97話 乙女チックエトナちゃん
「――……あっ」
――沈んでいた意識が浮上してきたので眠い瞼をこじ開けると、エトナが見下ろしていた。
「んん……エトナか……?」
「お、おはようございます、そろそろバビロードの麓町に着きます」
「お、もう着くのか……ょっと」
勢いをつけて上体を起こして背伸び。
ふむ、さっきまで死ぬほど暑かったせいか、山の麓らしいここだとちょっと肌寒く感じるな。寝起きのせいってのもあるだろうけど。
「起こしてくれてありがとな、エトナ」
「いえ、その……起こそうとしたら、リオさんが自分から起きましたので……」
……何故か、エトナは頬を赤くして目を逸らしている。
さては?
「エトナ……俺が寝ている間に、何したんだ?」
「ぅえっ!?」
カマを掛けてみたら、あからさまに動揺した。分かりやすい。
「なんだ?俺の顔に落書きか?顔洗ったら取れるインクだろうな?」
水性ならまだ笑って済ませてやるつもりだが、油性だったらちょっと怒るからな。
「ららっ、落書きなんてしてませんっ!ただちょっとリオさんの寝顔を見てい……ぁっ」
……存外あっさり本音がこぼれ落ちてきたので、ちょっと拍子抜けだ。
「う、うぅぅぅぅぅ……っ」
しおしおと縮こまってしまうエトナ。
「俺の寝顔、そんなに面白かったのか?」
「そ、その……面白かったのではなくて、あの、……か、かわいかった、です……」
「お、そ、そうか……」
なんだこのエトナ、いつもは無表情で淡々としてるのに、そんな風に恥ずかしがられると、なんかこう、かわいい……
ややあって。
「そ、そろそろ着きますから、ギルドカードの準備をお願いします」
なんとか立ち直った (?)エトナは背筋を伸ばしていつもの無表情をなんとか取り繕おうとしている。
「お、おぉ、そうだな」
自分の手荷物からギルドカードのケースを取り出して、懐に忍ばせて。
「では、失礼しま……え?」
エトナはそう言い残して馬車を出ようとしたら、固まった。
どうしたのかと思えば。
「あらあらまぁまぁ……今のどう思いますか?お二人さん」
「恥ずかしがっているエトナちゃん、可愛いですね」
「甘酸っパイですネ……」
馬車の出入口から、リーゼさんとアイリス、シャオメイが覗いているではありませんか。
リーゼさんはニヨニヨと、アイリスはニコニコと、シャオメイはちょっと気まずそうに。
「なっ、なんっ、っ……!?」
エトナがアワアワしているのを前に、リーゼさんは「だってぇ」と心底楽しそうに。
「エトナちゃんがさっき「リオさんを起こしてきます」って言ってから、なかなか馬車の中から出てこないから、もしかして……ってね?」
「あ、私はリーゼさんから「とっても面白いものが見れそうな気がする」と言われて」
「アイリスサンに同じくデス」
しれっとリーゼさんに責任転嫁するアイリスとシャオメイ。おいおい。
「そしたらエトナちゃん、リオくんの寝顔を眺めながら、「リオさんの寝顔、かわいい……くすっ♪」って!あーもうダメ、エトナちゃんが乙女チック可愛すぎて尊い!!」
リーゼさん、あんたはちょっと落ち着け。
「~~~~~~っっっっっ!!!!!」
エトナは……あぁもうとんでもない勢いで真っ赤に、真っ赤っ赤になってる。
バビロードの麓町の門番に身分証を提示する時まで、エトナは帽子で顔を隠したまま動かなくなってしまったのは、仕方ないかもしれない。
……と言うことがありつつも、商隊は無事にバビロード登山道の麓町に辿り着き、各自身分証を提示して入町する。
けれど、帝都までの道程全体では、ここはまだ半分を越えた辺り。
ここからは険しい登山道を三日ほど渡ることになる。
サンドロ砂漠ほど気候が厳しいわけではないが、道が狭い上に高所なのだ、万が一落っこちたら最後、命はないだろう。足元に重々注意する必要がありそうだ。
とは言え、それを気にするのは明日からでもいいだろう。
それよりも今気にしなければならないのは、
「さすがに、お風呂に入りたいですね……」
アイリスのその発言が全てを代弁してくれた。
「だねー、あたしもちょっと気にしてるっての……」
シャルルもしかり。
ビヤバンの町から二日ほどとは言え、昨日は野営だったし、日中の半分以上は外にいて、しかも魔物との戦闘までこなしたのだ、いい汗をかいたなんてレベルじゃない発汗量になっただろう。
汗を拭うだけではさっぱりしないし、砂の汚れもあるし、かといって飲み水を水浴びに使うわけにはいかず……女性陣にとっては死活問題そのものだ。
……いや、俺もそう言うのはもう少し気にした方がいいかもしれないな。女性陣から「なんか汗臭くない?」とか言われて煙たがられたら、さすがにちょっと凹むかもしれない。
「だな。早いところ、今日はじっくり風呂に浸かって休んでくれ」
バビロード入りをしてから真っ先に、アンドリューさんは宿を取りに言ってくれた。ありがとうございます。
宿を確保するなり、我先に雪崩れ込むように浴室へ殺到する女性陣を見送ってから、俺も男湯の方へ向かう。




