227話 インペリアル勲章
「ん……」
――心地好い倦怠感と共に、目が覚めた。
目が覚めてすぐに、傍らの温もりに気付く。
「すぅー……くぅ……すぅー……くぅ……」
アイリス……あぁそうだ、昨夜にアイリスが俺の部屋に来て、思い出を振り返って、そして……互いの肉体を貪り合うように事を致して、そのまま眠りに就いたんだったな。
寝顔、可愛いなぁ。
アイリスの寝顔を満足するまで見ていると、
「んぅ……?」
ゆっくりとアイリスの瞼が開かれる。
「おはよう、アイリス」
「おはよう、ござます……」
寝起きでぼんやりしていたアイリスだったが、
「………………ぁっ!?」
いくら毛布で覆っているとは言え、その下は一糸纏わぬ姿であったことを思い出したらしいアイリスは、慌てて毛布を掴んで身体を隠そうとする。
「あ、あの……服、着ますから、あっち向いててください」
「見てたらダメか?」
「ダメに決まっているでしょうっ」
昨夜はお互い全てを脱ぎ捨てたのに、着替えは別らしい。
まぁ確かに俺も、アイリスにじーっと見られながら着替えるのはちょっと出来ないかもしれない。
「ダメか……分かった」
アイリスに背を向けるように寝返り打つ。
その上から、頭に毛布を被せられる。
微動だにしないでいると、背中から衣擦れの音が……今、アイリスは何も着ていない状態をさらけ出していて……いかん、音だけのせいか余計な意識が働く!
「も、もう大丈夫ですよ」
そっと毛布を取ってくれるアイリス。
次は交代で俺も服を着直してから。
「「………………」」
顔を合わせると、昨夜の激しいアレコレを思い出して、アイリスも同じことを考えたのか、お互い真っ赤になってしまう。
「なんと言うか、その……ありがとう?」
「い、いえっ、その、私の方こそ、ありがとうございまひゅ……」
お互いが望んだ結果、"あぁ“なったのだから、謝るのもおかしな話だと思って。
「あの、お風呂、入ってきますね……」
「一緒に入るのは?」
「無しです!今リオさんの身体を見たら、その……また自制が効かなくなりそうで……」
とにかく失礼します!とアイリスは逃げるように部屋から出ていった。
アイリスの気持ちも分かる。
もし一緒に風呂に入っていたら、彼女の均整の取れた綺麗で美しい肢体を見たら、朝からもう一戦やるところだった。
汗だけじゃなくて、色んな体液を流したしなぁ……俺も後で身体を洗おう。
アイリスが朝風呂から上がって、入れ替わるように俺も軽く湯浴みを済ませる頃には、みんなも起きてきたので、顔を合わせると。
エトナとシャオメイはなんだか気まずそうに。
リーゼさんとニーリン、レウィシア第一皇女はニヤニヤと。
シャルルとフリーダは呆れたように。
ムイだけは周りが何故そんな顔をしているのか分からずにいて。
アンドリューさんは「ハッハハッ!」といつもの豪快な笑いを見せるだけ。
これは……多分、 (ムイ以外は)俺とアイリスが昨夜、アレコレしたこと、気付いてるな?
アイリスもみんなの顔を見て、俺と同じことに気付いたようで、顔を赤くしながら縮こまっている。
「あのー、リオさまとアイリスさま?これは一体、どういうことでしょうか?」
元スライムだから、人間の男女のアレコレについては知らないのだろうムイが、純粋に何かあったのかと訊いてくる。
なんか、こう、小さい子に「赤ちゃんってどこから生まれるの?」って訊かれたようで、答えづれぇ……
こう言う時はどう答えたらいいんだ?
「はいムイちゃん、そこまでね」
すると、リーゼさんがやんわりとムイを止めてくれた。
「リオくんとアイリスさんは、恋人同士。恋人同士になると、色々大変なんだよ」
そう、色々とね?とリーゼさんが意味深な笑みを向けてくる。こわっ。
「んん?よく分かりませんが、分かりましたです!」
お茶を濁すリーゼさんに、ムイはとりあえず分かってくれた。ホッ……
船内食堂で朝食を終えたら、帝港は目前だ。
港に到着したら、積んでいた馬車を降ろして、帝都の駐留場で繋ぎ直してから、騎士団に囲まれて、後宮まで丁重にお連れされて。
謁見の間まで連れてこられると、既にカイザス陛下が玉座に座って待ってくれていた。
レウィシア第一皇女とフリーダ以外の俺達は片膝をついて畏まって。
「お父様、レウィシア・イシュー、ただいま戻りました」
「同じく、フリーダ・イシュー、帰還致しました」
娘二人が一礼するのを見て、カイザス陛下は破顔して「うむ、よく帰ってきてくれた」と頷く。
「王国での顛末、書簡に目を通させてもらった。ご苦労だったな」
当初の目的である、『王国の聖女の祈祷による豊穣の独占をやめさせる』ための、レウィシア第一皇女と聖女カナコとの対談はうやむやになった上に、紆余曲折がありまくったが、どうにかこちらの本懐を遂げた上で着地し、カナコも帝国に亡命する運びとなったことは、王都に滞在していた時に先んじて書簡を送っている。
続いてカイザス陛下の視線が、俺達の代表のアンドリューさんに向けられる。
「商隊の皆も無事で何より。大義であった」
「はっ、お褒めに預かり恐縮であります」
そして――何故か俺にも目を向ける。
俺、何もしてないよな?いやアイリスとは恋人同士になったが、カイザス陛下には関係無いことか。
すると、カイザス陛下は控えていた兵士に「例のものを」と指示すると、兵士はすぐさまそれを差し出した。
何やら、書状と、バッジのようだが。
「冒険者リオ、前へ」
「え、俺ですか?」
「うむ」
こっちへ来いと言われたからに、立ち上がってカイザス陛下の前に立つと、陛下も立ち上がると。
「冒険者リオ殿。此度も、そして過日の我が国の内乱においても、その勇気と力を尽くしてくれたことを称え、"インペリアル勲章“を授与する」
インペリアル勲章とは、帝国内にて英雄的偉業を為した者に対して与えられる、帝国で最も誉れ高き勲章であるらしい。
カイザス陛下手ずから俺のジャケットの胸に、帝国旗を象ったプラチナ色のバッジが付けられる。
「ありがとう。君のおかげで、世界は必ずや良い方向へ向かうだろう」
「は、あ、ありがとうございます」
なんか、世界を救ったみたいなことになってて、俺ちょっと恥ずかしい……
次回、最終話です。




