221話 エイルブルー家へご挨拶
退院した (と言っても骨折複数箇所はあるが)日は身体の調子を整えるのに費やした、そのさらに翌日。
顔の腫れもほとんど収まったのをみんなに確かめてもらってから、今日は俺とアイリスにとって大事な一日になる。
それは――アイリスのご両親へのご挨拶だ。
両親が息災かどうかは、俺がギルドの医務室でぐうたらしてる間に、彼女が自身の邸宅の方に直接出向いて確かめに行き――半年ぶりに両親と再会したと言う。
両親はアイリスが王都から追放された時を同じくして (やはり根拠の無い濡れ衣によって)爵位を剥奪されたそうなので、日の目を見ることのない半ば幽閉生活を強いられていたが、生きるには過不足無い程度の暮らしはしていたようだ。
アイリスは両親に、今の自分がどこで何をしているか――アンドリューさんの商隊の専属冒険者になっていることを話し、大変驚かれたようだ。そりゃそうだろうよ。
俺のことや二人の関係も触りだけ話し、明日明後日には食事も兼ねて紹介したいと言っていたようなので、
今日の昼前に至る。
これからエイルブルー家の邸宅に向かうのは、俺とアイリス、それと商隊責任者としてアイリスを雇用しているアンドリューさんも同行する。
「緊張するなぁ……」
いや、だって俺、どこの馬の骨とも知らんスラム上がりの孤児、それも (悪く言うならば)野蛮な冒険者だぞ?
対するアイリスも今は俺と同じ冒険者とはいえ、親御さんからきちんと育てられた一人娘だ。
彼女が俺のことをどう伝えたかは知らないが、まぁ多分きっと恐らく、色々脚色しているだろう。
「おぅどうしたリオ、ダンケルハイトにもアウラオーレにも怯まずに立ち向かっていた時の、勇ましいお前さんはどこに行ったんだ」
アンドリューさんはいつも通り威風堂々としてるなぁ……
「さぁ、どこに行っちまったんですかね……いや、そりゃ緊張もしますよ」
ある意味、ダンケルハイト (寝惚け)やアウラオーレと対峙する以上に緊張する。
けれどこの戦い (?)は、武器も【タイム連打】もいらない、気持ちと言葉を誠心誠意ぶつけるのみだ。
「大丈夫ですよ」
ドレスではなく、いつもの自分の旅服姿のアイリスは、大丈夫ですと声をかけてくれる。
「お父様もお母様も、リオさんにお会いするの、楽しみにしているそうなので」
「その、"楽しみにしている“って、額面通りの意味で合ってるよな……?」
なんか怖い、すっげぇ怖い。
だがいつまでも怖がっているわけにもいかない、俺も男だ、腹を据える覚悟は出来ている。
「では、行きましょうか」
アイリスの案内で、王都の郊外辺りにある、年季の入った屋敷にたどり着く。
ここがアイリスの自宅か。
門番の兵士はアイリスの姿を見るなり、「お嬢様、お待ちしておりました」と一礼し、門を開けてくれる。
俺は緊張して会釈しか出来なかったが、アイリスは慣れたように「ありがとうございます」と、アンドリューさんは機嫌良さげに「ご苦労さん」と言葉で労っている。
ダメだ、ちょっと落ち着こう。深呼吸。
「すーーーーー……ふぅ……」
「リオさん、緊張し過ぎですよ。もっと顔の力を抜いてください」
「そうだぞ、せっかくのイケメンも仏頂面で台無しだ!」
アイリスとアンドリューさんに笑われてしまった……仕方ないだろ、しょうがないだろ、俺だって緊張したくて緊張してるんじゃないんだ。
玄関口を潜り、無駄に長い廊下を歩かされると、応接室らしい部屋の前まで来る。
アイリスはドアをノックして、
「失礼いたします、アイリスです。リオさんと、商隊長さんをお連れしました」
そう告げてから、きっかり二秒後にドアを開けると。
「おぉ、よく来てくれた」
「おかえりなさい、アイリス」
貫禄ある男性と、ご夫人であろうアイリスに似た女性が、笑顔で出迎えてくれた。
「お父様、お母様、ただいま戻りました」
アイリスも一礼を返してから、それぞれアンドリューさんと俺を指して。
「こちらが、私がお世話になっている商隊のリーダーのアンドリューさん。それと、こちらの方が……その、私の……こ、恋人の、リオさんです」
アンドリューさんを紹介するのは流暢だったのに、俺のことを紹介すると恥ずかしがるアイリスがかわいい……
「お初にお目にかかります。私はアンドリュー、しがない商人です。ご息女様のことは、専属の冒険者として雇用させていただいております」
アンドリューさんはさすがと言うべきか、よそ向きの声と言葉遣いで応じている。
俺も……せめて、これだけはカッコつけないと。
もう一度、深呼吸をして。
「初めまして、アイリスとお付き合いさせていただいております、銀級冒険者のリオです」
厳密に言うと、俺とアイリスはまだ"付き合ってない“段階だが、もう実質付き合っているも同然なので、下手な言い回しはせずに真っ直ぐ答える。
「ご丁寧にどうも。アイリスの父の『ベルナルド・エイルブルー』です」
「同じく、母の『リコリス・エイルブルー』です」
双方の挨拶を終えると、お母様のリコリスさんがテーブルを指して。
「積もるお話もあるでしょうけど、まずはお食事にしましょうか」
テーブルに並ぶのは、貴族らしい小綺麗なランチ。
テーブルマナーとかあまりよく知らないが……アイリスの真似をすればなんとかなるか?




