76話 そんなことより今日の夕飯です
自由行動でいいとは言われたものの、引き続きメルキューレ周辺で何が起きているかの情報収集を手分けして行う。
とは言え集まった情報はあまり変わり映えのないものばかりで、ギルドの方でも聞いた、メルキューレ領域の植生物の数が減ったり、海に濃霧が発生したり、海水温が上がったり、と言った内容だ。
ネオライトの風土悪化と言い、メルキューレの異変と言い、今のこの大陸に一体何が起きているんだ?
もうしばらく聞き込みを続けている内に日が傾き始めたので、そろそろシャオメイが夕食の支度を始める頃――同時にアンドリューさんが、先程の、ロゾックとか言う怪しい船乗りの話の是非を決定しているだろう。
一度馬車の停留場に戻ると、既にアンドリューさんは戻ってきており、エトナと何か話しているようだった。
「アンドリューさん、今戻りました」
「おぉ、みんな戻ってきたか。それで、他に何か分かったことはあったか?」
聞き込みをしても特に変わり映えのない話しか聞けなかったことを伝えると。
「そうか……いや、手間をかけさせたな、ありがとう」
そこに、アイリスが挙手した。
「商隊長さん、先程の、船乗りの方のお話はどうなりましたか?」
「うむ、それなんだがな……」
それを聞いて、アンドリューさんは顔をしかめる。
「話を聞いた限り、どうも胡散臭くてな。オレ自身、最初は断ろうと思っていた。だが、陸路で帝都を目指すのも大きな危険が伴う。いや、海路が絶対安全と言うわけではないんだが、海路の方が早く着く分陸路よりはマシだろう。文字通りの渡りに船だが、不確定要素が多すぎる」
そこで、と区切ってから。
「話を一度持ち帰らせてもらって、みんなの意見が聞いてから決めようと思う。このまま陸路で帝都を目指すべきか、ロゾックの話に乗るか、それともメルキューレに長期滞在してでも安全な海路の確保を待つか。シャオメイの旨い飯を食いながら、ゆっくり考えて決めてくれ」
そう言って、アンドリューさんは他の商隊員にもこの事を伝えるべく動く。
この場に残っているのは俺、アイリス、エトナ、リーゼさん、シャルルの五人だけ。
「どう思う?」
誰にとは言わずにそう問い掛ければ、真っ先にエトナが答えた。
「わたしは反対です。町の決定で港を封鎖しているのに、独断で船を出すなんて、絶対にまともじゃありません。むしろ、今すぐ騎士団に通報するべきです」
正論ごもっともだ。
アコギなやり方だと自認していたくらいだ、騎士団に通報したら一発でしょっ引かれ……いや、その辺は上手く証拠を隠してやり過ごすつもりなんだろう。
「あたしも正直怪しい……けど、陸路で帝都を目指すのも同じくらい危険なんっしょ?」
シャルルも反対意見だが、陸路の方を選ぶリスクも考えているようだ。
「うーん……犠牲と損害を大前提にしていいなら、私がものすごぉぉぉぉぉく頑張れば、シーサーペントを討伐することも出来るんだけど、さすがにそれはギルドの方が許可してくれないかな」
犠牲と損害を前提に、とか普通に言ってるリーゼさん。それはにっちもさっちも行かなくなった時の、本当に最後の手段だな。
「その、私の金銭感覚で言うのなら……多少の出費は覚悟しなければなりませんけど、それでも今の最短で帝港に着くのなら、船乗りさんの話に乗るのも、全くの悪手と言うわけではないと思うのですが」
アイリスはどちらかと言えば、消極的とまではいかずとも積極的でもない賛成、と言ったところか。それでも怪しいものは怪しいので疑ってはいるようだが。
エトナは完全に反対、シャルルはどちらかと言えば反対、リーゼさんはどちらでもない、アイリスはどちらかと言えば賛成。
シャオメイや他の商隊員、帝都への同行者にも意見を募るらしいし、俺はどちらの意見に賛成しようか……
「私ノ意見ですか?ソウですねぇ……」
炊事場で包丁片手に野菜の皮をスルスルと剥いているシャオメイにも意見を訊いてみたところ。
「どっちモ同じクライ危険って言うナラ、「好きな方を選べ」ってコトデスか?」
「好きな方を選べ?」
アイリスがオウム返しに訊き返す。
「そう言ウことジャないんですか?あ、陸路か水路かノ話でしたネ、スミマセン」
仕切り直してから。
「個人的ニハ、船に乗らせテもらう方ガ、都合がイイかなと。ソレなら、食事ヲ提供するコトで少しデモ代金の代わりにナレればと」
有り体に言えば、「食事はこっちで用意してやるから、少しは安くしてくれ」と値切り交渉にも繋げられるだろう。
なるほど、何年も船の厨房に居座り続けたシャオメイならではの意見だ。
つまり、シャオメイは海路に賛成派と言うことだ。
「早速いい匂いがしてるっての……シャオメイ、今日の夕飯はなに?」
シャルルがそう言ってくれたように、食事時のシャオメイの炊事場はいい匂いが漂っていて……おっと、腹の虫が武装デモを起こしそうだ。
「今夜は、咕咾肉……エェト、油で揚げた豚肉を、甘酸っぱいソースに絡マセて、果物や野菜と一緒に炒メル料理デス」
甘酸っぱいソースを絡ませた豚肉か……いかん、このままじゃ腹の虫が武装デモどころか、テロを起こしかねない!
テロを未然に防ぐため、みんなで夕飯の手伝いにかかることにした。




