222話 誓い
アイリスに手を引かれるように席について。
どう食べるものかと戸惑っていると、お父様のベルナルドさんが。
「ははは、リオ君にとってこう言う食事は不慣れなのは分かっていたとも。礼儀作法などは気にせず、好きなように食べるといい」
そう言ってくれるのはありがたいが、俺にも公私の分別くらいはあるんでな。
「いえ、アイリスに教えを乞うので、大丈夫です」
分からないことは素直に訊こう。
とりあえずは、アイリスやアンドリューさんの真似をしながら食べて、時折アイリスからやんわりと指摘してもらいつつ。
一通りの食事も終えたところで、本題だ。
「さて……商隊長殿。我が娘のアイリスを拾っていただいたこと、感謝の言葉もございません」
ベルナルドさんが一度席を立ち、アンドリューさんに向かって深く頭を下げる。
「娘が、フルス殿下から冤罪によって婚約破棄され、この都から追放されたと聞いた時は、この世の終わりのようだと、……とても、生きているとは思っていませんでした。アイリスがご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
「お気になさらず。ご息女のお力添えに、我々も随分助けられたものです」
社交辞令もあるが、アンドリューさんにとって……いや、俺達にとってのこれは事実であり、アイリスの力が無ければ打開出来なかった戦いも少なくなかったんだ。
「そう言っていただけると、助かります」
そして、とベルナルドさんと、リコリスさんの視線が俺に向けられる。
「リオ君。君も、アイリスのために力を尽くしてくれていたと聞いている。……娘を、ここまで守ってくれてありがとう」
俺にも深く頭を下げるベルナルドさんとリコリスさん。
「いえ、俺は自分に出来ることをしたまでです」
「そう謙遜することはない。聞けば、帝国の内乱も、そして此度の戦いでも、大活躍だったそうじゃないか。君のような頼もしい男が、アイリスのことを好いてくれているというのは、父親として嬉しく思う」
そう手放しに褒められると、なんか恥ずかしいものがあるな……
二人が席に着き直してから。
「それはそれとして……で、二人の関係はどこまで進んだのかしらっ?」
すると、リコリスさんが目を輝かせながら、俺とアイリスの両方を見やる。
あ……なんかリーゼさんと同じような顔だ、これ。
「えっ……関係、って」
「お、お母様っ!今それを訊かなくても!」
アイリスが反論するが、
「んー?お嬢さんが言わんのなら、オレの口から話してやっても構わんぞ?」
そこにアンドリューさんが、小火に油が染み込んだ薪を近付けるようなことを言う。やめてあげて!?
「おぉ、是非とも!商隊長殿から見た若い二人は、どれほど進展していますかな?」
ベルナルドさんが囃し立てて、
「ほらぁ、どうするのアイリス?黙っていたら、商隊長様が勝手に話しちゃうわよ?」
リコリスさんもニヤニヤしながら。
アンドリューさんのことだ、きっと無いこと無いこと、それから無いことを脚色して誇張して、俺達二人がラブラブであると勝手に決め付けるだろう。いや、ラブラブ……かどうかはまだ分からないが、一応両想いと言うか、相思相愛?だしな……
「わわわ、分かりましたっ!自分から言います!言いますからやめてくださいっ!」
アイリスがこれ以上無いくらい顔を真っ赤にしながら大慌てになっている。かわいい。
「え、えぇと……私と、リオさんは。その、厳密に言えばまだ付き合っているわけではなくて、王国の聖女の問題を解決し、お父様とお母様の無事を確かめて、リオさんのことを紹介して、それから正式にお付き合いをしましょう、と言うことにしていまして、はぃ……」
「俺も、アイリスの言うことには納得しています。彼女と付き合う上で、ご家族にご挨拶はしなければと、そう思っています」
だから、と俺は席を立ち。
「ベルナルドさん、リコリスさん……娘さんを、アイリスを、俺にください」
誠心誠意を込めて、頭を下げる。
「リ、リオさんっ!?ちょ、ちょっと待って……」
アイリスに止められるが、構うもんか。
どうせ遅かれ早かれだ、だったら勝負はここで着けてしまいたい。
「これから先、何があっても彼女と共に生きて、共に戦い、共に幸せになると、誓います」
お付き合いを飛び越して、もはやプロポーズみたいな形になっているが……冒険者として戦うことしか出来ない俺に出来る、これが最大限の誠意。
沈黙が続くこと数秒か、数十秒か……それとも数分?それすらも分からなくなるほど頭を下げ続けていると。
「リオ君、顔を上げてくれ」
ベルナルドさんから、穏やかな声音が聞こえた。
言う通りに顔を上げると。
「君は今、アイリスと共に生きて、共に戦い、共に幸せになると、そう誓ってくれたね」
「はい」
無理難題を吹っ掛けられようが、なんだってやってみせるつもりだ。
すると、
「時代の変化、とでも言うのかね。私が妻のご両親にご挨拶をした時は、「彼女を守り、彼女を幸せにすると誓う」と言ったものだ。しかしそれは、聞きようによっては一方的なもので、妻の想い、あるいは私自身を蔑ろにしているようにも聞こえてしまう」
だが、と続けて。
「君は違った。生きることも、戦うことも、幸せも、全て"共に“と付けていた。それは、アイリスと全てを分かち合いたいと言う想いから出た言葉と、そう思っても良いのかな?」
「はい」
ハッキリと頷いた。
「リオさん……」
アイリスからも、不安そうな声。
だが、これらは全部俺の本音と本心だ。
果たして、ベルナルドさんの答えは――




