220話 戦いの後
――全ての戦いが終わって、丸一日が過ぎた。
ムイからヒールを受けて、気が抜けた俺はそのまま死んだように眠り――次に目を覚ました時には既に日付が変わっており、王都ギルドの医務室で爆睡していたらしい。
診断によると、アンドリューさんが言っていたことと同じ、重力加速度による肉体への断続的な負担が原因による内出血箇所多数、骨折箇所複数が確認された――竜騎兵によく起きる症状とほぼ合致したため――とのこと。
目を覚まして、顔の腫れはほとんど治まってからも、「もう一日安静にしてなさい」と、ギルドの専属医師――命令によって従わなければならない相手――からそう言われてしまった以上、俺に拒否権は無い。
ギルドの専属医師が普通の医療関係者と異なるのは、『健康に問題があれば冒険者の行動を制限する権限』が与えられており、それはギルドマスターであっても例外ではない。
その命令を無視したら最後、冒険者資格は即日剥奪だ。文字通り、冒険者生命の生殺与奪を握っていると言っても良い。
とは言え俺自身、今回のその絶対安静命令には賛成だ。
まだ身体中が痛いしなんかおかしいし、さすがにこんな身体でルイン達と飲みの続き (しかもめっちゃ食うし飲む予定)なんてしたら吐くわ。
俺が目を覚ましたと聞いて、アンドリューさんとアイリスを始めとする商隊のみんなや、フリーダとレウィシア第一皇女、ルイン達三人も見舞いに来てくれた。
そこで俺が爆睡していた間に、様々なことが起きていたようだ。
まず結論として、『"元“聖女カナコは帝国へ亡命することになった』
聖龍アウラオーレがこの世から消えたことで、聖女カナコは聖女の力を失ったらしい。本人がそう発言していたので、間違いないと。
つまり、もうレウィシア第一皇女とカナコが対談交渉する必要が無くなってしまったわけだが……聖女の力が失われたとなれば、今まで独占していた豊穣はどうなるのだろうか?
元あったところへ還っていくのか、それともそのままなのか……まぁ、聖女の祈祷が無くなったから、どうなるにせよいずれ世界は元の姿に戻っていくだろう。
そのカナコ本人は、聖女の力を失ったことで、「やっぱり偽聖女として断罪、処刑される」と錯乱したが、そこでレウィシア第一皇女が亡命を提案。
フリーダ辺りが根回しをすることで、髪を別の色に染め、名前も変えて『カナコではない誰か』となり、いち帝国民として静かに暮らしていくことになるだろう。
もう復讐や報復による死の恐怖に怯えずに、心安らかに生きてほしい。
次に、ルイン達からの報告だが……なんと、『堀に流れていたフルス第一王子を救出した』らしい。
彼ら三人曰く、下水路から外に出てきたところに、城の堀に何かが落ちて着水したような音が聞こえたので、気になって確かめてみると、意識を失ったフルス第一王子がどんぶらこと流れていたと言うのだ。どゆことよ?
何があって堀に流れていたのかは知らないが、ともかく人命救助し、宮仕えの医師も後宮の火災から逃れて所在が分からなかったので、ひとまず王都ギルドの医務室へ搬送。(俺はその時爆睡してて気付かなかったようだ)
幸いにもすぐに意識が回復したフルス第一王子だが、どういうわけか、あれほど溺愛しなければと鼻息を荒くしていた聖女カナコのことを、完全に忘れている……と言うか、『知らなくなっていた』。
アイリスに濡れ衣を着せて婚約破棄し、王都から追放したことすら忘れてしまったどころか、『彼の中ではそんなことは起きていない』、『自分の許嫁はアイリスである』ことになっているらしく、エトナが【鑑定】してみると、記憶が部分的に欠落していることが分かった。
フルス第一王子のこの、記憶の退行とも言うべき症状は不明だが、エトナの推測によれば、「カナコさんの聖女の力が、認識機能に何らかの影響――洗脳に近いものを与えていたと思われます」とのこと。何それ怖い。
とは言え、アイリスの御家であるエイルブルー家は既に爵位を剥奪されており、アイリス自身も追放されている身であると言う"事実“には変わり無いため、フルス第一王子との許嫁関係もまた無いものとするのは、至極当然の帰結だろう。
そして最後、後宮内部のことだが……まず、『国王夫妻の死亡が確認された』
何やら地下室辺りに身を潜めていたところに、天井に押し潰されて圧死したのだろうと、遺体を目視した兵士の言。
城そのものもほぼ全焼し、再建には何ヵ月もかかるだろう。
国王夫妻を始め、王国の忠臣や兵士の多くが死亡、第一王子も記憶が欠落し、市民らもあの日の夜に一体何が起きていたのかと混乱が広がっていた。
そこに有力貴族らが「王国を滅ぼさんとする邪龍と、王国を守る聖女と聖龍による激しい戦いにより、邪龍は滅んだものの、聖女と聖龍もまた大きく傷付き、永き眠りを余儀なくされた」などとデタラメとしか思えないことを公言したのだ。
それで市民らはひとまず納得……は、するはずもないだろうが、これ以上混乱が広がるのを食い止めることが出来たと言ったところか。
そんなわけで、ここ最近の俺からすれば信じられないほど寝て過ごし、病人食に不満をこぼしつつ (味が薄い上に量もショボい)、もう一晩寝過ごして。
もう翌朝になってようやく退院だ。




