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妖と行冥  作者: 書恩順
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三、天狗

中州から遠く離れ、大海を越えた先に、一年中凍てついた土地がある。北島は極北の地に位置するため気候は酷寒で、中州の住民がそこへ向かうことはほとんどない。その極寒の島は「紀梭」と呼ばれていた。


この凍てついた山々の中は、万籟俱寂、白雪靄靄。風雪は時に猛威を振るい、時に静まり返る。猛吹雪が天地を呑み込み、大地全体が凝固した仙境のように見えた。しかし、この一見静謐な光景の下には、無数の危機と死が潜んでいた。骨を刺す低温、積雪に埋もれた峡谷や断崖、いずこも命を奪うには十分だった。


雪山の上には、時折人影が見えることがある。しかしそれは人間ではなく、別の生き物――天狗だった。長年ここに住む彼らは、この低温にはもうすっかり慣れており、猛吹雪でなければ南の海港まで通商に出かけることもできた。ただしそれは、人間に近い外見を持つ天狗に限られていた。人々は天狗の存在を知らず、外見の奇妙な妖だと思っていた。実際のところ、彼らは人間にかなり近い存在だった。


最北の奥地には無風地帯が広がっており、一見穏やかに見えるが、この山々の中では最も危険な禁地とされていた。地元の言い伝えでは、この辺りに妖異が出没するというが、実際に目撃した者は少ない。それは奇怪な妖で、人のようでもあり妖のようでもあり、理性がなく、もし見かけたなら逃げるしかなかった。雪中を自在に行き来できるが、なぜかその者たちは禁地の範囲内でしか動けないようだった。


危険地帯から少し南に離れた、山々に囲まれた中央部に、全く異なる領域が隠れていた。そこはもはや果てしない白一色ではなく、広大な黒霧地帯が広がっていた。


霧は湧き上がり、まるで生き物のようにゆっくりと流れていた。足を踏み入れると、温度は外界とは正反対で、むしろほのかな熱さを帯びていた。地面には暗紫色の結晶が一面に広がり、奇妙で不気味な冷たさを持ち、かすかな光を反射していた。空気中には言い表しがたい臭いが漂っており、焦げ臭いようでもあり、腐敗しているようでもあった。人間が嗅いだならば三日三晩吐き続けるに違いない。


しかし、ここに暮らす天狗たちは、それを全く気にしていなかった。


この集落はもはや村ではなく、相当な規模の町だった。城壁はなかったが、四周を囲む雪山が最も自然な防壁になっていた。


街道を多くの天狗が行き来し、呼び売りの声や喧騒が絶えなかった。飲酒し肉を食らう様子は人間の城下町とほとんど変わらなかった。ただ住居だけは木造あり石造あり、様式も大きく異なっていた。それは島を出た天狗たちが見てきた建物がそれぞれ違うため、専門的な訓練もなく印象のまま建てたからだ。それでも彼らは自分たちが人間であり、しかも新たな上等な人間だと思っていた。


成年した天狗のうち、ごく一部は完全に人間と同じ外見を持つ者もいたが、大半はまだ妖の特徴を残していた。背に翼を生やす者、顔に面紋を持つ者、肌に刺青のような文様が浮かぶ者など様々だった。


「母上……成年祭には絶対に出なければなりませんか?」


一人の少年が低い声で尋ねた。名を野登といい、今年十八歳になったため、数日後に行われる年に一度の成年祭に参加することになっていた。


彼の背には片側だけの翼があり、顔に面紋はなく、両手の甲には鳥に似た文様があった。


「これは私たちの習わしよ。」母の語調は穏やかだった。「成年祭に参加してこそ、化人の機会が得られるのだから。」


「……化人?」


「化人できれば、人間の世界により馴染みやすくなる。」


野登は黙り込んだ。彼は人間の世界に憧れていなかった。ここには族の仲間があり、帰属感があった。環境は厳しくとも、食料に困ることはなかった。


彼の心を見透かしたように、母はこう続けた。「この島はいつも雪が降っているのに、なぜ食料が十分にあると思う?」


「化人した天狗たちが人間と交易し、人間の世界で学んできたからこそ、今のような発展があるのよ。」


野登はそれ以上何も言わなかった。母と言い争うつもりはなかった。書冊の記述を思い起こすと、もっと遠い昔、天狗はそもそも「化人」など必要としなかったようだった。


いつから始まったのだろう?何人かの年長の天狗に尋ねたこともあったが、誰も答えられなかった。唯一確かなのは、成年した後には「成年祭」に参加し、化人の機会を得なければならないということだった。


ただし、成年祭に参加したからといって必ず化人できるわけではなかった。選ばれた天狗だけが化人の機会を得られるのであり、毎年選ばれる者はごく僅かだった。しかも運よく選ばれたとしても、化人ではなく「寄」に選ばれる場合もあった。


伝えによれば、聖山の中には一種の陣法があり、その詳細を知るのは大祭司か神隠大人だけだという。この陣法を維持するためには毎年新たな「寄」を加える必要があり、「寄」となった者は聖山の中に留まり、生涯そこを離れることができなかった。これは残酷極まる定めだったが、何年もずっとそうであり、異を唱える天狗は一人もいなかった。


彼の母は選ばれなかったが、父はその年に選ばれた天狗だった。母の話によれば、父は選ばれた後に化人にも成功したが、野登が生まれてまもなく人間の世界へと旅立ち、それ以来消息がなかった。族の者たちは父はもう死んでいるだろうと言い、野登もその事実を受け入れていた。天狗の頃の父の顔さえ覚えていないのに、人間の姿など想像すらできなかった。


その夜、山頂から寒風が吹き下ろし、細かい雪の粒を運んできた。


野登は一人で聖山近くの崖の縁に来ていた。ここからは視界が開け、その神秘的で威圧感のある山体を見上げることができた。遠くの聖山は夜の闇の中に沈黙してそびえ、輪郭がぼんやりとし、まるで無言で衆生を見守る何かの存在のようだった。


彼はその場に立ち、静かに待った。しばらくすると、背後から枯れ葉を踏む微かな音が聞こえた。


一種の合図のように、野登が振り返ると、山と木の陰の中から、一つの影がゆっくりと現れた。女天狗の奈加だった。


彼女の翼は雪のように白く、月光に照らされて柔らかな光沢を帯び、ほとんど幻のように純粋に見えた。頬の淡い紋が神秘的な雰囲気を添え、その眼差しは星のように輝いていた。


幼い頃からともに育った幼馴染みで、互いのことは知り尽くしているはずなのに、こういう時、野登はついぼうっとしてしまうのだった。


こういう時、野登はいつも思う。奈加は化人しない方が美しいが、もし本当に化人したら、きっと美人になるだろうとも。


「野登。」


彼女がそっと呼んだ。薄い笑みを帯びたその声が彼を現実に引き戻した。奈加は彼の傍に来て、崖の縁に並んで腰を下ろした。二人は遠くの聖山を見つめた。夜の闇と月光が交わり、山体を遠くて圧迫感のあるものに見せていた。二人ともわかっていた。明日こそが、あの年に一度の成年祭だということを。


夜空を見上げると、辺りは静かで、聞こえるのは風の音と心拍だけだった。二人ともこの瞬間に時を止めたかったかもしれない。成年祭が終われば、二人の運命や未来は大きく変わるかもしれない。野登はもし二人とも化人したら、人間の世界ではどうなるだろうかと考えた。無数の思いが脳裏を駆け巡った。


「野登……。」


「明日から私たちも大人ね。」奈加がまるで独り言のように言った。


「うん……。」


短い返事の後、また沈黙が続いた。それぞれの思いが胸の内に渦巻き、しばらくして奈加が突然顔を向け、軽くはあるが少し作ったような笑みを見せた。


「もし……私が化人できなかったとしても、私たちはやっぱり親友よね?」


その語調はとても柔らかかったが、かすかな震えが隠れていた。野登もそれに気づいた。やや湿った草地を手で掴み、相手の手を握りたい衝動を覚えたが、最終的にそれを抑えた。


野登はしばらく考えてから、少し気まずそうに一言絞り出した。「奈加は化人したら俺のことを無視するつもりか?」


「そ、そんなわけないじゃない!」奈加が反論した。


「なら、俺たちはやっぱり親友だ。」野登は笑った。


奈加は一瞬固まり、それからやっと笑顔になった。


「あなたはいつもそうね。」


「少しも心配しないんだから。」


野登は少し考えてから聞いた。「化人したいのか?」


奈加は黙り込んだ。こう聞かれて初めて、自分が本当に化人したいのかどうかを考え始めた。人間にならず、ずっと村で暮らすことの何が悪いのだろう?


ただ、なぜだろう?族の未来のため?いわゆる「将来」のため?それとも族の人々の期待のため?うまく言えなかった。その理由は曖昧で遠く、ただ両親も化人に成功してほしいと願っていることだけはわかっていた。


彼女はそっと自分の真っ白な翼を握った。このままでも悪くない気がして、「私も……よくわからない……。」と躊躇がちに言った。


「そうか……。」


「俺は、奈加はこのままでも……いいと思うけど……。」


野登の少しぎこちない言葉を聞いて、彼女の顔にほんのりと赤みが差した。


奈加は何か思い出したようで、気まずさを誤魔化すように続けた。「そうだ、化人できたら父親を探しに行けるじゃない?」


「父か……。」


「どんな顔をしているんだろう。」野登は思い出そうとしたが、やはりできなかった。その顔はいつもぼんやりとしていた。


「たぶん……もう死んでいるだろうな。」


「父親を見つけたいとは思わないの?」奈加は不思議そうに聞いた。


野登はその言葉を受けて、自分の心に問いかけた。父を見つけたいか?もしかしたら、それほど会いたいわけではなく、ただ母を喜ばせたいから会ってみたいと思っているだけかもしれない。あるいは、なぜ二度と戻らなかったのかを聞きたいのかもしれない。結局、父はもう死んだと自分に言い聞かせた。


「俺もよくわからない。」


「でもまだ生きていたら、一発殴ってやりたい。」野登は軽く拳を振った。


奈加はくすっと笑ったが、程なくその笑顔がゆっくりと消えていった。


「私たちが『寄』にならないといいけど……。」奈加がふとやや哀しい語調で言った。


「寄……。」


「もし『寄』になっても、俺は奈加のことを忘れないと思うけど。」


「もし野登が『寄』になっても、私もあなたを忘れないわ……。」


「待て、俺はまだ『寄』になっていないぞ。」


「仮定の話よ。」奈加は笑って言った。


「仮定、か……。」


「でも、俺たちは『寄』がどういうものかも知らないじゃないか。」


「もしかしたら聖山の中でゆったり食べて飲んで過ごしているかもしれないぞ?」野登は空想した。そう言えば奈加が少し安心するかもしれないと思って。


「まさか……。」


「考えてみろよ、大人たちは封印を維持しなければならないと言っているだろう。」


「それは大変じゃない?」


奈加はよくわからなかったが、それでも頷いた。


「そんなに大変なんだから、ちゃんともてなしてもらえるに違いないだろ?」


「それは……確かに一理あるかも……。」


「でもやっぱりそれはないかな……。」


「そういえば、もしかしたら俺たちには才能がなくて、選ばれない可能性もあるだろう?」野登は空を見上げながら言った。なるべく自分を安心させ、奈加も落ち着かせたかった。


「実は……化人できなくても、私たちはやっぱり天狗じゃない?」奈加がふと静かに言った。


「そうだな、それはそれで悪くない。」野登は思わず口から出た。


「そうよね?」奈加は微笑んだ。


彼は下を向いて奈加の笑顔を見た。まるで一陣の風が、野登の心の奥の何かをそっと揺らしたようだった。


もしかすると、「化人」というのはこれら若い天狗たちの願いではなく、年寄りが下の世代に押し付けた枷であり、それがただ受け継がれ続けてきただけなのかもしれない。果てしなく。


二人はそれ以上言葉を交わさず、ただ静かに崖の縁に座り、遠くの聖山を眺めた。月光は水のように降り注ぎ、二人の上に降り落ちた。不安と未知の中で、二人はともに、明日の運命を迎えた。


翌朝早く、「ドン――ドン――。」


成年祭を告げる鼓の音が遠くからゆっくりと鳴り響いた。低く悠遠で、これは紀梭全体で最も重要な一日だった。成年した天狗はすべて村の祭壇へ赴かなければならず、今年参加する天狗は数百人に及んだ。


彼らは次々と村の中央の祭壇の周りに集まった。普段の祭壇は白い縄で囲まれており、普通の天狗は入れなかった。祭壇の中央には、黒い石が敷かれた円形の地面があり、鏡のように滑らかで、よく見ると何らかの紋様が刻まれているようだった。


円形の祭壇の縁には、数メートルおきに一人の守衛が立っており、純白の面具をつけ、額に黒い点が一つ、その下に毛筆で符文が描かれていた。まるで手がその黒い点を捧げ持つような形だった。


祭壇の周りには各自の家族と見物人が立ち並び、さらに外側には商品を売る露店まで出ていた。彼らにとっても、これは一年で最も賑わい、最も実入りのいい時だった。


人々が集まり切ると、面具をつけた大祭司がゆっくりと祭壇に上がった。その顔も同じく純白無瑕の面具で覆われ、五官はなく、上にも黒い点があったが、その下の符文は両手で捧げ持つような形に見え、まるで古い呪文のようだった。手には人の背丈の半分ほどの折り扇を持っていた。


彼が祭壇に踏み上がった瞬間、それまで何もなかった中央から突如、小さな丸い石台が浮かび上がった。祭司はこれから成年になる天狗たちをひと通り見渡してから、満足そうに難解な咒語を唱え始めた。


「ウーン――――。」遠くから低い唸りが響いた。天狗族の汽笛に似た楽器だった。その音に合わせて、大祭司は奇妙な足取りを踏み始めた。古い舞踏のようで、一歩踏み出すたびに、遠くの山々からも低い響きが返ってきた。鼓の音のように振動し、空間全体が次第に奇妙な静寂に包まれていった。


天狗たちは静まり返り、誰一人声を発しなかった。崇敬の念を持って祭壇に向いていた。広大な広場には咒語の声と山間に響く低い唸りだけが残っていた。


この息の詰まるような雰囲気に、もともと緊張していなかった野登も、じわりと不安が湧き上がってきた。振り返って母を見て、一筋の安心感を求めたが、母の期待に満ちた眼差しを見て、むしろ心のプレッシャーが増した。そこで向かいの奈加に目を向けた。


奈加の微笑みを見ると、野登の心は少し落ち着いた。数人の遊び仲間も成年祭に参加していたが、彼らはただ興奮しているだけで、野登のような不安はまるでなかった。


まさにその時、小さな丸い石台の中から、細かな羽毛がゆっくりと漂い出し始めた。その羽毛は彼ら天狗の体の羽とは全く異なっていた。


小指の先ほどにも満たない小ささで、塵のように軽やかで、まるでタンポポの綿毛のように、空中を無音で漂い散った。それは祭壇の範囲内だけに広がり、まるで小雪が降るようだった。


成年祭に参加した天狗たちの目には、好奇心と期待が満ちていた。


族の間で語り継がれてきた人間の世界は、彼らの心の中に遠く誘惑的な絵図を描いていた。しかし実際にその世界に足を踏み入れられるのは、ほんの一握りだった。だから誰もが心の中で、選ばれるのが自分であるようにと祈っていた。ただ野登だけは、まだ拭いきれない迷いを胸に抱えていた。


タンポポの綿毛のような羽毛が、天狗たちの体にゆっくりと降り積もったが、最初は何も変化が起きなかった。しかし程なく、一部の者の体に変化が現れ始めた。例えば皮膚の紋が淡い光を帯びたり、翼が光り輝いたりした。意外なことに、野登もその中に含まれていた。


野登は信じられない思いで、自分の体に光る紋様を見つめ、顔を上げると奈加の翼が柔らかな光を放っているのが見えた。「なんて綺麗なんだ……」野登はぼうっとして見とれた。まるで月光を翼の中に宿したようで、多くの天狗族の者たちも見惚れていた。


二人は顔を見合わせて微笑んだ。野登の胸の中の迷いが、だいぶ薄れた気がした。


外側で見守っていた母はその様子に、驚きと喜びを少しシワの刻まれた顔全体に表したが、直後に一抹の寂しさが過った。去っていった夫のことを思い出したのだ。今度は息子も離れていくのか?滲む目元が、喜びからか悲しさからか、自分でもわからなかった。


成年祭を経験した天狗たちの目には、羨望、驚き、そしてある種の嫉妬が浮かんでいた。あの光こそが「化人」の資格であり、別の世界への入場券だったから。


羽毛がついに降り止むと、祭壇内では半数以上の天狗が光を帯びていなかった。落胆した表情の者、まだ結果を飲み込めずにいる茫然とした者など様々だった。


大祭司はゆっくりと口を開いた。声は低く、少しかすれていた。「光を帯びていない天狗は退いてよい。」


「残りの者は、のちに私とともに聖山へ向かえ。」


言い終えると、彼はすでに光の消えた祭壇を降りた。場内はたちまち様々な声で満ちた。ため息、歓声、さらには道具を打ち鳴らす祝いの音まで。


大祭司は祭壇の周囲で守衛に合図し、まだ淡い光を放つ天狗たちを引き連れてきた。まもなく彼らは大祭司の周りに集まり始めた。


「母上……。」野登の母は彼の両手を握り、言葉が一つも出てこなかった。母の顔には喜び、名残惜しさ、そして僅かな誇りが見えた。


野登にはわかった。母は父のことを思い出しているのだと。そして自分もまた離れていくかもしれず、父と同じように戻らないかもしれないと。胸の内は複雑な思いで溢れた。


守衛が肩を叩き、大祭司の方向を示した。母と惜しみながら手を離し、大祭司の元へ歩いていった。傍を通り過ぎると、多くの天狗族の者が手を伸ばして彼の腕や体に触れた。そうすることで何かの祝福を得られるとでも思っているようだったが、野登にとっては、この目に見えないプレッシャーが息苦しかった。


選ばれた天狗が全員揃うと、大祭司は彼らを率いて祭壇を出発し、村の近くで最も高い山峰へと向かった。聖山へ続く道は一本だけで、まっすぐで広かった。


道の両側には三、四階建てほどの高さの赤い石柱が立ち並び、様々な燈籠が吊り下げられていた。燈籠にはそれぞれ異なる生き物の文様が描かれており、かすかな光の中で神秘的で荘厳に見えた。野登はざっと数えてみた。資格を持つ天狗は三十人に満たなかった。


村の境界では、左右の赤い石柱から曲線状の拱門が延びていた。ここが出入口を象徴していた。随行してきた天狗たちは、ここで次々と足を止めた。この道を踏めるのは、大祭司と神隠大人、そして選ばれた者だけだった。


伝説では、聖山の内部に第九代天狗族長「神隠」の死後の遺体があり、「聖体」とも呼ばれていた。ところでなぜ「第九代」であって「初代」ではないのか?


野登も何度か尋ねたが、答えられる者は誰一人いなかった。


疑問が重なるにつれ、天狗族には何か語られたくない秘密が隠されているのではないかと、うっすら思うようになっていた。しかし幼い頃から見てきたのは、族の者たちが和やかに安穏に暮らす姿であり、特別なことは何もなかった。長い時間の中でその疑問も次第に忘れかけていた。


しかし今まさに、聖山への道を歩いているこの瞬間、かつて忘れかけていた疑惑が再び心の中に浮かび上がってきた。まるでその問いが消えたことなどなく、ただ意図的に忘れさせられていたかのように。終点に近づくほど、その疑念はますます色濃くなった。


聖山はそれほど遠くなかった。道はそのまま延び、最終的に一つの巨大な山洞へと続いていた。洞口は非常に広く、内部は人工的に掘削された跡が明らかで、石壁はかなり平らだったが、上の苔や路面の僅かな凹みが天狗一族の歴史の重みを感じさせた。聖山がいかに古いかは一目瞭然で、山壁の両側には燈籠が吊り下げられ、温かく安定した光を放っていた。


雪山の中にあるのだから、洞内は刺すように寒いはずなのに、実際に感じたのは異様な暖かさで、むしろある種不安を覚えるほどの心地よさだった。


野登と奈加は並んで歩いていた。隊列の中に入って初めて気づいた。かつての遊び仲間は一人も選ばれていなかった。奈加が自分と共にここにいることに、改めて安堵した。


皆は祭司に従って洞窟の奥深くへと進んだ。足音が洞穴の中に響き渡り、外界の風雪と寒さから次第に遠ざかっていった。山の核心部へと一歩ずつ踏み込んでいくようだった。


ほとんどの天狗は常に辺りを見回し、目には興奮と新奇な表情が溢れていた。「聖山」については長老の口から聞いたことしかなかったし、昨年や一昨年に選ばれた天狗が得意げに話を聞かせることもあった。今こうして直接目にしているのだから、興奮を抑えられないのは当然だった。なにせ、生涯でこの機会は一度きりかもしれない。ここを出た後にこの経験を自慢できるのも、また一種の誉れだった。


ただ野登だけは眉間に皺を寄せていた。奥へ進むにつれ、胸の中で何かが騒ぐように感じた。骨の髄から湧き出るような、抑えがたい何かだった。


やがて、前方の山道が急に開け、目に飛び込んできたのは、圧倒的な広さの空間だった。


山体全体がくり抜かれたかのように、内部は十数階分の高さがあり、広く深く、数万人を収容しても余裕があるほどだった。


しかし、これほど巨大な空間の四周の山壁は、奇妙な深紫色の光を放っていた。まるで生き物の内臓のようにかすかに脈打っていた。さらに上方には、幾重にも掘削された山道があり、その山道の上には天狗がびっしりと座っており、それぞれの顔を奇妙な符咒が完全に覆っていた。符咒には守衛と同じ符号が描かれていた。彼らはそのまま静かに動かず、生きているのか死んでいるのかもわからなかった。壮観であり、不気味でもあった。


「あれが……『寄』なのか?」なぜかはわからないが、野登にはあれが「寄」だと確信できた。かつての空想が崩れ落ち、得体の知れない恐怖が心の中に広がり始めた。自分の激しい心拍の音がほぼ聞こえるほどだった。奈加も感じ取ったようで、思わず野登の手を握った。二人ともそのことに気づかなかった。


正面には、同じく深紫色の巨石がそびえ立っていた。


その巨石は山壁とほぼ一体化し、岩体から生え出てきたかのようだった。高さは三、四階分ほどあり、この場所の三分の一近くを占めていた。


中央には巨大な池があり、そこから八本の水路が外へ延び、それぞれ別の方向へと流れていった。今まさに、その水路の一本が何か正体不明の物体をゆっくりと運んできていた。野登は目を細めて見た。黒い球体が一つずつ池に落ちていき、かすかな波紋を立てていた。


皆がその光景に見入っている時、大祭司が扇の柄で地面を叩いた。


「今より、若き天狗たちよ、幽池を囲め。」


低く、有無を言わせぬ威圧を帯びた声だった。若い天狗たちは少し躊躇した後、幽池の縁に集まり、円を作った。野登は内心で抵抗しながらも、奈加に従って近づいた。


全員が所定の位置につくと、大祭司は再び咒語を唱え始めた。低いつぶやきが空間に響き渡り、理解しがたいある種のリズムを帯びていた。池の中の黒い球体は、もともと無作為に漂っているように見えたが、いつしか微妙な変化を見せ始めた。


同時に、遠くのあの巨石が、ゆっくりと淡い紫の光を放ち始めた。よく見れば、それは単なる石ではなかった。その輪郭はどことなく巨大な頭蓋骨に似ていた。鼻筋、眼窩の線がはっきりと見え、まるでどこかの体が山全体に押さえつけられ、頭だけが露出しているようだった。


しかしこの時、誰もそれに気づいていなかった。なぜなら池の中の黒い球体が、それぞれ向きを変え始めていたから。異なる球体が、ゆっくりと異なる天狗へと向かって動き始めた。


野登の目の前で、一つの地味な黒い球体が近づいてきた。心拍が思わず速まった。まさか……偶然だろうか?心の中でそう自分に言い聞かせた。しかしその球体は躊躇なく近づいてきた。


近づくにつれ、野登にははっきりとわかった。これは自分へ向かっている。周囲を見回すと、他の球体も別の天狗へと動いていたが、その数は少なく、五人だけだった。


野登は唾を飲んだ。喉が少し渇いた。ちょうどその時、大祭司の咒語が末尾に差し掛かり、最後の一声が喉から発せられた。


「ウーン……。」


長く引き伸ばされた低い唸り。次の瞬間、五つの球体が水面をゆっくりと離れ、選ばれた五人の前に浮かび上がった。野登はその球体を見つめ、目の前のこの正体不明のものを飲み込まなければならないという念が頭から離れなかった。


「飲み込め、飲み込め、早く……。」


しかし野登は動かなかった。ずっと自分を抑え続けた。しかし、すでに二人の若い天狗が誘惑に勝てず、手を伸ばして黒い球体を腹の中へと飲み込んだ。次の瞬間、白目を剥いて気を失った。


野登と奈加、そしてもう一人の天狗の顔に驚きの色が浮かび、ますます他の動作ができなくなった。


「飲み込め。」この時、大祭司の抗いがたい声が響いた。


互いに顔を見合わせ、すでに気を失った二人の天狗を見てから、最終的に手を伸ばして黒い球体を掴んだ。野登は最後にもう一度奈加を見てから、黒い球体を飲み込んだ。


手に握った黒い球体は少し柔らかく、口に含むと氷が水に解けるようにゆっくりと溶けた。その味は野登が経験したことのないもので、氷のように冷たく、苦味が鼻腔に突き上げてきた。少し吐き気がしたが、心の中の念が飲み込むことを強いた。それが喉を流れ、胸を通り、腹の中に落ちると、野登は強烈なめまいが一瞬にして襲ってくるのを感じた。喉を押さえ、視界が回転し、意識が途切れた。白目を剥き、体の支えが失われ、脚元が崩れ、地面に倒れて意識を失った。


果てしない深海に沈んでいくように、野登の意識はどこまでも落下し続けた。ある時は虚空に漂っているようで、体は羽毛ほど軽く、四方に怪しく不安定な光が瞬いていた。その光は明滅を繰り返し、砕けた夢の断片のようにはかなく消えた。


目を開けようとしたが、どうしてもできなかった。まぶたは鉛で押さえつけられたように重く、どう頑張っても上がらなかった。しかし目を閉じていても、なぜか「見えた」のだった。あるいはそれはただの幻覚だったのかもしれない。


無数の見たこともない生き物が周囲にちらちらと現れては消えた。歪んだ形のもの、奇妙な輪郭のもの、引き裂かれた影のようなものたち。耳元にかすかな声が聞こえ、誰かが自分の名前を呼んでいた。


「野登……。」


声は途切れ途切れで、遠くなったり近くなったりした。その曖昧な光景の中に、一つの影が常にそこにあった。高く、落ち着いた影だった。


その人が手を上げると、何かが絡みついているように見えた。気流のようでもあり、鎖のようでもあった。野登は懸命に見ようとしたが、画面は再び崩れ、ぼやけて判然としなくなった。


代わりに現れたのは別の記憶だった。母の背中、幼い頃に仲間と走り回った日々、最後に一つの笑顔に辿り着いた。見覚えのある笑顔だった。


「野登……。」声が再び響いた。


「奈加?」意識の奥底で彼は問い返した。「お前なのか?」


答えはなかった。次の瞬間、全てが再び暗闇に落ちた。時間が意味を失った。どれほど経ったかもわからない。暗闇の中にようやく、かすかな光がじわりと滲み出た。


「……ああ、もしや死んだのか?」その思いが心の中に何度も浮かんだ。


「母上……どうしよう……。」


「選ばれた様子を見て、母上はとても喜んでいたな……。」


「もし人間になったら、俺も離れていくのか?」


思考は混乱し途切れ途切れだった。その時、一陣の猛烈な嵐が突如として襲いかかった!


体が強引に巻き上げられ、遠くへと吹き飛ばされた。風の中に無数の紫色の砕けた結晶が混じり、刃のように回転して飛び交っていた。思わず手を伸ばして掴もうとしたが、その結晶は手のひらをすり抜けて通り過ぎた。まるで自分はこの世界に存在していないかのように。


「我が族の後輩か……。」唐突に一つの声が聞こえた。低く、老いた声だった。


「ようやく……。」その声にはひとつため息が混じっていた。


「誰も信じるな。」


「天狗一族は……ここまで堕ちたのか?」


野登は左右を見ようとしたが、首が鉛のように動かなかった。「誰だ?」


声を出そうとしたが、意識の中で揺れるだけだった。遠くに、巨大な黒い影がゆっくりと浮かび上がった。五階建て以上の高さで、蒲扇を手にしており、輪郭は曖昧で威圧的で、まるで太古の存在のようだった。


その時、地面が変化し始めた。無数の結晶が地底から滲み出て、蔓のように急速に広がった。野登は懸命にその黒い影の顔を見ようとしたが、その姿は結晶に飲み込まれ、徐々に崩れ、溶け、ついに完全に消えた。


まだ満足しきれないかのように、その狂った結晶たちは標的を変えた。潮のように野登へと押し寄せてきた。野登は後退しようとしたが、両脚が言うことを聞かず、少しも動けなかった。


その暗紫色の結晶は、村で見たものと全く同じで、冷たく奇妙だった。それらはすでに足首に這い上がり、体全体を侵食し続けた。胴体、胸、首、最後に顔を覆った。


結晶は生き物のように侵入した。喉、眼窩、耳孔、まるで魂まで腐食しようとするかのように、隙間なく入り込んだ。叫ぼうとしても声が出ず、もがこうとしても体は全く制御できなかった。


その無音の侵食の中で、自分という存在と全ての一切が、ゆっくりと飲み込まれていった。


どれほど時間が経ったかもわからず、野登はがばっと目を開けた。底なしの夢から突然目覚めたように、ひたすら息を吸い込んだ。空気を貪るように、胸が激しく上下した。


急いで周りを見渡した。見慣れた壁、見慣れた調度品。幼い頃からずっとここで育った部屋だった。足が確かな地面を踏んだとき、あの果てしない落下と窒息感がようやく遠のいた。体を起こして立ち上がると、まだ少し頭がふらついたが、何かがおかしいとうっすら感じた。


言いようのない違和感を覚えて下を向くと、手の甲にあった羽毛の紋様のような文様が消えていた。


「……?」


野登は心臓が跳ね上がるような感覚を覚え、勢いよく手を伸ばして背中を確かめた。何もなかった。あの成長とともにあり続けた翼が、跡形もなく消えていた。まるで最初から存在しなかったかのように。


その場に呆然と立ち、息が詰まった。そして気がついた。自分の視線の高さが変わっていることに。背が伸びていた。体の比率や重さまで、以前とは全く違っていた。自分の顔を触れてみると、五官さえも少し変わっているようだった。


「まさか……。」


「別の人間になってしまったのか?」


言いようのない不安を抱えながら、部屋の扉を押し開けた。外は明るい陽光が差し込み、台所では母が忙しそうにしていた。


「野登、目が覚めたの?!」


野登を見るなり、母はすぐに喜びの表情を浮かべ、足早に近づいてきて、ぎゅっと抱きしめた。その瞬間、野登は母が少し小さくなったように感じた。


「おかしい、母上が小さくなった?」と心の中で思った。


この視点の変化にはしばらく慣れなかった。母はそっと彼の顔を撫で、目元がわずかに潤んだ。息子が化人に成功したからか、あるいはずっと前に去っていったあの男のことを思い出したからか。


「母上?」


「無事でよかった……無事でよかった。」


彼女は目の端の涙を拭い、じっくりと息子を見つめた。目の前の息子は完全な人間の姿になっていた。自分はまだ全身に文様を持ち、天狗の証を残したまま。二人はもう違う世界の人間になっていた。


昼食はすぐに用意され、食卓には彼の好物が並んだ。野登のお腹がいくつも声を上げ、深く考える暇もなく、急いで一口を箸でつまんで口に入れた。次の瞬間。


奇妙な味が口中で弾けた。その味は鉱物の生臭さのようでもあり、風干しした肉のようでもあり、見知らぬ、奇妙な、むしろ気持ち悪さすら感じる味だった。思わず口の中の食物をよそに吐き戻してしまった。


母が驚いた。「どうしたの?何かおかしいの?」


野登は眉をひそめたが、母が聞いてくるのを聞いて、すぐに首を振った。母を心配させたくなかった。だから無理に不快感を堪え、食物を無理やり飲み込んだ。一口ずつ、まるで異物を飲み込むように。


母は彼がまだ食べられることを見て、やっと少し表情が和らいだ。食事がひと通り終わると、母は箸を置き、その表情が躊躇いがちで重くなった。


「どうしたんですか?」野登は聞いた。最後の一口を無理に飲み込みながら。


母は頭を下げた。「私は……あなたに話さなければならないことがある。」


空気が一瞬凝固した。野登の胸がどっと沈んだ。あの不安が再びこみ上げてきた。そしてようやく頭がだいぶ冷静になってきたこの時、聖山の中の光景が頭の中に入り始め、奈加の姿も浮かんだ。


「そうだ、奈加はどこに?」彼は急いで聞いた。「彼女も俺と同じように……?」


その言葉を聞いた母は、眉を強くひそめ、言葉を失った。今まさに言い出そうとしていた言葉が全部喉に詰まったようで、思わず唾を飲み込んだ。その瞬間、野登の心拍が急に速くなり、胸の奥から冷たい予感が広がっていった。


「母上、どうしたんですか?」


母の声が震えた。「彼女は……彼女は……。」


「彼女は『寄』になった……。」


「ウーン」野登は頭を何か重いもので強く打たれたような感覚を覚えた。目眩がして、椅子が倒れ、碗や箸が地面に落ちて甲高い音を立てた。


胃がひっくり返るような感覚と、口の中に残った異臭が重なり、つい先ほど食べたものを全部吐き出してしまった。母が急いで背中を優しく叩いた。


「彼女は……聖山の中に?!」


「母上……今回……何人が聖山から出てきたんですか?!」


母は懸命に思い出した。「あなたを除いて……あとは二人だったと思う。」


野登の顔が青ざめた。「つまり……二人が『寄』になった……。」


脳裏に山壁に座っていた姿が瞬時に浮かんだ。生きているようでもなく、死んでいるようでもない存在。あれが所謂「寄」であることがほぼ確実で、今や奈加もその一人となった。永遠に、聖山の中に囚われる。


「俺は行く……。」彼はゆっくりと立ち上がった。「俺は……聖山に行きたい。」


母は瞬時に慌てて彼の手首を掴んだ。天狗の村の規則はよく知っていた。規則を破れば禁地に追放される。それは死刑と同じだった。禁地に追放された天狗で、そこから帰ってきた者はかつて一人もいなかった。


「だめ!絶対だめ!」声が震え、ほぼ怒鳴るように言った。「聖山に無断で立ち入れば禁地に追放される!これは鉄の掟だ!」


「でも……奈加が……彼女が……。」脳裏に奈加の顔と、その目がくっきりと浮かんだ。


母の思考が激しく回転した。夫を失い、この一人息子まで失うわけにはいかなかった。彼の性格からして、聖山へ入ってしまいかねなかった。


「そうだ!」母は突然言った。「あなたは化人に成功したのだから!神隠大人に謁見できる機会があるはず!」


「その時……聖山に入って奈加に一目会わせてほしいとお願いすればいい!」


彼女は必死に言った。最後の一縷の希望を掴むように。


「あなたは才能のある天狗なのだから……きっと特権があるはず……きっとある……!」


野登はその言葉を聞いて、衝動が少し抑えられ、ゆっくりと理性を取り戻した。彼はまだ成年したばかりの天狗であり、今すぐ大祭司のところへ行ったところで奈加に会えるはずがなかった。ましてや伝説の「神隠大人」など。


もしこのまま禁忌を犯して追放されたら、最後の一縷の望みさえ失ってしまう。母の言うことは正しかった。あるいはそれだけが唯一の道なのかもしれない。


なにせ、化人に成功できる天狗はごくわずかで、ある年には一人もいないことさえあった。自分には何らかの「資格」があるのかもしれなかった。


野登はゆっくりと椅子に戻って座ったが、体の支えを失ったように見えた。頭が泥のように混乱していた。聖山へ飛び込む衝動を無理やり押さえ、この見知らぬ体にも適応しようとした。母が傍で何か言っていたが何も聞こえなかった。


心の中で自分に言い聞かせた。母にこれ以上自分を失う思いをさせてはならない。父のように、跡形もなく消えたくはない。しかしそれでも、ある名前が心の中でこだまし続けた。


「どうすればいい……奈加……。」

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