95話 魔物のキモ
最後の一匹のザラニアの顔面にロングソードの切っ先を突き込み、動かなくなったのを確認してから引き抜く。
これで四匹全部討伐したな。
「よし、みんなの援護に向かおう」
踵を返して、左翼側へ向かう。
左翼側で既に水揚げ……いやこの場合は砂揚げ?されているザラニアは四匹……いや、今アイリスが五匹目にレイピアを突き立てて倒したところだから、これで五匹目。
見た感じあと一匹はシャルルが相手取っており、チャクラムを手に持ったままの近接攻撃でザラニアを斬り付けているのが見えた。
あの分なら加勢は必要無さそうだな。
そう思ってロングソードを背中の鞘へ戻そうとした時、
「っ!」
視界の端に不自然な砂煙が立ち上るのが見えた。
あれはザラニアの背鰭……まだいたのか!
いや、恐らく今の今まで砂の中に潜んでいて、機を窺っていたのか?
背鰭が勢いよく砂を切り裂きながら――まだ目の前のザラニアの相手をしているシャルルの背後に迫る。
「シャルルッ、後ろだ!」
「えっ、いづっ!?」
俺の注意喚起を聞いたシャルルは背後に目を向け、しかしそのせいで相手取っていたザラニアから体当たりを喰らい、弾き飛ばされてしまう。
弾き飛ばされたところを好機とばかり、背後からのザラニアが牙を剥き――ダメだ、俺やアイリスがいる距離じゃ間に合わない!
しかし、
「プキューッ!」
スライム――スライム形態のムイが間に合ったらしい、シャルルを襲おうとしていたザラニアの横合いから、弾丸のような体当たりをぶちかまし、ぶっ飛ばした。
体当たりの強さには自信があります、とアンドリューさんとの面接でも言っていたが……いや、人間よりは大きくて重いだろうザラニアをあんな簡単に吹っ飛ばせるのか。
恐るべしムイ。
「プキュキュー!」
「痛っつつ……ありがとムイちゃん、っと!」
多分「大丈夫ですか!」と言ったらしい助けてくれたムイに礼を言いつつ、シャルルはすぐに起き上がると、追撃に来ていたザラニアにチャクラムを叩き込んで斬り裂いた。
ムイがぶっ飛ばしたザラニアも、あの体当たりで絶命したらしく、動かない。
他にザラニアがいないか周囲の安全を確認してから、ようやく一息つける。
「すまんシャルル、大丈夫か?」
駆け寄って、シャルルに怪我は無いか訊く。
「痛かったけど、へーきへーきっての」
平気と言いつつ胸辺りを擦っている、強打した部分が痣になったりしなければいいんだが。
「悪い、俺があそこで変に注意喚起したりしなければよかった」
「いいのいいのっての。ってか、もしムイちゃんが間に合わなかったから、あたし後ろから不意打ち喰らって、もっと酷い大怪我してたかもだし」
だから気にしないの、と笑って見せるシャルル。
「シャルルさま、お怪我はありませんか!」
人間形態に戻ったムイも駆け寄ってきた。
「大丈夫大丈夫。さっきは助かったっての、ムイちゃん」
「ですけど、痛そうに擦ってるじゃないですか。無理しちゃダメです!」
「いや、あたしはほんとに大丈……」
シャルルもやせ我慢しているのではなく、本当に平気なのかもしれないが、それを無視してムイは淡緑色の魔法陣を顕現し――
「――ヒール」
治癒魔術のヒールを発動、淡緑色の魔力光がシャルルを包み込んだ。
「お……あ、なんか身体が楽になる感じ……」
さっきまで、痛みで顔を強張らせていたシャルルの表情から強張りが緩む。
「ならよかったです!」
お役に立てました!とムイは喜ぶ。
「リオさまも、お怪我とかは大丈夫ですか?」
「俺の方はノーダメージだから問題ない」
「さすがリオさまです!とっても強いです!」
またもキラッキラに目を輝かせるムイ。俺のことを慕ってくれるのは嬉しいんだが、なんかむず痒いものがあるな……
「あっ、アイリスさまにも大丈夫か訊かないとです」
すると、すぐにアイリスのことを思い出したように踵を返して、彼女の元へ駆けていく。
さて、さっき倒したザラニアの剥ぎ取りを済ませないとな。
ザラニアから魔石と、比較的形の良い鰭や牙、鱗を剥ぎ取っていると。
「リオサン、ちょっといいデスか?」
何故かシャオメイが壺を抱えながら、馬車の外に出て近付いてきていた。
「シャオメイ?どうかしたか?」
「剥ぎ取り用ノナイフ、貸シテくれませんカ?」
「んん?何をするんだ?」
「ザラニアの肝が欲しいンです」
「きも?……まさか、肝臓のことか!?」
おいおい、なんかとんでもないこと言い出したぞ!?
「ハイ、そうですヨ」
しかも当のシャオメイは真顔で頷いている。
「ちょ、ちょっと待て、ザラニアの内臓なんてどうするつもりだ?いや、そもそも剥ぎ取れるもんなのか?」
「リオサン、知りまセンか?ザラニアの肝っテ、食材にナルんですヨ」
「しょ、食材ィ!?」
マジかよ、それは知らなかった。
「ソンなにおかしいですカ?鶏肉のレバートカ、食べたコトありまセンか?」
「それはあるが……いや、でも、魔物の肝だぞ?大丈夫なのか?」
「大丈夫デス。私、ザラニアの肝ヲ使った料理モ作れマスから」
任せてくだサイ、と頷くシャオメイ。
「ま、まぁ……シャオメイが言うなら」
懐の剥ぎ取りナイフをシースごと取り外して、シャオメイに手渡す。
「アリがとうございます。すぐ二済ませますネ」
するとシャオメイは何の躊躇いなくザラニアの死骸にしゃがみこむと、ナイフを突き立て、スルスルとザラニアの体内から肝臓を引き摺り出すと、ソレをすぐに壺の中に放り込んだ。腐敗を防ぐために塩漬けにするのだろう。
同じように他のザラニアの死骸からも肝を剥ぎ取っては塩漬けにしていく。
普段は控えめで大人しいシャオメイの、意外すぎる一面を垣間見た気がした……




