77話 信頼してるからって無茶振りしていいとは言ってない
夕食になり、シャオメイお手製のグーラオロウを絶賛しつつも、アンドリューさんが他の商隊員や、帝都行きの同行者の皆さんに意見を募ったところ、「多少値を張ってでも海路で行くべきだ」と言う海路賛成派が多かったそうで、仮決定として船乗りロゾックの話に乗ることになった。
エトナやシャルルを始めとした海路(と言うかロゾック)反対派も、アンドリューさんの決定ならばと承諾している。
アンドリューさんは事前にロゾックから「二日後の深夜に船を出せるようにはしておく。それまでに返答と出航準備はしてほしい」と言われているので、明日の午前中に返答、その翌日の真夜中に船に乗り込む算段のようだ。
いくらギルドや騎士団の目を避けるためとは言え、真夜中に海に出るのか……ますます不安になってくるな。
となると、明日はその日で行って帰ってこれる近場の依頼を受けて、翌日はどこかのタイミングで昼寝をして夜に備える感じだな。
しかし、俺の個人的な意見を言うのなら、ロゾックのことはまだ信用出来ない。
いくら吹っ掛けられるか分かったものじゃないし、俺は船乗りではないから航路のことはよく分からないが、そもそもシーサーペントとの遭遇を回避する航路と言うのも怪しい。
疑い始めたらキリが無いのは分かってはいるんだが……
「リオさん」
ぼんやりとそんなことを考えていたら、俺の隣にいたアイリスが声をかけてきた。
「シャオメイさんのグーラオロウ、冷めてしまいますよ?」
「あぁ、悪い」
食事の手も止まっていたみたいだ。
カリッと上げられた豚肉に、甘酸っぱいソースの組み合わせは、口にした最初こそ「おや?」と違和感があったが、味わっていく内にそれらがまるで最初からひとつであったかのような一体感に変わっていった。
野菜の水分や果物の果汁もそれに一役買っており、素材の旨味を殺してしまうことなく、同時に甘酸っぱさも均一に仕上げられていると言う、神憑りと言ってもいい味付けだ。
シャオメイ、天才か?いや、天才だな。
「肉と果物が一緒に入った料理は初めて見ましたけど、とっても美味しいですよね」
アイリスもニコニコしながら味わっている。
お冷やを一口挟んでから。
「非正規の航路で帝都へ向かうと言うお話、やはり不安でしょうか?」
俺の食事の手が止まっていた理由を汲み取ってくれたアイリス。
「不安と言うか、信用ならない感じだな。聞き耳を立てていたのもそうだが、どうもタイミングと言うか、俺達の都合に良すぎる気がする」
「リオさんが怪しむ理由も分かります。ですけど、全てを全て疑っていても事は進みません」
「分かってる、分かってはいるんだけどな」
疑い性なのは自覚しているつもりだ。
と言うか、常に少しは疑っていなければ、生きていられなかったのもあるんだが。
「私も、船乗りさんのお話を完全に信じているわけではないのですけど、陸路で帝都へ向かうよりは危険が少ないと思うのです」
「陸路の方が道程は長いが危険に備えやすい、海路の方は最短距離だが危険が見えにくい。確かに一長一短……でも、最短距離な分危険そのものを回避、あるいは出くわす回数を減らすことが出来る可能性もあるにはあるってことか」
ままならんな。
「なぁに、そう構えることはないぞ」
そこに、アンドリューさんがどっかりと俺の隣に座ってきた。
「海路でも陸路でも、オレとしてはどっちでも構わんが、陸路の方だとオレやお前さん達のような冒険者はともかく、他のみんなが心配にはなるがな」
「そうか。陸路だと、砂漠と登山道を渡るからその準備もあるし、特に砂漠越えがキツいですよね」
俺自身は砂漠を渡った経験は無いが、寒暖差が激しく、日中は死ぬほど暑く、夜は死ぬほど寒いらしい。
加えて、砂漠のような劣悪な環境に鍛えられた魔物の強さも無視できないのも大きいな。
「うむ。だがな、お前さん達がいてくれるから、危険度に関しては問題ないと思っている」
「まぁ、いざって時に身体を張るのが冒険者の役目ですからね」
むざむざ死ぬつもりは無いが、最悪の場合はこの身を犠牲にしてでも商隊を守る覚悟はあるつもりだ。自分の命惜しさにみんなを見捨てて逃げるなんて、そんなカッコ悪い真似をしたくないって言うのも理由のひとつだけどな。
「いや、そうじゃない」
すると何が違ったのか、アンドリューさんは首を振った。
「陸路でも水路でも、どんな危険が待っていたとしても、お前さん達なら必ず切り抜けてくれる……オレはそう信じているんだ」
現に、これまでだってそうだったろう?と言うアンドリューさんの目には、確かな信頼が見えた。
まぁ確かに……ヴェイルワイバーンの撃退も、ブレイドビートルの討伐も、暴走したグリードとの戦いも、何だかんだありつつ最終的には無事に生還してきた。
アンドリューさんに信頼してもらえるのは嬉しいし、誇らしいんだけど、
「あんまり買い被られても困りますけどね」
……たまーに、無茶振りをしてくるからなぁ、このおっさん。可能と不可能の境界線のギリッギリ可能寄りを攻めてくると言うか。
「ハッハハッ!そう謙遜するなリオ!オレの見る目は確かだからな、安心して胸を張れ!」
「そうです。リオさんはもう少し、偉そうになってもいいと思いますよ」
アイリスまでもがそんなことを言うが、君もアンドリューさんの"お眼鏡”に叶っているからな?
「胸を張るのと偉そうに振る舞うって別だと思うんだけどなぁ」
いつか絶対無茶振りさせられるからな?覚悟しておけよ。




