匂いを嗅ぎ、すみの顔を見て、あおいの顔を見た。
「それ、いいのか?」
「いいよ。ぼくの」
むぎは箱の縁に前足をかけ、片方の前足を箱の中へ入れた。もう片方も入れた。箱がみしりと鳴って、少し傾いた。
「狭い」
「狭いよ。ぼくが入ってるもん」
むぎは前足を箱に入れたまま後ろ足をどうするか迷うように、その場で足踏みをした。あおいが笑いだした。
「むぎ、むぎ、無理だって。箱が壊れちゃう」
むぎは前足を抜いて、箱の横にお座りをした。尻尾がゆっくり床をなでた。
すみは箱から出た。あおいの声が少し残念そうに「あー」と下がった。すみは箱の周りを一周して、また入った。
「おかえり」
あおいの声がまた上がった。
すみはもう一度出て、また入った。何度か繰り返すうちにあおいの声はもう上がらなくなったが、笑い声だけはずっと続いていた。
すみは箱の中で座り直して、前の縁に顎を乗せてみた。紙の壁がちょうど顎の下に当たる。
「……すみ、それはずるいよ」
あおいの手が伸びてきて、すみの頬を指の背でそっと撫でた。右の頬、それから左の頬。すみの目が勝手に細くなった。
箱の外では、むぎが箱の横腹に顎を乗せて伏せ、それを見ていた。紙の壁は、むぎの顎にもちょうどいい高さらしかった。
あおいが台所へ立ったあとすみは顎を縁に乗せたまま、むぎに言った。
「箱はね、入ればいいってものじゃないの」
「じゃあ、どうすればいいんだ」
すみは少し考えた。入って、出て、また入って、顎を乗せた。そうしたら撫でられた。どれが効いたのかはすみにもよく分からなかった。
「……使い方があるの」
すみはそう言って、縁の上で顎の位置を直した。
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