88話 ★お前のようなスライムがいるか!
ムイは、スライム形態のままではスライム語 (?)しか話せないらしく、ひとまず人間体に戻ってもらい。
「それで、ムイちゃんはどうしてこの砂漠にいたのですか?」
アイリスが挙手して質問する。
それもそうだ、ムイの存在が、少し前に俺にサンドイッチをくれたスライムと同一個体だと言うのは……信じがたいものがあるが、かといってそれを否定出来るだけの理由も根拠もないので、半ば信じる体を取りつつ。
「それはもちろん、こちらの方――リオさまへの恩返しのためです!」
こちらの方と言ってムイは、俺を指した。
「俺?」
思わず自分に向けて人差し指を向ける。
するとムイは、曇りひとつない目をキラッキラに光らせて。
「はい!お腹が空いて飢え死にしそうだったわたしを救ってくれた、まさに勇者さまです!」
「待て待て、大袈裟過ぎだ。ちょっと落ち着こうか」
腹減らした女の子にサンドイッチ一枚やっただけで勇者様になれるなら、世の中勇者だらけ――いや、案外そうではないのかもしれないが――だよ。
「ムイ、俺に対する恩返しがしたくて、こんな砂漠を……いや、そうじゃないな。いつから俺達の後を尾けていた?」
不自然なのだ。
俺がムイと知らずに、通りすがりの腹ペコスライムにサンドイッチをあげたのは、カイツールからネオライトへ向かうまでの道中……その日から今日までの日数にして、十四日以上は経っている。
しかも、ネオライトからメルキューレへ、メルキューレからビヤバンの町へ、転々としている間だ。
どこかのタイミングで、俺に接触しようと思っていたはず。
するとムイは何だか気まずそうに。
「実は……」
要約すると。
ムイは元々、【テイマー】スキルを持った冒険者に使役されたスライムだったらしい。
使役されるようになってすぐは、それなりに活躍していたそうなのだが、その冒険者の階級が上がり、もっと強い魔物を従えたいがために、切り捨てられたと言うのだ。
テイマーに慣らされた魔物は、野生に帰っても上手く生きられずに死んでしまうこともあるらしい。
強い魔物ならまだしも、魔物と分類される中では最弱クラスのスライムだ、群れることを前提とした魔物が、一匹だけでは生きることも出来ないだろう。
そうして捨てられて、一匹寂しく腹を減らしていたら……と言うのが、俺と出会うまでの一連の流れだ。
「でも、スライムのままじゃ弱くて、リオさまに恩返しをしようにも、邪魔物扱いされるんじゃないかと思いまして……」
「だから、今みたいに人間の姿になっていたのか?」
「はい……」
先程とは打って変わって、自信無さげに頷くムイ。
「ちょっと待ってください」
そこへ、エトナが口を挟む。
「落ち着いて考えてみたら、『人間に擬態出来るスライム』なんて、聞いたことがありません」
……言われてみれば確かに。
ムイがどう見ても普通の女の子にしか見えないせいで、そんな疑問なんて抱きもしなかった。
エトナのその意見に、他の皆も「それもそうか?」と言う顔をする。
「そいつはオレも気になっていたところだ。ムイ、どうやって人間の姿になれるようになったんだ?」
アンドリューさんも同様らしい。
その答えは。
「頑張ったからです!」
力強く頷くムイだが……エトナは明らかに頭に疑問符を浮かべている。
「えぇと……何を、どう頑張ったんですか?」
「毎晩、お星さまにいっぱいお願いしました!「人間になれますように」と!」
そしたら人間になれるようになりました、と。
意 味 分 か ら ん !?
お星さまにお願いしたら人間になれるようになったなんて、そんな御伽話みたいな話をどう信じろって言うんだ。
「そうなのか!そりゃ良かったな!」
アンドリューさんはいつも通り「ハッハハッ!」と笑っている。いや、「良かったな」って、良くねぇよ。多分エトナも俺と同じことを思っているだろう。
「な、なんか、いまいち話が見えないんだけど……ようするにムイは、リオに恩返しするために、ここに来たってことでいいんだっての?」
細かい経緯はこの際放り投げて、ムイの目的を再確認してくれるシャルル。
「はい!」
と言うわけでリオさま、と俺に向き直るムイ。
「このムイ、不束なスライムですが、あなたさまのために精一杯ご奉仕します!」
「ご奉仕しますと言われてもなぁ……」
正直、困る。
「それに、俺は商隊専属の冒険者だ。自分の一存だけで、勝手に人を雇うわけにもいかない」
「確かに、それはリオの言う通りだな。リオに奉仕がしたいなら、まずはオレに話を通すべきだろう」
アンドリューさんが横から頷く。
人情家であるこの人だが、筋の通らないことは許さない人でもあるからな。
と言うことはだ、とアンドリューさんはどかっと集会所の席に着いて。
……あっ、オチが読めたな。
「さぁムイ、お前さんがオレの商隊の力になれるか、証明してみせろ!」
ようするに面接だろ、なんでそんな大仰そうに言うんだ。
「わわ、分かりました!」
ムイもアンドリューさんと向かいの席に着き、しっかりと向き合う。
「さて、これまで多くの人間と向き合ってきたが、スライムに面接をするのは、後にも先にもこれっきりだろうな……」
面接開始だ。
「まずは、自分に何が出来るか教えてくれ」
「はい!"ファイアボール“と"ヒール“、"リカバー“、"ガードハーデン“、"ブーストドライブ“が使えます!」
え、魔術使えるのか?
ファイアボールは火属性の初級魔術、ヒールは初級治癒魔術、リカバーは異常回復魔術、ガードハーデンとブーストドライブはそれぞれ、皮膚の硬質化と脚力強化の補助魔術だ。
「それと、体当たりの強さに自信があります!」
いや、それより……普通にヒーラーの冒険者として通用するレベルだぞ?




