98話 ★正反対だからこそ
「あ~~~~~、まさに命の洗濯って感じだってのぉ……」
湯槽に浸かるなり、シャルルは顔を蕩けさせた。
「えぇ、本当に……ふあぁ……」
アイリスも同様だ。
一日や二日、入浴出来ない日があることは、商隊専属冒険者になってから数回経験があるとは言え、今回の砂漠越えをするに当たっての発汗量は、さすがに一日入浴出来ないだけでも耐え難いものがあったものだ。シャルルの言う「命の洗濯」は大袈裟ではない。
「オ風呂に入る時ハ、髪を結っテ、タオルは湯槽に浸けナイのがマナーデス。……ハイ、お団子ヘアの完成です」
「ありがとうございます、シャオメイさま!わーい、シャオメイさまとお揃いですー!」
湯槽に浸かる前に、シャオメイはムイの髪を自分と同じようにお団子の二つ結びにしてあげている。
「………………」
そんな中、エトナは湯槽の端の方でこっそりと浸かりながら、同じ商隊の仲間の様子――と言うよりも、それらの主に身体付きを窺っていた。
まずはアイリス。
元とは言え公爵令嬢であるその気風は、まさしくお嬢様。
大きすぎもしなければ、小さくもない、それでいて細くも華奢過ぎない、均整の取れた身体付きは、お嬢様育ち特有の完成度だ、ネオライトのグリード領主が食い付くのも頷ける。
田舎出身の庶民育ちの自分では逆立ちしてもどうにもならない。
次に、その隣にいるシャルル。
アイリスと比較しても、少々野性味のあるスレンダーな体型ではあるものの、その分と言うべきか鍛えられている腕や脚、腰が引き締まっていて、スマートな印象を受ける。
馬車の護衛の際はリオと同じポジションにいて、彼とも気さくに話しかけていて、距離が近いように思える。
続けて、シャオメイに髪を結ってもらってわーいわーいと喜んでいるムイ。
理不尽過ぎる。
何が理不尽なのかと言えば、身長そのものは自分よりも小さいのに、明らかに不釣り合いなほど大っきい胸。中に詰まっているのは、スライム特有のゼリー状の体液か何かだろうか。
ムイは「お星さまにいっぱいお願いしたら人間になれた」と言っていたが、何故胸だけ大きくしてもらえたのか。さてはお星さまとやらにそれもお願いしたのか。
そのムイの後ろにいるシャオメイ。
まずその背の高さとスタイルの良さ。
スラリと細長い手足に、両立された凸部の豊かさと凹部のくびれ。
普段身に付けている服も、異国情緒溢れるデザインで可愛らしい。
遠い海の向こう側からの異国人であるが故の根本的な人種の違いもあるのだろうが、アイリスとはまた違う意味で越えられない壁のある人だ。
「あら、そんな端っこでどうしたの?エトナちゃん」
「あ、リーゼさ、ぅっ……」
・・・そこに、自分が見知り得る限りで最も理不尽な人が現れた。
誰であろう、リーゼである。
エルフと言う長寿種であることもあり、完成された女性としての魅力に溢れる肉体。
白銀級冒険者としての格と、さらに選ばれた役職であるギルドマスターを務め上げていたこともあり、まさに才色兼備。
何よりその、豊満極まる巨乳。
普段から胸元の開いたローブを身に付けているのもあって、カイツールにいた男性の冒険者はこぞって鼻の下を伸ばしていたほどには、大変いやらしく、ソレが毎回"揺れる“のを見せつけられている気がする。
まさに暴力的、胸の暴力とも言うべき危険な魅力。
アイリス、シャルル、ムイ、シャオメイ、そしてリーゼ。
それらと引き換え自分は……とエトナは自分を見下ろす。
背は低いし、胸も貧相、かといってシャルルやムイのように明るく振る舞うことも出来ない、アイリスのような気風も無ければ、シャオメイのような独特な空気感もない。
女性として勝てる要素がまるで見当たらない……
「ふむ……そうだねぇ」
そんなエトナの、ないない尽くしの劣等感じみた仕草を見て取ったリーゼは、エトナの隣に座るように湯槽に浸かると、独り言のように呟き始める。
「リオくんの好みのタイプの女性って、今一つ分からないんだよねぇ」
「え?」
「んー、子どもの頃はスラム育ちの孤児だったって言ってたし、私達とは考え方や感性が少し違うのかもしれないかな」
「それは……」
「けれど、女の子に全く興味がないわけでもない。どちらかと言うと、見た目より内面で選んでるって感じ」
「でも……」
「困っている人を放っておけない、優しい人。一方で、悪人や悪党には一切容赦しない、独自の価値観や倫理観で動いている。多分、そこにあるのは効率や利益より、人の情や徳を……うぅん、そんな線引きしたようなものじゃなくて、「自分がこうしたいから」って、ある種の"自分勝手“な考えから、かな?」
もちろん、無責任なことは絶対にしないんだろうけど、と付け足して。
「自分勝手……でも、無責任なことはしない……」
リーゼの、リオを評する言葉を反芻するエトナ。
「エトナちゃんがリオくんに惹かれるのは、そこかな?」
「ふぇっ!?」
自分の内面を見透かされて慌てるエトナだが、リーゼは構わずに続ける。
「エトナちゃんは真面目で、何をおいても規則や規律、規範を重んじている。それを狭苦しく思う人もいるだろうけど……リオくんはむしろ、それを好ましく思っている。一見、正反対に見えるけど、正反対だからこそ、互いに無いものが光って見える……なんてね」
最後に悪戯っぽく締めたリーゼだが、エトナは自分の胸にそっと手を添えて、「……ありがとうございます、リーゼさん」と小さく呟いた。




