86話 あの時助けていただいたスライムです!
リーゼさんは治療のために集会所の奥へ搬送されるのを見送りつつ、俺は集会所の席に座らせてもらい、シャオメイが用意してくれた水を噛むように飲む。一気に飲むと噎せるので、慌てていてもゆっくり飲まなくてはならない。
「ぷ……ふー、ぅ……はぁ」
ようやく落ち着いたのを見計らって、受付嬢の一人が声を掛けてくる。
「今の状況を、ご説明していただけますか?」
ギガスコルピオンが二匹も出没していると言う、非常事態宣言が発令している中で飛び出して、スカルゴンの足跡を追跡していた白銀級冒険者を抱えて帰ってきたのが一人で、その内の二人――アイリスとシャルルはまだ戻ってきていない、というのがギルド側の現状認識だろう。
俺自身も、状況把握は二の次にしてリーゼさんの救出を最優先していたので、二匹いるギガスコルピオンの内の一匹としか遭遇していない。
言葉を整理してから。
「ひとつずつ説明させてくれ。……町から数十分圏内で、ギガスコルピオンに追われるリーゼさんを発見。直後にリーゼさんが麻痺毒を受けたらしく、転倒。アイリスとシャルル……赤銅級二人が囮になっている内に、リーゼさんを運んできた。残る二人も、機を見て撤退するはずだが……もう一匹のギガスコルピオンは分からない」
アイリスは光属性魔術、シャルルはチャクラムの投擲で、遠距離への攻撃手段を持っているので、下手に近付かずに遅滞戦闘を行っていてくれているといいんだが、もう一匹のギガスコルピオンが気になる。
「……分かりました。冒険者ギルドとしては、非常事態宣言は継続し、ギガスコルピオンに関しては、」
すると、奥に入っていった受付嬢の一人が駆け寄ってきて、「二匹いる内の一匹は確実に息の根を止めた。直後にもう一匹目が現れ、継戦は不可能と即断し、撤退。魔石の回収は出来ていない、とのことです」と報告しに来た。リーゼさんの口から説明を受けたようだな。
コップの水を勢いよく飲み干して、立ち上がり、ロングソードを背負い直す。
膝がキツい……が、まだなんとかなるだろう。
「おい待てリオ、どこに行くんだ?」
アンドリューさんに呼び止められるが、ここで長々休憩している場合じゃない。
「アイリスとシャルルが心配です、すぐに救援に行かないと」
「よせ!そんなバテバテで向かっても、逃げることも出来んだろう!」
「大丈夫です、二人が逃げられそうなら俺も一緒に逃げて、それが無理そうなら俺が殿に……」
「あの、呼びましたか?」
「「え?」」
思わずその声がした方向を見やれば、アイリスとシャルル。それと女の子が一人、集会所の出入り口付近にいた。
「おぉ、お嬢さんにシャルル!無事で何よりだ」
アンドリューさんが安堵に胸を撫で下ろしているが、安心するにはまだ早い。
「二人とも、ギガスコルピオンは?」
逃げ切れたのはいいが、怒り狂ったギガスコルピオンが町に襲い掛かってくる可能性もまだ生きているのだ。
「えーと、あたしらもどう説明したらいいっての……」
シャルルは何だかばつの悪そう……と言うか、困った様子だ。
「はい!それはこの"ムイ“が説明します!」
すると、アイリスとシャルルの一歩後ろにいた、『ムイ』と言うらしい水色の髪の女の子がビシッと挙手した。誰だろう?
「ムイが、この砂漠に棲むスライム達に協力してもらうようにお願いし、あの大っきなサソリを遠くへ誘導してもらいました!」
んん?どう言うことだ?
受付嬢も事態が飲み込めずに、「どう言うことですか?」と訊き返している。
「ですから、ムイがスライム達にお願いして、大っきなサソリを町から離すように誘導してもらいました!」
むふん、と胸を張るムイ。
エトナと同じくらいの身長の割に、意外と胸はデカ……じゃなくて。
「君は、テイマーの冒険者なのか?」
スライム達にお願いして、と言うことは、この砂漠に棲む、デザートスライムの群れをテイムして、二人を助けてくれたのかと思ったが。
「多分そんな感じです!」
多分そんな感じってなんだよ、どういうこっちゃ。
すると、アンドリューさんがムイに話しかけた。
「ふむ。お前さんが、ウチの冒険者二人を助けてくれたんだな?」
「そうです!その通りです!」
「ハッハハッ!そうかそうか、ありがとうな!」
何をどうやって、と言う過程はすっ飛ばして、彼女がアイリスとシャルルを助けてくれたのだと言う事実だけを確認したかったアンドリューさんは、いつもの高笑いを上げた。
「それで、ギガスコルピオンを町から遠ざけてくれたのも、お前さんなんだな?」
「ムイが、と言うより、スライム達です。あの子達ならきっと、上手く逃げ仰せてくれるはずです」
「ハッハハッ!なるほどな!」
なるほどなじゃない、さっきから話が見えねぇ。
「……で、結局君は誰なんだ?」
アイリスとシャルルを助けてくれて、ギガスコルピオンを町から引き離してくれた、それは分かった。
俺のその質問を聞いたムイは「よくぞ訊いてくれました!」と自信満々な風に俺に向き直って。
「あの、"あの時“はごはんを分けてくださり、ありがとうございました!」
「ん?あの時?」
ごはんを分けた?
おかしいな、この娘とは初対面のはずだが……
すると、
「覚えていませんか?あの時助けていただいたスライムです!」
あの時?スライム?ごはんを分けて……
あ。
「も、もしかして……そのごはんってまさか、サンドイッチか?」
「はい!とっても美味しかったです!ごちそうさまでした!」
「………………マ ジ で !?!?!?」
あーあーあー思い出したぞ!?
あの、カイツールからネオライトに向かっていた時に出会った、お腹減らしてたスライムか!?




