223話 漢気
「えぇ、どうぞ娘を嫁にしてやってくださいな」
最初に答えたのは、リコリスさんの方だった。
そして、
「うむ、君なら断る理由がない。元より私達は、結婚も認めるつもりだったからね」
ベルナルドさんに、認めてもらえた。
「ぁ……ありがとうございます!」
ぶん、ともう一度、振り下ろすように頭を下げた。
「ハッハハッ!良かったな、リオ!」
アンドリューさんも豪快に笑っては、バシバシと背中を叩いってぇ!?骨折箇所が響く!
「うぐぁっ、ちょっ、アンドリューさっ、やめっ」
「おっと、すまんすまん、ついな」
つい、で叩かないでください。
「お父様、お母様……ありがとうございます」
アイリスも、ご両親に向けて深く頭を下げた。
「どうしてお礼を言う必要があるんだね。アイリスが自分の意志で選んだ男なのだろう?」
「本当にねぇ。それもこんなにカッコよくて誠実な男の子を連れてくるんだから……私が10年若かったら放って置かないわよ」
「も、もぉっ、いくらお母様が若くてもリオさんは譲ってあげませんからねっ!」
ぷーっと頬を膨らませるアイリス。家族の前だからか、表情が素直だな。
出された食事も残さずいただいたところで、お茶を淹れてもらいつつも。
「娘が嫁に行くことになって嬉しく思うが……やはり寂しくなるなぁ」
ふと、ベルナルドさんが少し寂しそうに呟いた。
「お父様?」
どうしたのかとアイリスが訊ねると。
「王都にいられるのも、あと三日くらいでしょう?それからは、もう何年かくらいは帰って来ないと思うとねぇ」
リコリスさんが、その寂しそうな理由を答えてくれた。
確かに、フリーダとレウィシア第一皇女を帝国に凱旋させた、それから先をどうするかはまだ決まっていない。
俺とアイリスの永住地探しは、王都から離れたところが望ましいと思っているのもあって、アイリスにとっては実家に帰るにしても簡単なことではないだろう。
尤も、今しばらくはアンドリューさんの商隊の専属冒険者でいるつもりなので、その永住地探しも幾年か後になりそうだが。
「頻繁に王都に寄る、と言うのも難しいですな。商隊の性質上、あまり一ヶ所には留まれません故に」
アンドリューさんも同様だ。
アンドリューさんが古巣――帝都に帰るのも、十年に一度ほどと言う。
「……だったら、永住地探しは出来るだけ王都の近くに」
「それはダメです」
出来るだけ王都の近くに、と言いかけたところで、アイリスからダメが入った。
「私のために、長閑な場所で静かに暮らしたいと言う、リオさんの夢を諦めないでください」
「夢と言うには、ちょっと欲が無さすぎるかしらね……?」
アイリスが真剣な面持ちで言う横から、リコリスさんが苦笑している。欲が無さすぎるって言われてもな。
「……そう言えば、アイリス。俺の出身とかは話したのか?」
欲の無さからふと思い浮かんだこと。
ベルナルドさんとリコリスさんは、俺が王都のスラム出身の孤児であることを話したのかどうかが気になったのだ。
「あ……いえ、話してませんね」
アイリスは話していないと言う。
すると、何の話かとベルナルドさんとリコリスさんの視線が俺に向けられる。
……ここは、正直に話そう。
いくら俺が、今日まで冒険者として確かな結果を残してきたり、帝国の一大事の解決に貢献したりもしたが、しょせんは学らしい学の無い孤児。
もしかしたら、先程のアイリスとの結婚を認める話を反故にされるかもしれないが、下手な嘘をつきたくもない。
意を決して二人に向き直り、俺自身の育ちを明かす。
すると。
「なんだ、そんなことか。深刻そうな顔をしながら言うものだから、何事かと思ったよ」
ベルナルドさんは肩透かしをくらったように苦笑し、リコリスさんも。
「アイリスも、リオくんがスラム出身の孤児だってことを知った上で、好きになったのでしょう?なら、何も問題ないじゃない」
そしてアンドリューさんも横から、
「ウチのリオは、そう言う細かいことを気にする奴でしてな。まぁ、そこはちょっとしたご愛嬌と言うことでひとつ」
ご愛嬌て。俺は真面目に考えていたつもりだったんだが。
「皇族の血に連なる私が言えるようなことでは無いがね、私はリオ君の生まれや血筋などに興味はない」
ベルナルドさんはそう続けて、
「君が真っ直ぐで誠実な男であり、何より娘のことを心から大切にしようとしている。最も重要なのはそこであり、それは君が自分自身で暖めて育んできた"漢気“だ」
だから、
「たとえ君が王族や貴族だったとしても、その"漢気“があれば、私達は喜んで君とアイリスを祝福しよう」
……漢気、か。
外見や肩書き、血筋よりも、目に見えない内面を見て俺を認めてくれたと思うと……すごく、嬉しい。
「と言うか、心外だな。リオ君は私を、『スラム出身の孤児だから見下す』ような狭量な男だと思っていたのかね?」
「い、いえっ、そんなことは!ただ、そこだけはどうしても気になったので……」
「はっはっはっ、冗談だ。まぁ確かに、血筋や肩書きを第一に考える者もいると言えばいるが、君がそんなことを気にすることはない。君はただアイリスを大切にしつつ、イチャイチャしてくれればそれでいいんだ」
「お 父 様 ッ !?い、イチャイチャって……なんてことを言うのですかっ!?」
アイリスが顔を真っ赤にして怒鳴り、それを見た大人三人は笑って。
……なんだか、最初に緊張していたようなことは、何一つ起きなそうだな。




