八、尚月
山は嵐砦城の兵士たちの故郷だった。
斜面を行進する彼らの速さは、平原の騎兵より安定していた。岩石、落ち葉、霜の降りた山道――これらは彼らにとって障害ではなく、平地を行軍するのと変わらなかった。漁師が波を恐れないように、この百人の部隊は、漁師には到底理解できないほどの沈黙で、山脈と狼牙城の間の数時間分の山道を音もなく抜けていった。
玉城は隊列の前方を歩いていた。粗い麻布の衣を身にまとい、兵士たちと何ら変わらない姿だった。これは彼の発案だった。彎弓団が狼牙城に内通者を持っているかどうかわからず、賭けにも出られなかった。だから百人の兵士全員が平服に着替え、商人の衣装をまとい、商用の馬車を使い、荷物に見せかけた箱を積んだ。箱の中身は石と砕いた木で、車輪が十分に沈むほどの重さがあり、馬の蹄が本物の重みで地を踏むように仕組まれていた。表向きは、嵐砦城へ北上する普通の商隊で、平凡で面白みもなく、誰も二度見しないようなものだった。
玉城の部隊が出発した翌日、黒鐵はようやく五百人の兵士を狼牙城の門前に集結させ、完全武装で出陣させた。さらに一日後、彼らは堂々と狼牙城の大門から出発し、彎弓河のある山脈へと向かった。
玉城は部隊を率いて丸一日前進した。嵐砦城から狼牙城への道と同じ路だった。道の両側には連なる山脈が広がり、龍心河に達して初めて地形がなだらかになった。龍心河は中州の西部から中央東部にかけて貫く川で、まるで鋭い刃で中州を突き刺したようなことからその名がついた。龍脈だという者もいれば、すでに廃れた龍脈だという者もいた。
出発した翌日の夜、玉城は東の山脈に近い密林に部隊を野営させた。地図によれば、ここは地勢が低く、彎弓河へ回り込んでも断崖には出くわさない。絶好の出発地点だった。
兵士たちはほんの数時間休んだ後、夜明け前に声もなく天幕を撤収し、夜明け前に全員が森の中へ潜み込んだ。馬車は林の中へ押し込み、大量の葉と枝で覆い隠した。
数台の馬車には、荷物に見せかけた箱や米袋がいくつも積まれていたが、中身はわずかな石か砕いた木だけで、本物らしく見せるためのものだった。
しかし部隊の足音が遠ざかっていくと、その中の一台の馬車の大きな箱から、かすかな叩く音が聞こえてきた。探るような軽い叩き音から、やがて重い衝撃音に変わり、木箱が地面に倒れた。開口部が衝撃を受けて下に開き、中から一人の男の子が転がり出た。
「はあ……はあ……窒息するかと思った。」黒石は荒い息をついた。体には乾糧の欠片がついており、干からびた小さな水袋を持っていた。
どのくらい中にいたかわからなかった。暗闇と自分の呼吸音、そして時折聞こえる馬の蹄音と兵士の話し声の断片だけが友だった。それらの音がどんどん遠くなり、最後に何も聞こえなくなってから、やっと動いた。
「そうだ、尚月姉さん!」
馬車の外が少し白みがかってきた。光が木の葉を通して馬車の中に差し込んでいた。箱をいくつか確かめたが、尚月が隠れているはずの箱がなかった。
少し焦って手を伸ばし、覆いになっている枝を払い除けた。兵士たちがざっとかぶせただけだったが、葉の量が多く、黒石はかなり手間取ってから茂みの中から体を抜け出した。
左右にもう一台ずつ馬車があった。少し考えてから左の馬車の偽装を外そうとした時、右の馬車の中から小さな「コンコンコン」という音が聞こえた。黒石は喜んで右の馬車へ走り、兵士たちが丁寧に整えた偽装をあわてて全部はがした。
人が這い込めるほどの隙間が開くと、すぐに中に潜り込んだ。果たして、尚月が隠れていた赤い箱が見えた。しかし上に別の小さな箱が乗っかって邪魔をしており、下の箱がいくら叩いても全く動じなかった。黒石は急いで小箱を押しのけ地面に落とした。中の小石が辺りに散らばった。赤い箱を開けた。
中に隠れていた尚月は横向きに寝ていて動いていなかった。漆黒の髪が顔の半分を覆い、白の中にわずかに赤みを帯びた頬と、かすかに震える細長いまつ毛が、黒石を思わず見惚れさせた。まるで天から降りてきた仙女が中に横たわっているようだった。黒石は我に返り、心の中で驚きながら、急いで肩を揺すった。胸が上下しているのを確認してほっと息をついた。
「尚月、清音と一緒に狼牙城にいれば安全だから、お父さんはすぐ戻ってくるよ、わかったね?」出発する数時間前、玉城は尚月に言い聞かせていた。計画では二週間以内に彎弓団を討伐して狼牙城へ戻るつもりだった。この間の尚月の安否が少し心配だったが、錢原のことを思えば、あの男がこの秘密を広める理由はない。広めれば自分の怒りを買うことになるから。
「わかったよ、お父さん。」尚月は笑って言った。父の姿はいつも大きくて頼もしく、父の言葉を信じて疑わなかった。
しかし玉城が城門に向かって歩き出した瞬間、父の体から放たれる気が変わった。死気だった。それが何かはわからなかったが、黒く、不規則な形の、ぬめりついてねばついた何かが体に這い上がり、胸をぎゅっとつかんだ。こんな言葉にならない感覚は初めてだった。
「お……お父さん……。」尚月は息ができず、喉から数文字を絞り出すだけだった。父が馬に乗るのを見ていると、あの黒い気体が骨に取りついた虫のように後を追い、父が乗る黒馬をも包み込んで、一体になるかのようだった。
清音が異変に気づいて急いで肩を支えた。「お嬢様……あっ?!」骨の髄まで刺すような冷気が、生きた霜のように清音の手首まで広がった。
「お嬢様?!」清音は寒さに堪えながら震えて尚月を揺すった。
「お父さん……。」
「お嬢様、医者を呼んできます。」清音は両手をこすり合わせて少しでも寒気を払おうとして、急いで城の中へ医者を探しに行った。狼牙城の医者は嵐砦城に及ばないが、今は他に手がなかった。
尚月は荒い息をついた。あの辛く重苦しい感覚がゆっくりと退いた。どうにか立ち上がり、小走りで城門の方へ向かった。
狼牙城は広くなく、主城から外の城門まで十数分の道のりだった。玉城は馬で動いていたので、その姿はとっくに尚月の視界から消えていた。すでに商隊の先頭に立っており、念のため旗すら用意しなかった。
商隊が城外へ向けて動き出し、足音があちこちから響いた。足並みをずらすよう玉城は特に兵士たちに伝えていた。揃いすぎると怪しまれるからだ。商隊の最後尾はまだ動いていなかった。尚月は小走りして最後尾のあたりにどうにかついた。そこには兵士はあまりおらず、皆最後の数箱の荷物を運んでいた。
「あれ?尚月姉さん?」
聞き慣れた声が呼んだ。声の方を見ると、黒石が最後の馬車から頭半分だけ出して驚いた顔でこちらを見ていた。二人は数秒間目を見開いて見つめ合い、黒石がやっと我に返った。
「早く来て!」黒石は体全体を出して、尚月に左手を伸ばした。右手は馬車の縁をしっかり掴んでいた。
尚月は深く考えずすぐに小走りで手を掴んだ。子どもに見えても腕力は驚くほど強く、まるで雛鳥を持ち上げるように簡単に尚月を馬車に引き上げた。
「あなた……なんでここにいるの?」尚月は息を切らして聞いた。
「えっ……えへへ……えへへへ。」黒石は気まずそうに笑い、言い訳も思いつかなかった。
「まさか……お父さんが出征するたびに軍に紛れ込んでるの?」尚月は疑わしそうに聞いた。
「ち、違う、ただ、た、二回だけ!」
「あっ!」言い間違えに気づいて急いで口を塞いだ。尚月はそれがおかしくて笑い声を上げた。
黒石は少し恥ずかしそうに頭をかいた。目の前の尚月は自分より年上だが、これまで見た女の子の中で一番美しかった。すでに少年の淡い恋心を感じていた。
「でも姉さんは……?」黒石は不思議そうに尚月を見てから、すぐに視線をそらした。
「実は……。」尚月は頭の中で言葉を組み立てた。話しても黒石に信じてもらえるかどうかわからなかった。自分でも半信半疑なくらいだから。
「嫌な予感がして、お父さんに知らせようと思ったの。でも隊はもう出発してた。」尚月は結局本当のことを言わなかった。この素直そうな弟を怖がらせたくなかった。
「そうなんだ……それなら……。」
「僕が隊の前の方へ行って姉さんのお父さんを探してこようか?」黒石が聞いた。
尚月は少し考えてから首を振って断った。「ついて行って様子を見たい。お父さんの役に立てるかもしれないから。」
「でも……山賊はとても危ないって聞いてるよ……。」黒石は眉をひそめ、思わず目の前の姉のことが心配になった。この気持ちが何なのかわからなかったが、ただ彼女に傷ついてほしくなかった。
「私は……怖くない、山賊より、お父さんのことが心配だから……。」尚月は下唇を噛みながら言った。
黒石は頭をかいて、ふと何かを思いついて懐から短刀を取り出した。四十センチほどで、指二本分の幅があり、刀鞘は全黒で、銀の漆で側面に狼の横顔が描かれていた。柄も黒く、細かい刺繍が菱形の紋様を描いていた。
「この短刀を護身用に持っていって。万が一のために。」黒石は刀を差し出したが、尚月は受け取らなかった。
「これは……。」短刀はかなり精巧で、普通の兵士が使うものではなかった。黒鐵が黒石の護身用に持たせた大切なものに違いないと尚月は推測した。
「持ってて、後で返してくれればいいから。」黒石は短刀を尚月の手に押し込んだ。
持ち上げてみると少し重かった。もともと黒石のために作ったもので、女の子が使うならもう少し軽くしただろうと思った。
「ありがとう……。」尚月は微笑んでお礼を言い、短刀を懐に入れた。その笑顔を見て、黒石はまたぼうっとした。この笑顔のためなら生きていける、そんな気がした。
「?どうしたの?黒石?」
黒石はあわてて我に返り、頭を振った。「なんでもない。」
黒石の「経験」に従い、二人は大きな箱の一つに隠れることにした。黒石が箱を開けると石が入っていて少し不思議に思ったが、石をもう一つの箱に移してから、尚月と一緒に中に隠れた。
しかし黒石は少し後悔した。狭い箱の中で、二人はお互いの呼吸が感じられるほどだった。尚月からほんのり甘い香りがして、箱の中にゆっくり満ちていった。黒石は無意識に体を縮め、自分の体臭で嫌われないか心配したが、尚月はそんなことを全く気にしていなかった。黒石の心拍が速まり、少し息苦しくなって、手で箱に隙間を作ると、少し楽になった。
その夜、隊が路傍に野営すると、黒石はこっそり箱を抜け出した。動きは手際よく、何度か経験を積んできた証拠だった。
まばらな松明を除けば、野営地はほぼ夜闇に包まれていた。子どもの影が漆黒の野営地の中で動いても、誰も気にしなかった。黒石は炊事担当の部隊に向かい、天幕の後ろから潜り込んだ。漆黒の中では目が役に立たなかったため、鍛えた嗅覚を頼りに食べ物の匂いを追い、乾糧と肉干(干し肉)、それに水袋を適当につかんだ。立ち去る前に、抜き取った隙間を埋めることも忘れなかった。
隠れている箱に戻ると、乾糧と水のほとんどを尚月に渡し、自分は少しだけ取っておいた。
「尚月姉さん、どうぞ。」
「ありがとう。」尚月は乾糧を受け取り、まず少し水を飲んだ。
「僕は……別の箱に隠れるよ、そっちの方が広いから。」黒石が言った。
尚月が反応する前に、黒石は夜陰に紛れてもう一台の馬車にこっそり移り、別の箱に隠れた。
不思議なことに、黒石は炊事をしていた兵士たちの顔に全く見覚えがなかった。疑問を確かめるため、昼間に箱から這い出して隙間から外を行軍する部隊を見たが、やはり見覚えのある顔が一つもなかった。おかしいとは思ったが、もう馬車に乗ってしまった以上引き返せなかった。
二人は馬車から出た。まだ山の中で、奇妙なことに馬車は道端に停めてあり、大量の木の葉で覆われていた。意図がわからなかった。
「父はどう言っていたっけ?」黒石は思い出そうとしたが、あの時は尚月と話していたので、あまり覚えていなかった。
「お父さんは山の中へ行った。」尚月が言いながら前方を指した。そちらには道がなかったが、草むらが少し押し開けられて一本の細い筋ができていた。緑の海を小舟が長く走った跡のようだった。
この強引に押し開けられた道の上には、わずかな死気が残り、空気の中に漂いながらゆっくり散っていった。砂漠の中に残る露の玉のようだった。
黒石がまず頭を出して危険がないか確認してから踏み込み、振り返って尚月を招いた。彼女は後に続いて林の中に入った。
尚月は歩くにつれて心が沈んでいった。あのぬめりついた気が非常に濃く漂っていた。自分の父だけではないはずで、部隊全体が危険に晒されていることを意味していた。
二人は部隊の跡をたどって丸一日歩いた。黒石が驚いたのは、尚月が一度も疲れたと言わなかったことで、千金のような外見とはあまりにもかけ離れていた。黒石の目に彼女はますます輝いて映り、胸の中の気持ちが芽吹き始めた。
手を伸ばせば闇しかない夜は寒くはなかったが、尚月にとっては極寒の地にいるような冷たさだった。体が震え、黒石はどうしていいかわからなかった。
「尚月姉さん……。」
「どうしよう……。」
「くそ、俺のせいだ。」黒石は尚月が風邪を引いたのだと思い、自分が気にかけなかったせいだと自責した。
しかし本当はそうではなかった。死気が、いたるところにあった。尚月の目には死気が亡者の哀号のようにも、冬に凍え死んだ無数の骸骨のようにも見えて、精神を絶えず打ちのめしていた。死気が皮膚に張り付き、筋肉に入り込み、骨に食い込み、尚月には心臓と丹田だけがまだ働いていて、他の器官は全て凍りついて正常に動かないような感覚だった。
「これ以上続けたら尚月姉さんが持たない。」
「尚月姉さん、少し待ってて。」黒石は決心して立ち上がり、前方の野営地へ向かって走り出した。
二人はそれほど離れていなかった。野営地は林の中の小さな空き地で、数十人しか入れなかった。他の兵士の多くは林の中に横たわって散らばっていた。
外周には夜番の兵士が少しいた。発見されないよう火の光は十分ではなかった。その時、夜番の数人が叫び声を聞いた。
「お父……上……大……人……、お……父……上……大人……。」
「おい、何か聞こえるか?」巡回中のやや痩せた兵士が聞いた。
「なんか……聞こえるな……。」正直そうな別の兵士が唾を飲んで答えた。
「まさか……何かの……幽霊じゃないよな?」痩せた兵士が腰の刀の柄を握りしめた。長刀は持っていなかった。林の中では役に立たないからだ。
「変なこと言うな……。」正直な兵士は木の松明を取り外して近くの林を照らした。左右に揺らして度胸をつけようとする様子がどこか滑稽だった。
「ザッ……ザザッ……。」
「お父上様!」男の子が草むらから突然飛び出した。二人の兵士は声を上げて腰の刀を抜いた。松明の光を受けて刀が光り、暗闇の中で際立った。
「な……なんだ?!お前は何者だ?!」痩せた兵士の刀先が黒石の頭に向いた。刃の音の余韻が消えても切れ味は落ちなかった。
「僕は黒鐵将軍の息子、黒石です、お父さんのところに連れて行ってください!」黒石は大声で叫んだ。相手がむやみに刀を振り回して怪我をさせないかと恐れながら。
「黒鐵将軍の息子?」正直な兵士は松明を向けた。限られた火の光が前方を照らし、まるで暗闇に黄色いろうの一滴が落ちたようだった。
「黒鐵将軍の息子がどんな顔か知ってるか?」正直な兵士が聞き、痩せた兵士は首を振った。二人とも狼牙城の外に駐屯しており、黒石に会ったことがなかった。
「どうした?何を騒いでいる?」二人の兵士の背後から、重い声が聞いた。
「あ、大将軍。」二人は振り返ると玉城と二人の随従がいて、急いで軍礼をした。
「お前は黒石か?なぜここにいる?」玉城は前方に子どもを見つけた。松明の光が顔の上で揺れたが、それでも彼だとわかった。黒石がここに現れたことに、嫌な予感が胸をよぎった。
「玉城大将軍。」黒石は少し驚いた。この兵士たちを一人も見覚えがなかった。もしかして全員玉城大将軍の兵士なのか?しかし今はそんなことを考えている場合ではなかった。
「あの……父はどこに?」
「いや、玉城大将軍、すぐ来てください!」
黒石はすぐに向きを変えた。玉城は訳がわからなかった。なぜこの子がここにいる?何かの術か?術法は聞いたことがあっても実際に見たことはなかったので確かめようがなかった。しかし近くの黒石はかなり急いでいるようで、術で作り出した存在には見えなかった。
「お前たちはここで待て、お前たちはついてこい。」玉城は二人の随従に目で合図して、黒石の後を追った。
二本の松明が暗い林の中を進み、まるで炎が暗闇を焼き開くようだった。黒石は来た道を辿り、あっという間に尚月のいる場所へ戻った。少し覆いになっていた大きな葉を押しのけると、葉の寝床の上に横たわる尚月が現れた。黒猫のように丸まっていて、いかにも哀れだった。
「尚月!」玉城の瞳が大きく開いた。こんなところで自分の娘を見るとは思っていなかった。
「お前……お前なぜここにいる?!」急いでしゃがんで手を伸ばすと、瞬間的に刺すような冷気が指を切り裂き、思わず手を引っ込めた。
「どうなっている?」
玉城は顔を向けた。黒石も心配そうな顔で尚月を見ていた。
「彼女はどうしてこうなったんだ?」玉城が聞いた。
「僕……も、わからなくて……、夜になってから……こうなって。」
「どうにもできなくて、父を探しに行こうとしたら、玉城大将軍がここにいました。」黒石は正直に話した。
「お前の父、黒鐵は彎弓河から陽動をかける。俺は小型部隊を率いて後方から攻める。だからここにお前の父はいない。」玉城は言いながら身をかがめ、自分の麻布の上着を脱いで尚月に被せた。
「尚月、尚月?」
「お父さん……。」
「行かないで……、そうすると……。」尚月は突然声が途切れた。玉城は緊張して鼻に手を当てた。まだ息はあったが、吐き出す気息は北方の冷気のようで、それよりさらに冷たかった。
玉城は尚月を天幕に運んだ。医者がいないため、麻布を重ねて体を温めるしかなかった。尚月のそばで一晩中座り、少し苦しそうな横顔を見ながら、妻のこと、つまり尚月の母のことを思い出した。
ようやく朝になっても尚月の状態は改善されなかったが、少なくとも生きていた。玉城はすぐに二人の兵士と黒石に尚月を連れて引き返すよう命じ、自分は兵士を率いて前進を続けた。
「ザッ、ザッ。」
簡易の担架に尚月が載せられ、木の枝と葉の間から差し込む太陽が、血色のない顔に当たった。ゆっくりとした揺れに、彼女はうっすらと目を覚ました。
「尚月姉さん?!」傍を歩いていた黒石は目が開くのを見て、担架の傍に寄って名を呼んだ。
「ここは……どこ?」尚月は弱々しく聞いた。
「あなたを送り届けようとしているんだ。」
「少し楽になった?」黒石が心配そうに聞いた。
「戻……戻る?」
「ダメ、ダメよ。」
尚月は力を振り絞って体の上の厚い麻布をはがし、担架から降りようとした。
「尚月様!」二人の兵士が急いで地面に下ろした。転落して怪我をさせてはならなかった。
「早く……行って!」
「早くお父さんを止めて!」
「死ぬ!みんな死んでしまう!」
二人の兵士には尚月が何を言っているのかさっぱりわからなかった。大将軍が危険にさらされているようだが、彼女はただの子どもだ。なぜそんなことがわかるのか?
「お願い、玉城大将軍を追いかけて!」黒石は尚月がそれほど必死なのを見て、二人の兵士と一緒に頼んだ。
「それは……。」二人は顔を見合わせた。玉城の兵士として忠誠心が高い者だからこそ、玉城に連れてきてもらえたのだ。しかし目の前は大将軍の娘。どうすべきかわからなかった。
前進を続ける玉城の軍は、半日もしないうちに遠くの城寨を発見した。手のひらを下に押さえる合図を出すと、全部隊が即座にかがんで草むらに隠れた。
約一時間待つと、遠くから部隊の吶喊の声がかすかに聞こえてきた。不明瞭だったが玉城には明確に聞き取れた。
右手を上げて二本の指を伸ばし、右を示してから前方に振った。部隊は二手に分かれて異なる方向へ前進した。
「黒鐵将軍、来たなら隠れていることもないだろう?」低い声が前方から伝わってきた。玉城の心に驚きが走り、他の兵士も足を止めて声のする方向を見た。
前方の草むらから、竹の子のように何人もの人影が現れた。六、七十人ほどだった。玉城は迷わず刀を抜き、他の兵士も続いた。林の中にうなり声が響き、双方の殺気が空気を引き裂くようだった。
「あなたは?」玉城は背筋を伸ばして聞いた。声に気力が満ち、相手を大いに驚かせた。
「おや?この声は?黒鐵将軍ではないな。」
「あなたは誰だ?」相手も同様に尋ねた。低い声に目に見えないプレッシャーが込められており、林の中でザワメキが響いた。二人の気勢が空中で拮抗しているようだった。
「どうやら私が先に聞いたはずだが。」玉城が言った。
「……。」
「そうだったな、ハハハハ。」相手は豪快に笑い、普通の山賊にはとても見えなかった。
「俺は彎弓団の副団長、隆山だ。」声が林を通り抜けて届いた。玉城の兵士たちは刀を握りしめ、手のひらに汗がにじんだ。相手の気勢が自分たちの将軍に引けを取らなかったからだ。
「俺は嵐砦城総兵長、玉城だ。」
その名前を聞いて、相手は数秒沈黙した。双方の間に距離があって表情は見えなかったが、玉城には相手が自分の名前を知っているからこういう反応をしたとわかった。
数秒後、相手から甚だしく傍若無人な笑い声が響いてきた。気力のみなぎる声が向こうから聞こえ、史上最高の冗談を聞いたかのようだった。
「その態度はどういう意味だ!」玉城はやや怒り、発した声が相手の笑い声を押し消した。
「失礼、失礼。」
「あまりに嬉しくて、まさか……。」
「大物が釣れたぞ!」
それを聞いて、玉城の胸に不安な予感が湧いた。槍で痛いところをずっと突かれているような、生き地獄のような感覚だった。
「てっきり黒鐵のやつだと思っていたが。」
「あいつが頭を使わないとは思わなかったな。でなければ、山道を迂回するのはあいつの方のはずだ。」
「だが、嵐砦城の大将軍とは、天から降ってきた恵みだ!」
「何が言いたいんだ?」玉城は相手のひとりごとを遮った。戦う前にこれほど無駄口を叩くのが嫌いだった。戦うか、さもなくば降伏するかだ。
「改めて自己紹介しよう、俺は莽龍傭兵団の副団長、山龍!」相手は急に語調を変えて怒鳴り、これが彼の本当の素性だった。
玉城は最悪だと感じた。斥候の報告によれば、長典の増兵人員の中に莽龍傭兵団の者がいるという。これが意味することは?頭の中が数秒で猛スピードで回転した。副団長がここに現れているということは、長典の帝悟家が狼牙城への出兵を企てており、兵力不足と地形的不利から、普通の山賊に偽装して略奪を繰り返し、狼牙城が討伐に来るよう誘い込み、狼牙城の将領を殺してから一網打尽にする計画だということだ。それが彼らの完璧な計画だった。事の前後を素早く推測した。全てが当たっているとは限らないが、真相から遠くはないだろう。
しかし黒鐵は慎重すぎて再度出兵せず、農民や商隊を守る兵を置く方を選んだ。彎弓団を攻撃するよりも弱腰に見えるが、各城が牽制し合うこの状況では、最善で最も安全な選択だった。
「長典が……動こうとしているのか?」玉城は独りごとのように言い、自分のこの計画がなんと愚かなものかと思い知った。なぜ山賊ごときを相手にしたのか?以前の数回の戦役が山賊相手で楽勝だったから油断したのか?あるいは、これこそが長典の計算だったのか?ここに傭兵団に扮した山賊がいるなら、以前の山賊も全て長典が仕組んだものだったのではないか?そう思うと、寒気が胸の奥を食い荒らし、恐ろしくも情け容赦ない感覚だった。
「大将軍、長典の帝悟家の考えでしょうか?」傍にいた部将が眉をひそめた。長年玉城に従う忠義深い将領の一人、大島だった。体が頑丈で、昔二本の矢を受けても死ななかったという。玉城より背も高かった。
「どうやらそのようだ。くそ、このことは城主に知らせなければならない。」
「伝令を出せ、後方の者は出来る限り速く、全員嵐砦の方向へ逃げろ。」玉城は低く命じた。
「やれやれ、無駄な抵抗はするな。魚が来た以上、逃がしはしない。」山龍はそう言うと、周囲の木々から、木の色をした服を着て木の枝で偽装した兵士が何人も立ち上がり、網を持って木の上に立っていた。
「長典の考えかと思っているだろう?」
「そうだ、金をもらった以上、目的を達成しなければならない。」
「狼牙城、邪魔すぎる。」
「もともとあの小城を落とすだけのつもりが、まさかこんな大きな利益まで手に入るとは!」
「かかれ!」山龍は刀を振って突進した。相手に機会を全く与えなかった。これが正規の傭兵団の戦略だった。完璧に実行し、一切の無駄口をきかない。命令を受けた兵士は即座に吶喊して突撃し、木の上の兵士も数枚の網を投げ下ろした。双方はこうして密林の中で交戦した。
鎧を誰も着ていないため、刀が当たれば即座に重傷か死だった。切断された腕と首が空中に舞い、鮮血が緑の葉の上に飛び散り、緑の画布に血の赤を加えた。生と死が織りなす一幅の傑作を描き、殺戮の声が風の音と草木の摩擦音を覆い尽くした。刃の衝突が林の中で死の序章を弾き、命とはただ腕を上から下へと振るだけで簡単に奪えるもので、一片の雪花より安かった。
彎弓団の城寨の反対側にも別の戦場があった。「大将軍はどうなっているんだろう?」陽動を行う黒鐵も奇妙に思っていた。相手が全力で戦わず、交戦前から逃げ出すという異常な行動だった。しかし罠に陥ることを恐れて無謀な攻撃もできず、こうして双方が膠着状態になっていた。
遠くから刀剣の衝突音、人々の怒鳴り声、悲鳴が聞こえてきた。尚月は耳をそばだて、聞くにつれて心が締め付けられた。二人の兵士と黒石も聞き、愕然とした。玉城の部隊が山賊に遭遇したことを意味しており、計画とは全く異なっていた。
「お父さん!お父さん!」尚月は走りながら叫んだ。前方の死気は地獄の入り口のようだった。
父の奮戦する後ろ姿が見えた。小さく、小指よりも小さかったが、それが玉城だとはっきりわかった。まだ生きていた。そう簡単には倒れない。相手は刀を振り、父の刀刃と交錯していた。気勢の猛烈な二人の武者が、死気の中に一筋の裂け目を斬り開くようだった。
双方が奮戦する中、玉城は尚月の叫び声を聞いたようで、無意識に頭を巡らせた。遠方で、黒い人影がこちらへ向かって走ってきていた。
「尚月?」玉城の心に驚きが走った。自分の娘がこれほど危険な戦場にいるとは信じられなかったが、あの姿が自分の娘だという確信もあった。
「気が散ったか?!死ね!」敵の龍山は当然、相手が油断した機会を逃さなかった。手の刀を上げて振り下ろした。この一刀で相手を真っ二つにできると確信していた。
しかし全てが決まったかのように見えた瞬間、両軍が激しく戦っていたその時、地面から轟音が響いた。最初は軽く、次第に波のように、一波一波の起伏が大きくなり、地面が揺れた。何かが目覚めようとしているようで、山龍の刀は振り下ろす途中で震動に止められた。全員が戦いを止めた。
水が、どこからか大量の水が山から流れ下ってきた。泥と転がる木を伴い、まるで誰かが山の上から大桶の汚水を注いだようだった。巨大な木が城寨に轟音とともに叩きつけられた。自然の力の前では、人力で建てた城寨など小さな砂山にすぎず、瞬く間に平らにされた。城寨の木材がまた新たな転木となった。全員が反応できないうちに、突如として現れた大水が、愚かな人間たちの戦争を強制的に終わらせた。
「尚月!」玉城は彼女に向かって大声を上げた。
「お父さん!」尚月は応えるように叫んだ。二人の視界にはただ父と娘だけがあり、他の全てはどうでもよかった。
「くそ!」龍山は山の下へ逃げようとした。心の中では何も助からないとわかっていても、原地で死を待つことはできなかった。
しかし半秒も経たないうちに、大水の中から極めて巨大な生き物が飛び出した。純白無瑕の大蛇で、体の幅は大木より太く、血紅色の双眼に無限の怒りを秘め、怒鳴り声を上げながら、その大きな口で龍山の左肩を噛みつかせた。鋭い蛇の牙が肩を貫き、腕と肩がほぼ離れた。蛇頭が捻れて遠くへ投げ飛ばした。龍山は秋の枯れ葉のように水の中に落ち、生死は不明だった。
そしてあの大白蛇の尾が、玉城の腰の側面を一打ちした。まるで重い馬車に轢かれたような感覚で、下半身の感覚が完全に失われた。体が吹き飛ばされたその一瞬、彼は尚月の目を見た。絶望と恐怖が混じった目だった。
「尚……月……。」玉城の体はその衝撃を受けて、どれほど鍛えていても、ほぼ二つに裂けそうだった。遠くまで吹き飛ばされて一本の大木に激突した。体も口の中も全て血で、血の大きな染みが木の上に残った。まるで叩き潰された肉塊のように水の中へ落ちていった。
「お父さん!」尚月は声を嗄らして叫んだが、水の轟音と蛇の鋭い叫び声が、彼女の弱くて無力な声を無情に消した。まるでここに少女など最初からおらず、ただ妖と死があるだけかのようだった。
「尚月!」黒石は後ろから前方を見ていた。人間の地獄のようで、そして全く見たことのない生き物――妖がそこにいた。
誰も気づかなかったが、木の上に二人の素早く動く者がいた。あの蛇妖を追っているようだった。大水が現れてほんの数秒で全てを押し流した。尚月も水の中にいた。彼女は父の名を泣きながら叫び、大木に激突して気を失った。水の中に沈み、父からどんどん遠ざかっていった。遠く、遠く……。




